モモンガさん、転生する 作:一人旅系亜種
原因が判明したら、取り除かないといけない。今回のトブの大森林南争奪戦の発端は、間違いなく俺にある。なんとしても、早急に解決する必要があった。
「西の魔蛇に東の巨人でござるか。どちらから攻める予定でござろうか?」
「西の魔蛇、リュラリュースからだ。ゴブリンの情報から、相手はナーガだと判明している。東の巨人はトロールだともな。これは俺の勝手なイメージだが、トロールよりはナーガの方が話も通じるだろう」
「話でござるか? てっきり、ゴブリンと同じく問答無用で殺すのかと思っていたでござるよ」
「それは駄目だ。ハムスケがいなくなっただけで、大森林は荒れているんだ。もしも残りの二大まで死亡すれば、この森には統治者がいなくなる。そうなったら、今以上に無秩序な暴走が続いて、本格的に大森林のモンスターを全員抹殺しないといけなくなるかもしれない」
それは俺としては望んでいない。ハムスケがいたことである程度の秩序が保たれていたように、統率者がいることで生まれる平和もある。モンスターパニックの原因はハムスケ不在の地を東の巨人グが奪取しようとしたのを、リュラリュースが阻止しようとして紛争が起きたから。
であるならば、どちらかだけを生き残らせて紛争を終わらし、統治させてしまえばいいのだ。むろん残すのは、俺とハムスケに協力する方だ。ハムスケのように全面的な味方とまでは言わないが、統治させても人間ぶっ殺したのし~、これから毎日家を焼こうぜ! なやつはとてもじゃないが任せられない。
「まずはどこにいるかだな。ある程度の場所は聞き出せたが、住処から出て徘徊していたら簡単に見つけ出せない」
「では先ほどと同じく、ゴブリンらを捕えて、情報を聞き出しながら進むでござるか?」
「それが良いだろうな。ともかく西を目指すか」
ハムスケに乗って、森深くに俺は進んでいく。途中途中でモンスターや亜人を見かけては、<全種族魅了>で捕まえて尋問し、答え次第では見逃すか殺すかをした。大部分は人間との共存なんぞ知らん、見つけ次第殺すか捕まえて子供の玩具にするなどと答えたので、そいつらは当然のごとく潰した。
逆にそこまで興味もない、リュラリュースや一族の長が命じるのであれば共存も可能だと答えたものは逃がしてやる。
「逃がしても良いのでござるか?」
「構わない。これが村など人間の居住区近くであれば問答無用での抹殺対象だが、このあたりは彼らの居住エリアだ。住み分けが成されているなら、むやみやたらと数を減らさせるのもまずい」
「モモン殿としては、あまり殺したくはないのでござるかな?」
「そうだ。自然を壊しすぎたら、どんなしっぺ返しがくるのか……それに中には、ハムスケのように友好的な個体もいるやもしれん。そういった点を除いても、俺に殺しを楽しむ趣味はない。あくまでも、必要だからやるだけだよ」
「それがしの件を持ち出されると、何も言えないでござるよ。あの場で殺されていたとしても、それがしは文句を言えぬ立場でござるからな……」
ハムスケがなんかしんみりしていた。こいつを仲間に引き入れたのは俺の打算もけっこうあるので、こんな態度を取られるとなんとも言いにくくなる。
それに、俺は人間と共存可能だからと言うだけで見逃しているわけじゃない。恐ろしい人間がいると分かれば、その噂も広がりやたらと人間を襲う個体も減るだろう。もしも自分が襲おうとした人間が、その恐ろしい個体なら返り討ちにあって自分が死ぬのだ。あまり俺のことを知られるのは得策ではないが、モモンの名が抑止力にかわってくれることを期待している。
それにこの一件を恨んで復讐しに来る可能性も考慮済みだ。それ対策として、見逃した個体には念のために余っていた26レベルの非実体アンデッドを見張りとしてつけてある。逃げた亜人やらは必ず住処に帰るので、不穏な動きをすれば見張りはすぐに突撃部隊へと変わり、家凸する手はずだ。
言ってしまえば首輪をつけた状態。いつでも始末できるように安全マージンを取ったうえで、正解だと思われる選択肢を選んでいる。
「リュラリュースだが、この時間帯はこの辺の川にいる可能性が高いみたいだな。方角としては……ええと……こっちだな」
方位磁石と地図を見比べて、俺はハムスケに行く方向を示す。探索魔法を使えばもっと楽に探し出せるのだが、ハムスケにすら身体能力以外のモモンガパワーは伏せているので見せるわけにはいかない。700を超える魔法と数多のスキルは切り札だ。そうそう見せていいものではない。
それにこうやって今のうちから、魔法に頼らない探し方も学んでおいた方がいい。それがなんであれ、知識は武器になり力となる。知ると知らないの間には隔絶した差が存在する。学ぶ機会を捨てるなど、それは愚者の行為に他ならない。
逐一向かう方向を修正し、ハムスケと共に行動すること三時間。日が出る前に出発したのに、太陽はすでに真上まで来ていた。
「そろそろのはずだ。相手に動きを気取られて、逃げられても面倒くさい。ハムスケはここで待機していてくれ。俺が先行し、在宅かどうかを確認してくる」
「モモン殿おひとりで大丈夫でござるか?」
「むしろ一人の方がいいな。お前の体はでかい分目立つ」
「たしかに見つからないように進むのであれば、それがしには不得意な分野でござるからな。あい承知したでござるよ。見つからぬよう、その辺の穴倉にお邪魔しておくでござる!」
そういうや否や、近くにあった洞穴に潜っていった。穴の中には先住民がいたのか、何やら怒号が聞こえてくる。
「少しの間だけでも良いので、ここを貸してほしいでござるよ」
「くぁwせdrftgyふじこlp!!!!! けおおおおおおおおお!!!!」
ハムスケの交渉の声を掻き消して、穴からは言葉にならない言葉が漏れ出ていた。しかし20秒も経ったら、その怒声は悲鳴に代わり静かになった。
「……交渉決裂か。森の中は過酷だな」
法も何もない場所なので、頼れるのは己の力だけ。生存競争とはかくも厳しいものかと思いながら、俺は穴から離れて誰も見ていないことを確認する。
「<完全不可知化>」
姿を消したら目的の方向へ。しばらく走ると森が開け、幾つかの簡易的なログハウスが建っていた。ここがリュラリュースの住処らしく、同族であるナーガと共に暮らしているのだとか。
建ち並ぶログハウスは住人にあわせたのかかなり大きい。俺はその中でも一番立派なやつを選び近づいてみる。
そこにいたのは、下半身は蛇で上半身が老人のナーガだった。見たところ聞いていた風貌と合致し、存在感もハムスケに匹敵する。
(こいつがリュラリュースか。ここまで近づいても気づかないとは、こちらが見えてないか?)
ナーガは感知能力を持つので、場合によっては<完全不可知化>を見破れるかもと考えていた。けれどそれは杞憂なようで、素振りを見る限り演技の様子もない。
まぁ、想定通りではある。ハムスケと並んで三大なのであれば、あいつを実力では超えていないはず。一応警戒はしていたが、ちょっとだけ警戒レベルを下げる。念のために、目の前に立って変顔をしておいた。これで実は見えているなら演技が崩れるはずだが、何の反応もない。うんうん唸りながら何かを考えているだけだ。
その様子を確認してから、俺は<上位転移>でハムスケの近くまで戻り<完全不可知化>を解除して
「ハムスケ。出てきていいぞ」
「早かったでござるな。目的の御仁はいたでござる?」
「いた。それっぽいやつがな。とはいえ、まだ確証があるわけじゃない。確かめるためにも、ハムスケは単独で集落に突っ込んでくれないか? 俺は裏手から回って、向こうの出方を探る」
「それがしは陽動役をすればよいのでござるな」
「その通りだ。ただ気を付けてほしいのは、今回殺しは無しだ。向こうの対応次第になるが、交渉次第ではこちらの傘下に下ってもらう。その時、あまり恨みを買うような真似はしたくない」
あくまでも、まずは交渉からだ。向こうにとっても有利な旨味をちらつかせ、お互いにWINWINな契約を結ばせる。
「しかし交渉が決裂するかもしれないでござらんか」
「正直、そっちの方が可能性は高いな。こっちは人間の子供だ。侮られる可能性の方が高く、場合によっては殺してもいいと殴られるかもしれん……そこでだ。その時のための策もある」
俺は今回実行する策をハムスケに伝える。それを聞いたハムスケは
「モモン殿は真正面からでも強いのに、そう言う狡賢い点が怖いでござるよ」
「狡賢い言うな。確実に勝てるよう、戦術を練ってると言え」
お互い軽口を交わしてから分かれる。ハムスケは集落に真正面から、俺は裏側に回って機を伺う。
「ここが西の魔蛇の城でござるな! それがしは南の大魔獣ハムスケ! それがしの留守の間に、縄張りを勝手に巡って東の巨人と争っていると噂を聞いたでござるよ!! それがしの土地を狙い、我が物顔で練り歩こうとするは噴飯もの!! 申し開きがあるなら言って見ろでござる!!」
暫く待っていたら、ハムスケの大音声が聞こえて来た。その声と同時に、俺も集落のバリケードを乗り越えて侵入する。目指すはリュラリュースのところだ。
普通なら誰かに見咎められるかもしれないが、ハムスケの声が注目を集めているのかこちらに視線は向かない。どのナーガも、なんだなんだと正面入り口の方に聞き耳を立てていた。
俺は<完全不可知化>も使わずに、推定リュラリュースのところにたどり着く。そこでは何やらざわざわと会議のようなものが開かれていた。
「どうしますかリュラリュース様。南の大魔獣を名乗るモンスターが、集落入口で待ち構えていますが」
「どうもこうもな……なぜ今更になって、あの大魔獣は帰って来た? むむむ。あやつの支配地域をグのやつが狙っていなければ進軍せずともすんだものを、あの馬鹿のせいで」
「リュラリュース様?」
「仕方がない。大魔獣当人かどうかはさておき、わしらの集落に単身乗り込んできたのじゃ。これを無傷で返しては、グのやつがますます調子に乗ってしまうじゃろう。わしらの威信を保つためにも、この場で大魔獣を討つ」
「本気ですか! 本当にあの大魔獣であれば、尋常ではない被害が出ますよ!?」
「乗り込まれた時点で、争わぬ道などないじゃろ。幸い、今日は戦士も全員揃っているじゃろ。わしとおぬしらであの魔獣を村の中に誘い込み、飽和攻撃で削って殺し切る。むろん被害は避けられぬじゃろうが、ここであやつを殺し切れれば、グに付いた連中をこちらの味方に引き入れられる。決して損ばかりではない」
「わ、分かりました! いますぐ、全員に伝えてきます」
「大魔獣にも伝えよ。村の中心まで話があるから来いと。罠に誘い込んでくれるわ」
ほう? 真正面からは戦わず、話をする振りをして自軍のキリングフィールドに引きずり込む気か。存外馬鹿ではないみたいだ。もっとも、ハムスケが一人だと考えているのは減点だがな。
俺がリュラリュースだと思っていたのはやはり本人なようで、命令を遂行するために集まっていたナーガらは散っていく。リュラリュース自身も、そろそろ行くかと腰を上げたので
「どこへ行く。お前が向かうべきはハムスケの元ではなく、こちらだぞ」
「なんじゃ! ……人間の小僧じゃと!?」
木で出来た家の影から出て来た俺を見て、リュラリュースは驚いている。気配に気づいていたが知らない振りなのか、それとも本当に気づいていなかったか。
(後者だろうな。知っていたなら、味方をこの場から外させるのは愚策だ)
俺は近くまで寄る。こうして近づくとかなりデカい。顔のサイズだけでも俺の上半身ぐらいあり、腕が村で一番身長が高い男性よりも長く見える。向こうは俺を見下ろしながら
「小僧、貴様はなんじゃ?」
「俺か? 俺はハムスケの仲間だ」
「ハムスケとは、先ほど南の大魔獣が名乗った名前じゃな。なるほど、あやつ長い間不在だったのは、人間を支配しに行っておったからか」
「まぁ、そんなところだ」
「年端もいかぬ小僧が何の用じゃ。大魔獣の手下なぞ、今すぐ殺しても良いのじゃぞ?」
なるほど、こいつの中では俺はハムスケの手下なのか。たしかに他人から見たらそうなるのか。アインザックさん達の認識でも、俺は飼い主や仲間と言うより、森の賢王に鍛えられている才能あふれる子供だ。そういう意味では手下でもいいのか?
「殺されたら話が出来ないから困るな」
「なに? お前のような小僧から聞く話など」
「いいから聞け。お前がハムスケの支配していた南を押さえようとしているのは、道中のゴブリンらから聞いた。俺とハムスケは、お前がハムスケの元土地を手に入れるのを黙認するつもりだ」
「なんじゃと! どう言う意味じゃ!!?」
「ハムスケはもう、大森林にあまり戻るつもりはない。それよりも、森が荒れてモンスターや亜人が浮足立ち、森の外に住む人間に害が及ぶのを危惧している。それらを抑えるためにも、お前がこの森を支配しろ。統制をとり、この地に平穏を齎して欲しいんだ」
俺の言葉に怪訝そうな顔を浮かべていたが
「なるほどのう。せっかく支配した人間が、むやみに数を減らすのを嫌ったか」
「その認識で問題ない。ともかく、俺とハムスケはお前をこの森全体の王として推薦する。東の巨人、グを葬る手伝いをしてもいい。その見返りに、モンスター共をお前が支配し、外の人間を襲わせるな。それを約束してくれるならば、一時的にだがお前の味方となろう」
これがこちらからの要望だ。今回の紛争を終結させる代わりに、外への被害を減らすよう努力するのなら王の座に就けるよう補助をする。キングメイカー作戦だ。それらを聞いて、リュラリュースは考え込んでいる。三大と言う事は、こいつとグは同格。このまま戦っても、いたずらに戦力を消耗していくだけ。だが、同じ三大のハムスケが味方になるならば一気に戦況は傾く。けっして悪い話ではない筈だ。
指を手にあてて考え込んでいたナーガだが
「筋は通っておる。じゃが、その計画には穴があるの。南の大魔獣を味方にしたとて、グを葬れる算段はつかん。あやつは馬鹿じゃが、肉体の素晴らしさは三大の中でも別格じゃよ。それにグを葬った後、わしを切り捨てる腹積もりではあるまいな? わしを王にすると言いながら、グとの闘いで疲弊したところを狙われたらたまらん」
「ほう?」
存外頭が回る。最初から中々良いとは思っていたが、俺はますますこいつが気に入って来た。こいつが言うところのグとやらが愚かだとするなら、やはり統治者にすべきはこっちだ。
「たしかにその可能性を捨てきれないか。しかし疲弊するのはこちらの可能性もあるぞ? その時は、漁夫の利を得るのはそちらの筈だ……それにグを葬れるかどうかか。先ほどの話だと、グはお前より強いのか?」
「強い。あやつに肉体に見合う頭脳があれば、とうの昔にこの森はあやつの手に落ちていた」
「そうか。では、ハムスケよりもか?」
「どうじゃろうのう。腕力などは上じゃろうが、大魔獣は魔法を使えるのじゃろ? それを考慮するのであれば、大体互角ではないか」
「そうか。では、ハムスケより強い俺なら、どうとでもなると言う事だな」
「……なに?」
ハムスケより強い。それを聞いて最初はポカンとしていたリュラリュースだが、理解したのか嗤い出す。この小さな人間は、何を言っているのじゃと爆笑していた。
「小僧! お前のような幼い子供が、大魔獣より強いじゃと! これは哂わせおるわ!! ははははは!!」
その嗤いに俺はほくそ笑む。なるほど、初見から見れば俺はたったの9歳のガキだ。どこにでもいそうなガキ。ちょっと喋り方が尊大ではあるが、自分が強いと思い上がった世間知らずのガキ。それはもうおかしいだろう。俺もおかしくて笑いそうになる。
はははと同じく笑う俺に、リュラリュースは嗤うのをやめて気味悪そうに眺めて来た。やめろよその視線、なんか俺が変人奇人になったみたいだろ。
「疑うのも無理はない。では試してみるか? これから組もうとする相手なんだ。組むに値するかどうか、その眼で確かめてみたらどうだ?」