ユニークスキルのせいでハーレムを作る事が確定した哀れな中年冒険者が挑む現代ダンジョン配信物 作:パラレル・ゲーマー
F級ダンジョン【ゴブリンの巣】。
そのひんやりとした湿った土の匂いと、壁一面に自生する発光苔が放つぼんやりとした青白い光。そのあまりにもゲーム的な風景の中を、二つの不釣り合いな影が、これ以上ないほど気まずい沈黙と共に進んでいた。
佐藤健司(35)の心は、後悔の嵐が吹き荒れていた。
(…なんで、こうなった)
数分前、彼のSSS級ユニークスキル【
彼は、そのあまりにも巨大すぎる力の奔流を前にして、恐怖すら覚えていた。
だが、陽奈自身は、その力の本当の意味をまだ理解していない。ただ、自分のスキルが役に立ったこと、そして何よりも目の前のこの不愛想な中年男性が、実はとんでもない力を持つすごい人だったのだという事実に、その大きな瞳をキラキラと輝かせているだけだった。
その、あまりにも純粋な尊敬の眼差し。
それが、佐藤の心をさらに締め付けていた。
(…気まずい。気まずすぎる…)
彼は、生まれてこの方35年間、これほどまでに気まずい沈黙を経験したことがなかった。年の差、19歳。共通の話題など、あるはずもない。先ほどの「頭撫で撫で事件」のせいで、空気は最悪だ。
彼の視界の隅では、三人の物好きな視聴者が見守る配信ウィンドウと、そしてその隣でふわふわと浮遊するピンク色のタコ…フロンティア君が、彼の精神をじわじわと蝕んでいた。
その、彼の内なる葛藤を見透かしたかのように。
フロンティア君が、けたたましいアラート音と共に点滅を始めた。
「健司!陽奈!戦闘準備だッピ!」
その、あまりにも元気いっぱいの声。
それに、二人の肩がわずかにピクリと動く。
通路の先の曲がり角から、二体のゴブリンが、その醜い緑色の姿を現した。
「二体か…」
佐藤は、舌打ちした。
一体ずつなら、問題ない。だが、二体同時に来られると、さすがに少し厄介だ。
彼が、長剣を構え直した、その時だった。
フロンティア君が、まるで最高のアイデアを閃いたとでも言うかのように、そのピンク色の体を輝かせた。
「そうだッピ!二人は、連携するといいッピ!」
その、あまりにも教科書通りのアドバイス。
それに、佐藤は思わずツッコミを入れた。
「…当たり前だろ、そんなこと。パーティ組んでるんだからな」
「違うッピ!そうじゃないッピ!」
フロンティア君は、彼の目の前にARウィンドウを強制的に表示させた。そこには、二人のスキルアイコンと、敵のゴブリンのデータが、緻密な計算式と共に表示されていた。
「健司の【パワーアタック】は、詠唱に1.5秒を要するッピ!その間、健司は完全に無防備になり、もう一体のゴブリンから攻撃を受けるリスクは、34.8%だッピ!」
「だが!」とフロンティア君は熱弁を振るう。
「もし、陽奈が【火の矢】で一体を牽制し、そのヘイトを自分に向ければ!健司が安全にパワーアタックで、もう一体を仕留めることができる確率は、98.2%まで跳ね上がるッピ!これぞ、戦術の基本!二人は連携して、どんどんゴブリンを倒すッピ!」
その、あまりにも的確で、そしてどこまでも論理的な戦術提案。
それに、佐藤はただ感心するしかなかった。
(…なるほどな。確かに、合理的だ)
彼は、陽奈へと向き直った。
「…陽奈」
「は、はい!」
「火の矢で牽制してくれるか?その間にパワーアタックを仕掛けるやれるか?」
「…うん!やってみる!」
陽奈は、力強く頷いた。
その瞳には、もはや怯えの色はない。
ただ、自らに与えられた役割を、全力で果たそうという、強い意志の光だけが宿っていた。
戦いが、始まった。
二体のゴブリンが、雄叫びを上げながら突撃してくる。
その、右の一体へと、陽奈がその骨のワンドを向けた。
「えいっ!」
可愛らしい掛け声と共に放たれた【火の矢】が、ゴブリンの肩を捉える。
ダメージは、微々たるもの。
だが、その効果は絶大だった。
ゴブリンの憎悪が、陽奈ただ一人へと集中する。
そして、その隙を、佐藤が見逃すはずもなかった。
「――そこだ!」
彼は、がら空きになったもう一体のゴブリンの懐へと踏み込み、その渾身の一撃を叩き込んだ。
パワーアタック。
ゴブリンは、断末魔の悲鳴を上げる間もなく、その頭蓋を粉砕され、光の粒子となって消滅した。
そして、残った一体。
それを、二人はもはやただの作業として、冷静に、そして確実に処理していく。
完璧な、勝利だった。
『おおおおお!すげえ!』
『完璧な連携じゃねえか!』
『これが…これが、パーティプレイか…!』
三人の視聴者しかいない、小さなコメント欄が、熱狂に包まれる。
その、あまりにも鮮やかな勝利。
それに、フロンティア君は、自分のことのように胸を張っていた。
そして彼は、最高のアイデアを閃いたとでも言うかのように、そのピンク色の体を輝かせた。
「そうだッピ!」
彼は、佐藤にだけ聞こえる声で、囁いた。
「僕の、この天才的な戦術サポート。これを、陽奈にも見せてあげるべきだッピ!そうすれば、三人の連携は、さらに完璧になるッピ!」
彼は、懇願するように言った。
「僕を、陽奈にも見せたいッピ!許可してほしいッピ!」
その、あまりにも純粋な、そしてどこまでも面倒くさそうな提案。
それに、佐藤は深く、そして重いため息をついた。
だが、彼はその提案を、断ることができなかった。
なぜなら、その提案が、あまりにも合理的で、そして正しいことを、彼自身が一番理解していたからだ。
「…ああ、いいぞ」
その、あまりにも不本意な承諾の言葉。
それに、フロンティア君は歓喜の声を上げた。
「やったーッピ!」
彼は、ARコンタクトレンズの設定を操作し、フロンティア君の表示を、パーティメンバーにも共有するよう設定した。
その瞬間。
陽奈の目の前に、ぽん、と。
あのピンク色のタコが、その姿を現した。
「えっ!?」
陽奈の、大きな瞳が、きょとんと丸くなる。
そして、彼女はすぐにその存在を思い出した。
「あっ!みんなが、OFFにしてるフロンティア君だ!」
その、あまりにも無邪気な、そしてどこまでも残酷な一言。
それに、フロンティア君のピンク色の体が、ぴしりと固まった。
陽奈は、そんな彼の内心などお構いなしに、不思議そうに続けた。
「冒険者学校の先輩たちも、みんな『あんなの、うるさいだけで邪魔だから、即効でOFFにするのが常識』だって言ってたけど…。健司さん、オンにしてるんですね…。もの好きですね」
その、あまりにも純粋な、そしてどこまでも鋭利な刃物のような言葉。
それに、フロンティア君は、ついにその沈黙を破った。
その声は、震えていた。
それは、怒りというよりは、むしろ魂の叫びに近かった。
「――なんでッピ!?」
その、あまりにも切実な悲鳴。
それに、佐藤は思わず吹き出してしまいそうになるのを、必死にこらえた。
そして彼は、そのあまりにも気まずい空気を断ち切るかのように、わざとらしく、そして力強く言った。
「はいはい、じゃあ、どんどんゴブリン倒すぞ」
彼は、そう言って長剣を構え直した。
「今日の目標は、5万円だ。魔石落として、収益がほしいからな」
その、あまりにも現実的な目標設定。
それに、陽奈も、はっと我に返った。
「は、はい!」
そこから、彼らの本当の「作業」が始まった。
陽奈が、火の矢で牽制する。
佐藤が、パワーアタックで仕留める。
その、あまりにも完成された連携。
それに、F級のゴブリンたちが耐えられるはずもなく。
彼らは、どんどんゴブリンを倒して、魔石をゲットしていく。
一体、また一体と、確実に。
そして、その作業を続けること、数時間。
彼らのインベントリは、おびただしい数の紫色の輝きで、満たされていた。
「…さてと。今日の稼ぎは、こんなもんか」
佐藤は、満足げに頷いた。
彼は、その場でARシステムを使い、それらの市場価格を計算する。
表示された、金額。
『推定合計価格: 52,000円』
「とりあえず、5万円分ゲットだな。折半するから、一人2万6千円か。美味しいな」
その、あまりにも確実な、そしてどこまでも大きな成果。
それに、陽奈は目を輝かせた。
「すごい!私、一日でこんなに稼いだの、初めて!」
その、あまりにも嬉しそうな笑顔。
それに、佐藤もまた、満足げに頷いていた。
そして、その瞬間だった。
二人の全身を、これまでにないほど強く、そして温かい黄金の光が、包み込んだのだ。
【LEVEL UP!】
【LEVEL UP!】
祝福のウィンドウが、二人の視界に同時に二度ポップアップする。
F級ダンジョンの、高い経験値効率。
そして、何よりも、獲得経験値100%アップという、神の祝福。
それが、彼女たちのレベルを、たった一日で、3から5へと、一気に引き上げていた。
「……………」
静寂。
その、あまりにも異常なまでの成長速度。
それに、陽奈はただ呆然としていた。
だが、佐藤の心の中は、静寂ではなかった。
一つの、巨大な嵐が吹き荒れていた。
それは、歓喜ではない。
畏怖。
そして、純粋な「恐怖」だった。
(…おいおいおいおいおい)
彼の脳内で、警鐘が鳴り響く。
(ヤバいなぁ、どう見ても)
(たった一日で、レベルが5まで上がっちまったぞ…?)
(このペースでいったら、どうなる?一週間後には、B級まで届いちまうんじゃねえか?)
(凄い勢いでレベルが上がらないか?大丈夫か、これ??)
彼の、ゲーマーとしての、そしてこの世界の住人としての常識が、悲鳴を上げていた。
これは、もはやただの強力なスキルではない。
一つの、完璧な「バグ」だ。
ゲームの、そして世界のバランスを、根底から破壊しかねない、禁断の力。
(…世界のバランス、崩れるだろ…)
彼は、そのあまりにも巨大すぎる力の奔流を前にして、初めて本当の意味での恐怖を覚えていた。
そして彼は、深く、そして重いため息をついた。
将来を心配して。
その、彼のあまりにも人間的な、そしてどこまでも深刻な悩み。
それを、陽奈とフロンティア君は、不思議そうに見ていた。
「レベルが上がるの、早いのはいいことだッピ!」
フロンティア君は、その大きな瞳をキラキラと輝かせ、まるで自分のことのように、その奇跡を喜んでいた。
「健司は、心配性だッピね、陽奈ちゃん!」
「そうだね、フロンティア君」
陽奈は、こくりと頷いた。
その瞳には、もはや一切の不安も迷いもない。
ただ、自らの確かな成長への、純粋な喜びだけが満ち溢れていた。
その、あまりにも無邪気な二人の反応。
それに、佐藤は再び、深く、そして重いため息をつくしかなかった。
(…こいつら、何も分かってねえ…)
彼は、そのあまりにも大きな孤独感に、打ちひしがれていた。