モモンガさん、転生する 作:一人旅系亜種
オーバーロード
「そっか。昔はこんな感じの生活をしていたな」
俺は日記をパタンと閉じる。部屋の資料を整理していたら、初めて字の練習に使ったバレアレさんからのプレゼント教材が出てきたのだ。その中には、字を書く練習として毎日書いていた日記があった。
それを読んだことで色々と思い出し、当時を懐かしんでいた。
「もう朝か」
睡眠が必要ないので、徹夜で思い出に浸る。中々普通はできない贅沢だ。今日の予定を確認すると、特に用事も仕事もない日。せっかく思い出したので、今と昔がどう変わったのか確かめてみようかと思い至る。
自室を出てみると、ばったりとペストーニャに出くわした。
「おはようございますわん、モモン様」
「おはようと言いたいが、寝ていない時の挨拶はおはようで合っているのか?」
「当人がおはようと思えば、おはようですわん」
「そんなものか……そうだ、今日はクレムやリンと出かけようと思うんだが、どこにいるか知っているか?」
「奥様とご息女様であれば、セバスを連れてお買い物にお出かけになられましたわん」
「……俺を置いて?」
「クレム様からの伝言ですわん。お父さんは家でまってなさい……とのことですわん」
公爵家ともなれば、商人の方から訪ねてきて物品を購入するのが普通だが、我が家の奥様はそういうのは味気なくて嫌いらしい。店頭で見て、膨大な中から選ぶから良いのだそうだ。商人のお勧めとは、どうしたってそいつの癖が混じってしまうから。
(俺も自分でコレクションする性格だから、言わんとすることは分かるな)
昔はこんなだったんだぞと娘であるリンに教えてあげながら巡ろうかと思っていたのだが、目論見が潰れてしまった。仕方ない、1人でぶらぶらと出歩いてみるか。
「少し出てくる。もし急な案件が入ってきたら、パンドラに渡しておいてくれ」
「承知いたしましたわん。どうぞ行ってらっしゃいませわん」
ペストーニャに見送られながら、俺はエ・ランテルの街に繰り出した。
とことこと歩きながら、俺は街並みを眺めていく。十年前と変わらぬように見えて、色々とアップデートされた都市を。
俺が思い出として振り返ったのは13歳の頃まで。当時であれば魔法は王国ではまだまだ主流な技術ではなかったが、軍部で一番偉くて、なおかつ貴族最大派閥な俺が魔法詠唱者という事もあり、急速に普及していった。
「あ! 鬼ごっこで<飛行>はずるいよー!」
「ならそっちも飛んでみなよ!」
「……楽しそうだな」
大魔法基盤に触れられる俺は、位階魔法をより扱いやすいよう技術体系を再編成した。従来であれば<飛行>は第三位階魔法だったが、今では第一位階魔法に成り下がった。<転移>にしても、第三位階を使えるのであれば習得は容易だ。
「ここは廃れてしまったな」
俺が眺めるのは冒険者組合の建物。今ではすっかり利用者も激減し、偶にどこに依頼したらいいのか不明な雑用が持ち込まれるだけの場所。13年ぐらい前まではモンスター退治を引き受けたりとそこそこ忙しそうにしていたが、今は正規軍が全て討伐するのでここに退治依頼が来ることはもうない。
俺は扉を開けて中に入る。受付以外誰もいない。所属する冒険者も30人ぐらいしかいないらしいので、全員出払ってるみたいだ。
「これはエモット閣下! 今日はどうされたのですか!?」
「通りがかりに、ちょっと覗いてみたくなったんです……そうだ。プルトンはいます?」
「すぐにお呼びして参ります!」
受付のお嬢さんは上にあがり、しばらくしたらアインザックが降りてきた。
「ようこそお出でくださいました、エモット公爵閣下」
「こんにちは、プルトン」
俺は日記を読んで、昔と今を比べてみたくなったのだと説明する。
「なので公爵閣下などではなく、今日は昔のように呼んでくれると助かります」
「それでしたら……久しぶりだな、モモンくん。これでいいかな?」
「ありがとうございます、アインザックさん」
俺とアインザックはにやりと笑いあい、拳をこつんとお互いにぶつける。
「昔はあれだけ勧誘してくれていたのに、結局応じられず申し訳なかったです」
「いやいや、モモンくんの道はモモンくんが選ぶものでしかない。それに冒険者にはならずとも、モモンくんはこうして冒険者なんて必要ではないぐらい国を安定させたんだ。冒険者の道は、きっとモモンくんには狭い道だったんだよ」
「だといいんですが……でも想像するところはあるんですよ」
「何をかな?」
「俺がアダマンタイトのプレートを、首からぶら下げている姿」
「ううむ……それはないな。今だから言えることだが、モモンくんが冒険者になっていたら、その内もう一つ上のランクが作られていたよ。アダマンタイトより上の、ヒヒイロカネプレートなどが」
「ですかね……そろそろ行きますね。まだ回りたい場所がありますから」
「気を付けてな、モモンくん……とそうだ。行く前に、会おうと思っている人に連絡をしておいたらどうかな? 私のように、初めて会った時のように対応してくれと」
「……それは面白そうですね」
<伝言>で全員に伝えておく。今日はちょっと面倒かもしれないが、俺の我儘なごっこ遊びにつきあってくれないかと。これは我儘過ぎたかなと一瞬考えたが、返ってきた答えはいいよだった。
「では、また。お仕事頑張ってください、アインザックさん」
アインザックに手を振られながら、俺は<転移>で王都に向かう。向かうのはザナックの所だ。この時間なら執務室にいるとは思う。
こんこんとノックしてから、扉を開けたらじろりとザナックが俺を睨みつけてきた。
「どこの貴族だ? ここは俺のような王以外は立ち入り禁止で使用禁止だぞ」
「お仕事中のところ申し訳ございません。こちらに陛下が居られると伺いましたので、ご挨拶できればと思い馳せ参じさせて頂きました」
「……クク」
「ふふ」
「懐かしいだろ」
「懐かしいですね。まさか、そこから再現してくれるとは思いませんでした」
「モモンはこの国最大の英雄で、なおかつ俺の盟友だからな。そんな盟友が、数年ぶりに零した我儘なんだ。叶えてやりたいと思うのも、友心という奴だろ?」
「サンキュー、親友」
「いいってことよ」
俺はザナックと腕をぶつけ合う。久しぶりだなこういうのするのも。
「何年ぶりだ? こんなやり取りをするのは」
「ザナックがカルカさんと結婚する前だから……7年ぐらい前ですね」
「そんなになるか?」
「なりますよ。そのあと俺もクレマンティーヌと籍を入れて、身を固めたりなんやかんやして、こうやってプライベートで会う事も減りましたからね」
「会うとなれば、大体公的な場でしかなかったからな。公爵閣下兼魔導元帥としてのお前と」
「そっちこそ、今じゃ立派な大王じゃん」
再びこのやろーと腕を叩きつけ合っておく。こういうの、ほんとにひさしぶりだ。
「そっちは家庭は落ち着いてきたのか?」
「リンも今年で5歳になって、かなりやんちゃになって来たけれど、概ね平和ですよ」
このやんちゃというのは、俺基準でやんちゃという意味。他人からすれば暴風雨とも表現できる。
リンは輪廻権現からクレマンティーヌが取ってつけた名前だ。御父さんのように強くなりなさいと。その願いは聞き入れられたのか、リンは生まれついて異常に強い。なにせ誕生した時点で、いくつかのジーニアスクラスを持って生まれてきた。レベル換算すれば80以上だ。レベル上限も異常に高く、最大で420まで伸びる。凄いね、我が子ながら。
今は俺特製の力を抑える髪留めを付けさせてあるので安心だが、外せば130レベル以上の暴の化身に早変わりだ。お母さんであるクレマンティーヌの一千倍は強い。
「そちらはどうなんですか? カルカさんと息子さんは」
「元気にしているよ。時折、俺も直接遊んであげたりしている……長男のあの子には、あいつみたいになってほしくないからな」
「……そうですか。ランポッサさんは、今日もあそこに?」
「ああ。いつも通り墓参りだよ」
ランポッサ元国王陛下。ザナックに玉座を譲り渡してからは、毎日王家の墓に向かっていると聞く。そこに埋葬された、かつて自らが切り殺した我が子を弔うために。あれから十数年経つが、それでもランポッサの心にはしこりとして残り続けているようだ。
「それではそろそろ行きますね。まだ回りたい場所がありますので」
「色々と見て回ってこいよ」
王城を後にして、各地を俺は巡り回っていく。アンティリーネの所に行ったら──
「初めて出会った時って、どんなだったっけ?」
「その調子なら、調教しなくて良さそうだね……みたいな流れだった記憶」
「ああ、そうだったね。今思えば、とんでもない思い上がりをしてたかも。モモンを相手にそんなことをしたら、私じゃ死んじゃうね」
「殺さないですよ、全く」
今一度エ・ランテルに戻ってンフィーレアの所に行ってみれば──
「助けてくださいモモンお兄ちゃん!! エンリに絞り殺されます!!!」
「……聞きたくねえな、妹の情事が絡む話とか」
「本気の悩みなんですよ!!」
初恋を叶えてエンリと結婚したンフィーレアだが、どうもとんでもない性豪だった我が家の妹様に毎晩絞られているらしい……凄い早さで俺は伯父さんになるような気がしてきたな。
その他にも俺は各地を巡ってみた。インベリアに行ってみれば、キーノが会うなりモモンしゃま! といつも通りの反応をして、それを見た彼女の両親は、本当にキーノはモモン様が好きなんだからと呆れていた。はいはい、良い子にしてたら迎えに来るから、また今度な。
聖王国に向かってみれば、レメディオスに遅いぞ新人! と初めて出会った時のように怒鳴られ、それを見たケラルトが姉様、公爵閣下が昔のようにしてほしいと願ったとしても、その態度は幾ら何でも馬鹿そのものですと窘めていた。ついでに勢いよくケラルトにキスされた……初めて会った時に、こんなのしてないよね?
「それとは別枠です。私と閣下の仲ですから気にしないでください」
まぁ、それはそうなんだが。一緒に聖王国の南でやりたい放題してからというもの、ケラルトには気に入られたのか気が付いたら縁談話が持ち込まれて籍を一緒にしたからな。クレマンティーヌと違って、普段はこうして聖王国にいてもらっているが。
「そうだ新人! またアインズ・ウール・ゴウンのやつが、こんな協力話はどうだろうかと胡散臭い提案を持ちかけてきているのだ!! お前の手であいつを退治してくれないか!」
「……考えておきます」
レメディオスには見えない死角から、ケラルトがごめんなさい、まだ気づかない馬鹿な姉でと謝ってきていた。いえ、その件は俺にも不備があるので何も言えないです。
(
レメがアインズ・ウール・ゴウンの真実に気づく日は来るのだろうか?
次に向かったのは帝国だ。今から3年前に皇帝から直々に次期皇帝として指名されたジルクニフは国内の腐敗を一掃し、新たな帝国を築き上げようとしている。
「初めまして、ジルクニフ陛下」
「私はこの国の皇帝を務める、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスだ」
「……今回は、よく分からない妨害もないようですね」
「みたいだな。まぁあいつは呼んでいないので、ここに出てこられても困るんだがな」
「国一番の英雄に対して、酷い言い草ですね」
「そう言うモモンも、妨害してくるのが当然のような物言いではないか」
そこまで言って、俺とジルクニフは力強く握手する。懐かしいな、これも。
「しかし日記から昔を思い出し、色んな人物と出会って過去を振り返るか。なんとも面白そうな企画を思いつく」
「陛下もやってみます?」
「やりたい気持ちは多少あるが、まだまだこの国は改革を始めたばかりだ。国内が真の意味で落ち着くまでは、私にあまり遊んでいる暇はないよ」
「そんな中、こんなバカ騒ぎに付き合ってくれてありがとうございます」
「かまわん。お前と俺の仲だろ」
それからもたくさんの所を巡り、俺は今までの人生を振り返ってみた。たくさんの思い出があり、繋いだ絆がある。
それを再確認してから、最後にとある人物に会いに行った。
「待ってたよ、モモン。ほら、お父さんが来てくれたよ、リン」
「パパー!」
駆け込んできたリンを抱き上げて、思いっきり頭をくしゃくしゃに撫でてやる。可愛い奴め、いっぱい撫でてやるからな。
「それじゃ行ってくる」
「いってらー」
リンを連れて俺が向かったのは、カルネ村だ。今は大規模農業地帯の一時保管倉庫となった場所で、人はもう誰も住んでいない。そこには未だに俺が住んでいた家があり、リンを初めて連れていく。
「パパ? ここはどこ?」
「ここはね。パパが生まれてきた場所。パパにとって……俺にとって、始まりの場所なんだ」
生まれた時とは違い、俺が増改築したせいで元の家の形は一切残っていない。それでも確かに、ここが俺の産まれた場所なんだ。
「リンには、ここを見せてあげたくてな」
「たいせつなばしょ……ってこと?」
「そうだよ……とても大切な場所」
ここから始まり、俺の人生にはたくさんのことがあった。生まれてから23年、一度『死に戻り』を使った事も加味すれば36年。長い人生のようでもあり、これから長きに渡り生きる事を考えたら一瞬のようでもあった人生。そんな生涯の起点とも呼べる場所を、俺はこの子に見せてあげたかったのだ。
リンを家の床に立たせてあげる。周りを見渡して、ここがパパの……と嬉しそうにしていた。その姿を見て、俺は一つのことを決めた。
手に嵌められた指輪を一つ抜き取る。何に使おうか悩み、特に使いたい用途も思いつかなかったそれ。その気になればいつでも取りにいけるのだから、ここで使っても大丈夫だろ。
「蛇よ。俺はあなたに願う。どうか願わくは、この子の未来に祝福を。この先に続く人生に──」
幸運あれ。
大陸北西に大国あり。五つの国が集まり手を取る連合国あり。遥か昔に、王国・帝国・法国・竜王国・聖王国と呼ばれた国なり。
かの国、輝かんばかりの金銀財宝が所狭しと眠っており、弱小の種族しかおらぬ国。
数多の亜人異形がこの国を目指せど、誰一人帰らず。遠征いけど成功せず。
……ある日、たった一体の亜人が命からがら逃げかえり。生存者はただ語る。
かの国弱小にあらず、強国なり。されど、それらは理解の範疇。
かの大国には神がいる。全てを超越した理外の怪物がいる。大国に暮らす者らを守る、絶対なる守護神が座している。
オーバーロードがおわす国。
これにてモモンの物語は完結です。
次回は長めの後書きを書いて、一旦は筆を置きます。短編で今回示唆したイビルアイの話とかケラルトとのあれこれとかアインズ・ウール・ゴウンとか、今回出ていないネムとかアルシェとか成長したクライムとかツアレとか長編プロットにはならないけれど、1話完結型で書けるネタぐらいはあるので書くかもしれない。けれど、当分は離れると思います(小説を書いてると他の娯楽の時間が……)
それではご愛読まことにありがとうございました。