洗面台の前に立ち、寝起きの顔に冷水をぶっかけて目を覚まさせる。
「よし、ルーティン完了!あとは……」
俺は自室に移動し、勉強机の近くに置いた折りたたみ式のデュエルディスクを手に取って家を出る。玄関の扉を開けて迎えてくるのは、空に雲一つない夏の快晴と燦々と降り注ぐ太陽光だ。俺はそれから身を隠し、避けるように道端の木の陰の下を歩いて行く。
夏休みに入って早二日、普通のやつらならゲームに呆けてるのだろうが俺は違う。俺は来る夏のデュエル大会に向けて、早朝から家の近くにある
石垣階段を上り、鳥居をくぐった先に見えた光景は、竹ぼうきで神社の参道辺りを清掃している、巫女服姿の銀髪少女の姿だった。俺は、掃除中の少女に少し手を振りながら声をかける。
「よっ、
その声で気付いたのか、美智が手を振り俺の名前を呼びながら、足早に駆けてくる。
「あっ、
「デュエルの大会もあるし、毎日神頼みでもしてたら神様も応援してくれると思ってな。」
そう言いながら参道を歩き、拝殿に着く。そして500円玉を投げ入れ、祈りながら手を合わせ、礼をする。参拝を終えて顔を上げると横にいる美智が話しかける。
「そういう所は真面目なんだね。」
「そりゃ勝ちたいからな。ところで、お父さんは今いないか?」
「いないけど、なんで?ま、まさか厭らしい事でも考えてるの!?」
「な、な、な何言ってんだよ!?デュエルだよデ・ュ・エ・ル!最近のニュース見ただろ、カードの白紙化事件。それで今まで組んでたデッキがおじゃんになっちゃったからさ。調整手伝ってくれないか?」
「まあ、いいけど。私この後予定があるからLPは4000でいい?」
「オッケー。」
そう、俺たちの世界ではとある事件が起きている。それは夏休み開始と同時にデュエルモンスターズのカードが白紙化する事件である。白紙化と言ってもただカードが真っ白になるわけではなく、カードに書かれたイラスト部分が真っ白になり、デュエルディスクに置いてもソリッドビジョンが機能せず、エラーを吐くというものだ。しかも、使用者によってカードの白紙化具合が深刻であり、主にEXデッキの白紙化事例が多い。俺もその被害を受け、デッキを調整する羽目になった。大会があるってのにこれじゃ、環境が大きく変わっちまう。
美智はおどおどしながらも、竹ぼうきを片付け、自らをデュエルディスクを腕に装着する。
「んーー!やっぱり、神社の真ん中でやるのは雰囲気合ってめっちゃアガるな!」
「お父さんに見つかっても、叱られるのは遊牙だけだからね!」
「わかってるって!んじゃ、行くぜ!デュエルディスクセット!」
デュエルディスクを腕に当てると、デュエルディスク内のモーメントが起動し回転を初めエネルギーが供給されると内蔵されたアームバンドが展開され固定される。そしてデッキをセットすると折りたたまれていたカードプレートが展開される。
「「デュエル!」」
「レディーファースト。先行は譲るぜ。」
「そう?なら、先行は貰うわ。私のターン!私は手札から永続魔法「ミイラの呼び声」を発動!自分フィールドにモンスターが存在しない場合、手札からアンデット族を1体特殊召喚できる。私は「
「相変わらずのアンデシンクロか。こいつは長くなりそうだな。」
「白紙化の影響で展開力は下がっちゃったけどね。「ユニゾンビ」の効果発動!デッキからアンデット族を墓地に送ってフィールドのモンスターのレベルを1つ上げる。私はデッキから「
これで、美智のフィールドにレベル4のチューナーと非チューナーが揃った。
「私は、レベル4の「
「出やがったか!美智のエースモンスター!」
「まだ、私は通常召喚をしていない。私は「
「まさか連続シンクロ召喚!?」
「私は、レベル4の「
神聖な場であろう神社のど真ん中に、ソリッドビジョンによって再現された巨骸竜フェルグラントと
「私はカードを1枚伏せてターンエンド。どう?なかなかの展開力でしょ?私のアンデットデッキは」
「白紙化の影響が少なそうで何よりだぜ。これなら遠慮なく行かせてもらうぜ!俺のターン!ドロー!」
美智の場の「
「俺は手札から魔法カード「予想GAY」を発動!デッキからレベル4以下の通常モンスター「エルフの剣士」を特殊召喚!さらに「エルフの聖剣士」を召喚し効果を発動!手札から「翻弄するエルフの剣士」を守備表示で特殊召喚するぜ!」
3体のエルフの剣士が俺の前へと現れ、美智の場の2体のアンデットドラゴンたちと見合う。
「そっちも相も変わらずのハイランダー構築じゃん。事故率半端なさそう、よく回せるよねそんな構築で。」
「ドロー力には自身があるもんで。それじゃあ、手札から装備魔法「最強の盾」を「エルフの聖剣士」に装備させ、その効果で装備モンスターの守備力を攻撃力に加える!これで攻撃力は2100から2800にアップ!」
エルフの聖剣士の前に最強の盾が現れ、エルフの聖剣士は左手の剣を地面へと突き立て、目の前に現れた盾を装備する。
「攻撃力がフェルグラントを上回った!?でも、レッドアイズの効果とフェルグラントの効果を忘れてはないでしょうね?」
「忘れるわけねえだろ、対策済みだぜ!俺は手札から速攻魔法「破天荒な風」を発動し攻撃力をさらに1000アップ!」
エルフの聖剣士を取り囲むように風が吹き始めると雷鳴を呼びながら徐々に渦巻いていく。
「攻撃力3800!?」
「これでレッドアイズを倒せるぜ!バトル!「エルフの聖剣士」で「
エルフの聖剣士が、レッドアイズに向かって走り出す。それを見たフェルグラントはエルフの聖剣士を跳ね除けるように自らの巨体で行く手を阻もうとするが、それをエルフの剣士たちが協力して防ぎ道を作る。エルフの聖剣士は、フェルグラントの体を踏み台に高く飛び上がりレッドアイズの頭上から剣を振り下ろす。突如として発生した下降気流により加速したエルフの聖剣士の光り輝く剣撃は、レッドアイズの体を貫き、爆破する。
そして、爆破の衝撃エフェクトが美智を襲うと同時にライフが削られる。
[美智
LP:4000→3200]
「ライフを削れたから「エルフの聖剣士」の効果を発動!自分フィールドの「エルフの剣士」モンスターの数までデッキからカードをドローできる!俺の場には3体、よってデッキから3枚ドロー!」
「やるわね、でもこのターンはもう攻撃できないんじゃない?」
「その通りだ。バトルフェイズ終了。そしてメインフェイズ2!俺はレベル4の「エルフの剣士」と「エルフ聖剣士」をオーバーレイ! 2体のモンスターで、オーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚!コミックのページを切り開き、伝説の剣を手に戦場を統べる英雄よ! 戦士の魂を重ねて現れろ!「
2体のエルフの剣士が赤褐色の光となって地面に出現した暗い穴に吸い込まれ、光が爆発するようなエフェクトが現れた後、その穴から浮上するように、純白と金の鎧を身に纏い、巨大な剣を携えた大男が姿を現す。
「くぅー!何回見てもカッコいいい演出してるぜ!」
「ほんとワンパターン。」
「うっせえ!カードを2枚伏せてターンエンド!」
「私のターン、ドロー!私は「
「しまった!?その効果は……!」
「そう、このカードがフィールドにいる時に墓地からモンスターを特殊召喚した時、フィールドの表側表示のモンスター1体の効果を封じる!私はもちろん「
フェルグラントの体から滲み出す瘴気がフィールドを包み込む。そしてそれらはキングアーサーを取り囲むように球場に纏まり、キングアーサーはその瘴気に侵され、鎧が、剣が徐々にさび付いて行く。
「キングアーサー!」
「私はこのままバトル!「巨骸竜フェルグラント」で「
フェルグラントは、瘴気に侵され地に降すキングアーサーにゆっくりと近づき、その巨大な口に瘴気を集め、光り輝くエネルギーと共に一気に放出する。そしてその攻撃をまともに受けたキングアーサーの体は鎧と共に朽ち果ててゆく。
[遊牙
LP:4000→3600]
「くっ……」
「まだよ!「
「わりいな、罠カード「ガード・ブロック」を発動させてもらった。その効果でダメージを0にし、デッキから1枚ドロー!」
「バトルフェイズを終了させてメイン2に入るわ。私はレベル4の「
「げぇっ!?もう1体いるのか!?……そりゃそっか、俺と違ってハイランダーじゃないもんな。」
「安定感ならアンデッドデッキは無類の強さなんだからね。私はカードをさらに1枚伏せてターンエンド。」
「振出しに戻っちまったな。俺のターン!ドロー!ここは耐えか……「カードブロッカー」を召喚。そして効果で守備表示に。カードを1枚伏せてターンエンド。」
「それだけでターンを返していいの?私のターンドロー!そのままバトル!私はレッドアイズで裏守備モンスターに攻撃!ダーク・ネクロ・フレア!」
1体目のレッドアイズの怨霊を纏った黒く燃える火炎弾が裏守備モンスターを襲う。
「俺はリバースカードオープン!永続罠「ディメンション・ミラージュ」!」
「「ディメンション・ミラージュ」!?」
「このカードは相手フィールドの表側攻撃表示モンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。対象のモンスターの攻撃で攻撃対象モンスターが破壊されなかったダメージステップ終了時、自分の墓地のモンスター1体を除外してこの効果を発動できる。対象のモンスターはもう1度攻撃可能になり、続けて攻撃しなければならない!」
「でも、「カードブロッカー」の守備力は400ポイント。すぐに倒せるわよ。」
「甘いな「カードブロッカー」のモンスター効果を発動!このカードが攻撃対象になった時、自分のデッキのカードを上から3枚まで墓地へ送る事ができる。墓地へ送ったカード1枚につき、このカードの守備力はエンドフェイズ時まで500ポイントアップする。」
カードブロッカーの持つ盾にカードが吸収され、盾が大きくなる。
「それでも最大守備力は1900よ!」
「さらにリバースカードオープン!罠カード「ハーフ・アンブレイク」!「カードブロッカー」を対象に発動し、このターン戦闘破壊耐性を与え、自分が受けるダメージを半分にする!」
「3チェーンですって!?」
「じゃあ、効果処理に移るぜ。「カードブロッカー」の効果で俺は3枚のカードを墓地に送り、守備力を1500ポイントアップさせる。そして「ハーフ・アンブレイク」によって破壊されなかったため、「ディメンション・ミラージュ」の効果が発動。レッドアイズには、もう一度攻撃してもらうぜ。」
「迎え撃って!レッドアイズ!ダーク・ネクロ・フレア!」
「この瞬間「カードブロッカー」の効果が再び発動!俺は3枚のカードを墓地に送り、さらに守備力を1500ポイントアップさせる。これで守備力は3400ポイント!さらに「ハーフ・アンブレイク」によって破壊されなかったため、「ディメンション・ミラージュ」の効果が発動。レッドアイズには、もう一度攻撃してもらうぜ。」
「まさか、これって……!?」
「そう、俺の墓地にモンスターが送られ続けることで発生する無限ループだ。「カードブロッカー」の守備力は1500づつ上昇し、次の攻撃で4900、その次で6400、またその次で7900へと上がり、現在のレッドアイズの攻撃力がお前のフィールドにいるアンデットは2体、墓地には5体つまりは3100ポイント。4回目の攻撃で合計反動ダメージ5400ポイントで俺の勝ちだ。そして生憎、俺の墓地には繰り返せるだけのモンスターが丁度4体つまりは?」
「遊牙の勝ちね。」
「そゆこと」
[デュエルエンド
勝者:天野遊牙]
リザルト画面が表示され、ソリッドビジョンによって生み出されたモンスターたちの姿が消えていく。最後に残ったのは勝者の俺のみ。何とも気持ちがいい。
「これで121勝、121負け、3引き分けの同点だな。やっぱり、勝敗的には拮抗してるんだな。」
「それにしたって、最近負け続け何だけど。遊牙って本当に成長速いよね。始めたのが1年前の今くらいの時期で、小さい頃からやってる私にもう追いついてるんだもん。」
「まあねえー。でも、今でも感謝してるんだぜ?あの時にお前がデュエルモンスターズを教えてくれなかったら、俺は一生喧嘩三昧のヤンキーコースだったからな。」
そう言葉をかけて機嫌取りすると、まんざらでも無さそうに頬を赤らめる。やっぱり可愛いんだよな。この反応が見たいがためにデュエルやってるまであることもない。
「それで、用事の方はいいのか?」
「あっ、そうだった!それじゃ、私はここで。遊牙、また来てね!バイバーイ!」
そう言いながら手を振って美智は神社の裏手の方へと走っていった。後ろ姿が見えなくなるぐらいに見送った後、俺も次なる目的地へと足を運ぼうと参道を歩く帰り際、道端で奇妙に何かが光る。
「なんだ?」
光った場所を探してみると、そこには1枚のカードがあった。カードの白紙化の影響で捨てられるカードが増えているが、神社に捨てる罰当たりなやつもいるもんだとカードを拾い上げて表側を見る。
「な、なんだこのカードは!?」
そのカードは単なるカードではなく、名称、属性、種族、効果欄に何の文字も書かれておらず、イラストが描かれてもいない、辛うじてシンクロモンスターと認識できる程度にカードの縁が白いエラーカードであった。
「エラーカードだよな?今時珍しいな、逆にレアカードなんじゃねこれ!?カードショップに寄るつもりだったし、こいつも持ってくか!」
胸ポケットにカードを仕舞い込み、俺はカードショップの方へと歩いて行った。