ユニークスキルのせいでハーレムを作る事が確定した哀れな中年冒険者が挑む現代ダンジョン配信物   作:パラレル・ゲーマー

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第46話 引き抜きと、ギルドの絆

 その日の夜、ギルド『アフターファイブ・プロジェクト』の本部…もとい、佐藤健司(35)のタワーマンションのリビングは、これまでにないほどの、穏やかな達成感に満ちていた。

 テーブルの上には、食べ終えたばかりの出前の寿司桶が、その日の戦いの激しさを物語るかのように、無造作に積み上げられている。B級上位ダンジョン【水晶の迷宮】。その、あまりにも難解なパズルと、初見殺しのギミックの数々。彼らは、その全てを、健司の完璧な指揮と、少女たちの規格外なスキルシナジーによって、見事に攻略しきったのだ。

 

「いやー、マジ疲れたけど、美味かったー!」

 星野輝が、その口の周りについた醤油をぺろりと舐めながら、満足げな声を上げた。

「はい…!頭、いっぱい使いましたけど、みんなで謎を解くの、すごく楽しかったです!」

 天野陽奈もまた、その隣で、自分のことのように嬉そうに、感嘆の声を上げていた。

「パズル、面白かったー」

 兎月りんごは、すでに食後のデザートとして、自らのスキルで生成したチョコミント味のアイスを、幸せそうに頬張っていた。

 

 その、あまりにも平和で、そしてどこまでも温かい、祝勝会の光景。

 それに、健司は、その手に持っていた湯呑みを、静かにテーブルの上に置いた。

 彼の心は、これ以上ないほどの、達成感に満ちていた。

 そうだ。

 悪くない。

 この、騒がしく、面倒くさく、そしてどこまでも手のかかる日常も。

 悪くないのかもしれない。

 

 彼が、そのあまりにも珍しい、そしてどこまでも穏やかな感傷に浸っていた、まさにその時だった。

 ピロリン♪

 静寂を切り裂くかのように、輝のスマートフォンが、軽快な、しかしどこか荘厳な通知音を鳴らした。

 それは、ギルドのトップランカーだけが設定を許されるという、最高レベルの機密通信の着信音だった。

 

「ん?」

 輝は、その音に、不思議そうに首を傾げた。

 彼女は、そのARウィンドウを開くと、そこに表示されたメッセージの差出人を見て、その大きな瞳を、これ以上ないほど、ぱちくりとさせた。

 

「…は?」

 

 彼女の、その素っ頓狂な声。

 それに、健司と、陽奈と、りんごの視線が、一斉に彼女へと注がれる。

 輝は、そのメッセージを、信じられないというように、何度も、何度も読み返している。

 そして、数秒後。

 彼女の、その美しい顔が、これまでにないほどの、満面の、そしてどこまでも純粋な歓喜の笑みに、輝いた。

 それは、もはやただの笑顔ではない。

 自らの価値が、世界の全てに認められたことを確信した、絶対的な勝利者の、それだった。

 

 彼女は、その場でソファの上に立ち上がった。

 そして、そのARウィンドウを、まるでトロフィーでも掲げるかのように、高々と、三人の目の前に、突きつけた。

 その声は、震えていた。

 だが、それは恐怖からではない。

 抑えきれない、歓喜からだった。

 

「――ほらほら見てよ、あんたたち!凄いでしょー!」

 

 その、あまりにも唐突な、そしてどこまでも自慢げな一言。

 それに、健司たちは、ただ呆然と、そのARウィンドウに表示された、あまりにも非現実的なテキストを、見つめることしかできなかった。

 そこに表示されていたのは、一つの、あまりにも丁寧で、そしてどこまでも暴力的なまでの、「愛」の告白だった。

 

『親愛なる、星野輝様』

『我々は、アメリカ合衆国に本拠を置く、ギルド【スターリング・イーグルス】と申します。先日の、貴女の『ルーキー・グランプリ』での、あまりにも鮮烈なご活躍、そしてその後のB級ダンジョンでの目覚ましいご成長、我々は深い感銘と共に、拝見しておりました』

『つきましては、単刀直入に申し上げます。我々と、共に世界の頂点を目指しませんか?』

『我々は、貴女を、我々のギルドの、次代のエースとして、お迎えする準備があります』

『契約金として、まず50億円を。そして、貴女専用の、最新鋭のユニーク装備一式を、ご用意いたします』

『もちろん、貴女の活動を全面的にバックアップするための、専属のサポートチームも編成いたします。食事、住居、そしてプライベートジェット。貴女が望むものは、全て、我々がご用意いたします』

『どうか、ご一考ください。我々は、貴女からの、良きお返事を、心よりお待ちしております』

 

 静寂。

 数秒間の、絶対的な沈黙。

 その、あまりにも天文学的な、そしてどこまでも甘美な数字と、言葉の奔流。

 それに、陽奈とりんごは、ただその口を半開きにしながら、固まっていた。

 だが、その沈黙を破ったのは、健司の、心の底からの、魂の叫びだった。

 いや、それはもはや叫びではない。

 ただの、呻き声だった。

「…ご、50億…?」

 

 彼の、サラリーマンとしての、そして35年間の人生で培ってきた、全ての金銭感覚が、今、この瞬間、完全に、そして木っ端みじんに、破壊された。

 彼は、その場で頭を抱え、うずくまった。

 そして彼は、その震える声で、その最も聞きたくなかった、そして最も聞かなければならない、最後の問いを、口にした。

 その声は、どこまでも、か細かった。

 

「…おいおい。…出ていくのかよ…?」

 

 その、あまりにも人間的な、そしてどこまでも哀れな、問いかけ。

 それに、輝は、その最高の自慢話を遮られたことに、少しだけ不満そうな顔をした。

 そして彼女は、心底不思議そうに、そしてどこまでも当然のように、答えた。

 その声は、もはやただのギャルではない。

 この、あまりにも面倒くさい、しかしどこか憎めない、最高の「家族」を、心から愛する、一人の少女の、それだった。

 

「えっ?」

 彼女は、その大きな瞳を、ぱちくりとさせた。

「まっさかー!出ていくわけないでしょ!」

 

 その、あまりにもあっさりとした、そしてどこまでも力強い、即答。

 それに、健司は、はっとしたように顔を上げた。

 輝は、その呆れたような、しかしどこまでも温かい目で、その情けないリーダーを見下ろしながら、続けた。

 その声には、絶対的な、そしてどこまでも揺るぎない、絆の色が宿っていた。

 

「あたしが、いなくなったら、誰がこのギルドの会計管理するわけ?ボス一人じゃ、一週間で破産するでしょ」

「それに」と彼女は、悪戯っぽく笑った。

「こんな、面白いおもちゃ(ボス)を手放すわけ、ないじゃん?」

 

 その、あまりにも不遜な、しかしどこまでも愛情のこもった一言。

 それに、健司は、もはや何も言うことはできなかった。

 彼の、その死んだ魚のような目に、ほんの少しだけ、温かい光が宿った。

 そして彼は、その照れ隠しのように、悪態をついた。

 

「…うるせえ」

 

 その、あまりにも不器用な、しかしどこまでも彼らしい、感謝の言葉。

 それに、陽奈とりんごは、顔を見合わせた。

 そして、彼女たちは同時に、最高の笑顔で、その最高のボスへと、言った。

「「「ですよねー!」」」

 

 その、あまりにも温かい、そしてどこまでも騒がしい、笑い声の輪の中で。

 健司は、ただ、その顔を真っ赤にさせながら、俯くことしかできなかった。

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