闇の時代と一杯の紅茶   作:The-Artless-Dodger

15 / 16
“重大な不正行為”

 

 

 一日目は筆記試験であった。当日の朝は、大好きなベーコンすら喉を通らず、草食動物の寂しさを味わったが、いざ終わってみると、そう大したものではなかった。魔法史は噂通りの凶悪さであったものの、エドアルドが詰まる問題は、全員が顔面蒼白になっていたので、さほど差がついたとも思えない。変身術はマクゴナガル教授の背筋のように実直で、教科書の内容から一寸たりとも逸脱しないで、よくもまあこれほど広範かつ複雑に展開できるものだと、試験中ながら感心するほどであった。もっとも、ジャックやペインティングは、「指定の範囲を超えている」と不満たらたらだったが。魔法薬学は易しかった。調合の手順や注意点、簡単な薬品の名前と効能を答えるだけである。どちらかと言えば、二日目の実技の準備として設問されているようだった。

 

 こうして一日目を乗り越えたエドアルドは、夕食の時間、ジャックやペインティングたちと一緒に、問題と教科書を突き合わせていた。エドアルドの答えは、大体模範解答として通用するようだった。ジャックもまた、名前に相応しい「まずまずの出来」に満足げであった。一方ペインティングはと言えば、性来の臆病・神経質・優柔不断がこれでもかと作用し、凄惨たる結果であった。エドアルドがいくら親切になろうとしても、お世辞も簡単には言えないほどである。

 

「馬鹿だなぁ、君」ジャックはあっけらかんと言った。「選択問題なら、当てずっぽうで選べば良いのにさ。そしたら、四分の一だろ? 二倍は点数を期待できたよ」

「うん、そりゃ分かるけれど」ペインティングは、塩辛くなってしまった紅茶を飲んでどうにか心を鎮めようとするが、嘆きは止まりそうにない。「恥ずかしかったんだよ、もし間違えてたら、先生たちはどう思う? 『ああ、こいつはなんて適当な奴だ』って思う。そして名前を見て思うんだ、『ああ、こいつはこんなに変な名前だから、頭の出来もそれに引っ張られたんだろう』って」

 

 エドアルドとジャックは肩をすくませると、この気の毒な級友から目を逸らした。長机の上は、いつもより寂しかった。何でも、「満腹になれば大切な試験二日目の朝に寝坊をしかねない」という校長からのありがたい御達し故らしい。しかし蒸したじゃがいもにバターも添えないでは、空腹で満足行く結果は出し得ないだろう。

 

「いずれにせよ、避けなきゃいけないのは飢え死にだぜ?」ジャックが言った。「明日は杖を振り回すんだから、体力をつけないとね」

「うん、確かに」エドアルドは頷いた。「数も多いよ。呪文学に、変身術、防衛術、あとは魔法薬学──」

 

 しかしジャックが気にしているのは、この七面倒臭い行事が明日の何時には終わっているだろうかと、ただそれだけであった。彼ら三人は親切な上級生から、スリザリン生以外はこの実技試験なるもので、おおよそ似たり寄ったりの結果しか出し得ないと聞いていた。するとジャックは、彼の名前が示す通り、もう出来不出来はどうでも良くなってしまうのだった。

 

 翌朝は、呆れるほどの大快晴だった。昨夜一晩中吹いた風が、雲を全て飛ばしてしまった。草木に光る朝露は、風が枝を揺らすたびに、行き先も気にせず所在を離れて地面へと真っ逆様に落ちてゆく。鳥も、虫も、森との境に現れた鹿も、全部が全部気楽であった。

 一年生諸君はわいわいと騒ぎながら中庭を歩いて大広間へ向かった。今日が試験だということは、一晩暖かいベッドで眠ると、もうすっかり溶け落ちて、夢の中に忘れてきてしまっていたようだ。生まれて初めて呪文が使える──幼い彼らにとっては、これが天下の一大事であって、あとは全く些事だったのである。生徒たちが朝起きて第一にしたのが、埃を被った杖を拭うことであったから、その興奮は知れよう。

 

 裸の土をしっとりと踏みしめながら、エドアルドたちはついに大広間に至った。マクゴナガル教授が門のそばに立って、厳粛な顔で生徒の人数を数えている。これで多少は風紀が引き締まるだろうと予想していたのだろうが、その奥でスラグホーン教授がにこにこ手を振っていては、全て台無しであった。

 門をくぐる際、一人一人に紙が配られた。今日の試験の内容であった。

 

「へぇ!」エドアルドはざっと目を通し、その内容に目を剥いた。「林檎を積み上げて塔を作る……羽根ペンを()()()に変える……全身金縛り魔法……難しいじゃないか!」

「そうなのか?」ジャックはのほほんと言った。

「そうだよ」エドアルドは頷く。「そうなのかって、君、教科書を読んでいないの? これ全部、後ろの方のページに出てくるんだ。金縛り魔法に至っては、防衛術の最終章だよ!」

「ふぅん」ジャックの返事はやはり気のないものであった。「おれからすれば、あのくそつまらない教科書に目を通して、どの呪文がどのページに載っているか覚える方が、よほど難しそうだけれど。それにさ、一年生はどうせ魔法を授業で使わないんだから、難しさなんて気にせずに、サイコロを振ってその順に並べた可能性だってあるんだぜ? どっちみち、杖を振ったら何か起こるだろ──それで十分さ!」

 

 エドアルドは、この稀代の楽天家からなんらか有益な反応が返ってくるというのは、それこそ無益な期待であると悟った。しかし確かに、マクゴナガル教授の説明を思い出せば、この世に生まれ落ちてから初めてまともに呪文を唱える子供たちに、大した出来など求められていないとするのは、自然な想定に思われた。してみれば、ジャック同様、楽に構えて試験を試験とも思わぬ方が、得策であった。

 

 一行はまっすぐ行進して大広間に突撃すると、笛の音に従って、各寮が二列縦隊を作った。長机の撤去された大広間は、酷く殺風景で、平時の十倍は広々しているように見えた。壇上には、例の意地悪い魔法史教授──ブルズアイ(Bullseye)が仁王立ちしていた。同じ肥満体でも、スラグホーン教授に愛嬌があるのとは、随分異なる。特に腹が、ということもなく全身がとにかく太っていて、ベーコンでできた全身鎧(プレート・アーマー)を身につけた不恰好な騎士とでも言うべき格好だ。今日の試験の監督がこの悪漢であると知った生徒たちは、蝿の複眼のようにざらついた視線から逃れようと、押し合い圧し合いして互いの影に隠れた。ブルズアイ教授は自らが人垣に起こしたこの波のような動きを、満足げに眺めていた。彼は、不快に思われているということを威厳と取り違えられる才能の持ち主であり、精神癒者要らずと言えた。

 教授は全生徒が地獄の釜の底へ整列した頃には、とうに自重を支えきれなくなっており、椅子に深々と腰を下ろした。かつては森ですらりとした美しい姿を惜しみなく見せつけていたであろう木材の悲鳴は、一際痛切に広間に響いた。

 

「あいつが監督かよ!」

 

 ジャックの不満には、誰もが頷くばかりであった。

 

 さて、わざわざ書き起こすまでもない訓示が長々と述べられた末、ようやく試験が始まった。当然と言うべきか、先陣を切ったのはスリザリン生であった。最初の三人が前へ出てきて、高慢ちきな様子で、ブルズアイ教授の教えた通りに杖を振ると、各々の林檎がふわりと浮かび上がった。そのまま一つ、二つと積み上がり、最終的に二人が三段、もう一人はなんと五段の塔を築いてしまった。居並ぶ生徒たちから拍手と歓声がわっと巻き起こり、教授すら満足げに頷いているので、三人の得意げな様といったら、浮足立たんばかりであった。

 しかし、我らが紳士ジャック・トレーズ氏は、そう簡単に他人に賛辞をくれてやるような人物ではなかった。

 

「なんだ、そんなもんか」彼は腕を組みながら論評した。「あいつら、初めてなんだろ? だったら意外に簡単なのかもな」

 

 この予測が楽観的に過ぎていたことは、すぐに露呈した。スリザリン生たちは、概ね上手くこなしてみせた。林檎の塔は少なくとも二段を積み、羽根ペンは少なくとも形を変え、全身金縛り魔法は──全身とは言わぬまでも──少なくとも効果のほどは見受けられた。だが、これが続いてレイブンクロー生になると、林檎がクヌート硬貨ほどでも浮けば大金星、羽根ペンはピクリとも動かず、金縛り術をかけられた者は、薬指の関節すら曲げるに支障なかった。幾人かの秀才は、二、三段を積んだが、それ以上は中々難しいようである。事はグリフィンドールやハッフルパフでも変わらなかった。

 

「やっぱり、才能なのかなぁ」ペインティングが小さく呟いた。「でも、レイブンクロー生だってあんな出来じゃ、僕が多少鈍臭くても、誰も気にしないよね」

 

 その言葉通り、ペインティングが果たして大失敗に終わっても、生徒たちは鏡に向かって嘲笑をくれてやるほど愚かではなかった。列に戻ってきた彼の晴々とした様子たるや、彼の表情もその気さえあればこれほど働き者になるのだと、皆に知らしめるほどだった。

 しかし、デルフィーニ嬢が登壇した瞬間、場の空気は一変した。高慢甚だしいあの姿勢も、世に在るあまねく全てを蔑んで憚らないあの目つきも、その卓越した杖捌きを前にはただの添え物に過ぎなかった。スリザリン生は、最初こそ笑っていたが、デルフィーニ嬢が林檎を五段、六段と積み上げてゆくと、途端気まずそうな様子で顔を逸らし、ぶつぶつ何かを言っていた。エドアルドは思わず拍手を送ったが、すぐに後悔することとなった。そんなことをしたのはただ一人で、大広間中にエドアルドの拍手が響き渡ってしまったのである。

 

 さて、このようにやや気恥ずかしい出来事もあったが、デルフィーニ嬢が圧巻の結果を見せつけた直後は、エドアルドの出番であった。若干の緊張と多分の興奮を込めて杖を握り、いざ呪文を唱えると──林檎は浮いた。

 

 

──────

 

 

 その夜、エドアルドは校長室に立っていた。蝋燭一本だけが灯った部屋は、壁が果てしなく遠くにあるように感じられた。ただ、金色の額縁だけは、小さな火をぼんやりと反射し、まるで宙に浮いているかのようである。エドアルドは知る由もなかったが、額縁の中では歴代校長たちが目を細く開き、今から始まる“話し合い”に耳を立てていた。エドアルドの真正面に位置する額縁はカーテンが下され、様子は一層窺い知れない。

 その真下、一体どれほど太っていれば、その機能を十全に利用し尽くしたと言えるのかと思うほど巨大な椅子に、セブルス・スネイプ校長は腰掛けていた。真っ黒なローブに包まれた身体を照らすには、蝋燭の火はあまりに情けなく、闇の中に土気色の顔だけが仮面のように浮かんでいる。エドアルドは校長をこれほど近くで見たことがなかった。「年老いた」とまでは言えないが、顔には年月の積み重ねが深々と刻み込まれ、しかし目尻にだけは、ささやかな皺の一本すら認められない。そしてローブ同様に真っ黒な目は、穴を穿たれたかのようで、一切の親近も同情も拒んでいた。

 

「さて」

 

 校長の声は、あまりに静かで、柔らかであった。例えエドアルドの両耳が鋼鉄板の装甲を備えていたとしても、難なくすり抜けてしまったことであろう。

 

「エドアルド・スワッブル。なぜこれほど夜遅くに呼び出されたのかと、不審に思っている顔だが──まぁ、すぐにベッドに戻ろうとは、期待すべきでありませんな」

 

 校長はゆっくり身体を前に起こした。闇夜の中から唐突に顔が迫り出した様にエドアルドはギョッとして、喉は詰まり一言も発し得なかった。しかし校長は、目の前の無辜なる少年の心情など一切慮ることなく、手元の羊皮紙を捲る。

 

「筆記試験の結果は、今日明日に出るものではないが、既に十分の好成績が見込まれる。ふむ、これは良い。しかし今日の試験では、呪文学が六段。変身術や防衛術も上々──これでは当然、問題視する人間も出てくる」

 

「左様!」

 

 突然、校長の斜め後ろからつんざくような声がして、エドアルドは床から一寸ばかり飛び上がった。あの卑劣漢のブルズアイが、最初から闇に溶け込んでいたのだ。一歩踏み出したブルズアイは、しかし表面積が大きすぎるのかぼんやりと照らされるばかり、まるで錆びついた錫製の水差しの如く見えた。ただ、その手に握られたケインだけは、執拗なほど丁寧に手入れされており、木目までくっきりと見て取れた。

 

「ミスター・スワッブル」ブルズアイは犬のような唸り声を混えながら言った。「我々はホグワーツの教授だ。それ即ち、生徒の素性など、全部頭に入っているということだ。何を言いたいか分かるかね?」

「えぇと」エドアルドは吃った。「分かりません、サー」

「ほう! 分からんと!」

 

 ブルズアイは興奮のあまり、ケインを机に振り下ろした。しかしあまりに意気込みすぎたせいで、跳ね返った木の棒はブルズアイの眉間を強かに打ち据えた。彼としても気恥ずかしかったのか、あるいは痛覚と度量が正比例しているのか、何を言うでもなかったが。

 

「君は今日初めて杖を振った。そうだな? 全員、必ず、()()()()()()()()()()()()()。なぜならば法律にそう書いてあるからだ。然るに君の今日見せた呪文は全て、貴族子息の標準を超えていた! ならば君、この試験の前に──いいや、あるいはこの学舎に足を踏み入れる遥か以前から、法律に違反した自己修練をしていたとしか考えられないのだ!」

「そんな!」少年は思わず叫んだ。「僕、そんなこと──呪文の練習なんて!」

 

 この言葉には、少なくとも嘘はなかった。実際のところ、養父による魔法薬調合の特訓は、明らかに法律の盲点を突いたもので、違法かどうかはともかく、その精神に悖ると言われてしまえば否定はすまい。しかし、こと呪文に関して言うならば、ブルズアイ教授の言い分は完全な濡れ衣であった。

 エドアルドの必死の抗弁に、ブルズアイ教授は一層疑念を深めたらしかった。彼の眼は爛々と少年を睨み、その不正と腐敗を矯めんとする正義に満ちていた。しかし悲しいかな、世に謂う高潔なる教育者の常として、その疑念が自分自身の信ずる所へ向くことは、無いのであった。

 

「言い訳は無用! これは大問題だ、え? 分かるだろうミスター・スワッブル。適切な監督者のいない場で、鋏を拾った猿みたいに不用意に杖を振り回すなど、危険であること甚だしい! 君の身は当然として、万が一周囲に学友がいたのだったら、事は君一人では済まない可能性が──」

「えぇ、えぇ、よく分かります」エドアルドは苛立ちを隠せない口調で割り込んだ。「しかし教授、問題は僕がそんな危険を、一切犯していないということです!」

「まだ言うか!」ブルズアイ教授は半ば絶叫した。「私はお前を、あの生意気で思慮足らずの子供の中ではまだ見所のある奴だと思っていたが、どうやら買い被りだったようだな! あれほどの呪文を使っておきながら、今回が初めて、だと? マグルですらもう少しマシな嘘をつくぞ!」

 

 教授はケインをマリアンヌも感心するほど高々と振り上げ、ずいと一歩踏み出した。エドアルドに近づこうとすることだけが頭にあるので、机に乗り上げてしまっても何ら気にすることなく、盛りのついたゾウアザラシそっくりであった。

 

「良いかね、ミスター・スワッブル。君が今夜顔を突き合わせる相手が、歯槽膿漏の吸魂鬼ではないのは、ひとえにこの私──もちろん校長先生も──のおかげなんだぞ! しかし事によっては、それも考え直さなくてはならないかも知れん!」

 

 その時、エドアルドの背後で彫像が動く音とともに、誰かがバタバタ駆け上がってくるのが聞こえた。エドアルドはそれでも、ブルズアイ教授の目をひたと見つめていたが、彼自身が後ろを気にした様子だったので、エドアルドも振り返った。すると今まさに、二人の魔女が校長室に入ってくる所であった。

 マクゴナガル教授は質素な寝巻き姿で、その慌てようは乱れた髪に如実に現れていた。左手は杖灯りを掲げ、そして右手はスカルピン教授の腕をがっしりと掴み、ぐいぐいと引っ張っていた。エドアルドの寮監であるスカルピン教授は、この深夜の突入劇には明らかに気乗りしておらず、しかしマクゴナガル教授に表立って逆らうほどの度胸はないのか、それともこの老年の魔女の細腕は見かけによらず力強いのかは知らないが、盛んに後ろへ気をやり、伏し目でぶつぶつ呟きながら歩いている。

 

「おやおや」

 

 二人が──というより、マクゴナガル教授が──エドアルドの右隣に鼻息荒く立ち止まると、最初に口を開いたのは校長であった。

 

「こんな夜遅くに、どんな御用ですかな。スカルピン先生は──あまり愉快そうでもないが」

「今夜を暖かいベッドで眠りたいのは山々ですし、それに愉快でないのは私も同じですが」マクゴナガル教授は、校長とブルズアイ教授とを可能な限り高みから見下ろそうとするかのように、顎を上げながら言い出した。「この子に対して、どんな用が──ええ、()()があるのか確かめなければ、寝られたものではありませんわ」

「それは、私にとっては些か唐突な物言いですよ」ブルズアイ教授が例の唸り声を上げた。「このハッフルパフ寮生のしでかした重大な不正行為に関しては、既に教員各位へ書面によりご報告したはずですが?」

「ええ、もちろん読みましたとも。しかしブルズアイ教授、貴方の自動速記羽ペンを修理するに便利なお店をご紹介致しましょうか。随分と故障が多いようですね」

 

 ブルズアイ教授はケインを持った右腕をわなわな震わせた。ローブの上からでも、贅肉が波打つのが見えた。

 

「失敬な! 私の腕に修理が必要とおっしゃるか!」

「そうお思いなら、それでも構いません」マクゴナガル教授は、太った犬の怒りなど気にせず、校長を睨みつけた。「セブルス、ブルズアイ教授がおっしゃる所も『重大な不正行為』というのは、貴方も同じ認識なのでしょうか」

「さぁ」校長は薄ら笑いを浮かべた。「吾輩は直接見ていない以上、現場にいらした先生方の報告を信じるほかない」

「でしたら、私やスカルピン先生からも報告がございますよ。ほら、ほら──」

 

 マクゴナガル教授は右斜め後ろで絶えず脱出の機会を探っているらしいスカルピン教授をちょんちょん突いて、前に立たせようとした。しかし小心者の魔女は、むにゃむにゃ口を動かすばかりである。

 

「貴女ね」マクゴナガル教授は目を吊り上げた。「自分の寮の生徒が、こうして不当に責め立てられているというのに、その嫌疑を晴らそうという気概はないのですか!」

「でも、でもですよ」スカルピン教授はようやっと、辛うじて聞き取れる程度の声量で話し始めた。「エクロンさんがおっしゃることなら、敢えて疑うのも──」

「全く! よろしいですか、その『エクロンさん』は、魔法史のご担当なんですよ? 呪文学の貴女が異論を挟まないというのは──ええ、ええ、分かっていますよブルズアイ教授。私が申し上げているのはただ、貴方は呪文の良し悪しを見る以上に、本を読むほうがずっと得意ということです!」

 

 しかしスカルピン教授はなかなか頷かない。

 

「でも、でも、エクロンさんがおっしゃるなら──」

「エクロン、エクロン、エクロンと! 貴女の役目は同僚の弁護に言葉を尽くすことではなく、自分の寮の子供を一刻も早く救い出すことではないんですの? もしここにいたのがポモーナならば──」

「ぽ、ポモーナ!」スカルピン教授は、先ほどまでの慎まやかな態度が嘘のように、顔を紫色に染め上げ怒り出した。「その名を出すとは、私に対する度を超えた非難に他なりません!」

「もちろん、その意図で申し上げておりますもの」マクゴナガル教授は全く動じた気配がない。「貴女、自分の名誉のこととなると、途端それほど熱っぽく抗議できるんでしたらね、その気概のほんの一部でも、この子に向けておやりなさいな!」

 

 二人の魔女の言い合いは、エドアルドのことなどほったらかしにして、五分は続いた。業を煮やしたブルズアイ教授が唾を飛ばして叫ぶと、スカルピン教授が黙り込んだので、ようやく終わりを迎えた。

 

「もう良い! マクゴナガル先生、私の判断にどんな異論があるというのか、お聞かせ願いたい!」

「よろしい」マクゴナガル教授はエドアルドの背中に左手を添えた。「今日この子が見せた呪文が、不正な事前練習の賜物であるという結論に、私は全く賛同いたしかねます」

「しかし、あれほどの呪文、スリザリンの生徒たちでも──」

「ええ、確かに素晴らしい腕前でした。それは私も認めましょう。しかし、杖の振り方、呪文の唱え方、どれをとっても練習の跡など窺えませんでしたよ。この子は明らかに今日初めて呪文を使い、そして試験の最中に熟達していったのです。そしてさらに私見を加えるならば、ミスター・スワッブルの本日の成功は、彼の慎重な性格によるところ、大きいでしょう。この子がまさにハッフルパフの求める勤勉さを備えていることは、日々の授業を受け持っている貴方なら、無論認めてくださりますね?」

「えっ」ブルズアイ教授はやや狼狽したようだった。この悪漢も、マクゴナガル教授相手に、自分の方が呪文の見極めに長けているとは言い難いらしい。「そんなことが──可能だとは思えないが」

「いいえ、可能です。もちろん、多くはありませんが、教員生活をしている中で、そういった生徒は時折現れるものでした。魔力か、生まれ持った感覚か、あるいはそのどちらもが並外れている、という生徒がです。ブルズアイ教授、貴方は年表を読み解くのがお得意なのだから、貴方と私、どちらがより多くの生徒を見てきたかは、当然お分かりですね?」

「まぁ、うーん」ブルズアイ教授は返事に窮した。「それは、そうだが──しかし、貴女一人の意見ですから、見間違いも、全くあり得ないとは言い切れない」

 

 マクゴナガル教授は不満げにスカルピン教授の背を叩いたが、彼女はやはり何をも言う気はなさそうであった。老魔女はいよいよ苛立ち露わに、エドアルドの肩を掴んで目を合わせた。

 

「ミスター・スワッブル、貴方に一つ聞きたいことがあります。不正行為などしていないと、ホグワーツに誓ってはっきり言えますね?」

 

 エドアルドが頷くと、マクゴナガル教授は鋭い双眼に確かな慈愛を滲ませた。

 

「分かりました。私もそう思います。だからこそ言いましょう。筆記試験の採点はまだ完璧に終わったとは言えませんが、実技と合わせた貴方の順位は、五本の指からこぼれ落ちることは無いだろう、と」

 

 




やっとゼミのレポートが終わりましたので、投稿頻度が上がるだろうと思っています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。