個性:強化 作:レベルを上げて物理で殴る
「あの……何でしょうか?ボクをここに呼びつけて……。こんなにもガラの悪い人達と縁は無いんですが」
廃工場に呼び出されたのは眼鏡をかけた黒髪のボサボサの少年。制服を丁寧に着ており、印象としてはどこにでも居る"普通"の少年であった。その少年を不良らしき人物総勢三十名が囲んでいた。
「友人との約束もあり、受験が控えているので揉め事は控えたいのですが……」
囲まれている状況にも関わらずため息ついてウンザリそうに少年は言う。その姿を見たそれぞれの不良は怒りの形相で叫ぶ。
「ふざけんな!テメェこの間のこと無かった事にはさせねぇぞ!」
「あの時の借りはきっちり返させて貰うからなぁ!!」
「お前が相手でもこの方ならどうしようも無いだろ……。先生、お願いいたします!」
不良の一人がそう言うと、大柄な男が不良をかき分けて少年の目の前に立つ。
「おい、お前らが言っていた痛い目に合わせて欲しい奴ってこいつの事か?どう見てもひょろひょろのガキじゃないか……。まぁ、いいコイツらが世話になった見たいだな?」
大柄の男は少年を見下ろしながらに言う。少年は驚いた様な表情を浮かべたあと、呆れたように言う。
「この人達のボス的な人ですか。では、言わせてください……。躾がなってないですよ。こんなにも善良な人を囲むなんてね……」
臆す事無く正面から大柄の男に言う。それを聞いた大柄の男は眉をひそめ、少年に近づく。
「なるほど、いい度胸をしている。それだけの事を言うのだから相応の覚悟があるのだろう!」
腕を振り上げて少年の顔面を捉える。眼鏡も外れて地面に落ち、少年は大きく吹き飛び、積まれたオイル缶に激突し、崩れ落ちたオイル缶の下敷きになる。それを見て不良達は大歓声を上げる。しかし大柄の男は違和感を感じていた。
(何だ、この手応えの無い感じは?おかしいぞ……)
感じたのは違和感。殴った時の感覚の違和感の正体を確認しに行く大柄の男。オイル缶の間近まで足を運び覗き込む。その時、崩れたオイル缶の中から腕が伸びてきて胸ぐらを捕まれ、そのまま大柄の男は引っ張られる。
「うお!?」
抵抗する間も無く、大柄の男の顔面に拳が突き刺さり少年が飛ばされた時よりも勢いよく不良達の方に飛び、ボーリングの様に5人ほど巻き込まれて気絶する。
「て、テメェ!!」
不良の一人がバットを持ち、もう一は個性で炎を出す。個性や武器を構える中、少年はボサボサの髪をかき上げて不良を睨みつけながら息を吐く。
「あーあー、せっかく真面目で売ってて、相応に勉強して雄英高校も目指してんのによォ……」
歩くのに邪魔なオイル缶を蹴り飛ばす。サッカーボールを蹴る様に足を上げて蹴るオイル缶は缶けりの要領で真っ直ぐ飛ぶ。しかし、その速度は尋常では無く、凄まじい勢いで不良の間を通り抜けた時にはその衝撃で不良が立っていることが出来ず体が少し浮き尻もちを着く。そして轟音を立てながら、オイル缶はコンクリートの壁に激突し大きな穴を開ける。
「素行不良とかで受験出来なかったらどう責任とるンだよ?」
ネクタイを緩め制服の上のボタンを外し髪をかきあげた少年は不良の一人に近づき
「なァ、その個性でオレにどうするつもりだったんだよ?歳下でカタギのオレに……。元はと言えばお前らが手を出して来た話だったよなァ?」
腰を抜かして震えている不良の顔の近くに足を落とし見下ろしながら
「次、舐めたマネしてみろよ?次こそは、全員仲良く病院食を食う羽目になるぞ」
そう言うと、少年は緩めたネクタイを締め直し、ボタンを止めて、かきあげた髪を直し眼鏡を拾い上げて掛け直す。
「それでは皆さん。会うことは無いでしょうけど、ごきげんよう」
そう言い残し少年はその場から去る。そしてしばらく歩き続け制服に視線を落とし、
「オイルの臭いついて無いだろうな?揉めたなんて知られたら面倒なのになぁ。それにクリーニング代だってバカに出来んのに」
ため息を着きながらに言う。そして、少年は自身が住んでいるアパートに戻る。
「ただいまぁ……って、誰も居ないよな」
アパートに入るなりネクタイを緩めて、制服をハンガーにかけ眼鏡をテーブルに置き、ベットにその身を投げ出す。
「あ~~疲れた……でもなぁ、勉強しねぇと」
気が乗らないと呟きながら起き上がり、勉強机に行こうとした所で、インターホンが鳴る。少年は溜息をつきながら扉を開けると
「来たよーユウくん!」
エコバッグと袋を持ったショートボブの茶髪の少女が立っていた。ユウこと
「来るのが早いな……お茶子」
「そんな事ないよ!私が家に戻って、色々持って家出たくらいやけど。ユウくんが帰るのが遅いだけやないの?約束してた時間の5分前に来たんやけど」
お茶子に言われた侑剛はポケットのスマホを確認する。表示された時間を見るとお茶子の言う通り約束していた時間の5分前だった。
「マジか……」
「あっ!そうそう!」
お茶子が袋からタッパを取り出す。タッパの中にはカレーが入っていた。
「これ作りすぎたカレー!お母ちゃんがユウくんにって!」
「ああ、お袋さんからか。いつもありがと。そんなに気にしなくていいのに……。とりあえず、勉強するか」
「そうやね!」
何か嬉しそうにするお茶子に侑剛は首を傾げながら招き入れる。侑剛とお茶子は幼馴染である。それも家族ぐるみの付き合いで、父親同士が親友同士であり、母親同士も気が合うと言うほど中が良かった。
剛の両親はヒーローであり、それなりの実力で地域の安全を守っていた。休みの日には父親は鍛錬を兼ねて、お茶子の父の仕事を手伝ったり、母親はお茶子の母親と料理をしたりと楽しく過ごしていた。
しかし、今より3年前、敵が人質を取り二人を痛ぶり、他のヒーローが助けに来た時には間に合わず死亡した。その後、侑剛は親戚をタライ回しにされ、最後に引き取った親族も。
『高校卒業までは金、書類の面倒は見る……だが、直接の面倒は見ない』
と言われ、元の住んでいたアパートの一室を借りて暮らし始めた。その時に話を聞きつけた麗日一家に再会し、今に至る。
「お茶子、ここの数学の式なんだけど、この公式でいいんか?」
「そうやね、この式を当てはめて……」
二人は集中して勉強を行う。
「それにしても、ユウくんヒーロー目指す気になったんやね」
「何?薮から棒に……」
侑剛はペンを止めてお茶子を見る。お茶子は
「だって……再会した時……私の知ってるユウくんじゃなかったんやもん。何も信じれんと言うか、ヒーローの話もしたがらなくなって嫌いになったもんやと……」
「……」
侑剛は何も答えず、再びペンを進める。その会話以降時計の秒針とペンの動かす音と、問題の確認の声だけが部屋を支配する。お茶子が申し訳なさに耐えかねて謝る。
「ごめん!分かってたのに!私!」
「……ヒーローをもう一度目指し始めた理由だったよな?」
「え?」
侑剛が口を開く。勉強がキリがいい所まで進んだのかペンは動きを止めていた。侑剛は外を見ながらに話す。
「自己犠牲が大好きヒーローを……助ける為だよ」
侑剛は外の雲を睨みつけるように言った。お茶子は何も言えなかった。普段なら肯定して話すものなのだが、侑剛が言う自己犠牲大好きヒーローとは侑剛の両親のことであった。
「ヒーローは人を助けるけど……。そのヒーローは誰が助けるんだよ?」
助けを求められればその場所に行き、笑顔で助けた。だが、最期は誰もそのヒーローを助ける事が出来ず死なせた。ヒーローを助けるヒーロー。
「全てを助けられなくても、それが……愚かな理想だとしてもな」
誰も助けないなら助ける、一人でも多くのヒーローを助けると言う侑剛に悲痛な理想を纏った横顔を見て、お茶子は胸が苦しいものを感じた。
そして、時間は過ぎ行き、試験の日が来る。