闇の時代と一杯の紅茶   作:The-Artless-Dodger

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第一章 ホグワーツ魔法魔術学校
ホグワーツへ


 

 

 ありきたりな表現を許していただけるならば、世の中には二種類の人間がいると言える。一つは、長く付き合えば外見には現れない人間的魅力が薄々と感じられ、それをきっかけに好人物へと印象が変化する人。そしてもう一つは、付き合えば付き合うほど、その胸の中に秘められた高潔さだとか不器用な優しさだとかは、一切備わっていないことがはっきりしてきて、相手に与える不快感もどんどん増大していく人。エドアルドにとっては嬉しいことに、タバード氏は前者に分類された。

 エドアルドの養父はやはり無愛想で、教育方針も過酷なること甚だしかったが、同時に良い人物だった──商売の内容を度外視すれば。タバード氏の店にやってきて初めてのクリスマスに、エドアルドはささやかな贈り物を受け取った。魔法薬学の教本である。タバード氏に言わせれば、「こちらに利益のない贈り物だなんて全く問題外」とのことだったが、エドアルドが魔法薬の個人授業を義務というよりむしろ楽しみと捉えていることを、彼が知らないはずはない。そして年が明けた一月の末にも──やはり自身の口では語らなかったが、昨年のその日にエドアルドは引き取られたのだ──なんと博物館に連れて行ってくれた。

 こうした大きな出来事を除いても、日々の生活の積み重ねは、確実にエドアルドの養父に対する親愛の念を深めていたらしい。ホグワーツ入学が決まった時、喜びと同時に若干の──本当に若干だが──寂しさを覚えたことは、エドアルド自身にとっても全く意外であった。

 

 

──────

 

 

 去年ほどの熱波は訪れずロンドン中が安堵している中、エドアルドは友人とともに陰気な横丁を散歩していた。ピップもまた、ノクターン横丁にやってきてからできた大切な知人である。口を開けば堰を切ったように皮肉と揶揄いを飛ばすこの少年は、それでも“しゃべっていて楽しい”存在だった。

 

「明日の一面にどんな記事を持ってくるかで悩んでいるんだけどさ」アイスキャンディーを舐めながらピップが言った。「“今夏のロンドン平均気温、平年並み”と、“ノクターン横丁がほこるお人好し、ロムルス少年ホグワーツ入学──五体満足の帰宅を祈って”とどっちが良いと思う?」

「そりゃ、ピップ」エドアルドはアイスクリームを舐めながら答えた。「前の方が良いと思うよ。僕の個人的なことを記事になんかしたら、新聞の信頼性が下がっちゃうじゃないか」

 

 エドアルドの返事を聞いたピップはしばし黙っていたが、何かを思いついたのか指を鳴らした。

 

「よし決めた! “今夏のロンドン平均気温、昨年比で五度下がる”──これしかないな、うん」

「さっき言ってたのと変わってるよ」エドアルドはすかさず口を挟んだ。

 

 指摘を受けたピップは、訳知り顔で指を振った。

 

「君が言ったんだぜ、ロムルス。『新聞の信頼性』と」

 

「だったら、なおさら最初のほうが正確な気がするけどな」エドアルドはなおも反論した。

「全く違うね。去年より五度下がるって方が面白い。そして面白い方が信用されやすい、そうだろ? じゃなきゃ我らが愛すべき日刊予言者新聞なんてとっくに廃刊だよ。それに、もしかしたら記事を読んだ誰かが寒いと勘違いしてマフラーなんかを買うかも知れない。そしたらスポンサーの服屋から我が社への“信頼性”が上がる。さらにもしかしたら、そいつは熱中症でぶっ倒れて、魔法薬を買い求めるかも知れない。そしたら、ロムルス、君の店からの“信頼性”が上がる──」

 

 そんな取り止めもないことを話していると、ふいにピップがこう切り出した。

 

「そうだ、君がホグワーツに行くのなら、餞別をあげないと」

 

 そう言ってポケットをひっくり返し始めた彼を、エドアルドは慌てて止めた。

 

「そんな、悪いよ」

「いいや、これはおれの気持ちだ」ピップはまるで自分が富豪であるかのように、余裕たっぷりに言った。「“デイリー・プロベイトは恵まれない孤児の進学を援助する慈善活動を行なっています”ってね、こういうことを紙面の片隅に書いておけば、いい格好しいの貴族たちが買うかも知れないだろ?」

 

「僕が気にしてるのはそういうことじゃなくて」エドアルドはピップの肩に手をおいた。「そもそも君に──というか君の新聞社に──慈善活動を行うくらいのお金があるのかい、ピップ?」

「なんてこった!」ピップは叫んだ。「他人の心配をするとは! 少なくとも稀代の吝嗇家たるラム・タバードに養われている君よりは、景気が良いと思うぜ? それにどっちみち心配はいらないんだ」

 

 ピップはようやく財布を見つけ(それにしても、なんてポケットの多い服を着ているものだとエドアルドは思った)、何やら小さな紙を抜き取ると、遠慮する暇もない神速で押し付けた。開いてみるとそれは、三つ折りになった細長い紙で、ひげの長い老人と鳥の絵が描かれていた。

 

「これはなに?」ピップは紙を裏返しながら聞いた。

「それはね、マグルの金だよ。十年くらい前の」

「お金だって? これが?」

「そうとも! マグルにとってのガリオン金貨だな」

 

 エドアルドは驚愕して、もう一度手の中のものを見直した。が、そこにあるのはやはりただの紙である。絵は美しいし、丈夫でもあるようだが、ゴブリン製の金貨と同じ価値を持つとは到底思えなかった。

 

「驚いたなぁ。マグルって貧しかったんだね」

 

 エドアルドは感心しきりだった。ピップは甥を見つめる叔父のように寛大な笑みを浮かべ、友の肩を抱いた。

 

「問題はな、エドアルド。そいつが少し訳ありだってことだ」

「訳あり? どういうこと?」

 

 意味深長な言い方に、エドアルドは顔を上げた。

 

「うん、それはな、こういう話だ。“解放”が行われてからしばらくは、マグルは今と違ってとにかく分離しとくべき相手だったらしい。別にこちらに近づかなければどうぞご自由に、ってな感じで。ほら、ご婦人方がよく言うだろ、『私、あの人のことは嫌いじゃなくってよ。でも、一緒にお話しするのは遠慮したいの』──そりゃ嘘ってもんだ!」

 

 ピップはまるで演説士のように腕を振り回して叫んだ。

 

「金も当然別々だ。聞くところによると、ゴブリンの奴らが、マグルの分まで金を作るのは御免被るって駄々捏ねたらしいけどな。とにかく、マグルは自分たちで勝手に金を作ってたんだけど、ある日突然──」ピップはエドアルドの右手を指差した。「その紙幣が流通した頃に、マグルへの一大介入が始まった! 本を調べ、新聞を調べ、丸めた細い紙みたいなのも調べ、大通りに積み上げてこうだ──インセンディオ! 当時既に、生まれた時の無垢の心にカビを生やしてた奴らによると、すごかったんだって。一ヶ月もの間、魔法省の役人たちがあっちへ行ってこっちへ行って、まるでプディングレーンのパン屋みたいに火をつけまくるから、みんな頭の上から足の先まで灰だらけになって。本当だとしたら、イギリス中のハシバミが不足しただろうね!」

 

「それじゃ」エドアルドは息を呑んだ。「それじゃ、これを持っているってことは、法律違反になるんじゃないか?」

 ピップは首を横に振った。

「法律には違反(violate)しないよ、どんな条文にも書いちゃいないんだから。魔法省への冒涜(violate)にはなるかもしれないけど」

 

 エドアルドはめまいがする思いだった。日焼けした少年のこういった性格の一端を垣間見る経験がかつて無かったわけではないが──というよりままあったが──それにしてもまさか、友人に犯罪行為への加担を求めるとは思わない。もしかすると彼は、違法な品物の処分に困り、体よく押し付けようとしているのではないか?

 

「でも、どうして……」

 

 なおも問いただそうとするエドアルドを、ピップが手で制する。

 

「怖がんなよ、ロムルス! それに訳なんておれも知らないよ。おおかた、その爺さんが“かのお方”をめちゃくちゃに貶したとかじゃないの?」

「この人は1882年に亡くなっているみたいだよ。“かのお方”は関係ないよ」

 

 紙幣を注意深く観察していたエドアルドの指摘を、ピップは鼻で笑った。

 

「“かのお方”が実際何歳なのか、知ってるのか?」

 

 そう言われると、エドアルドにも返す言葉はない。“かのお方”が生まれた瞬間というのを、彼は想像できなかった。のちに有史以来最高の魔法使いとなる赤ん坊が産声を発した時、窓の外にはどのような光景が広がっていたのだろうか。昼か、夜か、それとも──エドアルドは、“かのお方”のことを、ほとんどなにも知らない自分に気がついた。そしてそれは彼が特別に無関心だったからではないことも、彼は自覚していた。 

 

 結局、エドアルドはピップからもらった“チャールズ・ダーウィン”の紙幣を胸ポケットにしまった。危険だから捨ててしまおうという考えは、なぜかどこにもなかった。

 

 

──────

 

 

「なんて人混みだ、くそったれ!」

 

 真新しいローブに身を包んだ子羊の群れの中で、タバード氏は腹立たしげに叫んだ。その声はあまりに大きく、近くの子供たちがギョッとしたかと思うと怯えて逃げ去っていったので、彼のそばを歩かざるを得ないエドアルドは、自分が彼の関係者であるとばれないことを祈るほかなかった。

 

 かつてキングス・クロス駅と呼ばれたこの建物は、マグルの生み出したあらゆるものに、灰色のベールを被せることに情熱を燃やしている魔法省役人たちによって、新たな名前を授けられた。しかし“一番駅”という身も蓋もない洗礼名は不人気で、もっぱらホグワーツ駅とか、あるいは単に駅とか呼ばれている。

 そして今日は、一年で一番駅が混雑する日であった。それこそ、今朝必死に“よそゆきの”紳士に自身を仕立て上げたタバード氏の仮面が、早々にずれ落ちるほどに。

 

「タバードさん、まずいですよ。目立ちたくないんでしょう?」

 

 エドアルドはまっすぐ前を見つめたまま、小さく囁きかけた。するとタバード氏もさすがに慣れたもので、すぐさま仮面を被り直し、どこから見ても非の打ちどころのない紳士に変身する。七変化のエドアルドとて、この早技は少し真似できそうになかった。

 

「いや、失敬! なんせ人混みというのは久しぶりだったからね、どうも」

 

 ステッキで地面を突きながら、無理やり「上機嫌で仕方がありません」といった風な顔をする養父の姿に、エドアルドは小さく笑った。

 

 二人はホームに向かって歩いてゆく。ホグワーツ特急の発着場は──今やそうである必要はどこにもないのだが──伝統的に九と四分の三番線である。ロンドン・ヒースロー空港と同じように、キングス・クロス駅(“一番駅”では風情がないではないか)もマグルの手から没収され、一つを除き全線路が魔法族の使用するところとなった。一部列車にはマグルも乗ることのできる特別車両が設置されているが、利用者は少ない。九番線と十番線は、それ以下のホームから少し離れたところにあるらしく、それを知らなかったエドアルドと、おそらく失念していたタバード氏は随分歩かされた。そしていざ九と四分の三番線の入り口に辿り着いても、そこには魔法使いの卵と鶏が長蛇の列をなしており、入るには時間がかかりそうだった。

 

「いいかい、エドアルド、よく覚えておくんだ」タバード氏はゾッとするような優しい声を出した。「来年は絶対に、もう少し早くこよう。そうでなければ、私はつい杖を持つ手に力が入って、魔法省の役人どもに一発呪いをお見舞いしてしまうかもしれない」

 

 実はこの列もまた、当局が焼いたおせっかいの一つである。曰く「ホグワーツに入学する生徒とその親が、健全な親子関係を築いているか」を検査するという名目であるが、実際のところ、子供に対する検査項目は乏しく、両親の「健全さ」だけが調べられている。

 

 まるで配膳を待つ孤児たちのような長い列は、まだ終わりそうにもない。手持ち無沙汰なエドアルドは、ふと、十一番線に異様な汽車が音もなく入ってくるのに気がついた。

 その汽車は鈍い鼠色で、窓がなく、古びた鉛食器のようなのっぺりとした見た目をしていた。乗降口は目立たず、ともすれば溶接されているのではないかと思わせる。その不気味な姿を見たエドアルドの中に、突然思い出される光景があった。引き取られる前、今も手紙を交わす友人ジャックとともに見た、かすれゆらめく光の群れである。そう、この汽車が与える印象は、まさしくあの不吉な死の予兆であった。

 エドアルドは息を詰めて、視線をゆっくりと動かしていく。平坦な側面に、時折り窪みが現れて、そこが乗降口なのだと知れる。煙突が咳き込むように吐く煙は黒々としていて、構内の大屋根へと登ってゆく。そして、運転席の側面には、“安全な棺(The Safety Coffin)”と唐突に鮮やかな金文字で書かれていた。

 

 エドアルドがその汽車に釘付けになっている間、列はかなり進んだ。養父に肩を叩かれた彼が前を向くと、レンガの壁の前に質素な机と椅子が置いてあり、いかにも小役人風の下卑た男が腰掛けていた。机には羊皮紙が山と積まれ、羽ペンの置き場もないほどである。小役人は超人的技巧を発揮して、その束を見事に捌いていた。しかし、その早業も忙しなさが過ぎるせいで、どこか飢えた獣を思わせた。

 

「エェ、次の方はどなた?」

 

 小役人はエドアルドが聞いたことのない訛りで話した。

 

「エドアルドです。エドアルド・スワッブル」

 

 エドアルドが答えると、小役人は羊皮紙の束を雪崩を起こしかねないほど猛烈な勢いで捲り、そのうちの一枚を引っ張りだした。

 

「オォ、これだ。()()()()()・スワッブル──」

「エドアルドです」

 

 彼はすかさず指摘した。すると小役人は、エドアルドが大魔法使いであると思い込んでいるかのように怯え、ローブの中にほとんど頭を引っ込めてしまった。

 

「ハァ、すんません、ミスター・エドワルド、なんせあたしは、学がねぇもんで……そいで、そっちのお方が法定保護者のタバードさんで?」

 

 こんどは間違えず名前を読み上げたことに、小役人は大変満足そうで、肝心の返事も待たず何度も頷いた。

 

 それからしばらくの間、小役人はやたらに長い爪をした指を巧みに用い、例の獣じみた動きで羊皮紙を捲っては判を押していった。その間手持ち無沙汰のエドアルドは、小役人に質問を投げかけた。これは、自分でもよくわからない義務感──聞かなければ、心の中の何らか誠実性に関わる部分が侵されるという危機感から出た行動であった。邪魔になるのではという危惧は、少しもなかった。

 

「すみません、あの、さっきから十一番線に停まっている汽車は、何を運んでいるのですか? まさか、棺を運んでいるってことはないでしょう?」

 

 羊皮紙から顔を上げた小役人は、意地の悪いニヤニヤ笑いを引っ提げていた。しかしそれは、エドアルドに向けられたものではないらしかった。

 

「へぇ、そりゃ、棺を運んでいるってこたァねぇですけどね。言ってみりゃ、あれ自体棺というべきか──それも、“安全な(Safety )”ね」

「だから、それがどういうことなんです。棺に危険も安全もないでしょう?」

 

 エドアルドが半ば憮然として言うと、小役人のニヤニヤ笑いはますます深まる。

 

「いえ、いえ、そいつがあるんだな。つまり、あの汽車に()()使()()()乗ったなら音が鳴って、すぐに、こりゃいけない間違えたと分かる、ようは、あいつに乗ったまま、出棺行列に出発ということにはならないから、安全だというわけでさぁ」

 

 小役人は、黄ばんだ鋭い歯を剥き出しにして、心底愉快そうに、聞いていないことまで喋り出した。

 

「全く、M.o.Mもケチなこって、あの汽車の運転や、それが駄目だってんなら着いたあとの仕事だって、あたしらに任せてくれりゃ、それはもう上手にこなしてみせるって、何度も申し立てているんですけれど、返事の一つも寄越しゃしない。まぁ、月に一度しか働けんだろうというのが彼らの言い分なんでしょうが、別になにもあたしらは、まるまる一ヶ月寝て過ごしているわけじゃねぇんで、さぁやってみろと言われたら、そりゃいつも本調子というわけにゃいかんけれど、毎日だって是非ともやってやろうと思ってんですがね」

 

 結局、小役人の説明は要領を得ず、何一つ分からなかった。彼が言葉の節々に滲ませているつもりらしい同情心は、心からのものとは全く思えず、むしろ獲物を前に狼が流すという涙のようなもので、要するに不誠実だった。

 しかし不機嫌なのはエドアルド以上にタバード氏である。彼は検査を何事もなく終えホグワーツ特急のホームに足を踏み入れてからも、歩行杖で地面を強かに打ち据えていた。いまだに剥がれず“よそゆき”の職責を果たしている顔とは対照的に、身体の方は正直という美徳を失うことをよしとしないようである。

 

 エドアルドはとくに躊躇うこともなく、養父に何をそんなに怒っているのかと尋ねた。彼はにっこりと──それはもうわざとらしいほど──笑いながら答えた。

 

「少なくとも昔は、ロムルス。昔というのは、実際の時間というより、心象の問題なんだが。その頃はかのM.o.Mの連中だって、あんな奴らを雇いやしないくらいの分別ってのはあったんだ」

 エドアルドは自分で尋ねておきながら、話半分で聞いていた。というのも、親愛なる養父はどちらかと言えば物事をそのまま話すほうだが──というより、わざわざ盛り上げようとするような話好きではない──、こと他人の品評となると、驚くほど誇張した話しぶりになるからだ。

 

「そんなに嫌な人でしたか?」エドアルドの返事はまったく気の抜けたものだった。「いい人じゃないとは思いますけど」

「ああ、いい人じゃない、全くな!」

 

 

──────

 

 

 タバード氏とのしばしの別れは、案の定あっけないものだった。九と四分の三番線に溢れる人の群れに辟易した養父は、エドアルドがホグワーツ特急に乗り込んだのを見届けると、さっさと踵を返してしまったのである。それだけでも十分感動に値するのはそうだが、本心では窓から家族に手を振り、その手に菓子を握らされる子供たちが羨ましく思えた。エドアルドは狭い通路を、人とすれ違う時には特に俯いて、一番後方の車両へと進んでいった。

 

 事前にふくろうが届けた入学許可証には、ホグワーツ特急の座席についても詳細に書いてある。それによれば、監督生の車両の他に、貴族専用の車両や、オスバートを始めとする孤児学校出身の生徒が貸し切る車両もあるらしい。そこへ行けば、懐かしのジャックを見つけることは、そう難しくはないはずだった。しかしこの惨めな気持ちで旧友に再会するのは、あまり名案とは思えなかった。エドアルドは結局、誰もいないコンパートメントに落ち着いた。甘いカビの匂いが漂う車内で、彼は窓の日除けをおろし、外付けのポケットに入れておいた羽ペンと罫線の刷られた羊皮紙を取り出した。しかし、当然書くことなどあるはずもなく、ただ名前だけを欄外に、これ以上なくゆっくり書き付けた。

 そこまでして、ついにあの大敵──退屈に襲われたエドアルドは、それがさらに厄介な物思いをもたらさないうちに追いやってしまおうと、目を閉じた。寝付ける気はしなかったが、ホグワーツ特急が線路の上をゆっくりと滑り出した時、彼はすでに夢の中にいた。

 

 エドアルドが、目を覚ましたと言わないまでも、瞼越しに車内の照明をぼんやり察知した時、すでに太陽はほとんど沈みかけていた。口内が乾燥していたので、タバード氏が持たせた魔法瓶(文字通り)のお茶を飲もうと思い立った。が、その時、目を閉じた際には彼以外誰もいなかったはずのコンパートメントに、化粧品の香りが混じっていることに気がついた。

 

 エドアルドはゆっくり目を開けてみた。向かいの席に、黒い絵の具が滲んだような人影が見える。もう少し開けると、黒に白が混じった。そして最後に薄花色がはっきりとして、そこに座っているのが、同い年くらいの少女だということがわかった。

 

 

 

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