たりないふたり 作:夕暮
医療関係には詳しくないのでおかしい描写などがあれば感想で教えていただけると幸いです。
時に子供は残酷なことを考える
捕まえた虫をどうするか、どんな悪戯をすればあいつは嫌がるだろうか等を考え、行動する。
そこまで幼稚なことではないが昔考えた、今ではひどいことだと強く感じることがある。
肺が半分ない人ってどんな感じなんだろう
子供特有の、突拍子もない奇妙な思い付きの話だ。
こんな考えをしてみたときのことを、今でも覚えている。
こうして大きくなってみれば、簡単にそう触れるのはよくない、そう思う。
自分がなった時のことを考えれば猶更そう思うべきだった。
なにせ、今これを考えている自分の肺は、半分なくなってしまったのだから。
中学生なりたての頃、幼なじみの「ゆきちゃん」と一緒に遊んでいるときに突然倒れたらしい。
10代には珍しい肺癌で、国内での症例は少ないと、そういわれていたのを覚えている。
かなり進行しているため肺をすべて切るかもしれない、そういわれて初めて事の重大さを理解して大泣きしたこともあった。
ゆきちゃんには心配をかけたし、思ってもないつらい言葉を言ってしまったこともあった。
それから数か月、実際こうして生きているのだからそれ以上のことはない。
肺も半分残って不便ではあるが十分な人生を送っていると思う。
なぜ今になってこんなことを思い出したのか
それは単純に、今日という日に
そんな気持ちとは裏腹に、いやなぐらいの月明かりが当たり前の日常を教えてくれる。
初夏を過ぎたころ、日も暮れて月が出ているころに俺は人を待っていた。
「ごめん、待った?」
「ああずいぶん待たされたよ、一時間の遅刻とは新記録じゃないか?」
「まあまあそんな固いことを言わずに~僕が来てやったぞ♪」
こいつが前述したゆきちゃん、川原ユキ。
昔からよく遊んでいて、男の子の遊びにもついていけるような運動部系の女子で、陸上部に所属している。
今まで30分程度の遅刻はあったが、一時間の遅刻は今日で初めてだった。
「少し遅れるとは聞いてたけどここまで遅れるとは思わなかったぞ、なんかあったのか?」
「いや~お母さんが着物どこに仕舞ったか忘れちゃってさ、見つけた後着付けにも手間取っちゃって」
言われてよく見ると鮮やかな色をした着物に身を包んだ彼女はとてもきれいで、少しの間見とれていると
「どう?似合ってる?」
などと聞いてくる。
「きれいだよ、着物はな」
見とれていた自分と、不意打ちのような言葉に恥ずかしくなってつい意地悪を言ってしまう。
「なんだよそれ、ひどいなぁ。でもシグくんもきれいだよ。着物が」
互いの対応に二人でしばらく笑った。
少し落ち着いてから
「早くいくぞ、夏祭り」
今日は夏祭りの日、少し古臭いような田舎の祭りだが屋台やつるされた提灯の光で神社の敷地内は月に負けないくらい明るく照らされている。
会場へ入り、少し見渡しているとゆきちゃんが言った
「今年もあれやってよ!」
「いいけど去年で稼ぎまくったから出禁じゃないといいけどな」
去年の夏祭りで射的の目玉景品を根こそぎとって店主に泣きつかれたのを思い出す。
同じ店主ならまず出禁になっているだろうが、幸運なことに今年は違う店主だったらしく、金を払えば快くコルク銃を渡してくれた。
最初は平然としていた店主の顔も、景品が一つ、二つと消えていく光景にはさすがに青ざめた表情をしていて
最新ゲームハードを二発で取った後もう一回とお金を渡そうとすると、勘弁してくれと今年も泣きつかれた。
結局ゲーム機だけもらってその屋台を後にし、ほかの屋台に向かった。
「シグ君今年も店主泣かせちゃって、来年には射的はできないんじゃない?」
「むしろあんなに当てやすくゲーム機置いてるやつのほうが悪いだろ。というかうちはもうこのゲーム機持ってるからやるよ」
「え?!いいの?こんな高いもの...」
「毎回うちにきてやるやつが言うことか。それに元はワンプレイ500円の射的だ。高いもくそもない」
「いやでも...」
「うちは一人っ子だからゲーム機二台もいらん、いいからもらっとけ。それでネット対戦もできるしス〇ブラでもやろう」
「だったら....うん、ありがとうシグ君」
正直なところ、態々持ってるゲーム機を狙ったのは彼女にあげるためでもあった。
受け取ってくれなければむしろ困るのだ。
「ねえ、次はあっちの屋台行こうよ」
彼女に引かれて色んな屋台を回った。
神社の敷地がかなり広く、その分屋台は多く出店しており、全体の半分もいかないような量の屋台を巡ったほどには夜は更けて、フクロウが帰る時間だといわんばかりにホーホー泣いていた。
「そろそろ暗くなってきたし帰るか」
「そうだね、あ~夏祭りが毎日あればいいのにな~」
「毎日あったらおまえ三日で飽きるだろ」
「ひっどいな~二日で飽きるにきまってるじゃん!」
「ひどいのはおまえだ」
少しあきれてそう言ってみる。
夏の11時はとても暗く、星と街灯が少し先の道を照らしていて、先はそこまで見えない。
祭りであったことを思い出しながら話していると、ゆきちゃんは言った
「ねえ、シグ君はさ」
「僕のこと、どう思ってる?」
その言葉にドキッとして一瞬脳が止まる
なんて返せばいいーー本当のことを言えば今の関係がーーーでも伝えたいーーーー
突然の不意打ちに心臓が高鳴る、回らない頭には鼓動がとてもうるさく感じて、世界が止まって見えた。
「シグ君が癌だって聞いたとき、僕怖かったんだ。この気持ちを伝えられないままいなくなるのかななんて」
「シグ君がどう思ってるかはわからないけど、僕はね、君のことが」
高鳴る鼓動はやまず、うるさいぐらいになっていた。
それと同時にまぶしい光が目に移りこんできた。
ゆきちゃんの言葉の続きを待つ僕の耳には自分の鼓動と祭りから帰っているであろう通行人の悲鳴しか聞こえなかった。
まぶしさから閉じていた瞼を開けるとそこには
車が自分の前に止まっていた
壁に激突したようだ
下を見ると
血に染まったゆきちゃんがいた。
強まる鼓動と激しい息が長く続き
やがて俺はいしきをうしなった。