転生するなら有名漫画が良かったよ… 作:犬うどん
ど、どうしてこうなったんだ…。
今俺の目の前には黒髪の女が立っていた。
その女の髪の毛はとても長く、前髪は目が隠れて見えないほどあり、後ろは地面につくんじゃないかという程長かった。
それだけでヤバい女と言ってもいいかもしれないが、更には服装もおかしい。
頭には白い三角巾のようなものを被っており、身体には白い装束を着ている。
そして、その女の気配もあきらかに普通の人間とは違う。
なんか身体も少し薄くぼんやりとしているし。
しかし…。これではまるで…。幽霊ではないか…。
おかしい…。俺は悪魔に会いにきたはずなのに…。
俺は何時ものように学校を終え、帰宅するところだった。
そして帰宅途中に、気になっていた本の新刊が出たことを思いだし、本屋に向かうことにした。
そこで、どうせなら作中に名前だけでてくる商店街へ行こうと思いつき、自転車で向かったのだ。
その商店街は俺の通学路とは違う場所にあるし、本を買うだけならもっと近い場所はある。
ならなぜそんなところに行くのかと思うかもしれないが。
俺は一刻も早く物語に関わる人物に会いたいのだ。
ここで主要人物にでも遭遇できたらという淡い期待があるのだ。
そうやって可能な限りどうにか物語に関われないかと思い付く場所によく行っている。
まあ今まで何も起きたことはないが。
今日も当然のように誰とも出会わず、何事も起きず目的の本屋に着いた。
だが目当てのモノを購入し、店を出た時にそれは起こった。
「…っちへ。…で」
突然誰かが俺を呼ぶ声が頭に響いたのだ。
俺の耳に聞こえる声はか細く、何を言っているかははっきりとわからないが、不思議と俺を呼んでいるのがわかる。
そして俺はここである1つの考えが浮かんだ。
もしかしてこの声の正体は悪魔なのではないだろうか!?
原作では悪魔たちは、さまざまな薄暗い欲望を持った人間の前にいきなり現れ契約を持ちかけてくる。
原作キャラと会いたいという欲求がなぜか悪魔からそういう風に認識されて、契約するために俺を呼んでいるのではないだろうか?
そう考えた俺は乗ってきた自転車を停めたまま、呼ぶ声に急かされるようにして走る。
そうして俺がたどり着いたのは商店街の路地裏だった。
そこに着くとさっきまで俺を呼んでいた声が消えた。
路地裏はまだ夕方だというのに薄暗く、誰もいなかった。
声も聞こえなくなったため、ついに来るか…とわくわくしつつも、息を整えていると急に後ろから声をかけられる。
「やぁ…少年…。やっぱり思った通りだ…。君…不思議な魂をしているね…。」
振り向くとそこには怪しげな雰囲気の女が立っていたのだ。
そして冒頭に戻るわけだ。
なんなんだろうか。こいつは。
さっきはちょっとこいつの空気にのまれそうだったが、落ち着いてよく考えたら俺が探しているのは悪魔であって幽霊ではない。
普通なら幽霊という存在にビビるところだろうし、いきなり俺の目の前に現れたという点も驚くポイントだ。
しかし、俺は元々悪魔という超常的な存在に会うつもりできたし、危険は承知の上で来たのだ。
漫画にでてきた悪魔は基本的に緩い感じだったが、今から会う悪魔は違うかもしれない。
悪魔が出てきたのはバトル展開前だったので、契約者たちは酷いことにはなっていなかったが、それでも自我を乗っ取られていたり、負の感情を増幅させられていたりしたのだ。
それにそれは漫画の表現上の話だし、こうして現実として相対するとなるとまた違うかもしれない。
だがそれでも。
この16年で訪れることのなかった原作に介入できる可能性の1つだ。
どうしてもこのチャンスは逃してたまるかと、恐怖や不安を乗り越え、覚悟をしてここまで来たのだ。
そんでこれです。
目の前にいるのはオーソドックスな幽霊だった。
全くもって悪魔じゃない。
落ち着いた今改めて見ると全然怖くない。
なんならホラー映画とか軽く触った人間がコスプレしてるのと変わらないくらいだ。
というか幽霊の服装って言うのは死装束だけなのか?
覚悟をしてきた分、よくわかんない普通の幽霊だったという肩透かしを食らったせいで、徐々に怒りが沸いてくる。
「ふふっ…。大丈夫…。怖がらなくていいよ…。」
そんな俺を恐がっていると勘違いした幽霊が俺に言ってくる。
はぁ?怒りでプルプル震えているだけなんだが?
「ただ…そうだね…。私と友達にならないかい…?」
柔らかく囁くような声で俺へと語りかけてくる。
もう限界だ。
俺が求めていたのはこいつじゃないんだ。
というかさっきから某吸血鬼みたいな話し方はなんなんだよ!?!
幽霊でもなく吸血鬼なのか!?おめェは!?
俺が求めているのは幽霊でもなく吸血鬼でもなく悪魔なんだよ!!
やっときたチャンスかと思ったのによォ~!!?
紛らわしいことしやがってよォ!!?
そんなにお望みならなァ!!?
除霊してヤんよォ!!!
そうして俺が放った右ストレートが彼女の体に突き刺ささった。
ジュッという肉が焼けるような音がして、パンチを食らった彼女がのたうちまわっている。
それを見た俺はちょっと安心した。
もしかしたらこいつはただのコスプレした変な人間という可能性が頭をよぎったが、このストレスをぶつけてやろうと思い、殴ったのだ。
だが拳が触れた瞬間に変な音がしたし殴った感触もおかしかった。
やっぱり幽霊だったみたいだ。良かった。
しかし普通にパンチをしただけだったのだが、かなりのダメージを彼女に与えたみたいで、呻きながら倒れているぞ。
それになんだか心なしか身体がさっきより薄くなっている気がする。
これは俺の殴ったことによって成仏しそうになっているのだろうか?
もしかしたら俺には除霊師の才能があるのかもしれない。
そうだとしても、この世界ではあまり使い道がなさそうなので残念だな。
「除霊完了。今度はいいやつに生まれ変われよ。」
まるで除霊師になったような気持ちになり、一仕事終えた俺は幽霊に背を向け歩きだした。
すると後ろからがっと肩を掴まれた。
あん?なんだ?
「いっ…いきなり何をするんですか!!」
振り向くと幽霊が顔を真っ赤にして怒っていた。
髪で表情は見えないのだが、それでも真っ赤だろうなとわかる怒り様だった。
「すまんな。つい。」
幽霊でも流石に殴るのは悪かったかと思いながら謝る。
だがなぜか彼女の怒りは増したようだ。
「ついってなんですか!!いきなり殴ってくるなんて貴方ほんとに人間ですか!?」
なんだ?食って掛かってきやがって。下手に出たことで調子に乗ったのだろうか?
「失敬な。どっからどう見ても人間だろ。お前はあれか?幽霊のコスプレか?それとも幽霊か?
まあどっちにしても白装束って安直すぎるだろ。
幽霊だからってそれ着とけば良いみたいな考えが透けてるんだわ。
それに髪の毛も長すぎ、ボサボサすぎだし。
怖いとかより先に髪切れよって思っちゃったわ。
なんか意味深なこと言って興味を引こうとする前に、人前に出るなら自分の服装とか気にかけた方が良いぞ。」
ムカついたので、思っていた事を伝える。
第一印象は顔だったり服装だったりするからな。
気を付けた方がいいぞ。
「なっ…なんでそんな事言うんですか!!??」
俺の発言を聞いて唖然とした様子の幽霊。
少し間が空いたあと、幽霊は大きな声で喚いてきた。
耳元で騒ぐな!うるせぇ!!
「うるせぇな…というか最初のキャラ崩れてんぞ。少年…。とか言ってたのに。」
最初はまるでミステリアスなお姉さんのような感じで俺に話しかけてきたのに、口調も雰囲気も全く変わってしまっている。
「あっ…。」
そう幽霊に指摘すると、しまったというふうに固まってしまった。
やっぱりさっきのは違うキャラを演じていたのか。
だがなんでそんなことを…?
幽霊という超常的な存在でもそれを指摘されたのは、さすがに恥ずかしかったのだろう。
微動だにしなくなってしまった。
路地裏に冷たい風が吹いた。
ディビディビ