モモンガさん、転生する   作:一人旅系亜種

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アウラ・チャガマ

 前からこうじゃないかと考えていた八欲王関連のあれこれも事実だと判明し、同時にツァインドルクスへの欺瞞を感じたり、モモンガであることを絶対に明かせないことを実感した。

 これでアウラが歩んだ道なども含めて、聞きたいことはほぼ全部聞けた形だ。

 

『長々とお話頂きありがとうございます。アウラさん』

『いいよ、別に。あたしも、法国の人に知ってほしかったから。あの人たちがどんな人なのか。蔑称で呼ばれるような人たちじゃないんだって。それが話せただけでも、かなりすっきりしたかな』

『法国……うーん……』

『どうしたの?』

『私とパンドラは、法国と同盟のような関係にはありますが、法国の人間かと問われると少し違うので、どう返答したらよいのか悩みまして……』

『あ、そうだったの? 話しぶりや、あの子を倒したって事から法国のお偉いさんかと思ってた。どこの人なの?』

『リ・エスティーゼ王国です』

『リ……あの戦いのあとに出来た新しい国だね。そっかそっか、あそこなら殆ど法国みたいなもんでしょ』

『そんなものですか?』

『あの辺の人間種なんて、元は法国の住民だからね。それにモモンさん達は同盟相手なんでしょ? それに、クロウさん達が守ろうとした国を……あたしがほんとは守らなければいけなかった国を守ってくれて、あたしが叱らないといけなかったあの子を止めてくれたなら、なんであれ恩人だよ。あたしのね』

 

 ……複雑な気分だ。法国に協力したのも、今の立場なのも偶然の産物だ。俺のワンオペやだ! から始まったことなので、そんな恩がどうと言われてもなんとも言えない。

 それにクロウの守ろうとした……か。思わず頭を掻きむしりたくなる。エリュエンティウをどうして砂漠に? どうしてエルフ国なんて建国した? これらの裏事情が考察通りだと裏付けが取れたことで、俺の八欲王への感情はかなり複雑になってしまった。

 俺にとって八欲王とはどんな相手かと問われたら、ナザリックを壊滅に追い込んだ復讐対象だ。しかし復讐と言っても、何がなんでも絶対に命を奪う! と生涯の目標にするほどでもない。なにせ俺にとってのナザリックは、転生前に終わった場所。サービス終了日に俺が死ぬと同時に、本当であれば消えていた。

 それに八欲王の性格であれば、ナザリック側が鋼殻を滅ぼしたりしていなければ、間違いなく手を取りあえた。結局のところ、カルマ値悪組が自ら破滅を招いただけ。もしも今、当時に時間移動出来たとして、真っ先に誰に怒りに行くかと言えばアルベドとデミウルゴスだ。

 

(アウラにしてもなぁ……)

 

 現在もなお彼らを恩人のように語るアウラは、尊厳を汚された被害者だ。自らの生まれ故郷を滅ぼした人物らを、仲間であり友であり恩人のように捉えながらチャガマとして生きてきた。しかし彼女とて、ナザリック知恵者組と共に悪行を成した人物。言い方はあれだが、かなり自業自得な所がある。八欲王が全面的に正しいとまでは言わないが、アウラが純被害者とはとても言えない。

 彼女も彼女で、破滅を自ら招いてしまった一人だ。ナザリックに所属していたもので、純然たる被害者はパンドラやセバスなど、虐殺に参加しなかった者らだけだ。

 それでも……記憶を消された彼女に対して哀れだと思うところはある。

 

(記憶を消された、か。アウラ以外だとシズは確定だが、他には何名ナザリックのNPCは生存しているんだ? エリュエンティウにはそこそこいるのだろうか?)

 

 アウラの口からは、弟であるマーレについての情報などは一切なかった。八欲王のもとに、彼女と同じ王の相を持つダークエルフは一人もいない。つまりマーレは、シャルティアと同じくナザリックNPCの中で確定で死んだ一人だ。

 

(死亡していると確定していたのは、宝物殿に向かった後マスターソースの色が死亡時の色に変わったシャルティアだけだった。そこにマーレも追加。けれど他のNPCは? もしかしたらナザリックNPCはシズやアウラ以外にも……)

 

 結局のところ、エリュエンティウに行かなければ分からない。王国での仕事がひと段落したら、一旦遠征してみるか。

 

『……そうだ! あのさ、パンドラさん。良ければなんだけど、あたしのことを教えてくれない。記憶を失う前のあたしが、どんな子供だったのか。良かったら聞きたいな』

 

 パンドラが俺に良いですか? と目で訴えてくる。いいよ、ただしナザリックのNPCである事が伝わらないようにぼかしてな。

 

『アウラ様は──』

 

 どんな物が好きだったのか。どんな考え方をする子供だったのか。家族はどんな人物だったのか。パンドラの話を、アウラはうんうんと頷いて聞いている。

 

『あたしには弟がいたんだ。しかも双子の。その子はどうしたの?』

『亡くなりました。村を襲撃したモンスターの手にかかり』

『モンスターにやられるってことは、あたしほど強くなかったんだね……オドオドしてた男の子かぁ……ちょっと会いたかったな。マーレって子に。あたしがもし傍にいたら、そのモンスターを倒してやったのに』

 

 あなたが恩人だと思っている八欲王に殺されましたよ。残念なことにね。そう聞いたら、アウラはどんな反応をするのだろうか? ……意味のない思考だな、これは。

 

『あたしはそんな子供だったんだね。うん、ありがとうパンドラさん。あたしの名前とか、家族とか、長年の疑問が解決しました。心から感謝を申し上げます』

『いいえ……私に感謝される点なんてありませんよ。あなた様が生きていただけで、僥倖なのですから』

『長い年月探してくれてたんだものね。それにあたしの本当の名前……アウラか。ブクブクが名前だと思っていたけれど、それはお母さんの名。あたしの本名は、アウラ・チャガマになるんだね』

『………………ええ、そうです』

 

 チャガマではなくベラ・フィオーラですよ。そうパンドラは言いたいのだろうが、それを伝えるとではお母さんとなぜ苗字が違うのだ? とややこしいことになる。だから……ベラ・フィオーラは死んだ。そうとしか言えない。

 

『そうだ。アウラさんは、今世界を旅して世直しをしているんですよね?』

『そうだよ』

『良ければ、また時間が出来たら法国や王国に訪ねてきてくれませんか? 十三英雄であったアウラさんの御力を借りたい場面もあるかもしれないので』

『いいよ。ツアーにはユグドラシルには関わるな、法国には関わるなって言われてるけど、王国は違うからね。あたしの力が必要になったら、いつでも連絡して。すぐにそっちに行くからさ』

『ありがとうございます……それでは、またいつか直接顔を合わせて、お茶でもしましょう』

『うん。それじゃ、またね。ばいばい』

『はい。さようなら』

 

 アウラが手を振ってくれる。それを見送ってから、俺は<伝言>を終了した。

 暫くの間、部屋には沈黙だけが流れる。少しして、パンドラが口を開いた。

 

「……宜しかったのですね」

「今更だからな。アウラの記憶はお前やセバスらと違い、封印ではなく消却だ。俺以外で、緻密な記憶の制御は難しい筈だからな」

 

 何が宜しいのか。言うまでもなく、アウラの記憶を戻さなくても良いのかとパンドラは問うてくれたのだ。俺の返答は、戻してどうするんだしかない。これがパンドラ達にしているような記憶封印であれば話はまた違うのだが、通常の<記憶操作>はそんなに使い勝手が良い物ではない。

 <記憶操作>の魔法は、MP消費が重く非常に繊細な操作を要求される魔法。記憶に鍵をかけるやり方は、魔法強化タレントを持つ俺が、修正強化で操作難易度を大幅に緩和しているからこそだ。

 そんな便利タレントを持っていない八欲王は、問答無用でまとめて自己記憶を消すぐらいしか無かった筈だ。そうでないとMPが絶対に足りない。

 そういった事情があるからこそ、クロウは記憶喪失の少女を保護したことにしたのだ。好きな記憶を植え付けるとなれば、魔法強化タレント無しではまず不可能だからな。

 

「モモン様でも、消滅した記憶を戻すことは叶いませんか?」

「……分からない」

 

 修正強化で消えた記憶を戻せるように修正したとして、戻るかどうかは半々だ。従来の記憶喪失であれば、元の記憶自体は脳のどこかに残っている。それに再度アクセスできるように治すだけだから、可能と答えられる。だが<記憶操作>により完全に消去されたのであれば、非常に難しいだろう。

 

「仮に戻せたとして、ではブクブク・チャガマとしての人格はどうなる? ナザリック壊滅以降、ブクブク・チャガマとして最低でも400年以上アウラは過ごしてきた。そこに消えた記憶を戻しても、パンドラが知るアウラの人格は帰ってこない。お前の知る本当のアウラにするには、チャガマとして歩んだ歴史を全て消去しないと駄目だ」

「承知して……おります」

 

 人格とは記憶や経験によって構築されるものだ。NPCであれば、創造主が与えた設定やカルマ値が記憶として人格を構成してくれる。茶釜さんがアウラに与えた年齢は76歳。対して、チャガマとして歩んだ人生は400年以上。どう考えても、茶釜さんが作成したアウラとは違う別物だ。

 

「アウラ様に記憶を戻したら、自分は仇に協力し、恩人と思い込んでいた。こんな……あまりにも残酷な真実を、教えるに等しい行為であることも承知しております」

「そうだな。数百年の間、故郷を滅ぼした相手を仲間だと思っていた。こんなもの……戻せるわけがない」

 

 ではチャガマの記憶を消せばとなるが、これはリスクが大きすぎる。 そんなことをすれば、どうあがいても周囲にはチャガマが何かをされたと思わせるだけだ。数百年の間この世界を旅し、時には十三英雄としても活躍したのがチャガマだ。チャガマの記憶を消すならば、彼女に関わった全員の記憶も弄る必要がある。

 

(そして……残酷かもしれないが、そこまで手間暇をかけてリスクを負うほど、アウラと俺には深い関係性がない)

 

 俺にとってアウラとは何かと問われたら、茶釜さんが作成したNPC。これで終わり。これ以上でも以下でもない。あえてこれ以外の何かを見出せと言われたら、素晴らしい知恵者二人と一緒になって、周囲に喧嘩を売ったNPCでしかない。

 何がなんでも彼女は戻してやらないといけないんだ! 何があろうともだ! ……なんて必死になるほどの思い入れもない。これがアウラではなく茶釜さん本人であれば話もまた違うが……

 可哀そうだとは思うし、茶釜さんへの恩義の分は何かをしてあげたいとは思うが、流石に全関係者の<記憶操作>はその範疇を超えている。

 

「それに記憶を消し、お前はアウラだと刻んでどうする? 誰が一体、その記憶が本物だと保証してくれるのだ?」

「モモン様と我々がです!……そんな答えを望まれているわけではありませんよね。仮に記憶が戻せないとして、なら私の知るアウラ様をモモン様に伝え、<記憶操作>で構築した記憶を刻んだとしても、それはどこまで行っても私の知るアウラ様でしかない。ぶくぶく茶釜様がこうであれと示された、アウラ様とは別物」

「結局のところはそうだ。修正強化と最強化を乗せたとしても、消えた記憶が戻るかと言われたら怪しい。では新たにアウラとしての記憶を構築し与えた。それは本当にアウラなのか?」

「いいえ。違います。記憶が亡くなった……あの日、殿を引き受けて私やセバス様、ペストーニャ様に追手の魔の手が伸びないようにしてくださった。クロウと戦い、敗北した時点で……アウラ様はお亡くなりになられました」

 

 そうだな。逃亡したその日、クロウ達追手を止めるためにアウラは戦った。そこで死んだのだ。アウラ・ベラ・フィオーラという少女は、とっくの昔に死んだのだ。生きているが……亡くなった。

 

「アウラ様は生きているが死亡された……無念でなりません」

「……殿に対する恩賞がないことか?」

「はい。あの時、アウラ様が追手を引き付けてくれたからこそ、私どもは生き延びられました……そして、憎きクロウもまた、我らを見逃してくれている」

「そうだな。アウラの記憶を見れば、全部で四人いたことは判明していたはずだ。なのに、その後お前たちは見つかることなく潜伏できた……おそらく、クロウは逃げた三人については、幽閉されていたことから危険度を大幅に下げている」

 

 アウラが敵の手に落ちたなら、逃げた人数も判明する。それなら確実に殺すために、探し出そうとするはず。なのにパンドラ達は逃げ延びた。ならば考えられることは一つ。天空城塞は逃げた三人については、あえて見逃した。

 なにせ竜王らに喧嘩を売られまくっても、直接こちらを殺しにこなければ同族であろうとも手出しはしないほどに情のあった連中だ。虐殺に反対を表明し、自分達と戦うよりも主の遺体を守ることを優先したNPCであればそこまで本気で殺しに行く必要を感じなかったのだろう。

 ただしアウラは別だ。虐殺に賛成し、スルシャーナ殺害に関わった彼女を見逃す理由はない。容赦なく記憶を消去した。

 

「しかしアウラ様が殿を引き受けておらず、クロウにあの場で捕捉されていれば、私たちもまた記憶を書き換えられていた……私はそう思います」

「だろうな。逃げたNPCを探してまではしないだけで、見つけた以上は躊躇する必要がない。お前達もまた、敵の手に落ちていた……向こうの甘い判断に救われたな」

「だからこそ……私は悔しいのです! 敵に情けをかけられたことが! アウラ様が殿をしていなければ、クロウは我らを打ち倒し、全員が記憶を消されてアウラ様と同じように奴らのしもべに!! あの瞬間、あの時、自らが殿に相応しいと判断されたアウラ様のおかげで、私達三人は現代まで生き残り、こうして至高の御方に……モモン様に再び仕えることが許された!! シズ様もです! シズ様は、虐殺には参加されていない! プレアデスはセバス様と共に幽閉されていたから……シズ様にもアウラ様にも、モモン様のもとで、本来の形を取り戻す権利がある!!」

「パンドラ……」

「せめて、モモンガ様が生きていた事を……モモン様として、生を得ていた事を……伝えたい。我らの創造主は……至高の御方は健在だった。ナザリックは滅びたとしても、アインズ・ウール・ゴウンは今もここにあると……教えてあげたいのです」

 

 パンドラはそう言った後、ですがと続けた。

 

「ですが……感情は戻せと訴えて……モモン様の命でなくとも、私の理性はこう答えるのです。追いつめるな……解放してやれ」

 

 結局はそうなる。完全に消えた記憶を元に戻す方法があったとしても、シズとアウラが数百年別人として、八欲王に仕えた事実は変わらない。特にシズなど、自分が捕らえられたことでナザリックを滅ぼす要因になっている。

 ギミックを知るシズだけは、敵の手に渡っては駄目だったのだ。

 過去は消えない。記憶を消そうが、元に戻そうが……八欲王の手先だった。その事実だけは変わらない。

 

(俺とパンドラでは、NPCに対する思い入れが違う。俺にとっては前世の過去だが、パンドラにとっては今生の仲間達なのだ。共に至高の御方に仕えた、大切な仲間。簡単には割り切れないだろう)

 

 俺は慰めになるかは分からないが、一つの言葉を投げかける。

 

「アウラにしろシズにしろ、彼女らはガーネットにチャガマとしての人生を歩んでいる。俺がモモンガではなく、モモンとして生きているようにな……そうだ、生きているんだ。たとえ自らのありようが変わろうとも、生きてここにいる。ならば、そこから新たな幸せを掴める……俺がモモンとして、確かな幸福の今を得ているようにな」

「それとは別物に思えます……彼女らの尊厳は、私どもしか知らない。これは罰なのですね。あの日、統括殿と参謀殿を止められなかった、情けない知恵者の私に科せられた……無念です」

「……パンドラ。こっちにこい。また鍵をかけておく。今は忘れるんだ……お前は今日、ずっと探していた知人の娘、アウラを見つけた。それが全てだよ」

「はい……」

 

 俺はパンドラの記憶に再び鍵をかけ、今日のことを編集しておく。これでアウラのことを本当の意味で知るのは、鍵を外すまでは俺だけになった。

 ……これでいい。今はな。

 

「記憶……か」

 

 精神操作魔法の恐ろしさは知っていたが、こうしてみると恐ろしいなんてものじゃない。人格も尊厳も、簡単に破壊してしまえる。それが魔法の怖さと言えばそれまでの話だが。

 

(だがそれで、俺が<記憶操作>の魔法を封印するかと言えば違う。俺もなんだってする。人類圏を守り、王国を守り、家族や知人友人を守るためならな)

 

 俺はエリュエンティウがある方向に視線を向ける。

 

「……人類圏を守ってくれたことは感謝する……それでもあえて宣言しておこうか。俺はお前達の築いた何もかも奪い、NPCも全て奪い取るぞ」

 

 恨みも復讐も必要ない。こちらの持つ戦力を増やすためであればなんでもする。その過程において、エリュエンティウとそこに納められた財……ナザリックから持ち出されたワールドアイテムは必要不可欠だ。それに100レベルのNPCも。

 

「ギルド武器の所在地は判明している……それにあらゆるマジックアイテムを使いこなせるタレントもな」

 

 極力切るつもりはない最奥。それを使った時には容赦はしない。いずれ訪れるから待っていろよ、エリュエンティウ。




アインズ様なら関係者皆殺しにしてでも、戻してるかもしれない
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