モモンガさん、転生する 作:一人旅系亜種
皇帝暗殺から数ヶ月。結局皇帝暗殺の犯人は見つからず、いつの間にか有耶無耶に。その後、皇帝の座はレオンが引き継いだ。皇帝はジルクニフに引き継がせる予定だったが、その皇帝が死んだのだから仕方ない。そんなジルクニフはと言うと、現在は皇城で大人しくしているようだ。本当はその類まれなる政治力で騎士団を把握し、皇帝の座を掴み取りたかったらしいが俺は制止させた。
理由は言わずもがなびりけんだ。あいつが俺の考えている通りなら、その強さは間違いなく上限勢。なんとしても、単独転移なのかギルド転移なのかだけでも突き止めておきたい。俺は全ての仕事を返上し、いつ、どこに、どうやって……あいつが転移したのかを調べ上げて、どうにか突き止めた。最終的にはツァインドルクスを締め上げて、情報も吐かせた。
「モモン様。びりけんなるプレイヤーは単独転移。そう考えて宜しいかと思われます」
「俺も同意見だ。あいつが出現した場所はアーウィンタールの皇城で、中庭でここどこー? となっていたのをレオンに発見され、そのままなりゆきで部下になったようだな」
調べて分かった事は、あのプレイヤーはかなりレオンに心酔している。なにせ今のところ集めた情報だけで判断するなら、何事であれレオンを優先するように動いている。
「……暗殺の首謀者は皇后。レオン様を皇帝の座につけるために、びりけんに暗殺を依頼したようですね」
「皇帝が生きていれば、間違いなくジルクニフを後継者に指名するからな。びりけんもレオンの立場を不憫に思い、これを承諾。邪魔なフールーダ共々殺害、か」
集めた情報から読み取れるのはこんなところだ。
「これらの情報があれば、ジルクニフ様には有利です……ですが、モモン様としては、びりけんとは戦端を開くかもしれない行為は避けたいのですよね?」
「ああ。俺の直感に過ぎないが、あいつはたぶん俺より強い」
「……そんなことがあり得るのですか? 私が知るプレイヤーはおでん様ですが、おでん様とモモン様の間には絶対的な戦力差があります。プレイヤーとは、それほどまでに実力差が出るようになっているのですか?」
「いいや? 確かに並のプレイヤーと上位のプレイヤーには差があるが、俺との間を埋めるような何かではない」
ユグドラシルはDMMOだ。プレイヤー間の間で、めちゃくちゃな差が出る設計にはなっていない……というのは表向きの話。実際にはワールドアイテムや、ナザリックの第八階層など他のDMMOには許されない設計思想が多数あったとはギルメンの話。
「だが例外もある。分かりやすいところで言えば、ワールドエネミーアーティファクトを使用した時だな。あれを使えば、戦闘能力は数十倍にまで跳ね上がる」
「では、びりけんはそれを使ったと?」
「……違うと思う。ツァインドルクスの話では、感じ取った力の波動はワールドアイテムだ。それも規模としては二十。二十は使い捨てだが、使い捨てな分強力な物が多い。有名どころで言えば、どんな願いでも叶える指輪とかな」
「どんな願いでも……まさか、それを使用して?」
「分からん。二十には、データロストする代わりに、一時的にとんでもない強さになるアイテムもあると聞いた事はある」
ワールドが関わる時だけ、ユグドラシルは普通のDMMOから変貌する。データロスト最強については、ログアウトしたら効果終了。ログアウトするまでは無双気分が味わえるだったか? こっちの世界にはログアウトなんて概念は無いから、使えば一生最強状態だ。
(どの程度の強さになるのかは分からないが、ワールドエネミーを倒せばドロップするアーティファクト以上の効果は確実。もしも俺の想定通りなら……うん、無理。俺の意味不明タレントや実質199レベルの能力を加味しても、たぶん負ける。あいつは俺を見て、五色如来……つまりワールドエネミー相当だと判断した。俺もその意見には賛成だ。今の俺はワールドエネミー相手でも、互角に戦えると思う)
その上で苦戦はすれど、倒せるとあいつは読んでいる。まぁ、そりゃそうか。今の俺はまだ199レベル……最大理論値である600レベルと比較したら、まだまだ糞雑魚だ。あいつがこちらの想定通りなら、レベルとしての強さは500から1000ぐらい。五重戦士化をすればギリギリ届くか?
ここの話だけ切り取ると、ツァインドルクスの感情も分からないでもない。二十まで行けば、世界を簡単に変えてしまえる。個人に使えば、頂点に。たどり着く場所はいつだって同じだが、そこに一足先に飛んでいける。何事も無ければいいのだが……
そんな俺の期待を裏切り、帝国は王国に宣戦布告をかましてきた。なんでだよ。一緒に手を取りあえばいいだろうが! と思うのだが、向こうから来た以上は仕方ない。
さて開戦だ! とはならず、向こうはカッツェ平野で、最大戦力を出しての一騎打ちを申し出てきた。帝国の言い分としては、どうせ最大戦力、王国側であれば俺が負けるなら、そこから負けるのが確定している。逆に向こうは、例のプレイヤーびりけんが負けるのであれば、どうあがいてもこちらに勝つ方法はないと判断している。
なので無駄な戦力を消耗させずに、代表者同士で戦わせようと言うのだ。
「頼めるか、モモン」
「承知しました」
どちらにしろ、断ったところで都市部などにびりけんが派遣される可能性は付きまとう。それならば、周囲に被害の出ないアンデッド多数発生地帯で決着をつける方が合理的だ。
「ンフィーレア君。少しだけ、君のタレントを借りてもいいかな?」
「そうすると、モモンお兄さんは助かりますか?」
「ああ」
「それなら……存分に使って下さい!」
俺はおでんからパクっておいた『流れ星の指輪』を使い、超位魔法<星に願いを>を発動させる。この魔法はどうやらこちらの世界で謎に強化されており、叶う範疇ならばどんな願いでも叶える効果に変貌していた。
今ンフィーレア君からタレントを貰い受けたように、同意さえあればタレントを別の人物に移す事すら可能。これを三回全部使い切って、千眼千視さんのタレントと、竜王国に行って精神操作魔法で操り、始原の魔法を使えるようになるタレントをちょっと借りておく。ごめんね、ドラウディロンさん。生きて帰ったら絶対返すからさ。
前準備は全て済ませて、俺はカッツェ平野に向かう。さぁて、相手はどんな態度で来るのやら。
「おひさー、モモンはん。えろうすんまへんな。こんなバカ騒ぎに巻き込んでもうて」
「……そう思うのであれば、こんな戦いをせずお互いに矛を収めませんか?」
「それはできひんなー。僕にも立場っつうもんがあるから……ま、安心してや。モモンはんをぶっ殺した後、王国に必要以上に手出させるような真似はさせんから」
「もう勝ったつもりなんですね」
「そらな。だって、僕の方がモモンはんより強いし……てそうか。これをつけたままやと、僕の強さとかようわからんよね。今すぐ外すわ」
そう言って、びりけんは首のアクセサリーを外し……力が噴出した。今の俺には千眼のタレントがある。探査魔法を使わなくとも、相手の強さが視覚情報として見えてしまう。
「こ、こまで……か」
ここまで別格か! 向こうの方が、なんとなく上なのは分かっていた。それでもこれは……
「どうやってこれだけの力を? 私はおでんというプレイヤーに会いましたが、彼はあなたほどの強さではなかった。おでん曰く、プレイヤーは似たり寄ったりの力だとも聞いています。なのにびりけんの力は、そんな物を遥かに超越している……」
「知りたい? そなら、そうやね……よし! 一発殴ってみ。それが満足できる一撃なら、冥土の土産に教えてあげるわ」
「……その言葉、忘れないでくださいね」
ふぅと息を吐いて、俺は呼吸を整える。向こうの方が上な以上は、最初から全力でやるしかない。ここまで差がある相手に、一度退いて情報収集なんてする暇はない。
(<魔法修正五重最強化・完璧なる戦士!>)
初手から全開。一気に踏み込み、相手がここを殴ってみいと掲げた手を思いっきり殴りつける。その結果は──
「うん、合格。いいね。素晴らしい一撃や」
「……この一撃に耐えられるのは、けっこう屈辱なんだがな」
「そやろね。僕以外で、これに耐えられるやつおらんやろな。ほら、こんなに手がぶるぶる震えてる」
片方の手と見比べたらようわかるやろーと言いながら、びりけんは左手も差し出してくる。その手に嵌った指輪を見て、それを使ったのかと俺は歯噛みした。
「その指輪……」
「ん? あ、もしかしてそのおでんっちゅう奴から、なんか聞いとった?」
「願いを叶える指輪……最強のワールドアイテム……お願い系の頂点……」
「そうそう。この指輪は、今は力を失っとるけど、その力を全開にしたら世界の法則も歪めてしまう……世界を歪めるほどのアイテムで、自分を強化したら……思ったよりも強うなってもうたわ」
こいつはそれだけの事に、全ワールドアイテムでも最高位を使ったのか。
「二十の一つ『
「へぇ? そこまでおでんに教えてもらってたんか……せやで。この世界には、どんな脅威が潜んでるか分からへんからな。出し惜しみして死んでもうたら、アホみたいやろ?」
ウロボロスは運営が許せば、ウロボロスを除く全ワールドアイテムのコピーすら許される、ユグドラシル内最強のアイテム。その気になれば、どんな無茶も叶う代物。それを自らの能力強化に充てれば、文字通り桁が違う強さになってもおかしくはない。
「■」
俺は魔法を大量に叩き込む。びりけんを中心に爆炎が発生し、煙が晴れた時には──
「中々いたいわー」
「……効いてないのか?」
「結構堪えとるよ。ほれ、モモンはんに攻撃された箇所、少し赤くなってるやろ」
ああ……なるほど。ウロボロスによる強化率は、それほどまでに──
「それじゃ、始めよっか。すぐ死んだらあかんで」
「うーん。思ったより強かったけど、お願いで強うなった僕ほどではなかったみたいやね……モモンはん聞こえとる?」
「……よゆう……こきやがって……」
「そら、しゃあないよ。だってモモンはん、手加減した僕相手でも、結局は届かへんのやもん」
俺はびりけん相手に全力でやった。『無』の詠唱も、強制転移も、<転移門>を使った太陽門フレアランスやプロミネンスアローも全部使った。
その上で、俺の手札は全部届かなかった。逆に向こうの打撃はよく響く。<光輝緑の体>を修正強化し、打撃を無効化している筈なのに、一部のダメージが貫通してくる。
肉体ペナルティ耐性がある肉体なのに、俺の左手は既にない。右手も指がへし折られた。右目は既に潰れていて、<大治癒>で治る気配もない。
「ごめんなー。今の僕の打撃やと、再生阻害とか色々ついてるみたいなんや。もうその怪我治らんと思うけど、堪忍してや」
「ひとの……目や手を潰して……えらく……軽い謝罪を……」
「しゃあないやん。加減するのはなんか違うし」
そうだな。俺もお前の立場なら、弱い方が悪いというから間違ってはいない。
「再生阻害……皇帝とフールーダの蘇生阻害はお前の攻撃のせいか」
「そやでー。本当はほとぼりが冷めた頃に蘇らせる予定やったんやけど、まさか僕のパンチやキックに、こんな効果が付いてるとは思わんかったんや」
「……なら……俺が死ぬのは想定内か」
「うん。本当はモモンはんぐらい強い相手なら手駒にしたいけれど、それは契約外やさかい……僕は皇后はんと契約してるんや……だから、すまんけど殺すわ」
そうか。まぁどっちにしろ、俺の体はもう助からない。このまま放置されても、俺が死ぬのは確定だ。
「……最後に観ときたい光景とかある?」
「なんだ?」
「いやな、僕の住んでた場所には死ぬ人に、最後の晩餐とかいう文化があったんよ。もうモモンはんは喰えんと思うし、なら死ぬ前に観ておきたい光景とか見せてあげるんが人情かなって」
「……なら、エ・ランテルに」
「ほいきた」
びりけんは俺を担いで、一瞬でエ・ランテルにまで跳んだ。<転移>で飛んだとかではなく、脚力で無理やり跳躍した。
「ほれ。よう焼き付けとき」
俺はエ・ランテルの城壁から、城内を見下ろす。たくさんの人間がそこにいて、自分の生活を楽しんでいる。遠くを見れば、俺が住む領主の館がある。これが最後に観ていられる光景。
「ええ生活やな。みんな笑顔や……この生活を創り出したんは、たぶんモモンはんなんやろな……殺すのが惜しいで、ほんま」
そうだな。俺は負けた。なら、殺されるのも普通のことだ……今日、この場ではお前の勝ちだ、びりけん。お前は俺より強かった……今は。
(だが本当の意味での勝利はこっちのものだ。ウロボロスの脅威は理解した……そして二十対決は俺の勝ちだ)
俺はエ・ランテルの街並みを眺める。魔法で眺めたら、遠くには庭で遊ぶエンリの姿が見えた。これを観れるようになるのに、また13年か。長いなぁ~
「ほなな」
びりけんの言葉が聞こえて、俺のいし──
『
「生まれる! うまれるぞ!!」
ああ、懐かしい声だ。今なら声だと認識出来るが、当時の俺には音でしかなかった。
「頑張りなさい! もう少しだから!!」
「息を吐いて、吸って……ほらもう一度息を吐いて吸うんだ!!」
「ぐぅうううう!!」
頑張れ、母さん。俺も頑張るから……ようやく出られた。俺は重い瞼を無理矢理開く。目に映るのは、懐かしい我が家の天井。
「ひらいた……開いてくれたぞ! 俺たちの……俺たちの子が」
ああ、開くさ父さん。だって俺は……モモン・エモット。二人の子供なんだからさ。何度か呼吸をして、体の調子を確かめる。全身に力が漲っている……のだが、なんだか上手く動かないな。む、そう言えば
それから一年。ようやく時折程度だが目を離してくれるようになったので、俺は自分のクラスを確認。オッケーオッケーちゃんとクラスレベルが上昇しているな。さぁて待ってろよびりけん。13年後には、お前がウロボロスを使う前に奪いに行ってやるからな……13年……13年か……13年かぁ……前と同じになるように、それまでは全力で前の周回と同じ行動をしないといけないのかぁ──
(ワールドリインカーネイターの最奥『死に戻り』は強力だが、これ使いどころを考えないと、俺の精神が摩耗しかねんぞ)
数百歳や数千歳になってから発動したら、目も当てられん。
モモン・エモット(0歳)2Lv
ワールドリインカーネイター2Lv(死に戻り回数4回→3回)
所持タレント:『魔法強化』『道具適正』『千眼』『始原再現』
()内は転生後のレベル増加に伴い上昇した分
HP115(+0)=115
MP197(+0)=197
物理攻撃94(+0)=94
物理防御128(+0)=128
素早さ88(+0)=88
魔法攻撃力161(+0)=161
魔法防御力167(+0)=167
総合耐性151(+0)=151
特殊158(+0)=158
本当はあと5話ぐらい使う予定だったけど感想と評価観て1話に圧縮
次話のウロボロスまで一気読み推奨