モモンガさん、転生する   作:一人旅系亜種

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前話までのあらすじ
モモンガさん(非公式ラスボス)を変に追い詰めるのはやめようね。ガチの非公式ラスボスになって帰ってくるから


モモン&エンリ

 俺の誕生パーティも無事終わり、無駄に長かった俺の13年間を使った修行期間も無事終了。修行と言っても、大部分はびりけんを抹殺してただけな気もするが。でも感覚としては、本当に長い修行期間と言えるのだ。

 

(ザナック殿下との話も楽しかったな。ご飯も美味しかったし)

 

 2周目では、農村のモモンのまま暮らしていた。特に目立つことなく、誰にも知られないように。

 その一環として力を隠していたせいで、村の食糧事情などが安定化しないなどの違いもある。つまり俺の食生活は、1周目と違いけっこう質素だった。

 

(それに2周目……か)

 

 極力人と関わらないようにした。確実に別れる以上は、下手に縁を繋げると寂しさが募るだけだから。繋げた縁が消える寂しさは、誰よりも知っているつもりだ。だから1周目に行ける可能性を見つけた時点で、俺は必要以上の接触を断った。

 人との繋がりを断つ寂しさは、びりけん野郎との戦いの前にも感じていた。ここで逃げられたら……そんな想いも多々あったが、逃げたところで向こうは追いかけてくる可能性がある。だからびりけんとの戦いの前には、どちらにしろやらざるを得ないからと諦めた。1周目に全てを置いてきてしまう悔しさに涙を呑んで。

 だがどうあがいても、向こうで絶対に別れないといけない相手がいる。両親とエンリだ。俺がこちらに意識を飛ばした以上、向こうはどうなっているのだろうか? 肉体自体は死んでいるのか、それとも消滅してしまったのか。念のために、書置きは遺してある。俺は冒険者になり、もっと広い世界を見に行きます。何があっても探さないで下さい、エンリを守ってあげて……そんな内容を。

 

(ごめん……2周目の父さん、母さん、エンリ。俺が駄目なお兄ちゃんで)

 

 もう一つ念のため、2周目の村を守るために、ハムスケと法国からこっそりパクってきたマジックアイテムを強化使用して、村の防備は固めてある。一応100レベルが10人の集団までなら勝てるように用意はしてきたが……

 

(不安だ。2周目にこんなにも帰りたい)

 

 セーブ&ロードを駆使すれば、1周目と2周目を簡単に行き来出来るかとも考えていたが、時間軸とはそんなに簡単じゃない。もう一度2周目に行きたければ、俺が持つ永劫の蛇の指輪(ウロボロス)を使うしかない。しかしそれをすると、時間軸がどうなるのか不明。そもそも1周目、2周目と定義しているが、これも俺の感覚であって、実際の時間の並列性に対する話とは別物だ。

 結局のところ、1周目を選ぶのか2周目を選ぶのか。俺は選択肢として、どちらかを選ばないといけない。そしてどちらかを選べと言われたら……俺は1周目を選ぶ。こちらの方が、繋いだ絆は圧倒的に多い。

 その辺りの葛藤があるからこそ、俺はびりけんをウロボロス抜きにして容赦なく殺害した。お前がいなけりゃ、俺はここまで悩んでねえんだよという気持ちを籠めて。その感情があるから、あいつに関しては復活させていない。顔もみたくねえ。あいつに関してはびりけんと呼ぶのも嫌だ。ウロボロスけんで十分だ。お、もしかして俺は何か上手い事が言えたんじゃないか?

 やめよう。これ以上現実逃避しても意味がない。俺は2周目よりこちらを選んだ。その事実を背負って生きていくだけだ。

 

(しかし……懐かしいな、この屋敷は。こうして領主の椅子に座るのも、13年ぶり。久しぶり、マイチェア……ザナックも懐かしかったが)

 

 ……ザナックには言わなかったが、俺はあいつを見た瞬間に少し泣きかけた。向こうは三ヶ月ぶりの出会いなのだろうが、俺は13年ぶりの再会だ。ザナックに対して、俺は友情のようなものを感じている。もしもリアルの友達が俺にもいたならば、こんな感じだったのだろうかと。なんなら、あのまん丸かった頃のフォルムも見たいぐらいだ。

 

「もうちょっとだけ、話をしておけば良かったかな?」

 

 話と言うならば、ぺスペアさん家の息子さんとも俺は結構仲がいい……と俺は思っている。俺個人としては馬が合い、かなり話が弾むのだ。時には英雄モモンの魔法を観たいとせがまれ、今日もいつか討伐に共に赴きたいとか言われた。連れて行っても良いのだが、修正強化の威力調整をミスったら大変なことになる。

 ……あー! もっと話がしたい! どうでもいい馬鹿話がしたい!! それか癒しが欲しいぃ!!! ザナックとジルクニフとその他の貴族子息を誘って、カードゲームとかに興じたいぃいい!!

 俺は床をパンパン叩く。それで床は小揺るぎもしない。今の俺は馬鹿スペックの塊だが、普段時は大量のデバフを修正強化して自分に使い、能力値を限界まで下げている。1トン持ち上げるだけでも難儀する筋力だ。

 

(こうしないと、俺の今の腕力だとなぁ……)

 

 制限を設けないと、危なっかしすぎてまともに生活も出来ない。七色鉱ですら、全開の俺にとっては、空気とどれぐらい硬さが違うのか判別がつかない。100レベルと1レベルの区別もつかん。高すぎる能力というのは、普通に暮らそうとすると不便極まりない。

 このままアホやってても仕方ないと茶を片手に書類を片付けていると、コンコンと音がして執務室にエンリが入ってきた。俺はその姿を見て、どうしようもなく心が軋む。

 

「エンリ……」

 

 2周目でも見知った姿だ。だがこのエンリとは違う……精神安定を発動して、無理矢理心を落ち着ける。考えるな……エンリの前で変な事を口走ったりしないように。己の心に沈めておくんだ。

 ふぅ……よし。オッケー。

 

「どうしたー、エンリ。何か困りごとか?」

「モモンお兄ちゃん。その……おべんきょ、教えてほしいな」

「パンドラはどうしたんだ?」

「その……お兄ちゃんと、お話ししながらがいいなーって。あ、でも忙しいなら、私我慢するよ……」

 

 と言って、エンリは俯いてしまった。そっか、このエンリにとっては、最近の俺は忙しくて遊ぶ機会も無かった俺なんだ。1周目の時もそうだっただろうか? 若干薄いんだよな、この辺の記憶。当時の俺にとっては普通の日常で、今の俺にとっては何がなんでも取り戻したかった日々。

 

「そうか。いいぞ、兄ちゃんと一緒にやろうか」

 

 俺は血を滲ませた符を投げて、1Lvの人間ぐらいの身体能力しかないが、代わりに仕事をしてくれる分身を数体ほど作っておく。ついでに<エインヘリヤル>発動。通常の<エインヘリヤル>と違い、俺とそん色ない性能を持つ分身が更に1体追加。

 

「代わりに仕事を片づけておいてくれ」

 

 分身は喋らないが意思はあるので、頷きだけは返してくれた。さんきゅーまかせたー。

 

「ようし、それじゃどこが分からないのか、お兄ちゃんに見せてくれるかな」

「えっと……ここがね……」

「へぇ、どれどれ。なになに、集団戦術の基礎とは、如何に相手を分断させるかで──なんでエンリの教科書が戦術教本なんだよ!!」

 

 どこの馬鹿だこれ用意したやつ! もっと数式とか文字とかあるだろうが!!

 

「エンリ! これは誰から貰ったの!?」

「ぱ、パンドラさん」

「パンドラー!……」

 

 あの教科書なんだよ! モモン様の妹君であれば、いずれ集団を動かす必要性が生じる場面があるかと思われます? だから英才教育として、戦術に携わる教本を用意しました? ……いや。エンリを戦わせる気とかないぞ、俺は。

 ……そうかもしれませんが、いざという時は来るかもしれません? まぁ、その考えは否定しないが……しかしエンリは、まだ6歳だぞ? もうちょっと、例えば挿絵にしても可愛らしい熊さんの絵とかにするとかさ。は? タイガー戦車は格好いいし可愛い? 待てよ! ……俺はタイガー戦車を恰好良いと思わないかだと? うーん……恰好いいけどさ。それでも男の子向けの理念だろ、それは。女の子向けのやつとかあるだろ、普通。

 ほら、ペスもそうだそうだと言っている。いいぞペス! ……ぺスさんや? たしかに女の子向きだけど、なんで全部カロリー馬鹿高いお菓子なの? 女の子は別腹だから、スイーツが大好き? いや、それはだな……あ、大丈夫だから。セバスに聞いても、なんかあれなのが出てきそうだろ。

 ……ほら! なんだよこの格好良さだけを追求したドラゴン! え、これは自分の手持ちにあったもので、これを参考にしたんです? なにこれ? 裁縫箱?

 

(なぜ裁縫箱? 執事のスキルに必須なのか? しかし裁縫箱にドラゴンって……俺の小学校でも、なんかこんなのあった気がするけどさ!? うち貧乏過ぎて、裁縫箱買えなかったから憧れたけどさ!! くそ、これはたっちさんの趣味か。たっちさんの事だから、きっとナップザックもドラゴンだ。ちょっと羨ましいな!!)

 

 セバス、たしかにお前がこれをお勧めする気持ちはわかる。だがこういった物は、例えばクライムに渡してやったりだな……あ、もう渡した? ほんと? 喜んでたんならいいけどさ……

 と、とにかく! せめて成人するまでは、こういうのは禁止で! もっと可愛らしい絵柄を用意するように!!

 

(エンリに戦わせる気なんてないっつうの。なんのために、とんでもグリッチ強化をしたと思っているんだ)

 

 と言っても、超強化した俺が全部戦い、全部何とかしてあげるとかはない。そういうのをすると、王国は堕落すると歴史が証明しているから。適度に自分達で戦わせ守らせないと、人間とは成長しない。かつては法国がモンスターや亜人との戦いを全部担ってあげたせいで、この国の貴族は堕ちてしまったのだ。

 それは人間も同じ。適度な緊張感が無いと、人は成長しない。例えば俺であれば、ウロボロスけんがそうだ。あいつがいたからこそ、俺は自らの超強化に踏み切った。200レベルに匹敵する強さになったせいで、13年前の俺は何処か腑抜けていた。なんとかなるだろうと。

 その結果があの大敗だ。最終的にはこうして立っているのは俺だが、もしも『死に戻り』が無ければ完全敗北していた。あれは戒めだ。これで足りると思っていた、平和ボケしていた自分への戒め。

 

「お兄ちゃん。怒鳴っていたみたいだけれど、どうしたの?」

「ちょっと教育方針で、パンドラと揉めることがあってな……この教科書は、エンリがもう少し大人になるまで預かるからね」

「う、うん分かった」

 

 あ、エンリがしょんぼりしている。ごめんなエンリ、お兄ちゃんも意地悪したいわけではないんだけれど、6歳の子にはこれは有害図書だから。6歳の頃に俺がしていた野盗狩りに比べたら、まだ有害度は低い気もするが、それでもエンリには健やかに育ってもらいたい……俺のように、人を殺してもなんとも思わないような、非道な人間にならないように。

 

「……教科書はあれだから、お兄ちゃんと字の練習をしようか。たくさん文字を書いてさ」

「分かった!」

「はは、元気だな、エンリは」

 

 俺は手を振って、真っ白な紙とペンを<道具創造>で制作する。

 

「何書いたらいいだろ?」

「そうだな……なら、エンリも6歳になったし、将来何になりたいのか? なんてどうかな」

「……6歳なら、将来のことを考えるの?」

「少しな。俺が6歳の時には、エンリがお母さんのお腹の中にいるって知って、妹が出来ることに驚いたんだ。なにせ、あの家には俺と父さんと母さんしかいなかった。村には他にも色んな人がいたけれど、本当の家族と言えるのは俺を含めて三人だけだったんだ……身重の母さんを見て、俺はお兄ちゃんになるんだって」

 

 エンリの髪を手櫛で梳く。小さな頭だ。俺じゃなくても、ちょっとした亜人が本気で握れば、簡単に握りつぶされてしまう脆くて小さな頭。

 ああ、そうだ……

 

「俺が本格的に守ることを決めたのは、エンリを抱っこした時かもな」

「守る?」

「父さんも母さんも俺より物理的には弱い。その他の村人にしても。でも、みんなは大人だ。本当なら、子供の俺に守られるのは不自然な立場。他にも村に子供はいたけれど、その子らとは仲良くなかったからな。でも……エンリは違う。純粋に、どこまでも、俺が守らないと害される危険性をたくさんもった赤ん坊。その時に決めたんだ。お兄ちゃんとして、何があろうとも絶対に守る」

 

 そうだ。2周目の時にはもう忘れていた。始まりがどこだったのかを。

 

(俺には何かを守りたい欲があるのかな? リアルの頃には、生活を犠牲にしてでもナザリックの維持を優先したり)

 

 そうであるならば、俺がエンリを守ろうとするのは至極当然の事だ。小さな妹を、守ってやる。それはお兄ちゃんの使命なのだから。

 

「だからお兄ちゃんは、その、領主様? をやってるの?」

「うん? ……ああ、そうかもな。確かに、みんな弱いからな」

 

 エンリや両親、それに友達などに比べて守りたいかと問われたら、微妙なところ……でもないのか。確かに俺は、周回前の時にこう思っていたんだ。俺が戦えば、皆を守れるのだろうと。

 ワンオペが嫌だからなんかじゃない。例えば街を歩いていて、ふとした拍子に挨拶されるのだ。エモット公爵がいるわ……ありがとう、なんて。その度に俺は、少しだけ満足感を覚えていた。確かにここに自分はいる。そんな充足感を覚えていたのだ。

 

「……守るのって、お兄ちゃんは楽しい?」

「大変だけど……今なら言える。楽しくて、やりがいがある」

 

 そうだ、大変だけど確かに楽しい。空虚な時間を過ごしたからこそ、今なら断言できる。何もない生活なんて地獄か糞だ。2周目でエンリが生まれる前の、4歳ぐらいの時には1日100時間ブラック労働が恋しく感じたほどなのだ。何もないは心を削る。

 俺の言葉を聞いたエンリはうーんと頷いた後、ペンを紙に走らせた。その内容は──

 

「ネムと……俺を守る?」

 

 ネムはエンリの誕生日前に生まれた、俺の新しい妹だ。ただ当時は忙しすぎて、あまり記憶にない。エンリの時と違い、面倒を見てるのも殆どは母さんとペストーニャだ。もう少し大きくなったら、たくさん遊んであげないといけないなと思っている、俺の大切な妹の一人。

 

「ネムは分かるが……俺もなのか?」

「うん! だってお兄ちゃん、いつも忙しそうにしてるから。だから、お兄ちゃんを忙しさから守ってあげるの!! だからたくさんおべんきょーしてるんだよ! モモンお兄ちゃんを忙しさから守るし、賢くなったら魔法を覚えて守ってあげるの!!」

「………」

「お兄ちゃん」

 

 俺はその言葉を聞いて、エンリをちょっと抱きしめた。

 

「ありがとう、エンリ。その気持ちだけでも凄く嬉しい……なら楽しみにしてる。エンリが俺を守れるぐらい強くなれるまでは、俺がエンリを含めて、みんなが倒せないような脅威を退ける」

「……うん、待っててね!」

「ああ、待つさ。それまでは負けない」

 

 もう負けたりしない。負けるつもりもない。そのために俺は、最強と呼べるまでに進化して、この場に戻ってきたのだから。




人類の守護神『無限の奇蹟(オーバーロード)』
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