ユニークスキルのせいでハーレムを作る事が確定した哀れな中年冒険者が挑む現代ダンジョン配信物 作:パラレル・ゲーマー
土曜日の夜。
新宿の夜景を一望する、超高層ビルの48階。その一角に、その店はあった。完全個室の、最高級焼肉店。磨き上げられた黒檀のテーブル、柔らかな間接照明に照らされた落ち着いた内装、そして窓の外に広がる宝石箱のような光の海。その、あまりにも場違いな空間で、ギルド『アフターファイブ・プロジェクト』の、記念すべき第一回「経営戦略会議」は、厳かに(そして、どこまでも騒がしく)執り行われていた。
「――というわけで、ボス!」
星野輝が、ARウィンドウに映し出した完璧なパワポ資料を指し示しながら、そのサイドポニーを揺らした。
「陽奈ちゃんの、MPスタック型ビルドを完成させるためのキーアイテム、【アッツィリの奇癖】。これが、今夜、ギルドの公式オークションに出品される!これは、あたしたちギルドにとって、最初の、そして最大の『投資』案件だよ!」
彼女の、そのあまりにも嬉しそうな、そしてどこまでも商魂たくましいプレゼンテーション。それに、佐藤健司(35)は深く、そして重い息を吐いた。彼の目の前のスプレッドシートにも、同じ情報が表示されている。確かに、陽奈の戦力が飛躍的に向上することは間違いない。だが、その隣に表示された、予想落札価格の数字。その、あまりにも暴力的なゼロの羅列が、彼の、中間管理職としての魂を、静かに、しかし確実に蝕んでいた。
「…分かっている」
健司は、その低い声で言った。
「だが、リスクが高すぎる。我々のギルドの、全資産を賭けることになるんだぞ」
「だから、良いんじゃん!」
輝は、そのあまりにも真っ当な正論を、さらに大きな正論で、叩き潰した。
「ハイリスク・ハイリターン!それこそが、あたしたちのスタイルでしょ!」
「私、欲しいです…!」
陽奈が、その隣で、祈るように小さな手を胸の前で組んだ。
「あれがあれば、私、もっとみんなの役に立てると思います…!」
「面白そう!」
りんごが、その会話に、どこまでもマイペースに、そしてどこまでも力強い、とどめの一撃を、付け加えた。
その、あまりにも美しい、そしてどこまでも理不尽な、三方向からの包囲網。
それに、健司はもはや、なすすべもなかった。
彼は、観念したように、その重い口を開いた。
「……はぁ。分かった、分かったよ。行くぞ、オークション」
その日の夜、東京湾岸エリアに新設された、巨大なドーム状の建造物。その内部は、世界の富と、欲望と、そして何よりも「力」を求める者たちの、熱気で満ち満ちていた。
国際公式ギルド日本支部が運営する、公式オークションハウス。
健司たち『アフターファイブ・プロジェクト』の一行は、そのあまりにも荘厳で、そしてどこまでもアウェイな空間に、わずかに気圧されながらも、指定された個室ブースへと、その歩みを進めていた。
「うわー…」
陽奈が、感嘆の声を漏らす。
ブースの、床から天井まで続く巨大なマジックガラスの向こうには、円形の、巨大なオークション会場が一望できた。中央には、これから出品されるであろうアイテムを投影するための、巨大なホログラムステージ。そして、それを取り囲むようにして、彼らと同じような個室ブースが、蜂の巣のように何層にも渡って設置されている。
その一つ一つのブースに、世界のトップギルドの紋章が、誇らしげに輝いていた。オーディン、青龍、月詠…。
「へえ。なかなか、良い席じゃん」
輝は、その光景に、不敵な笑みを浮かべた。
「まあ、あたしたちも、今や世界が注目する『優勝ギルド』ってわけだしね」
彼女の、そのあまりにも自信に満ちた一言。それに、健司は深いため息をついた。
(…勘弁してくれ…)
彼の、サラリーマンとしての魂が、そのあまりにも巨大なプレッシャーに、静かな悲鳴を上げていた。
やがて、運命の時刻が訪れた。
会場の照明が、ふっと落ちる。そして、中央のホログラムステージに、スポットライトが当たった。
オークショニアを務める、燕尾服に身を包んだエルフの老紳士が、その甲高い、しかし威厳のある声で、開会を宣言した。
いくつかの、前座となるアイテムの競りが、滞りなく進んでいく。B級のユニーク武器が数百万で、A級のレア防具が八百万で、次々と落札されていく。
その、あまりにも日常的な、しかし健司にとっては非現実的な金額のやり取り。
そして、ついにその時は来た。
「――さて、皆様。お待たせいたしました」
オークショニアの声が、わずかに熱を帯びる。
「本日、最大の注目アイテムの登場です!」
ホログラムステージに、一つの、あまりにも美しい、そしてどこまでも禍々しいオーラを放つ、首飾りが映し出された。
名前:
アッツィリの奇癖
パウアのアミュレット
必要レベル: 16
(暗黙)30% MP自動回復率が増加
最大MP +100
24% 最大MPが増加
100% MP自動回復率が増加
アイテムとジェムの能力値要求が25%減少
フレーバーテキスト
千の魂の囁きが、女王の尽きぬ渇きを僅かに潤す。
その、あまりにも強力な性能。それに、会場が、どよめいた。
「――では、参りましょう!開始価格は、1000万円より!」
その声と同時に、健司は、その震える指で、手元の入札端末を操作した。
彼の、中間管理職として長年培ってきた、全ての経験と、度胸。
その全てを、この最初の一手に込めた。
「まずはジャブで1100万円の入札を入れてみる」
彼の、そのあまりにも教科書通りの、そしてどこまでもセオリーに忠実な一撃。
モニターの、入札額の欄に、『アフターファイブ・プロジェクト:11,000,000円』という文字が、誇らしげに表示された。
だが、その誇りは、わずかコンマ数秒で、無慈悲に打ち砕かれることになる。
すかさず1200万円の入札で上書きされる。
モニターの数字が、瞬時に切り替わった。
『ギルド【鋼鉄の獅子】:12,000,000円』。
「なっ…!?」
輝が、悔しそうな声を上げる。
「早すぎるだろ!」
「落ち着け」
健司の声は、冷静だった。
「想定内だ。ここからが、本番だ」
彼は、その言葉通り、その後の入札合戦に、冷静に、そして的確に対応していく。
1300万、1400万、1500万…。
モニターの数字が、まるでスロットマシンのように、目まぐるしく回転していく。
その、息が詰まるようなデッドヒート。
その中で、健司は、その中間管理職としての、驚異的な情報分析能力を、発揮していた。
(…【鋼鉄の獅子】、ドイツの中堅ギルドか。資金力は、そこまで高くないはずだ)
(…【深紅の刃】、フランスの個人主義ギルド。短期決戦を好む。長期戦には、弱い)
(…そして、あの【崑崙ゲーミング】。中国の、超エリート集団。あいつらが、本命か…)
彼は、その脳内で、全てのライバルの、その懐事情と、思考パターンを、完璧に読み解いていた。
そして、彼は決断した。
「取り上げ2000万円までは入札合戦してみるか」
彼の、そのあまりにも大胆な、そしてどこまでも計算され尽くした、決断。
それに、少女たちが、息を呑んだ。
価格は、ついに2000万円の大台を突破した。
テーブルに残されたプレイヤーは、もはや三人だけ。『アフターファイブ・プロジェクト』、『鋼鉄の獅子』、そして『崑崙ゲーミング』。
そして、その三つ巴の、最後の心理戦が、始まった。
『崑崙ゲーミング:21,000,000円』
その、絶対的な王者の風格。
それに、ドイツの獅子たちが、沈黙した。
残るは、一騎打ち。
健司は、その震える指で、最後の、そして全てを賭けた一手を、打ち込んだ。
『アフターファイブ・プロジェクト:22,000,000円』
静寂。
数秒間の、絶対的な沈黙。
中国の、その鉄壁だったはずの表情が、わずかに、揺らいだ。
そして、彼らの入札タイマーが、無慈悲に、ゼロを告げた。
2200万円で相手の入札がストップする。
そして落札する。
オークショニアが、その小さな、しかしこの世のどんな権威よりも重いハンマーを、振り下ろした。
「――落札!!」
【【アッツィリの奇癖】は、『アフターファイブ・プロジェクト』様によって、22,000,000円で落札されました!】
その絶対的な結果。
それに、健司たちのブースは、爆発した。
「「「やったー!」」」
ギルドとしての初落札完了!と喜ぶ4人と1匹。
三人の少女たちが、抱き合って、その喜びを分かち合っている。
フロンティア君が、そのピンク色の体を、これ以上ないほど輝かせている。
その、あまりにも温かい、そしてどこまでも誇らしい光景。
それに、健司は、ふっと、その口元を緩ませた。
そして彼は、そのあまりにも大きな、そしてどこまでも重い達成感を、その魂の全てで、噛みしめていた。
数分後。
オークションハウスの、厳重なセキュリティに守られた、受け渡しルーム。
そこに、健司と陽奈は、立っていた。
ギルドの職員が、厳かな手つきで、一つのベルベットの箱を、陽奈の前へと差し出す。
彼女は、その震える指で、その蓋を開けた。
中に収められていたのは、あの【アッツィリの奇癖】。
その、あまりにも美しい、そしてどこまでも禍々しい輝き。
それに、陽奈は、ただ息を呑んだ。
そして受け取り装備する陽奈。
彼女が、その首飾りを、自らの首元へと、そっとかけた、その瞬間。
彼女の、その小さな体から、これまでにないほどの、圧倒的な魔力のオーラが、迸った。
「すごい…!」
彼女の、その感嘆の声。
そして、彼女は、その潤んだ瞳で、健司を見つめた。
そして、彼女は言った。
その声は、この世界の、全ての感謝を、その一言に込めたかのようだった。
「一生大事にしますね!」
その、あまりにも真っ直ぐな、そしてどこまでも温かい、言葉。
それに、健司は、その照れ隠しのように、その頭をガシガシとかいた。
そして彼は、その不器用な、しかしどこまでも優しい声で、答えた。
「喜んでくれて嬉しいよ」