モモンガさん、転生する   作:一人旅系亜種

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ゴブゴブゴブリン

「数が多すぎる」

 

 最近の日課になりつつある、大森林散策駆除祭りを終えた俺は独り言を言いながら、今日の討伐数を日記に書き込んでいく。この日記はバレアレさんのお手製教材と共に貰ったもので、毎日日記をつけることで字の習得がしやすくなるらしい。

 今日の討伐数と、この数日の間に葬ったモンスターの数。それを合計すると簡単に三桁を超えてしまう。これは異常な数字で、思わず多いと呟いてしまう。

 今まであの世に送ったモンスターもいると言えばいるが、それは森から出てきた個体や入口近くまで来たやつら。それらを合計しても、この数日で殺した数の方が多いかもしれないぐらいだ。

 

(今のところ村には被害は出ていない。俺の手が回らない範囲も、死霊前線が食い止めているからここまで被害は来ないのだけは幸いだが)

 

 悪霊やらを森に送り込みまくれば、モンスターどころかおそらく大森林の生態系を壊滅寸前まで追い込めるだろう。しかしそれをすると、自然が大変なことになるし毎日の肉もなくなるのであまりやりたくはない。殺していいモンスターと、殺しては駄目なモンスターの判別は俺が直接見て確認しないとダメ。

 だがこの数だと、対処療法ではとても間に合わない。根本的な問題の原因を探り、取り除くしか解決法は無いように思われる。

 

「明日はゴブリンでも捕まえて、原因を吐かせるか」

 

 知能は低いが会話は可能。ハムスケが<全種族魅了>を使えるので、それで精神汚染をさせてから聞き出せる。方針を決めた俺は、日記を書き終えてから外に出る。するとハムスケとエンリが遊んでいた。

 

「ほーら、エンリ殿。今日はそれがし、ハムスケが遊具になってみせるでござるよ」

「はむすけぇ! かちかち!!」

「見た目ふんわりもこもこなのに、けっこう毛が硬いからな、ハムスケは」

「これはモモン殿。この毛皮がないと、それがし死んでいる場面が多いでござるよ」

 

 たしかに。俺が初めて出会ったとき手加減しつつも、遠慮なく殴れたのは天然の鎧をハムスケが着込んでいるからだ。俺の骨が金属より硬いように、ハムスケもまた鉄より硬い。30レベルの物理防御力とはそのレベルなのだ。

 

「はむすけ~。ごー!」

「それがし号、発進でござるよ」

 

 ハムスケの背に乗って遊ぶエンリを見ていると、平和なものだと思う。この村には特になんの脅威も見当たらない。大人もみなそう思っている。けれど、俺はそうではないことを実感として知っている。多少ではあるが、俺がカルネ村を守っている自負がある。もしもいなければ、いつか災いが訪れた時に何の対処もできないと。

 

「カルネ村は……か」

 

 アインザックさん達の言葉を思い出す。この世界には困っている人がたくさんいる。そのすべてを救えるなどと妄言を吐くつもりはないが、今の俺が手を伸ばせる範囲は広い。その範囲内だけでも、助けてあげられるのではないだろうか。益なんて何もない。ただ、そういうことに憧れた人の背が、薄れつつある光景の中にちらつくだけだ。

 

「トブの大森林に接しているのは、何もカルネ村だけじゃない。もっとたくさんの村があるはずだ」

 

 この大森林は、王国領土全体の五分の一もの広大さを持つ。それだけ大森林にかかわる都市と村もまた多い。俺はエンリが楽しそうに遊んでいるのを見ると、こういった風景を維持するためにも、やらなきゃいけないよなと言う気持ちになってくる。

 

「にいにものって!」

「はいはい。お姫様の言う通りにしますよっと」

 

 我儘なお姫様の要望に従い、俺もハムスケの背にまたがる。エンリが落ちないように後ろからしっかりと捕まえて、てってってってててー、ててててーと二人で謎のリズムを口ずさむ。そうこうしてるうちに日も暮れて、辺りは暗くなってしまう。ハムスケはこの暗闇の中でも昼間と同じように見えて、俺も闇視があるので昼間と明るさは変わらない。しかしエンリは違うので、完全な闇が怖いらしく俺にがっしりとコアラのようにしがみつく。

 その背をお兄ちゃんらしくポンポン叩きながら、ハムスケと共に家に帰宅した。全員が寝静まったあと、昼間にチラチラこちらを監視していた不届きものどもを始末しに行く。ゴブリンだと思っていたが、連中は野盗だった。いつも通り精神魔法で事情を聴きだし、弱いやつからは奪っていいんだよなどと言い訳のしようもない言葉を吐き出してくれたので、全員下位アンデッドの刑だ。

 それが終われば改めて帰り、睡眠無効を切ってから就寝する。

 起きれば朝食をとり、完全に俺の仕事になりつつあるモンスターハントに向かう。いつも通りハムスケに鞍と大きめの革袋を装着させ、ポーション数本と弁当を詰めておく。

 そうして森を歩くこと三十分。

 

「お、いたいた。打ち合わせ通り、3体だけ無傷で捕まえる。それ以外は食っていいぞ」

「合点承知でござる」

 

 俺を下ろしたハムスケがゴブリンの群れに突撃する。突撃敢行お前らが昼御飯をするハムスケに気が付くもすでに手遅れ。尾に叩き潰され、鋭い爪に手足が乱れ飛ぶ。

 なにもしていないゴブリン可哀そう……と思いそうになるが、すぐに精神鎮圧で俺の心は凪ぐ。どちらにしろ、ここらは元々ハムスケの縄張りで庭だ。俺がどうとは関係なく、踏み入った時点でハムスケとの残虐ファイトは決まっていた。

 逃げようとするやつがいれば、俺が投石して動きを止める。最近はコントロールも上手くなり、10回に8回は狙った場所に投げられる。外れると

 

「ひぇええええええ!!!」

 

 今のように、足を狙ったつもりが頭に直撃する。果実のように頭が破裂した仲間を見て、腰を抜かしたゴブリンが悲鳴と共に崩れ落ちていた。

 

「俺の投石は第二位階の攻撃魔法相当だからな。頭もはじけ飛ぶか」

 

 力が強いということは、それだけ重い石でも投げられる。腕を振る速さが速いということは、それだけ速度も乗る。投石を極めたら、低位階の攻撃魔法は本格的に必要なくなりそうだな。

 尻もちをついて動けなくなったやつに俺は近づく。石を片手に。

 

「おい。お前は話せるか?」

「……ひひゃい?」

「言葉は通じるのか?」

「!? 話せますぅ!!」

 

 石をちゃりちゃり擦り合わせると、とたんに元気よく返事をしてくれた。脅しているので若干可哀そうではあるが、死なない分だけましだと思ってくれと心の中で祈っておく。

 

「モモン殿~! 三人、しっかり捕まえたでござるよ」

「ご苦労、ハムスケ。上出来だ」

 

 ハムスケの方も終わったのか、こちらに近づいてくる。尻尾で二人を捕えており、もう一人は口に咥えていた。

 

「お前、口に咥えたまま良く喋られるな」

「コツがあるのでござるよ」

「へぇ」

「ん? モモン殿も、一人捕まえていたでござるか。なら一人はいらなんで御座ったか」

 

 いらないと言われて、尻尾に捕らえられた二人と、地面に座り込んだ一人が震えだす。口に咥えられたやつはじたばたと暴れる。捕まった状態でいらない発言。それはもう、いやな予感しかしないだろう。つい先ほど、自分たち以外は天に召されたのだから。

 

「数が増えすぎても、管理が大変か。口に咥えてるやつはお前の好きにしていいぞ」

「合点承知の助でござるよ」

「やぁ! たすけ」

 

 そこまで言ったところで、ゴブリンはハムスケにかみ砕かれた。口からぼたぼたと血が滴り、骨が砕けるバリバリとした音がなる。とてもじゃないがエンリや両親、村の住民らには見せられない光景だ。俺も精神安定があるので平常心で見ていられるが、オフにしたら胃の中身を全部吐き出す自信しかない。

 

(野生って怖いなぁ)

 

 弱肉強食と言えばそれまでだが、恐ろしき光景ではある。この人間基準だと惨いとしか表現できないスプラッタムービーは、別に森の中だけにあるわけでは無い。仮に狼型の魔獣の侵入を村に許せば、ハムスケの代わりがそいつで、ゴブリンの代わりがエンリなどだ。

 それを防ぐためにも、決して油断してはいけない。手心を加えてもならない。この世界のゴブリンは、人間に友好な種族などでは断じてない。小さな集落の家族全員が、皆殺しにされた例もごまんとあるのだから。

 

「よし。ハムスケ、尋問の時間だ」

「了解でござるよ! <全種族魅了>!!」

 

 地面の一人が魅了され

 

「これはこれは。今日はどうしたんですか?」

「モモン殿。無事かかったでござる」

「よしよし。それじゃ、聞きたいことを全部聞いておくか」

 

 ハムスケが俺を仲間だと紹介すると、今後ともよろしくとあいさつをされた。精神魅了によるものとは言え、挨拶をするモンスターに思うところは出てしまう。

 

「モンスターではなく、亜人か……聞きたいことがある。なぜおまえたちは、この近隣に住処を構えるようになった? 前までは違ったはずだ」

「ワイらが引っ越しした理由ですかい?」

 

 そいつは長々と語ってくれた。言葉足らずなところもあり分かりづらかったが、要約すると以下のことが判明した。

 

・最近までここらには南の大魔獣が君臨していたが、そいつがいなくなったので空白地帯になった。

・もともとこの森には三大と呼ばれる怪物がいて、その一つが南の大魔獣だ。これが君臨している以上、残りの二大は勢力を拡大できない。

・しかしいなくなったのなら話は違う。東の巨人は、南の大魔獣が持っていた支配地域を奪わんと動いた。

・これに対応するように西の魔蛇も行動を開始。

 

 これらの結果として、東の巨人の支配下に入ったゴブリンなどの亜人やその他のモンスターと、西の魔蛇の部下が大森林の南地帯で紛争をしている。

 そのあおりを受けた元から南にいたモンスター達は、支配下に入るか元の住処を追い出されることに。それがカルネ村近くにモンスターが出やすくなっていた原因だった。

 

「南の大魔獣って」

 

 俺はハムスケを見る。照れるでござるよとのほほんとしたこいつを見て、俺は頭を抱える。原因がだいぶ俺のせいでした! 俺がハムスケを連れ出したせいでした!

 

(イ、いや考えろ。そもそも連れ出していなかったら。あの場に俺がいなかったら、バレアレさん達は死んでいた。どちらにしろ、ハムスケをどうこうするのは既定路線だ)

 

 とはいえ、元は拮抗していたらしい大森林の勢力図を塗り替えてしまったのは間違いなく俺だ。そのせいでモンスターが出やすくなっていて、多方面に迷惑をかけてしまったならどうにかするべき。

 それこそ放置していれば、カルネ村は無事でもそれ以外の村々が襲われかねん。

 

「ちなみに、お前たちは原住民か? それとも、西か東の手下か?」

「俺たちは魔蛇様の部下だ」

「あ、そう。もう一つちなみにで聞いておくが、この辺を西の魔蛇が支配したら、そのあとはどうするつもりなんだ?」

「そりゃ、人間どもの集落を襲いますぜ。平野は俺たちのもんだ!」

「そうか。人間相手に、罪悪感とかはあるか?」

「罪悪感? そりゃ、なんですかい?」

「殺して悪いなぁ……という感情だよ」

「どうして、人間を殺すのに悪いなんて思うんですかい? 殺されるぐらい、弱い方が悪いんですぜ」

「そうだな。別に悪くはないな。負けた方が悪い。それが自然の掟、だろ? 今まで即殺していたが、もしもそう思う心があるのであれば、今後はやり方をもう少し変えた方がいいのかと思ってな……安心したよ」

「そうですかい。安心したんならよかったです」

 

 はははと笑いあいながら、俺は特に方針を変えなくても良さそうだと確認する。今後もゴブリンその他はサーチ&デストロイだ。住処を探しだしてまで殺す気はないが、略奪OK精神で近くに住み着き荒らしまわるなら人間の野盗と変わらない。不穏分子として処理するだけだ。

 

「ハムスケ、その尾にいる二人も降ろしてチャームだ。内容に間違いがないか、同じ質問をして照らし合わせる」

「そやつはどうするでござるか?」

「聞きたいことは全部聞いたからな。こうするだけだ」

 

 俺は尋問していたゴブリンの首を掴み、持ち上げて近くの木に投擲して即死させた。それを見ていた残りの二人は、投げつけられた仲間を見て悲鳴を上げる。自分たちは尋問される。それが終わったら、あれと同じ運命を辿ると心の底から理解したのだろう。

 

「やだ! 死にたくない!! 俺人間殺さない!! たすけて!!!!」

「はなしますぅ!! 話しますからぁ、殺さないでぇええ!!!」

「死にたくないか。今まで人間を殺したときに、その嘆願を聞いてやったか?」

「しらない! おれ人間なんて殺してない!! 殺したこともない!!」

「ふぅん。人間を殺すのに罪悪感なんてなくて、弱い方が悪いなんて言うのにか?」

「それ、あいつが勝手に言ってるだけ!!」

「そうか。仲間とお前は違うものな。安心しろ。ちゃんと、魅了状態の最中に同じ質問をする。その時に、今のと同じ答えが返ってくるのを期待しているよ。約束をしよう。その時には、お前たちの命を救うとな」

 

 そういうと、ゴブリン達は黙ってしまった。魅了状態では嘘を言えない。つまり沈黙が答えなのだ。

 <全種族魅了>のち、魔蛇や巨人に関する質問をすると、おおむね最初のやつと同じ答えが返ってきた。それから、さきほどと同じ人間云々の質問をして

 

「ふぅ、お腹いっぱいでござるよ」

 

 ハムスケは満足そうにお腹をさすっていた。

 

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