たりないふたり 作:夕暮
ボクが変わったのは、きっとあの春だろう。
シグ君をめちゃくちゃにしてしまったあの春、あの時のことは何度も夢に見る。
外で歩いているとき、突然シグ君が倒れた。
最初は風邪でもひいて、疲れてたのかなっと思ってた。
救急車で病院まで行った後は急いで駆け付けたシグ君のご両親が対応していて、邪魔になるからと先に一人で帰った。
だから何も知らなかったんだ、あの時までは。
「ごめんね、ゆきちゃん。シグレね、誰にも会いたくない、って言ってきかなくてね」
「そう、なんですか」
「ほんとに悪いんだけど、また今度会いに来てくれない?」
「わかりました」
何度行ってもシグ君は病室に閉じこもったままで、実の母親ですら入ろうとすると癇癪を起して、しょうがないらしい。
なのでボクは手紙を書くことにした。
学校であったこと、陸上部に入ったこと、出かけた時も手紙に書くことを探してみたり、とにかく必死だった。
病気の内容を聞いても大人はみんな口を閉じちゃって。
そんなだから何も聞かされてないけどもう長くないのかな、っていうのがわかってたから。
だから毎日、とはいかなくても書けたら看護婦さんに渡して、また書いて渡して、っていうのを繰り返しているうちに状況が変わった。
いつものように看護婦さんに手紙を渡すと、看護婦さんがこう言った。
手紙を渡しに来たら病室に案内してあげてほしい、と頼まれた━━
それからボクはうれしくなっちゃって、すごく浮かれてた。
久しぶりに会えるんだ、元気かなって
そこが病院だっていうのを忘れちゃうぐらい。
「失礼します」
返事はなく、部屋に入ると
髪が整えられてなく、少しやつれた様子のシグ君がいた。
久しぶりに会ったシグ君になんていえばいいかわからなくて
「久しぶり」
としか言えない自分にとても驚いたのを覚えている。
なんていえばいいかわからないボクにシグ君は
と一言だけ言って窓のほうを向いてしまった
彼が何でそんなことを言ったのかがわからなくて
なんで、どうしたの、と聞いてみると
「うざいんだよ」
「外に出れない俺への当てつけみたいに楽しそうに書いてくれてさ!」
「毎回毎回、読むのもめんどくさい!」
「早く帰ってくれ!」
もう誰ともしゃべりたくないんだ!
こんなに怒ったシグ君は初めてで
今まで見たことないような、とても怖い顔をしていた。
一番傷ついてるのはシグ君だ
ボクが彼を刺激してしまった
でもこのままで終わりたくない
だから
「無理、しなくてもいいんだよ」
「...............は?」
「みんなから聞かされてないからシグ君に何があったのかは知らないけど、大変なんでしょ?」
ボクはシグ君をそっと抱きしめながら言った。
無理しなくていいんだって。
シグ君は不器用だからだれかを傷つけてしまったときシグ君自身が一番つらい気持ちになるって知ってるから。
シグ君は人を思える人だって知ってるから
「ゆっくりでいい、何があったか教えてよ」
「......あんなにひどいこと言ったのにか」
「いいじゃん友達でしょ?つらいとき一緒に支えてあげたいじゃん」
そういうとシグ君は力が抜けたみたいで
涙を流し始めた。
そして、ひとこと言った
「俺、癌なんだって」
「肺癌、この年では珍しい、世界的にも症例が少ないんだと」
「みんな経験がないんだ、下手したら死ぬかもしれない」
「それを明後日にやるっていうんだ。怖くなったんだ」
「誰かに会ったら今みたいにひどいことを言ってしまいそうで、死ぬのも怖いし誰かを傷つけるのも怖かった」
「だから、会いたくなったんだ」
でもさみしかった。
シグ君の話を聞いたボクはこんなに重い病気だったんだとなにも知らない能天気な自分が嫌いになりそうだった。
それと同時に、そんな彼へあんな手紙を送っていたことへの後悔が押し寄せてきた。
そんななか彼は話を続ける。
「本当はな、手紙をくれてうれしかったんだ」
「自分が見放されてない、忘れられてないっていうのが伝わってきて、元気をもらってたんだ」
「でも、外に出れない息苦しさといつ死ぬかもわからない怖さがあってよくわからなくなってきたんだ」
彼はそう言って、話を終えた。
次第にボクの目からも涙が出ていて、気づいたときには止まらなかった。
それから、二人でわんわん泣いた。
明後日にはもう会えないかもしれない。
それでなくても、いつ急変するかもわからない。
もう、二度と話せなくなるかもしれない。
二人で泣いているうちに、ボクの心には不思議な気持ちが芽生えていた。
この人を支えてあげたい。
そんな気持ちも、明後日にはなくなってしまうのかもしれない。
不安と後悔で、もう潰れてしまいそうだった。
それから、看護婦が来て、就寝時間を伝えられるまで二人で泣き続けた。
「明日は手術の説明や検査があるから会えないって、だから」
手術終わったら、また遊ぼうぜ━━━━
あの時の気持ち、ふわっとしたあの気持ち。
あれから少し経った今、私の気持ちは、
「ぼ、くは、シグ君のことが」
好きです
「3か月前のあの日から、ずっと好きでした」
こんなボクと、付き合ってくれますか━━━
「はい、よろこんで」
それからの日々の流れはとても早く感じた。
俺は少しでも彼女の力になるために医学の勉強をしながらほぼ毎日ゆきちゃんの病室に通い続けた。
彼女もリハビリを必死に頑張っているようで、その頑張りは俺にも勇気をくれた。
ゆきちゃんはリハビリ、俺は勉強と忙しい日々が続いた。
失ったものは帰ってこない。
だが、それでも
とても満ち足りた日々だった。
お互い、決して楽な人生ではなかったと思う。
これからも、とっても大変な日々が続くと思う。
でも、でも、
二人ならきっと大丈夫
たりないふたりだけと、ふたりならきっと大丈夫。
だってふたりは━━━
「大丈夫?」
「ごめん、ちょっと昔のことを」
「しっかりしてよ?結婚式前なんだから」
今日は10月某日大安、天気は晴れ。
俺とゆきちゃんは今日、ここで結婚する。
「いい、天気だな」
「そうだね、ボクらの始まりにはぴったりの天気だ」
「.....体調のほうは大丈夫か」
「なに?緊張してるの?」
「.....昔のことを思い出してな」
「大丈夫だよ~ボクらなら」
「.....そうだな」
大事なものを置いてきてしまった人生だけど、おかげでもっと大事なものが見つかった。
たりないふたりだけど、それ以上に大事なものがあるから、大丈夫
「ああ、本当に、」
天気がいい━━。
プロットもない、経験もない、まともに展開も思いつかない
そんなこんなで駄文ではありますが何とか終わらせられました。
小説を書くことの大変さを本当に思い知らされました。
これから小説を見るときは文章をよくかみしめて読むことができそうです。
改めましてここまで読んでくださった方には感謝の思いしかありません。
本当にありがとうございました。
皆様の健康を、どうかお祈りしております。
夕暮より。