ユニークスキルのせいでハーレムを作る事が確定した哀れな中年冒険者が挑む現代ダンジョン配信物   作:パラレル・ゲーマー

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第52話 黄昏の港と、神々のカタログ

 盗賊の証 (Mark of the Robber)

 外見:

 片面に鍵とダガーが交差する奇妙な紋様が、もう片面には常に黄昏に染まる港町の風景が刻まれた、古びた銀貨。手に取ると、ひんやりとした感触と共に、遠い潮騒と様々な人々のざわめきが聞こえてくるような、不思議な感覚を覚える。

 

 レアリティ:

 特殊 / フラグメント (Special / Fragment)

 

 種別:

 ポータル生成アイテム / キーアイテム (Portal-generating Item / Key Item)

 

 要求レベル: 46

 

 効果:

 

 この証を街や隠れ家で使用すると、一定時間、異空間【黄昏の港町アジール】へのポータルを生成する。

 

【黄昏の港町アジール】にいる間は、あらゆる言語を理解し、読み書きできるようになる。

 

 このアイテムは、使用すると消費される。

 

 フレーバーテキスト:

 

 価値が分かる者にしか、その扉は見えぬ。

 さあ、黄昏の港で、新たなゲームを始めようか。

 

 

 空間が捻じれるような独特の浮遊感が霧散し、佐藤健司(35)の五感を、全く新しい世界の空気が満たした。ひんやりとしたダンジョンの石の匂いではない。甘い花の香りと、太陽の匂いでもない。潮の香りと、古い石畳の匂い、そして遠くから聞こえてくる陽気な音楽と、人々のざわめきが混じり合った、生命力そのもののような、濃密な空気。

 

「――着いた、か」

 

 健司が呟くと同時に、彼の隣で、そして背後で、三つの異なる歓声が上がった。

 

「わあああああああっ!」

 

 最初に、その喜びを爆発させたのは天野陽奈だった。彼女の大きな瞳は、目の前に広がる光景に、これ以上ないほどキラキラと輝いている。

 空は、常に、夕暮れ時。茜色と、深い藍色が混じり合う、美しいグラデーションを描き、その空には、この世界のそれとは違う、大きさも色も異なる三つの月が、優しい光を投げかけていた。その光に照らされた港町は、まるで中世ヨーロッパの、古い港町をそのまま切り取ってきたかのような、美しい景観を保っていた。濡れた石畳の路地、壁に蔦の絡まるレンガ造りの建物、そして、港に停泊する、巨大な帆船のマストの森。

 

「マジ映えるじゃん!後で、ギルドの宣伝用に、写真撮りまくろ!」

 

 星野輝は、早速その商魂たくましい魂を燃え上がらせ、ARコンタクトレンズの録画機能を起動させている。彼女の隣では、兎月りんごが「おー、なんかすごいねー」と、どこまでもマイペースに、その不思議な世界の空気を味わっていた。

 その、あまりにも無邪気な少女たちの姿。それに、健司は、ふっと、その口元を緩ませた。ここが、世界の最前線。異空間【黄昏の港町アジール】。

 

 彼らが降り立ったポータルの周辺には、無数の探索者たちが、思い思いの時間を過ごしていた。屈強な鎧に身を包んだ戦士たちが、酒場で豪快にジョッキをぶつけ合い、ミステリアスなローブを纏った魔術師たちが、路地裏で静かに情報交換を行っている。肌の色も、話す言葉も、そしてその背中に背負うギルドの紋章も、様々な人種が、そこにはいた。だが、その誰もが、その瞳に確かな「格」を宿していた。B級、A級、そして中にはS級すらも。

 その、あまりにも濃密な空気に、健司は少しだけ、気圧されそうになった。会社で言えば、いきなり本社役員会議に放り込まれた平社員のような気分だった。

 

「健司!陽奈!輝!りんご!ようこそ、アジールへッピ!」

 彼の視界の隅で、ピンク色のタコ…フロンティア君が、ぱあっとその体を輝かせた。

「ここは、レベル46以上の探索者だけが入ることを許された、究極の拠点だッピ!ここでは、世界の理が少しだけ書き換えられていて、全ての言語は、君たちの母国語へと自動的に翻訳されるッピよ!」

「へえ、便利じゃん」と輝が感心したように言う。

「それだけじゃないッピ!」

 フロンティア君は、得意げにその触手の一本を振った。

「アジールには、この世界の、どのレストランよりも美味い飯屋があるッピ!しかも、なんと無料だッピ!」

 

「……………は?」

 何度聞いても、その言葉の響きは健司のサラリーマンとしての魂を揺さぶる。

 無料。

 その、あまりにも甘美で、そしてどこまでも彼の心を鷲掴みにする、魔法の言葉。

 彼の、最後の理性の防壁が、音を立てて崩れ落ちた。

 

「…行くか」

 彼の、そのあまりにもあっけない、そしてどこまでも正直な一言。それに、三人の少女たちは、この日一番の、そしてどこまでも無邪気な歓声を、上げたのだった。

 

 彼らが向かったのは、港の一番奥にある、ひときわ大きな建物だった。年季の入ったオーク材で作られた、三階建ての巨大な酒場。看板には、『彷徨(さすら)える(たましい)停泊所(ていはくじょ)』と、どこか詩的な名前が刻まれている。

 そのギシリと軋む扉を開けると、そこには外の喧騒が嘘のような、温かい光と、活気が満ちていた。高い天井からは、巨大なシャンデリアが吊り下がり、その柔らかな光が、磨き上げられた木の床と、壁に飾られた無数のモンスターの剥製を照らし出している。

 そして、その空間を満たすのは、世界中の言語が入り混じった、陽気な会話と、吟遊詩人が奏でるリュートの、どこか物悲しい音色。

 彼らは、その空気に圧倒されながらも、空いていた一番奥のテーブル席へと、その身を滑り込ませた。

 

「ご注文は、お決まりですか?」

 屈強な、しかし人の良さそうなドワーフの店主が、その編み込まれた髭を揺らしながら尋ねてきた。

「えーっと…」

 健司が、メニュー表を開き、そして絶句した。

 そこに並べられていたのは、彼の常識を、軽く凌駕する料理の数々だった。

【A級海竜(かいりゅう)触手(しょくしゅ)のカルパッチョ・深淵のハーブ添え】

【B級サラマンダーの丸焼き・火山ソースと共に】

【S級グリフォンの卵を使った、究極のオムライス】

 

「…マジかよ」

 健司は、そのあまりにも理不尽なまでの優遇措置に、ただ呆然と呟いた。

「やったー!」

 輝と陽奈と、りんごは、そのメニュー表を、宝の地図でも見るかのように、その瞳をキラキラと輝かせながら、次々と注文を始めた。

 数十分後。

 彼らのテーブルの上には、もはや乗り切らないほどの、神々の領域の料理が、並べられていた。

 健司は、その一口一口を、噛みしめるように味わった。これだ。これこそが、俺が本当に求めていた味だ。

 その、あまりにも穏やかで、そしてどこまでも幸せな時間が、永遠に続くかのように思われた。彼らが、その最高の料理を味わい尽くし、満足げなため息をついていた、その時だった。

 

「――うわー凄いよボス!」

 輝の、その歓喜の絶叫。

 それに、健司は、はっとしたように顔を上げた。

 輝の視線の先。

 酒場の、一番奥の壁。そこに、一つの、あまりにも異質な空間があった。

 そこだけが、まるで美術館の一角のように、柔らかなスポットライトに照らされ、そしてその中央に、四つの、神々しいまでのオーラを放つアーティファクトが、厳重なガラスケースの中に、静かに鎮座していた。

 

「なんだ、あれは…?」

 健司は、その光景に、思わず呟いた。

「あれが、この店の名物だッピ!」

 フロンティア君が、得意げに解説を始めた。

「S級ダンジョンからドロップした、神話級のアーティファクト。その、ショーケースだッピ!持ち主が、自慢と、そして市場価値の調査のために、ここに展示してるんだッピよ!」

 

 その、あまりにも壮大な、そしてどこまでも欲望に満ちた説明。

 それに、四人は、まるで何かに引き寄せられるかのように、そのショーケースの前へと、歩み寄っていった。

 そして、彼らは目撃した。

 この世界の、理そのものを、その掌の上で転がす、神々の、四つの御業を。

 

 最初のショーケースに飾られていたのは、一つの、小さな、しかし世界の何よりも重い、霊薬の小瓶だった。

 

 名前:

 時の揺り戻し、若返りの薬

(ときのゆりもどし、わかがえりのくすり)

(The Ebbing of Time, Potion of Rejuvenation)

 

 レアリティ:

 神話級 (Mythic-tier)

 

 種別:

 霊薬 / アーティファクト (Elixir / Artifact)

 

 効果:

 この霊薬を飲み干した者は、その記憶と人格を完全に維持したまま、肉体の時を正確に10年巻き戻す。

 この霊薬は、世界の理そのものが凝縮した奇跡の産物であり、いかなる魔法や技術をもってしても、その模倣・複製は不可能である。

 

 フレーバーテキスト:

 

 王は金で城を築き、英雄は力で伝説を築いた。

 だが、時はその全てを、無慈悲に砂へと変える。

 彼らは、資産の半分を差し出して、10年を買う。

 彼らが本当に買っているのは若さではない。

 自らの帝国で、もう10年、君臨し続けるための「権利」だ。

 

「すごい…」

 陽奈が、感嘆の声を漏らす。

「これさえあれば、どんなお年寄りも、若返ることができるんですね…」

「いや、違うな」

 健司は、そのあまりにも純粋な感想を、静かに否定した。

「これは、ただの若返り薬じゃねえ。権力者が、その権力を、さらに10年延命させるための、究極のドーピングだ。恐ろしい代物だぜ、これは」

 

 二つ目のショーケース。

 そこに収められていたのは、ただ一滴の、しかしこの世界の全ての悲しみを吸い込んだかのような、どこまでも透き通った、青い雫だった。

 

 名前:

 女神の涙(めがみのなみだ)

(Goddess's Tear)

 

 レアリティ:

 神話級 (Mythic-tier)

 

 種別:

 聖遺物 / 神の雫(しずく) (Holy Relic / Divine Drop)

 

 効果:

 この一滴の雫を飲んだ者は、その肉体を、その者が本来持つべき『宿命』の形へと完全に回帰させる。

 後天的な、あるいは先天的な、あらゆる病魔、呪い、身体の欠損は、その存在を許されず、あたかも「初めからそうであった」かのように、完璧な健康状態へと復元される。

 この一滴は、生命の理そのものが結晶化した至上の奇跡であり、いかなる魔法や技術をもってしても、その模倣・複製は不可能である。

 

 フレーバーテキスト:

 

 王は、富で権力を買った。

 英雄は、力で名声を買った。

 

 では、失われた我が子の命を、誰が買うというのか。

 戦場で失ったはずの、その腕を。

 生まれながらに、その身を蝕む病を。

 

 彼らは、祈る。

 資産の全てを投げ打ってでも、ただ、一度の奇跡を。

 

 彼らが本当に求めているのは、癒やしではない。

 病を知らぬ健やかな朝を、欠けることなき五体で、愛する者と笑い合う。

 その、あり得たはずの『もしも』の世界。

 たった一度の、やり直しの機会だ。

 

 その、あまりにも優しく、そしてどこまでも切ないテキスト。

 それに、陽奈の瞳が、じわりと熱くなった。

「…これさえあれば、どんな病気も、治せるんですね…」

 彼女の、その震える声。

 それに、健司は、ただ黙って、頷くことしかできなかった。

 

 三つ目のショーケース。

 その中にあったのは、全ての光を吸い込むかのような、球形の黒曜石だった。

 

 名前:

 空虚の心核(くうきょのしんかく)

(The Voidheart Core)

 

 レアリティ:

 神話級 (Mythic-tier)

 

 種別:

 アーティファクト / 創世の核 (Artifact / Genesis Core)

 

 効果テキスト:

 術者は、この心核を自らの魂と完全に同調させる(事実上の破壊)ことで、何もない「無」の空間から、自分だけの半永久的な異空間【隠れ家(ハイドアウト)】を一つ、創造することができる。

 創造された空間の環境(天候、時間、風景など)は、術者の精神と記憶を元に、ある程度自由に設計することが可能である。それは、常に美しい夕暮れが続く港町にも、雪が降り積もる静かな森にも、あるいは星々が輝く宇宙空間にもなりうる。

 この隠れ家への出入りは、創造主である術者が完全にコントロールし、許可した者以外が侵入することは、神々ですら不可能とされている。いかなる追跡も、いかなる攻撃も、この絶対的な聖域の前では、その意味を失う。

 ただし、この心核が提供するのは、あくまで『土地』と『法則』のみである。その土地に、どのような建造物を建て、どのような設備(転移装置、クラフト台、倉庫など)を置くかは、全て術者自身の資産と想像力に委ねられる。

 

 フレーバーテキスト:

 

 王は、難攻不落の城壁を求めた。

 賢者は、誰にも邪魔されない書庫を求めた。

 英雄は、戦いの果てに、ただ安らげる寝床を求めた。

 

 だが、彼らが本当に欲していたのは、壁でも、書物でも、寝床でもなかった。

 

 世界の理(ルール)から、完全に切り離された場所。

 他者の視線も、期待も、憎悪も届かない、自分だけの箱庭。

 

 そう、彼らは、神にすら邪魔されない、『孤独』になる権利を、渇望していたのだ。

 

 この石は、それを与える。

 究極のシェルターを。

 そして、自らが神となる、新しい世界の、最初の『一欠片』を。

 

「…これ、楽園諸島の、自分だけの島みたいなものかな?」

 輝の、その的確な指摘。

 それに、健司は頷いた。

「ああ。だが、スケールが違う。これは、ただの島じゃない。一つの、新しい『世界』そのものだ」

 

 そして、最後のショーケース。

 そこに飾られていたのは、白銀と、星空を閉じ込めたかのような黒い水晶で編まれた、古代の腕輪だった。

 

 名前:

 星霜の道標(せいそうのみちしるべ)

(Wayfinder of Aeons)

 

 レアリティ:

 神話級 (Myth-tier)

 

 種別:

 アーティファクト / 腕輪 (Artifact / Bracelet)

 

 効果テキスト:

 この腕輪は、術者が過去に訪れ、その風景と魔素の流れを『記憶』させた、最大10つまでの場所を記録することができる。

 術者は、【ポータル・スクロール】を一枚消費することで、記録された場所のいずれかへと、瞬時に繋がるポータルを開くことができる。この転移は、術者の隠れ家(ハイドアウト)や、ギルドの拠点、あるいはかつて攻略したダンジョンの入り口など、術者が「安全な帰還場所」として認識している地点にのみ有効である。

 ただし、場所を『記憶』させるためには、その地点で数時間以上滞在し、腕輪と自らの魂を同調させる儀式が必要となる。

 また、この転移は、未攻略のダンジョンのボス部屋や、強力な結界が張られた特殊な領域など、世界の理によって『拒絶』された場所へは機能しない。

 これは、ただの移動手段ではない。

 放浪者が、自らの旅路の記憶を刻み込み、いつでもその思い出の場所へと帰還するための、魂の錨(いかり)である。

 

 フレーバーテキスト:

 

 王は、玉座に安寧を見出した。

 賢者は、書庫に真理を見出した。

 

 だが、放浪者は、どこにも安住の地を持たなかった。

 彼らにとって、全ての道は、ただ通り過ぎるためだけのもの。

 全ての出会いは、いずれ訪れる別れのための、序章に過ぎなかった。

 

 この腕輪は、彼らが唯一、振り返ることを許した、過去への道標。

 

 闘技場の血と砂の匂い。

 氷の洞窟の、絶対零度の静寂。

 そして、遠い北の大地で見た、百万ドルの夜景。

 

 彼らは、気づいていたのだ。

 真の故郷とは、場所ではない。

 忘れ得ぬ風景と、そこに残した温かい記憶、その全てが、この腕輪に宿る魂そのものであるということを。

 

 その、あまりにも壮大で、そしてどこまでも美しい、四つの神々の遺産。

 それに、三人の少女たちは、ただ言葉を失い、その輝きに、心を奪われていた。

「うわー凄いよボス!」

 輝の、その歓喜の絶叫。

 それに、健司は、ようやく我に返った。

 そして彼は、そのサラリーマンとしての、そしてこのギルドの唯一の会計担当としての魂で、その最も重要な、そして最も聞きたくなかった問いを、口にした。

「これ、いくらするんだ?」

 

 その、あまりにも現実的な問いかけ。

 それに、輝は、そのARウィンドウで、SeekerNetの非公式な相場情報を、瞬時に検索した。

 そして、彼女は、その震える声で、答えた。

「…うーん、一個でも国家予算を軽く超えるみたいだから…全部合わせたら、100兆円…とか、そういうレベルかな…もう、よく分かんないや」

 

 その、あまりにも暴力的で、そしてどこまでも曖昧な数字。

 それに、健司は、その場で、くらくらとめまいを感じた。

「おいおい、100兆円の物が、こんな酒場にあっていいのか?」

 彼の、そのあまりにも真っ当な、そしてどこまでも庶民的な心配。

 それに、輝は、あっけらかんと、そしてどこまでもこの世界の理を知り尽くした顔で、答えた。

「いやー、特殊なショーケースだから平気みたいだよ。世界の理でロックされてるらしいし」

 

 その、あまりにも無慈悲な、そしてどこまでも絶対的な、真実。

 それに、健司はもはや、何も言うことはできなかった。

 彼は、ただ、そのあまりにも巨大な世界の理と、そして自らの、あまりにも矮小な存在を前にして、静かに、そして深く、ため息を吐くことしか、できなかった。

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