ユニークスキルのせいでハーレムを作る事が確定した哀れな中年冒険者が挑む現代ダンジョン配信物   作:パラレル・ゲーマー

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第15話 ピザと、計画と、不埒なタコ

 西新宿の空を貫くかのようなタワーマンションの最上階。

 その広大なリビングの、床から天井まで続く巨大な窓からは、宝石箱をひっくり返したかのような東京の夜景が一望できた。

 だが、そのあまりにも美しい光の海は、今の佐藤健司(35)の瞳には届いていなかった。

 彼の視線の先にあるのは、イタリア製の高級ガラスローテーブルの上に無造作に置かれた、三つの巨大なピザの箱と、その周りで姦しくおしゃべりを続ける二人の女子高生、そしてその中心でふわふわと浮遊する一体のピンク色のタコだけだった。

 

「いやー、やっぱピザはクワトロフォルマッジっしょ!この、チーズとはちみつの甘じょっぱい感じが、マジ神!」

 星野輝は、その口の周りをソースで汚しながら、至福の表情で叫んだ。

「うん、おいしいね!でも、私はこっちのテリヤキチキンも好きかな」

 天野陽奈は、その隣で、上品に、しかしどこまでも嬉しそうに、ピザを頬張っている。

 

(…なんで、こうなった)

 

 佐藤は、心の底から後悔していた。

 数時間前まで、彼の人生は、彼の完璧な管理下にあったはずだ。

 だが、今や彼の城であり、聖域であったはずのこの部屋は、二人の女子高生と一匹のARマスコットによって、完全に占拠されていた。

 彼は、自室のゲーミングチェアに深く身を沈め、そのあまりにも平和で、そしてどこまでも彼の理解を超えた光景を、ただ呆然と眺めていた。

 まるで、自分が主人公ではない、どこか遠い世界のホームコメディドラマを、見せられているかのような、奇妙な感覚。

 だが、彼は課長だった。

 中間管理職だった。

 プロジェクトが、一度動き出してしまったのなら。

 それを、ただ放置しておくことは、彼の性分が許さなかった。

 彼は、その重い口を開いた。

 

「…おい、お前ら。少し、いいか」

 彼の、その低い、そしてどこまでも仕事モードの声。

 それに、二人の少女が、きょとんとした顔でこちらを向いた。

「今後の、活動方針についてだ」

 佐藤は、そう言って、ARウィンドウを空間に投影した。そこには、彼が先ほど即席で作成した、一つのスケジュール表が表示されていた。

「まず、大前提として。日中は、俺は仕事があるから、探索者活動は無理だぞ。やるなら、お前らだけでやれ」

 その、あまりにも当然な、そしてどこまでも社会人としての現実。

 それに、輝はつまらなそうに鼻を鳴らした。

「ちぇー。健司さんがいないと、あたしたちのスキル、元のしょぼい性能に戻っちゃうのに」

「しょうがねえだろ。俺にも、生活があるんだよ」

 佐藤は、きっぱりと言い切った。

「**でも、お前らも午前中は講義があるんだろ?**まさかとは思うが、サボるなよ」

 彼の、そのまるで父親のような小言。

 それに、輝は頬をぷくりと膨らませた。

「えー。一応、任意だから、出なくても良いけどなぁ」

「ダメですよ!」

 その言葉を、遮ったのは陽奈だった。

 彼女は、その大きな瞳に、真剣な光を宿して言った。

「**勉強は、しないと!**石川先生の授業、すごく面白いですし!私、もっとこの世界のことを、知りたいです!」

 その、あまりにも優等生な、そしてどこまでも真っ直ぐな言葉。

 それに、輝は呆れたように肩をすくめた。

「…はいはい。真面目ちゃんだこと」

 

 その、あまりにも対照的な二人の反応。

 それに、佐藤は再び深いため息をついた。

(…この二人、本当に同じパーティでやっていけるのか…?)

 彼の、中間管理職としての胃が、キリキリと痛み始める。

 彼は、その痛みをこらえるように、続けた。

 

「…まあ、そういうわけだ。俺は、定時後と言っても、今日は月曜日だし、早く帰れたけど、残業してる時もあるからな。平日は、探索者活動は無理だ」

 彼は、その結論を告げた。

「だから、俺たちが三人で動けるのは、やるなら祝日と、土日だな。お前らも、それで良いよな?」

 その、あまりにも合理的で、そしてどこまでも彼の都合に合わせた提案。

 それに、二人の少女は、顔を見合わせた。

 そして、彼女たちは同時に、最高の笑顔で頷いた。

「「はーい!」」

 

 その、あまりにも元気な返事。

 それに、佐藤は少しだけ、拍子抜けした。

 そして、その彼の決定に、もう一体、同意する者がいた。

 彼の視界の隅で、フロンティア君が、そのピンク色の体を上下に揺らしながら、言った。

「僕も、それには同意するッピ!」

 その、あまりにも唐突な、そしてどこまでも偉そうな一言。

 それに、佐藤は眉をひそめた。

「…あ?なんだよ、お前まで」

「健司!君は、まだこのパーティが抱える、最大のリスクに気づいていないッピ!」

 フロンティア君は、ARウィンドウに、一つの巨大なグラフを映し出した。

 それは、彼らの異常なまでのレベルアップの曲線と、それに対して全く追いついていない、装備の貧弱さを示すグラフだった。

 

「レベルアップが早いのは、いいことだけど、早すぎて装備の更新が、間に合わないッピ!」

 フロンティア君は、熱弁を振るい始めた。

「このままのペースでレベルが上がり続ければ、一週間後には、君たちの防御力は、同レベル帯のモンスターの平均攻撃力を、大きく下回ることになるッピ!死亡リスクが、67.8%も上昇するという、致命的な結果が予測されるッピ!」

 その、あまりにも的確で、そしてどこまでも**まともな(?)**分析。

「だから、君たちは平日の放課後、**日頃から結構なペースでエッセンスファームして、金策しないとダメッピね!**そして、その資金で、常に最新の装備へと更新し続ける。それこそが、この急成長パーティにおける、唯一の生存戦略だッピ!」

 

 その、あまりにも正論で、そしてどこまでも戦略的な事を言うフロンティア君。

 それに、佐藤はただ感心するしかなかった。

(…こいつ、たまに、めちゃくちゃ有能だな…)

 だが、その彼の感心は、次の瞬間、別の感情へと変わることになる。

 

「それより、聞いたわよ」

 輝が、ニヤニヤと、その小悪魔的な笑みを浮かべて、言った。

「陽奈ちゃんから。あんた、ダンジョンで陽奈をいきなり撫でたらしいね。マジ受ける」

「…っ!?」

 佐藤の、心臓が、大きく跳ねた。

 忘れていた。

 いや、忘れようと、必死に努力していた、あの忌々しい記憶。

「それで、絆レベルが上がったんでしょ?」

 輝は、その美しい指を、自らのサイドポニーの髪へと絡ませながら、続けた。

 その瞳には、抗いがたいほどの、挑発の色が宿っていた。

「――私にも、してよ」

 

 その、あまりにも大胆な、そしてどこまでもからかいに満ちた要求。

 それに、佐藤の顔が、カッと熱くなった。

「えー…やだよ」

 彼の口から、心の底からの、拒絶の言葉が漏れた。

 だが、その彼の、あまりにも情けない反応。

 それを、待っていたかのように。

 彼の、もう一つの、そして最大の弱点が、その無垢な瞳で、彼を追い詰めた。

 

「…ずるいです」

 陽奈が、その手に持っていたピザの耳を、テーブルの上に置き、言った。

 その声は、少しだけ、拗ねていた。

「健司さん、星野さんだけずるいです。私も、撫で撫でしてほしいです」

 

 その、あまりにも純粋な、そしてどこまでも破壊力のある、おねだり。

 それに、佐藤はそれ聞いて、深く、深いため息を漏らすことしかできなかった。

 彼の、両側から。

 二人の、あまりにも美しい、しかしどこまでも厄介な少女たちの、期待に満ちた視線が、突き刺さる。

 その、あまりにもシュールで、そしてどこまでも地獄のような光景。

 それを見て、二人は笑う。

 輝は、腹を抱えて。

 陽奈は、くすくすと、楽しそうに。

 

 そして、そのカオスの、まさにその中心で。

 ピンク色のタコが、心底不思議そうに、首を傾げていた。

「? 撫で撫でしたら良いッピ!」

 フロンティア君は、その大きな瞳をぱちくりとさせながら、言った。

「データによれば、複数の女性から同時に好意を寄せられる状況は、男性の幸福度を、平均で42.5%も向上させる、最高のシチュエーションだッピよ?なんで、そんなに嫌そうな顔をするッピか?」

 

 その、あまりにも無邪気で、そしてどこまでも空気が読めない、純粋な疑問。

 それに、佐藤の、最後の理性の糸が、ぷつりと音を立てて、切れた。

 彼は、その全ての魂を込めて、絶叫した。

 その声は、このタワーマンションの、最高レベルの防音結界を、突き破ったかもしれない。

 

「――うるせえええええええええええええええええ!!!!!!!!!」

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