モモンガさん、転生する   作:一人旅系亜種

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モモン&パンドラ&ジルクニフ

 百年の揺り返し。ユグドラシルプレイヤーが、百年周期でこちらの世界に転移してくる現象のこと。600年前なら六大神、500年前なら八欲王とナザリックといった具合だ。

 この現象はきっかり100年毎に確認されており、百年前にもツアーの話では起きていた。その人物については、世界を侵しかねない悪だったのでツアーが断罪したらしい。

 

(あいつの悪基準がどのぐらいなのかは不明だが、超位魔法をぶっ放したおでんを今のところ攻撃する気配はないから、俺から見ても悪と言えるやつなのは確かだろうな)

 

 ともかく揺り返しは百年ごと。だとすると、おでんの転移は少し時期がずれている。法国に残っている六大神が転移した年から数えて、まだ600年目に到達していない。その前に揺り返しが始まった。

 俺はこの理由を考察するために、一度パンドラの鍵を外している。全てを聞き終えたパンドラは、幾つか理由はありますと答えた。

 

「まず私が気になっているのは、モモン様の転生時期が後ろにずれた理由です」

「……二十が使われたのは、ナザリックが転移してからすぐのこと。なのに俺が転生したのは、それから数百年経ってから。確かにおかしな話だな」

 

 タイムラグなんてもんじゃない。数百年もかかっていたら、なんのためのワールドアイテムだ。

 

「最初は発動までに単純に時間がかかったのかと思っていました。ですが、もう一つ可能性があります」

「それは?」

「……あの時代に、モモン様の魂はこの世界になかった。ユグドラシルからこちらの世界に転移する際、全てが同時に来るわけではありません。百年ごとにズレがある」

「つまり、俺がこちらで魂としての形を持ったのがつい最近のことだから、ワールドアイテムの発動が待機状態になっていた。ようやく魂が実体化し、効果が発動」

「しかし、モモン様にとってモモンガ様のアバターは本当の体ではない。この世界の存在として新たな肉体を得ることで、変則的ではありますが二十の力が叶った……もしかすると、今の時代に転移してくるのは私達だったのかもしれません」

「どういうことだ?」

「ナザリックと天空城塞は同時代に転移しました。しかし他の年代で、これだけ巨大なギルド拠点が共に転移した記録はありません。『転移』が召喚魔法だとするならば、一度に召喚出来る数には限度があります。召喚の魔法には、一度の転移に上限が存在する」

「天空城塞だけが、本当は500年前に転移する筈で、ナザリックは別の時代に転移する……だが現実として、ナザリックは500年前に転移した」

「これも推測はできます。始原の魔法(ワイルド・マジック)は魂に干渉する術。モモン様が転移と同時に死亡したことで、予測不可能な挙動をした可能性は十二分に高い」

 

 召喚事故か。位階魔法ではありえないが、始原の魔法(ワイルド・マジック)はもっと自然的な法則を利用した魔法。位階魔法とは使われている法則が違うから、そうなることもありえるのか。

 

「だから俺は、今の時代に転移した? しかしその理論であれば、俺が転生するのはもっと後のことではないのか? ……ああ、そこもズレているのか」

 

 ただでさえ転移時期がズレているのだ。俺の魂とやらが実体を持つ時期が百年から外れても、そこまでおかしくはない。

 

「……そして、ここからが本題です。こちらに転移するプレイヤーの皆様の共通点」

「ワールドアイテム。六大神も、八欲王も、おでんにしても全員ワールドアイテム持ちだ。始原の魔法(ワイルド・マジック)とワールドアイテムは相似性があり、だからこそユグドラシルに干渉できたのではないか? だったな」

 

 ユグドラシルとはしょせんデータに過ぎないが、データでも電子としては存在しているのではないかとはパンドラの言葉。ゲームの概念について教えたが、パンドラに言わせればあるのならあるらしい。ある以上は無ではない。相が違うだけだ……この辺はちょっと俺にも難しい理論。

 魂に干渉する術の性質がワールドアイテムに近い。相似性による干渉召喚。ただしこちらに転送する際に、一度に形を与えるのが困難なので、充填期間を設けたのかもしれない……しれないばかりで、真実かどうかは不明なことだらけだな。

 

「そうです。モモン様がナザリックと共に転移する筈が、この時代に転移したのは魂だけ。そうなると、今回の枠に空きができた状態になります……召喚枠にワールドアイテムの空き枠が」

「ナザリックが転移となると、ワールドアイテムは11個あった……従来であれば、いつが百年だ」

「今から11年後です」

「11年……そういうことか? 一度の転送が無理なのは仕様上変わらないから、小分けにして『召喚』のワイルド・マジックが形を持たせていると?」

「あくまでも仮説です。11個を埋めるために、1年ごとに1個ずつ転移召喚させる。それであれば可能だと、魔法が判断、判定した……それか単純にズレただけかもしれませんがね!」

 

 それか11個分のワールドアイテムは既に転移してきているのかもしれません……なんてのがあいつの仮説だ。あまりにも仮説に仮説を重ねたあれだが、先ほどの皇帝とフールーダを見る限りでは、そこまで無茶な仮説ではなかったのかもしれないが。

 

(それとも、とっくの昔に転移してきてたプレイヤーが、二人を殺害した? ……可能性を狭めるな。課金アイテムだけどこかで手に入れ、下手人が使用したのかもしれない。なんにしろ考えるべきは、蘇生阻害が行われたことだ)

 

 そうなると、狙いは間違いなく俺だ。この近隣で蘇生魔法が属する第五位階以上を行使できるのは、俺か儀式魔法を行使する法国だけ。だが第五位階の<死者復活>対策ならば、肉体を損壊させるだけで十分。それでも課金アイテムまで切ったという事は向こうはきっちりと情報を集めている。こちらが蘇生魔法を使えるのは、新ブルムラシュー侯の件があるから調べればすぐに判明する。

 その蘇生についても、2年も経つ死者を蘇らせたことから、高位階だと目星をつけられる。そのうえで、蘇生阻害の手札を躊躇いもなく使った。

 

(思い切りが良い。それともリソースが潤沢だから、ここで躊躇いなく切れたのか……)

 

 情報が不足している。これ以上考えたところで、まともな結論は出ない。まずはジルクニフを安全な場所に連れていく。

 

「殿下。申し訳ございませんが、皇城は危険だと思われます。ここも安全とは言い難い。エ・ランテルまで飛びますが、宜しいですか?」

「……そうだな。皇城は俺にとって安全地帯ではないか。じいも父上も……モモン、すまないが今しばらく手を借りるぞ」

「はい。それでは……<転移>」

 

 景色は切り替わり、郊外の森から俺の自室に転移成功。

 

「<伝言>、パンドラ、至急ペストーニャとセバスを連れて、俺の自室まで来てくれ。大至急だ。それともう一つ<伝言>、ツァインドルクス、聞こえているか。プレイヤーが出たかもしれない。鎧で良いから、すぐにエ・ランテルまで来てくれないか」

 

 短く用件だけ伝えて、俺はジルクニフを自分のベッドに寝かせる。傷は塞がり体力も戻っているが、ようやく落ち着く場所に来た事で、先ほどの光景を思い出したのか少し震えだした。

 

「ジルクニフ殿下、ここは安全です。まずは落ち着いてください」

「……だい、じょうぶだ。俺は冷静で……じいと父上は亡くなって……なぜ……」

「お気を確かに。ここには、御二方の命を奪った下手人はおりません。私も傍にいます」

 

 そう声をかけるが、自らの父親と長年面倒を見てくれたフールーダが肉塊になったのを見たことはトラウマになっているのか、ジルクニフの震えは止まらない。

 そうこうしている内に、ペストーニャとパンドラにセバスがやってくる。

 

「ぺス。ジルクニフ殿下に、<獅子のごとき心>などを。精神的に参っている」

「承知しましたわん」

 

 ペストーニャの信仰魔法でようやく平静さを取り戻したジルクニフだが、それでも俯いた姿勢のままだ。心の傷は治っても、肉親が死体になった事実は変わらないからな。

 

「すまない、遅れたかな?」

「いいや、良いタイミングだ」

 

 空間が軋んで、ツァインドルクスが鎧姿を見せる。始原の魔法による転移だ。

 

「良く集まってくれた」

「モモン、そちらの彼は誰かな?」

「バハルス帝国皇帝の息子、ジルクニフだ。今回、彼の父親と彼の家庭教師とも呼べる人物が何者かに殺害された」

「……手を汚した相手がプレイヤーだと?」

「そうだ。状況から見て、そう考えても問題ないだろ」

 

 俺はジルクニフにも知る権利があると思い、殺害現場の状況からなぜプレイヤーなのかについて説明する。ただし課金アイテムとは言わずに、非常に高度なマジックアイテムが使用されたと言い換えておくが。

 

「蘇生を封じるマジックアイテム。それは君が使うような、高位階の蘇生も拒むのかな?」

「確実にな。魔法で死体を探査した限りでは、第九位階の<真なる蘇生>でも駄目だ。可能性があるとすれば、第十一位階の超位魔法ぐらいだ」

 

 それだって100%確実かと問われたら微妙なところ。基本的に超位魔法と課金アイテムであれば、高レアな課金の方が優先順位が高い。課金格差という奴だ。

 

「だから、モモンは父上とフールーダをあの場に置いてきたのか……」

「ああする他ありませんでした。扉の外には、複数人の気配が。あそこにいるのを見られていたら、殿下と私が最有力容疑者です」

 

 <時間停止>を使うことも考えたが、外の気配の中に下手人がいないとは限らない。下手に手札を晒したくないので、<上位転移>を使わずに<転移>にしたほどだ。相手の狙いが不明な以上は、使う手札は少ない方がいい。

 

「……その、プレイヤーというのは、一体何なんだ?」

「異界から来訪される神々です。異邦の世界ユグドラシルから降臨し、良くも悪くも多大な影響を及ぼす絶大な力の持ち主。法国が信仰する六大神も、かつて世界を侵した八欲王も、ユグドラシルの神です」

「……なぜ、そんな神が我が父君と主席魔術師を殺害する?」

「不明です。言い方はあれですが、プレイヤーとは大きな力の持ち主。どうして皇帝陛下を殺したのか、さっぱり見当がつきません。殺す理由がないからです」

「ではモモン様。発想を逆転してみたらどうでしょうか? 殺す理由が出来たから、殺害した。皇帝陛下暗殺が、犯人にとって有益になったからこそ、手を下したのだと」

 

 パンドラは理屈を口にしてくれるが、快楽殺人な可能性もある。強大な力を得て誰も逆らってこないので、手始めに国一番のお偉いさんを殺してみたとか。

 ただこの可能性を念頭に置くと、なんでもありになってしまう。まずは殺害に及んだ理由を考えるか。

 

「殿下は、どうしてあの部屋にいたのですか?」

「呼び出されたんだ。父から、あの時間に部屋まで来てほしいと頼まれていてな。それで部屋に向かってみれば、扉を開けたらあの有様だった。俺は驚いてしまい、そこに……あれは人影か」

「犯人を見たのですか?」

「何かがいた……ぐらいだ。顔も背丈も分からん。気が付いたら、俺は右の肺を抉られていた。激痛に倒れて死ぬのだろうかと思ったところで、モモンから連絡があった……モモンはなぜ俺に連絡を?」

「フールーダさんです。今日はあの人と魔法談義をする予定だったのですが、部屋に行ってみれば誰もいません。なので連絡を取ろうとしましたが、不発で……それで殿下に<伝言>を繋げました」

「そうか。そのおかげで、俺は一命を取り止めたのだな」

 

 とジルクニフは言うが、恐らく下手人は殺害するつもりは無かった筈だ。フールーダを殺害可能な相手が、ジルクニフを殺し損ねるとは思えない。わざと生かした。なぜ生かしたのだろうか?

 

「ジルクニフ様は呼び出された。そしてフールーダ様はあの部屋に……皇城内にいるものであれば、フールーダ様の御予定は手に入る。今日、モモン様と会われる事も知っていた。それに蘇生対策をしていたとなれば、モモン様を警戒しての行動ですね。ならば、犯人は最初からモモン様が来ることも想定していた」

「……そうか。俺を犯人に仕立てるためか。フールーダさんを殺害するとなれば、相当の実力者が必要になる。俺は手を下す人物として、ぴったりなのか」

「はい。それにジルクニフ様を生かしたのは、モモン様に助けさせるためでしょう」

「その心は?」

「ジルクニフ様がモモン様に依頼し、皇帝と魔術師の殺害を頼んだと思わせたいから。ジルクニフ様が倒れていれば、連絡を取ろうとしたモモン様は必ず部屋に転移します。そこで傷ついた殿下を見たら、モモン様は治そうとします。そして治ったタイミングで、部屋の外に気配……明らかに、仕組まれたものです。モモン様を罠に嵌めようとする作為しかありません」

 

 なるほど。そう言われてみれば、俺はかなり怪しい人物だ。他国の公爵なのに皇城に入り浸り、皇帝やフールーダと顔を合わせる機会の多い強力な魔法詠唱者。皇帝殺害の容疑を被せるには、うってつけの相手だ。

 

「それにジルクニフ様もですね。皇城には、ジルクニフ様の敵も多いかと。次期皇帝の座を狙い、政争も珍しくないのではありませんか?」

「それは……今更隠す事でもないか。多いな。父は俺を特別扱いしていた。次期皇帝には、俺を推薦しようとしてな。しかしそうなると、面白くないと感じる貴族は多い。兄弟も同じく……そうか。皇帝を暗殺し、その罪を俺とモモンに擦り付ける。そうすれば自然と俺は失脚し、皇帝の座から追い落とせる」

「それにモモン様が皇帝殺害の犯人となれば、それを大義名分にしてリ・エスティーゼに侵攻できます。帝国からすれば、リ・エスティーゼは肥沃な大地で旨味しかない土地」

「……だがモモンがいるが……そうか。そこでプレイヤーとやらだな。モモンに対抗できるための戦力が手に入ったから、大胆な行動に移った」

 

 その可能性は高い。要はおでんと一緒だ。おでんも王国貴族に協力することで、自分の地位を確立しようとした。今回の相手がプレイヤーかどうかはまだ不明だが、おでんに似たタイプであれば、帝国の誰かに協力するかもしれない。

 そしてもう一つ。相手は俺に姿を見せないように立ち回っている。おでんは直接的に攻撃してきたが、今回の相手はなんだろう……探るような気配を感じる。

 

(それに一カ月前の、ツァインドルクスが俺を訪ねてきた件。こいつが俺の所に怒鳴り込んできたのは、強力なワールドアイテムを使用したと思い込んだから)

 

 この竜王曰く、かつて世界の魔法法則を歪めた力に匹敵する何かが使用されたらしいのだ。世界の魔法法則を歪めたとなると、それは二十の一つだ。

 つまり……可能性がある。今回の相手は、二十を持っていた。そして使用して、何かをした。何をしたのかは不明だが、二十の力は絶大だ。俺も『奇蹟鬼録』で復活したからこそ、桁が違うと知っている。二十は簡単に世界の上限や限界を超えてしまう。

 

(例えば『世界意思』を持っていたら? あれを使われたら、俺は絶対に勝てない。『世界意思』は理論上、ユグドラシル全プレイヤーと、全ワールドエネミーを相手にしても、持つ方が絶対に勝つ代物。互角に戦える方法は、同じく二十を使うしかない)

 

 侮れない。おでんとは根本的に違う。下手をすれば、今の未完成な俺では絶対に届かない理論上の限界値が来ているかもしれない。少しだけ嫌な気配を感じる。

 俺は首を横に振る。考えるな、まだ可能性だ。ツァインドルクスが感じ取った力にしても、二十とは決まっていない。まずは推定プレイヤーを探し出さないといけない。

 

「ツァインドルクス。前にも言ったが、相手はユグドラシルプレイヤーの可能性がある。お前にも協力してもらうぞ」

「……断る」

「……は?」

 

 なんて?

 

「断る。相手は推定プレイヤーかもしれないが、まだ悪行と呼べる何かを成していない。相手がどんな人物なのかを見極めるまでは、私は静観させてもらう」

 

 おい、パンドラ。『真なる無』を持ってきてくれ。こいつの頭をかち割るから。




63話のウロボロスまで一気読み推奨
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