緑谷出久の息子の英雄譚   作:鬼龍院クマ吉

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物語の終わりを書く時はいつもアイロニーな感じ。
なんだか、悲しい。
はぁ、溜息もついちゃうよ。
ヒロアカ、完結おめでとうございます。
次の連載、待ってます。
深呼吸して、ゆっくり気長に待ってます。


『平和の総和、ヒーロー達の足跡:修善寺癒梨』

「……ってなわけよ」

 

 俺は屋上でサンドイッチをもぐもぐと咀嚼し、傍らにいる女性にそう声を掛けた。

 過去回想終わりである。

 女性は、ストローでレモンティーを飲む口を離して、ぎょっとした顔で俺を見つめる。

 

「……えっ、その終わり方で次の日に普通、学校に来ることある?」

 

 俺はあの後病院に運ばれて、三時間もすれば歩ける程度には普通に回復していた。

 医者は驚いていたが……いや、治してくれたのはアンタ達だろ。現代の医療の進歩を感じた、母さんにはめちゃくちゃ怒られた。南無。

 

「しょーがねぇだろ。これでもクラス委員長だし」

 

 頭にグルグルと包帯を巻いた俺は、サンドイッチを食べ終わってから、そう言った。

 女性は、悩んだようにブツブツと呟く。なんだか父さんそっくりだ。緑谷雫(あいつ)よりも、父さんの子供らしい。

 

「うん……クラス委員長ならしょうがない……あれ、これしょうがないのかな……?」

 

「まぁ、仕方ないだろ」

 

 俺が教室に這入った時の阿鼻叫喚具合は凄まじかったな。

 冷火は因みにめちゃくちゃキレていた。部屋の温度が急に10度下がり、副委員長が冬眠へと突入する悲しき事件も起きてしまった。

 なんとか、事情を説明して逃げてきたが。

 

「随分とタフだね……っていうか、他にこの事言ったら、元A組の人を殺すとか言ってなかった!? 私、それ聞いて大丈夫なの!?」

 

「ま、大丈夫だろ。お前がスパイじゃない限り」

 

「ええ……何その信頼、怖ぁ……にしても今日くらいは休めばよかったのに……」

 

 女性は、横目で俺にそう諭した。

 しかし俺としては、今日を休むのはあまりにも忍びない。

 

「何いってんだ、休むわけねぇだろ――お前と昼飯食べる約束してんのに。あ、サンドイッチ美味しかったぜ。ご馳走様でした」

 

「えっ!? あ、う、うん……そうだね。せっかくサンドイッチ作ってきたしね……」

 

 しどろもどろになりながら、彼女は顔を赤くしながら肯定する。

 

「ま、とにかく二世ヒーローは大変ってこった。お前はヒーロー科じゃないが、それでも感じるプレッシャーは半端ないだろ? なんせあの――リカバリーガールの孫なんだから。なぁ、修善寺(しゅうぜんじ)癒梨(ゆり)ちゃん」

 

 あのリカバリーガールの娘は、なんだか先程から心此処にあらずのようである。

 

「へっ!? あ、うん。お婆ちゃんが有名人だからね。私は関係ないのに、授業参観に来たヒーローに頭下げられたりして困っちゃうよ」

 

 彼女は雄英高校普通科、名前は修善寺癒梨だ。

 彼女のお婆ちゃん、リカバリーガールにはどんな荒くれ者でも頭が上がらない。勿論、俺のお父さんも会う度菓子折りを持っていっている。今は流石に引退したが、他人を癒やしてきただけあって生命力に溢れた元気なお婆ちゃんだ。

 ……本人は二百歳まで生きると言っていた、

 

「でも番花くんは、やっぱりなるべくして有名になったんじゃないかな?」

 

「ん? そりゃあどういう……」

 

「ほら、入試の時のアレ!」

 

「ああ、あの事か。でも俺がやらなくても、誰かがやってたと思うけどな」

 

 入試当日、未来ある若者の人生を台無しにしてやろうと目論んだ(ヴィラン)が、無差別に受験生を道中で襲ったのだ。

 その時に襲われていたのが、この修善寺癒梨であり、助けたのが俺である。

 

 あの日は、遅れるって連絡した冷火が機嫌が悪くてキツかったな。怒った冷火の巻き添えを喰らった受験生には申し訳が立たないが、雄英高校の受験制度も色々と変わっているのだ。許してもらおう。

 

 あれから俺と修善寺癒梨の間には奇妙な縁が続いている。文芸関係の趣味が合うこともあって、定期的にお昼ごはんを共にしている。

 

「いやいや、誰でも出来る事を率先してやるのがヒーローだって!」

 

「そうか? そう言われるとなんだか――」

 

 リーンゴーンガーンゴーン。

 授業五分前を知らせる独特なチャイムが、俺達の会話を断ち切る。

 

「空気が読めないチャイムだなぁ」

 

「だ、だね!」

 

 癒梨は慌てながら、肯定する。

 さっきから慌てまくりに見えるかもしれないが、覚悟を決めた時の彼女は強い。俺はそれをよく知っている。

 

「……授業、一緒にサボるか?」

 

 俺がからかうようにそう言うと、癒梨は頬を今日一番に赤く染めた。

 

「はひっ!? そ、それは魅力的な提案だけど……って、そうじゃなくて! 番花くんは良いかもしれないけど、私は授業の単位があるから!」

 

 それもそうだ。

 一時のサボりで留年は無いだろうが、それでも万全は期したほうがいいな。納得、優等生の癒梨らしい発言だ。馬鹿の冷火にも聞かせてやりたい。

 

「はは、そっか。う〜ん、じゃあボチボチ行きますか!」

 

「まっ、待って! 番花くん!」

 

 俺が立ち上がり歩こうとすると、癒梨が勢いよく俺に声を掛ける。なんか、最近よく大声で声を掛けられることが増えた気がする。気のせいか?

 

「ん?」

 

「わたっ、私がそのケガ治してあげるよ!」

 

 修善寺癒梨の個性は――『治癒』だ。

 それも年代を重ねているため、超強力になっている。四肢欠損レベルはまだ無理との事だが……いずれ出来るようになるのだろうか。

 いずれにせよ、かなりありがたい提案だ。

 

「おお、マジか。助かるぜ」

 

 俺は彼女へ手を差し出す。

 彼女の個性は身体と身体の部位さえ触れていれば、治療が可能なのだ。そこも個性の進化と言うべきか、かなり便利になっているな。

 

 因みに彼女は戦闘能力もかなり高い。相手を“治しすぎる”ことで致命傷へと追込むのだ。本人は争いが苦手なため、普通科へ入学したと言っていたが。

 

「まっ、任せて!」

 

 ……なんだか、彼女の目がグルグルしているのが気になるが、まぁ歴戦の治癒師である彼女への心配は野暮ってもんだろう。

 彼女は俺の手を取り――彼女自身の後ろに大きく引っ張る。つまりそれは俺の顔が近づくということで……。

 

 ……え?

 

「ああ、やっぱ持つべきものは――んむッ!?」

 

 彼女と俺は、唇と唇を重ねた。

 その瞬間、俺の身体の傷の全てが塞がっていくのが、感覚で理解る。

 

 持つべきものは友達――そう言いかけたが、しかし、友達同士でキスなんてするだろうか?

 三秒ほどの若干ディープなキスを済ませた後、唇を離す。

 俺は少しだけ、後退った。

 

「えっ!? あ、あのこれは違くて……その、そう! 唇と唇のほうが早く治るし! だッだから、いや、あの……」

 

 身振り手振りを駆使して必死に説明にしてくる修善寺癒梨の声は、右から左に通り抜けた。

 というか、頭に入らなかった。

 

「……ビックリした。同年代の女子とキスするの、初めてだから……こっ、こういう治療方法なら先に言ってくれよ!」

 

 俺は顔を赤く染めて、少し唇に残る感触を噛みしめる。

 癒梨は暫くしてから、納得がいったようである。

 

「え……? ……えへ、あはは」

 

 修善寺癒梨は、いつも飄々としている俺が、彼女にとっての治療程度の接触で頬を真っ赤にしているのが珍しいのか、頬をツンツンと突いてくる。

 

「やっ止めろ。ああいや、俺が意識しちゃ駄目なんだよな! こっこれはちゃんとした治療なんだからな! でもお前は慣れてるかもしれないが、俺はこういうの初めてなんだからな! ちがっ、俺はなーんもやましいことなんて考えてないぞ! あっじゃあ授業始まるから、俺はもう行くな! そんじゃ!」

 

「慣れてなんか、ないのに……」

 

 そんな彼女の発言は聞かなかったことにする。だって、どうせ俺をからかっているに決まってるしな。

 

 ……ああああ!!! もう!

 俺は自分から仕掛けるのは良いけど、相手からされるのは苦手なんだよ!! 光裏だってそうだ! 俺に気があるのか勘違いしそうになるだろうが!!

 ……ふぅ、落ち着いた。

 空って、こんなに青かったっけ?

 

 俺は振り向いた途端――見慣れた顔面がそこにはあった。

 じゃじゃ馬娘――轟冷火その人であった。

 

 ……えっ、なんでコイツが此処にいるんだ?

 

「むぅ、私だって番花が意識ある時はキスしたことないのに……」

 

 ……“意識がある時”は?

 おやおや、なんだか雲行きが怪しくなってきましたね……?

 

「あっ!? あの、冷火さん、いつからそこに……!?」

 

 癒梨はまたもや慌てて冷火に問いただす。

 冷火は自然とした顔で答える。

 

「番花が緑谷出久のクローンと闘う所からだよ」

 

「全部じゃねぇか……じゃあ、その、なんだキス……じゃなくて! 治療も見られたのか」

 

「うん、脳が破壊されそうになった」

 

 右目から氷柱を、左目から血涙を流して、轟冷火は泣いていた。

 ……そんな細かい所まで再現しなくていいのに。

 

「冷火さん! これは違くてですね! これは治療の一環で……」

 

「はぁ……言い訳はいい」

 

「はひぃ!?」

 

 弁明する意見を一刀両断し、というか話し合いを凍結させて、冷火は低い声で呟き、癒梨はそれに怯えて全身が震え上がった。

 

「……それに、番花が女ったらしなのは、知ってるから。男の浮気は多めに見るのが、正妻の役目」

 

「お前、俺の正妻だったのか……?」

 

 えっ、初耳なんだが。

 正妻ってことは、側室もいるのか?

 そういう不埒な家族関係を築いたら、轟パパがめちゃくちゃ怒りそうなんですけど……。

 

「私の所有物の番花を、みんなに貸し出してるだけ」

 

「夫じゃなくて、モノ扱いなのか!?」

 

 良かった、轟パパからはお許しを貰えそうだぞ。

 俺の人権と引き換えにだが。

 冷火は俺の方を向き、肯定する。

 

「うん、番花の初恋の人は耳郎響香

 

「なんで今それバラした!???」

 

 唐突なカミングアウトは止めてくれ。

 幼い頃、真剣に既婚者の彼女にプロポーズした黒歴史が蘇ってくるだろ。

 

 そんな俺の道化っぷりを見た彼女たちは、顔を見合わせて笑う。

 

「……あはは」

 

「……ふふ」

 

 二人の女性が俺の前へと一歩を踏み出す。二人は同時に振り返り、口々に言う。

 

「馬鹿だね――番花は」

 

「馬鹿です――番花くんは」

 

 倒置法で罵倒するの、JKの間では流行っているのだろうか……。

 俺は片目を細めて溜息をつき、後ろで腕組みをして、二人に並び立つ。

 

「……俺の名前はバカじゃなくて、番花(ばんか)だっつーの!」

 

 俺達は笑って、もうすぐ始まる授業を受けに向かった。

 この風景を――青春と呼ぶのだろうか。

 俺にはまだ、分からなかった。




〜あとがき〜

まぁ、ウチから言えるのは一つだけかな。
うん、たった一つだけや。
あんたがこれからどんな人生を歩もうと。
いかなる境遇や、理不尽に見舞われようとも。
絶対に、これだけは覚えておかなあかんことはある。
まず、この世に生きる生物はみんな重力を背負わされとって、その重さを噛み締めていかなあかん。
それ以外にも責任とか、立場とか、理想と現実とか、きっと色々な事があんたの背中には乗ってるんやろ。
時に人間は、その重さに堪えきれず、崩壊しとってしまう事だってあるやろうな。
でも、そういう時だからこそ。
この言葉を思い出してほしい。

自分のせいにしすぎたら――あかんよ。

じゃあ、ほな、また。
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