カヨコ「……。」(気さくな挨拶) っていうポストを見た瞬間に溢れた妄想   作:KNa\

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吐き出し始めたのが7月7日、吐き出し終えたのが7月23日。

これは7月21日までのやつ。


次ので最後。


第3話

確か私が名乗ったのは。

 

 

そうだ、私の名前を伝えたのは、3度、4度と飛ばして5度目に話した時だった。

 

出会って話す時は決まって夜中で、人気の少ない猫スポットだったから、話す時は私と彼女の2人とその場の猫達しかいなかった。だからまぁ、名前を知らなくても、どっちかが呼びかければ話は通じていた。

 

 

でも、別に教えなくても良かったから言わなかった、という訳じゃない。

 

 

私が名前を教えなかったのは、怖かったからだ。カヨコさんが、ではなく、彼女の所属。便利屋68が怖かった。

 

 

 

……彼女の名前を聞いた翌日の事。私は彼女の名前に引っ掛かりを覚えていた。

 

 

「なんか、聞き覚えがある……?」

 

 

会ったこと……はあるかも知れないが、少なくともコンビニ路地裏(夜)の場所より前に話した事は無い、はず。なのになぜだか知っている気がして、私は少し調べて見る事にした。

 

 

「お、に、か、た、か、よ、こ……っと、出てくるかな……?」

 

 

ネット検索をして最初に見つけたのは、とある企業の名前だった。

 

 

「便利屋……ろくはち?何でも屋さん?」

 

 

気になってクリックしてみると、どうやら読み方は便利屋シックスティーエイト、と読むらしい。その中には、依頼の連絡先と社員名が書かれていた。規模は4人の小さな会社。その中の課長の欄に彼女の名前が書かれている。

 

 

「えぇっと、どんな依頼もお任せ下さい。米印、料金は要相談……?」

 

 

サイトは結構シンプルで、その他の情報はあまり無かった。便利屋68の名前には覚えがないが、他の社員の人の名前も少し知ってるような気がする。

 

 

「うーん……?便利屋ってことは、お仕事の評判とか聞いた事あったのかな?」

 

 

私は便利屋68のサイトを離れ、キーワードを元に掲示板サイトなどを調べてみる。便利屋68のワードでヒットした板は結構あって、その中の1つが目についた。

 

 

「危険・要注意板?」

 

 

そこには真偽不明の情報が沢山乗っていた。学区支配を目論む企業。亡霊の潜む地下。過去の危険ない兵器の話。ご飯屋さんを爆破するテロリストとか、本当に色々……そしてその中に、便利屋の話も見つけてしまった。

 

 

「武装グループ潰し、建造物爆破に、要人拉致……!?」

 

 

……いやいやいや。うん、無い無い、有り得ない。

 

 

私はすぐにその情報を否定する。いくらなんでも考えられないからだ。

 

 

……だって、本当なら少なすぎる。たった4人で起こすような事じゃない。もしもこんな事をするのなら、それこそ何とかヘルメット団とか、そのくらいの人数がいるはずだ。

 

 

私はそうやって否定するために、もう一度改めて書き込みを見直してみるが……多い、便利屋に対する書き込みが。

 

 

中でも爆破と戦闘の様子の書き込みが、特に目につく。文章の癖をいちいち変えている訳じゃないなら、少なくとも10人近くの人が便利屋について書き込んでいる。

 

 

「伊草さん?の名前が多いけど、戦闘とか、交渉の所でカヨコさんのも結構ある……大体脅されたとか、何もしてないのに威圧されるとかだけど」

 

 

……勘違いが多いと思うけど、彼女に本気で睨まれたら、戦闘中でも逃げたくなる気も分からなくは無い。

 

 

「話してみたら、優しいんだけど」

 

 

そう、彼女は優しいのだ。知り合い未満の私相手にも、手ずから手当をしてくれるくらいには。それが分かっているから、彼女のことは怖くない。

 

 

「でも、他の人は……」

 

 

私は他の人のことは知らない。勿論、カヨコさんのように勘違いの可能性もあるけど。

 

 

「爆発物を多用したり、死んでくれって言いながら特攻したり、悪を誇るようなアウトロー発言に指名手配……これは見間違えとかじゃないよね」

 

 

こういう掲示板を鵜呑みにする訳では無いけど、少なくともそう思われる行為はしているのかもしない。彼女個人とは、猫仲間でいたいと思う……でも、裏社会との繋がりのある相手に、踏み込みすぎるのは怖い。

 

 

カヨコさんが優しい人なのは間違いない。猫好きだから一緒にお話はしたい、でも繋がりが深くなるのは怖い。……臆病な私は、彼女と深く関わることを恐れていた。

 

 

だから私は、次に彼女と出会って話した時も、その次に出会って話をした時も。

 

 

彼女に名前を名乗ることはしなかった。

 

 

「……あれ、いつの間にこんなとこまで」

 

 

はっ、として足を止めた。帰り道方向の猫マップを歩いてたのに、猫と会える場所をいくつもスルーして進んでいたらしい。うーん、と少し考えるが、多分このまま次の場所に向かっても同じ事な気がする。

 

 

「一旦、帰ろうかな」

 

 

残り少ない帰りの道を、寄り道はせずに真っ直ぐ進む。頭の中では振り返ってばっかりだけど。

 

 

あの頃は……と言うほど前じゃないけど、私が彼女に名乗れたのは、今から2週間くらい前の事。ビビリな私は、その日の夜も、結局名乗る勇気は出なくって、猫の話をしてそのまま帰るつもりだった。

 

・・・

 

 

その日もいつものように日没後の人通りの少ない猫スポットで、私は彼女と話していた。猫が居なくなった後は、また話しましょうと、そう言って別れるだけのはずだった。実際私も彼女も荷物を確認し直していたし、それが終わったら解散する流れになっている中、ふと彼女がこう言った。

 

 

「……そういえばこの前、東区通りの路地にいたりした?」

 

「え?あぁ、はい。散歩してたら新しい猫さんに会いまして……話しかけてくれても良かったんですよ?」

 

 

少し考えて、数日前の昼間に散歩していた時の事だと思い当たった。日中に話したことは無かったから、見てたなら声をかけてくれないかな、とそう言ってみる。……彼女には「まぁ、気が向いたらね」と流されてしまったけど。

 

 

「次会ったら気が向いて欲しいです……そう言えば、なんでそれを?あの猫さんに何かありました?」

 

「あー……ごめん、言いたいことはそっちじゃないんだ」

 

 

そっちじゃない、とはどういう事だろう?私がそう首を傾げていると、彼女が続けて口を開く。

 

 

「……端的に言うと、しばらくその路地には近寄らない方が良い、っていう忠告」

 

「……なんでですか?」

 

 

私はそう聞き返した。忠告と言われても、理由がわからない。彼女も私が納得していないのは分かったようで、説明を続ける。

 

 

「あー……スケバンと、ヘルメット団って知ってる?」

 

「まぁ、はい、不良グループのですよね?」

 

「うん、合ってる……それで、最近その辺まで勢力を伸ばしてきたヘルメット団が、元々その地域にいたスケバングループとぶつかりそうなんだよね」

 

「そ、それは確かに危ないですね……!」

 

 

そこまで聞いてようやくわかった。近々その辺りで戦闘が起きるかもしれないから、危険って事だ。私は戦闘は得意じゃない。不良の抗争に巻き込まれたら、逃げきれないどころか、下手をしたら大怪我をしてしまうだろう。

 

 

あそこも普通に散歩コースに組み込むつもりだったので、教えて貰って無ければ危ないところだった……あれ?

 

 

「分かってくれたなら良かったよ、知り合いに怪我されるのは──」

 

 

私は彼女の言葉に割り込んだ。

 

 

「あの、抗争の範囲は……?住んでる野良の子達は、どうなりますか?」

 

「……まぁ、貴方は気になるよね」

 

 

予想通りとばかりにそう言われる。次いで彼女は言葉を続けた。

 

 

「……一応言っとくけど、行かないでね、私の方で何とかするから」

 

「でも、カヨコさん1人だけじゃ……!」

 

「私も1人でやるつもりは無いよ。協力は頼んでみるつもり。だけど、もうあそこは不良だらけだ。近づくなら戦闘は避けられない……」

 

 

途中で彼女は言葉を止めたけど、分かってしまった。私では、力不足だと。それがわかったからら食い下がることは出来なくて、グッと言葉を飲み込む。私は弱くて、戦闘になれば足を引っ張るだけになる。

 

 

それでも私は何か出来ないかと、そう思って、考えて……何も浮かばずに、顔をしかめる。

 

 

「……」

 

 

目を伏せて黙り込んだ私を、彼女はじっと見つめている。

 

 

「……一つ、いい?」

 

 

下を向いたままの私に、彼女が問いかける。

 

 

「……なんですか?」

 

 

空気の音にも掻き消されそうな程小さく。小さく、私は声を出す。静寂の中、その後の彼女の声はよく通った。

 

 

「貴方にも、協力して欲しいことがある」

 

 

思ってもみなかった言葉をかけられて、ゆっくり顔を上げる。

 

 

彼女の両の瞳の赤は、まっすぐ私を見つめていた。

 

 

「協力……でも、私は弱いから……」

 

 

絞り出すように声を出す。

 

 

「なにも、現地で動くことだけが協力じゃない……貴方にしか頼めない事があるの」

 

 

彼女から向けられた視線にも、声にも、嘘はなかった。ただ真っ直ぐ、私へ頼み事をしたいと、そう伝えてきている。

 

 

私は呼吸を整えて、聞いた。

 

 

「……私に、何ができますか?」

 

「猫は助ける、猫以外の野良動物も当然避難させる……でも、その為には情報が足りない……だから、貴方の経験と知恵を私達に貸して欲しい」

 

 

彼女に言われてようやく、私は求められているモノが何かを理解する。

 

 

「……なるほど、つまりその地区の猫マップですね?」

 

 

こくりと、彼女が縦に首を振った。

 

 

「……協力、してもらえる?」

 

 

彼女は再び、やっぱり真っ直ぐ目を合わせながら問いかける。私はすっと背筋を伸ばし、真っ直ぐに彼女の目を見返して答えた。

 

 

「勿論です……私も、役に立たせて下さい……!」

 

「ありがとう……力、貸してもらうね」

 

 

ありがとうは、私の方だよカヨコさん。口に出すのは恥ずかしいから、心の中でそう呟いた。

 

 

……既に彼女は地図を用意していたらしく、その場で私が猫マップの情報を書き込むことができた。書き込んでいる間に協力者について聞いてみると、便利屋の皆の他に、シャーレの先生にも協力が取り付けられそう、とのことだった……凄い人だとは聞いてるけど、先生ってどんな人なんだろう。

 

 

いい機会かもしれないと思って、便利屋について教えてくれないか頼んでみた。最初は少し警戒されたけど、カヨコさんの持ってるイメージで良いからと食さがると、仕方ないな、とばかりに小さくため息をついてから話してくれた。

 

 

他の人には言わないように、との事だったので、細かくは思い出さないことにする。

 

 

マップに書き込みながら、カヨコさんから話を聞く。たまに認識の照らし合わせをして、更に書き込む……そんなことを繰り返したマップには、どんどん細かな情報が増えていった。

 

 

その頃には私の便利屋への偏見もすっかり消えて、カヨコさんがどれほど便利屋68という居場所を、仲間を、大事に思っているのか理解できた……と思う。

 

 

「凄いですね、便利屋68の人達……」

 

「まぁね、見ていて飽きないよ……うん、本当に」

 

 

やれやれ、なんてため息をつきながらも、彼女の表情に険しさや憤りは、微塵も浮かんでいなかった。

 

 

書いて話して、確認して。ようやくマップは完成した。書き込む前の地図と見比べると、情報量は3倍近く違う……けどその殆どが猫のいる位置とか、会える時間帯とか、繋がってる道とか、そんな猫と会うための情報ばっかりだ。

 

 

「うーん……私の趣味でしかない情報ですけど、役に立ちますかね……?」

 

「いや、すごい有益だよコレ。誇張無しに……抜け道とか、こんなにあるんだ」

 

「そ、そうですか……なら良かったです」

 

 

私はほぅ、と安堵の息を吐いた。彼女の顔は真剣そのもの。慰めや誤魔化しの意思は無さそうで、私は役に立てたのだと信じられる。先程まで感じていた無力感は、胸の内からはすっかり消えていた。

 

 

彼女は書き込んだ地図をスマホで撮った後、丁寧に折りたたんでリュックへ仕舞った。

 

 

「……うん、じゃあ、私はコレ持って帰るから」

 

「は、はい……あの、ありがとうございました、カヨコさん」

 

「……協力して貰ってるのは、私の方なんだけど」

 

「だから、です。忠告してくれなかったら、私はイザコザ巻き込まれてたでしょうし。頼ってくれなければ、私は何も知らないまま……何も出来なかったと思うので」

 

 

たとっ、と彼女を正面に見すえる位置に立って。

 

 

「だから、教えてくれてありがとうございます。カヨコさん」

 

 

私は深く頭を下げた。

 

 

「そ、それじゃあ私帰ります!結構話し込んじゃったし……その……カヨコさん達も、気をつけてくださいね!」

 

 

なんだか気恥しくなって、私はそそくさと歩き出して。

 

 

「……あー、もう一つ聞いていい?」

 

 

後ろから、彼女に呼び止められる。

 

 

 

「え、はい?まだ何かありましたか?」

 

 

確認漏れでもあったのかと、慌てて彼女の方を向いた。

 

 

「名前」

 

「……なまえ?」

 

「うん、貴方の名前、聞いてもいいかな。ずっとアナタじゃ、素っ気ないし」

 

 

それは、と、一瞬躊躇いそうになった。私が名乗らなかった理由が、すっと脳裏に過って。その理由が、便利屋という未知への恐れが。

 

 

面倒そうに、仕方なさそうに、放っておけなそうに……そして楽しそうに笑みを零して話す、カヨコさんの表情に上書きされて、消えた。

 

 

 

「……はい、勿論ですよ、カヨコさん」

 

 

もう怖くない。

 

 

「私の名前は───」

 

 

だから私は、自分の名前を彼女に名乗って。

 

 

それを聞いた彼女が、少しだけ目の端を下げたのを見た。

 

 

その後は特に何も無い。いつも通り私が「また話しましょうねカヨコさん」と、別れを投げて、お互いに家へ帰っただけだ。

 

 

あぁ、でも。

 

 

別れ際の彼女の返す「じゃあ、またね」の言葉の後ろに。私の名前がくっついてたのは……やっぱりとても嬉しかった。

 

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