鬼滅の刃 〜星空を舞う蝶〜   作:ありす(旧名:紅茶・ルミエール)

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今回から、他の柱との共闘を描いていきます。童磨戦はまだ遠い…!


師との共闘(1)

深閑とした山奥、人気のない廃村の気配が、凍てつくような冬の夜気をさらに重くしていた。月は厚い雲に覆われ、闇は漆黒の帳を下ろしている。鬼殺隊本部から下された緊急指令――この廃村で複数の隊士が消息を絶ち、多数の旅人が襲われたという報告を受け、胡蝶三姉妹は、悲鳴嶼行冥と共にこの地へ赴いていた。

「南無阿弥陀仏……。これほど強い鬼の気配。十二鬼月の仕業か…」

悲鳴嶼の声が、静かに響く。彼の手に握られた数珠が、彼の心の奥底にある慈悲の念を表しているかのようだった。しかし、その巨躯から放たれる威圧感は、周囲の闇をも払うかのようだった。悲鳴嶼は、三姉妹が鬼殺隊に入るきっかけを作ってくれた恩人であり、その師とも呼べる存在だ。彼との共闘に、三人の胸には特別な思いが去来していた。

「はい、悲鳴嶼さん。恐らく。負傷した隊士の話によると、かなり狡猾な相手と聞いています」

カナエが、冷静に答える。その傍らで、しのぶは日輪刀を握りしめ、周囲に神経を研ぎ澄ませていた。

「兵隊の姿をした鬼……、銃を用いる血鬼術を使うとのこと。遠距離からの攻撃に警戒が必要です」

しのぶの声は、いつも通り落ち着いているが、その瞳の奥には、未知の強敵への警戒の色が宿っていた。

あげはは、悲鳴嶼の背後に立ち、その広い背中を見上げていた。かつて、自分たちを救ってくれた、あの巨大な姿。今、自分たちは、その隣で肩を並べて戦う。胸に込み上げる高揚感と緊張が入り混じっていた。

廃村の中央へと進むと、荒れ果てた家々の奥から、禍々しい血の匂いが漂ってきた。そして、不意に、闇の中から、硬質な金属音が響き渡る。

「よく来たな、鬼狩りども。今回は、柱までお出ましか。派手な獲物だ」

地の底から響くような声と共に、人影が複数、姿を現した。それは、紛れもない鬼だった。そして、その中央には、軍服のような装束を身につけ、顔の右半分に奇妙な模様が浮かび上がった男の鬼が立っていた。手に持った古めかしい銃身が、月明かりの代わりに、冷たい殺気を放っている。下弦の肆、玄鉄だ。その周囲には、彼が生み出したのであろう、同じく軍服姿の鬼たちが、銃を構えている。

「下弦の肆……。お前が、この村の人々を食らったか」

悲鳴嶼の声が、怒りを帯びて響く。彼の手に握られた数珠が、カチリと音を立てた。

玄鉄は、嘲笑うかのように口元を歪めた。

「ああ、そうだ。肉は美味いし、魂は心地よい。お前たち鬼狩りも、この銃でズタボロにして、美味しくいただくとするか!」

その言葉と共に、玄鉄は手に持った銃を構えた。周囲の兵隊姿の鬼たちも、一斉に銃口を向ける。

「散開! 援護を頼む!」

悲鳴嶼が叫ぶと同時に、巨大な鉄球と斧を連結する鎖を構え、地を蹴った。鬼の放った弾丸が悲鳴嶼を襲う。しかし、それら全てを、悲鳴嶼はまるで見えているかのように鎖を回して、弾き飛ばした。「『岩の呼吸』 壱ノ型・蛇紋岩・双極!」鉄球と斧が、左右から円を描くように広がり、迫りくる弾丸を叩き落としながら、複数の鬼へと襲い掛かる。重厚な打撃が、周囲の鬼たちを一瞬で塵と化していく。

悲鳴嶼の圧倒的な突破力に続き、三姉妹もそれぞれの呼吸で応戦する。

「『花の呼吸 』弐ノ型・御影梅!」

カナエは、素早く玄鉄の右翼に回り込み、流れるような剣技で、取り巻きの兵隊鬼に肉薄する。刀身から放たれる桃色の斬撃が、次々と兵隊鬼を切り裂いていく。彼女の動きは、まるで舞を踊るかのように優雅だが、その一太刀一太刀は、確実に鬼の頸を狙っていた。

しのぶは、カナエとは逆の左翼から、目にも止まらぬ速さで駆け抜ける。

「『虫の呼吸』 蝶ノ舞・戯れ!」

蝶のように軽やかな跳躍で、玄鉄が生み出した兵隊鬼の懐に飛び込み、その細身の日輪刀で頸を狙う。しかし、玄鉄の兵隊鬼は、俊敏な動きでそれをかわし、銃剣で反撃してきた。しのぶは、間一髪でそれを避け、毒を塗った刀身で鬼の体表を掠める。

「遅いわ。毒が回れば、終わりよ」

しのぶの言葉に、掠められた兵隊鬼は苦悶の声を上げ、全身がボロボロになって溶けていった。

そして、あげはは、悲鳴嶼のすぐ後方で、その動きを援護する。

「『星の呼吸 』壱ノ型・流星!」

刀身が流星にような輝きを宿らせ、複数の兵隊鬼を纏めて斬り裂く。放たれた斬撃は、柱まで上り詰めたあげはの呼吸から繰り出される剣技、その威力は確かなものだった。

玄鉄は、余裕の笑みを浮かべていたが、一瞬だけその瞳に驚きの色を浮かべた。柱四人の連携、しのぶの毒、そしてあげはの未知の呼吸。彼女らが予想以上の手練れであることは、明白だった。

「ほう……なるほど。下級の鬼狩りとはわけが違うな。だが、この銃弾からは逃れられん!」

玄鉄は、新たな血鬼術を発動した。彼の銃から放たれる弾丸が、空間を歪めるかのように不規則に曲がり、予測不能な軌道を描いて襲い掛かってくる。さらに、弾丸が着弾すると同時に、周囲の地面を抉るような爆発を起こした。

「くっ……!」

カナエは、曲がりくねる弾丸をギリギリで回避するが、その一つが地面に着弾し、爆風が彼女の体を襲った。瞬時に受け身を取って姿勢を立て直し、次々と襲い来る爆弾を刀で叩き落とす。

しのぶもまた、爆発を伴う弾丸を避け続ける。そして、敵の死角を狙って毒を送り込もうとしていた。

「この弾丸は厄介ね……! 動きを制限されるわ!」

悲鳴嶼は、それでも怯むことなく、巨大な鉄球と斧を振り回し、爆発の嵐の中を突き進む。「『岩の呼吸』 参ノ型・岩軀の膚!」周囲を回転する鉄球と斧が、鉄の天蓋となり弾丸を防ぐ。彼は三姉妹の盾となり、玄鉄の銃撃から守っていた。

しかし、玄鉄もそのまま攻撃し続けるわけがない。背後に控えていた兵隊鬼たちが、一斉に三姉妹へと銃口を向け、集中砲火を浴びせる。

「危ない!」

悲鳴嶼が叫んだ瞬間、あげはが咄嗟に前に出た。

「『星の呼吸 』弍ノ型・星雲!」

大きく踏み込みながら、刀を大ぶりに振り抜く。宙に広がる星屑の如き防御の型。銃弾が太刀筋に当たり、火花を散らして弾かれていく。しかし、その威力は凄まじく、あげはの体は大きく後方へと吹き飛ばされた。

「あげは!」

カナエとしのぶが、同時に叫んだ。あげはは、地面を数メートル滑り、痛みに顔を歪めながらも、すぐに立ち上がった。だが、左腕の羽織が破れ、その下から血が滲んでいる。かすり傷ではあるが、その威力は確実に彼女にダメージを与えていた。

「南無……。あげは、無事か」

悲鳴嶼が、振り返ってあげはに視線を送った。彼の目には、心配の色が宿っていた。

「はい! 大丈夫です、悲鳴嶼さん!」

あげはは、震える左腕を抑えながらも、気丈に答えた。

玄鉄は、あげはの咄嗟の防御に驚きつつも、さらに攻撃を畳み掛ける。

「なかなかの技だが、いつまで持つかな! 喰らい尽くしてやる!」

玄鉄は、自身の身体に纏う金属の兵器を変化させ、巨大なナイフを生成した。銃を捨て、ナイフを両手に持ち、高速で地面を蹴り、悲鳴嶼へと肉弾戦を仕掛けてきた。その動きは、見る者全てを驚愕させるほどに俊敏だった。

「来い!」

悲鳴嶼は、怯むことなく玄鉄の攻撃を受け止める。鉄球と斧が、金属製のナイフと激しい火花を散らしながらぶつかり合う。けたたましい金属音が、夜の廃村に響き渡った。玄鉄のナイフは、金属でありながら柔軟性に富み、悲鳴嶼の重い一撃を受けても折れることなく、その衝撃を吸収して反撃に転じる。

「この男……! 膂力もさることながら、その刀捌きも常軌を逸しているな!」

悲鳴嶼と玄鉄の激しい攻防が続く。玄鉄のナイフは、まるで生き物のようにしなり、悲鳴嶼の隙を狙って突きや斬撃を繰り出す。悲鳴嶼もまた、巧みな足捌きと空間把握で、玄鉄を圧倒しようとするが、玄鉄は巧みにその攻撃をいなしていく。

その間にも、周囲の兵隊鬼たちが、三姉妹へと銃撃を続けていた。

「『花の呼吸』 肆ノ型・紅花衣!」

カナエは、くるりと身を翻し、優雅な動きで弾丸の雨を避けながら、兵隊鬼たちへと肉薄する。刀身から放たれる紅色の斬撃が、鬼たちの体を次々と切り裂いていく。

「虫の呼吸 蜂牙ノ舞・真靡き!」

しのぶは、低く身をかがめ、高速で地面を滑るように移動する。兵隊鬼たちの足元をすり抜け、その隙を突いて頸を狙う。しかし、兵隊鬼たちは、銃身を剣のように振るい、しのぶを阻む。

「しぶといわね……だけど、毒からは逃れられない!」

しのぶは、兵隊鬼の腕を掠め、毒を注入した。鬼は苦悶の声を上げ、やがて崩れ落ちていく。しかし、次から次へと現れる兵隊鬼の数は多く、しのぶは完全に玄鉄本体に集中することができないでいた。

あげはは、左腕の痛みを堪えながら、悲鳴嶼の援護に徹していた。

「『星の呼吸 』陸ノ型・螢星鳳凰!」

星空に飛び立つ鳳凰の如き斬り上げ。悲鳴嶼の死角から玄鉄を狙い、その動きを牽制する。しかし、玄鉄は、背後からの攻撃にも瞬時に反応し、巨大なナイフでそれを弾いた。その反動で、あげはの体は再び後方へと吹き飛ばされる。

「くっ……!」

あげはは、辛うじて体勢を立て直したが、左腕の傷が開いて痛みが走った。玄鉄の反応速度と、その膂力は、想像を遥かに超えていた。

悲鳴嶼は、玄鉄との激しい攻防を続けながら、三姉妹の状況を把握していた。

「この玄鉄、下弦の肆にしては、あまりにも手練れ……! 奴の銃撃と肉弾戦の切り替えが速すぎる!」

玄鉄の攻撃は、まさに隙がない。銃撃で動きを止め、肉弾戦で仕留めに来る。さらに、兵隊鬼の援護が加わることで、常に鬼殺隊士の行動を制限していた。

「南無……。ここは一旦、退いて体勢を立て直すか」

悲鳴嶼が、そう考えた矢先だった。玄鉄のナイフが、悲鳴嶼の鉄球を弾き飛ばし、その巨体を大きく後方へと押しやった。その隙に、玄鉄は再び銃を構え、三姉妹へと狙いを定める。

「死ね! 柱の雛鳥どもが!」

玄鉄の銃から、これまでで最も強力な弾丸が放たれた。それは、まるで追尾機能を持っているかのように、三姉妹の動きに合わせて軌道を変え、爆発の規模もこれまで以上に大きかった。

「まずい!」悲鳴嶼が叫んだ瞬間、しのぶがカナエを突き飛ばし、あげはは反射的に刀を構えた。

「「姉さん、危ない…!」

カナエはしのぶに突き飛ばされたおかげで攻撃を受けず、体勢を立て直す。しかし、しのぶは、カナエを庇ったため、爆風の直撃を浴びていた。細身の体が、大きく宙を舞い、地面に叩きつけられる。

「しのぶ!」

あげはが叫び、駆け寄ろうとするが、次の弾丸が彼女の足元に着弾し、爆発を起こした。あげはは、爆風に煽られ、再び地面に倒れ込んだ。今度は、右脚にも痛みが走った。

「しのぶ! あげは!」

カナエが、血相を変えて二人の元へ駆け寄ろうとするが、玄鉄の兵隊鬼たちが、彼女に向けて無数の銃弾を放ち、カナエは爆発に巻き込まれてしまった。

「貴様ら! よくも……!」

悲鳴嶼の怒りの声が、夜の闇に響き渡った。彼の数珠が、これまでになく激しく音を立てる。目の前で、弟子が傷つけられた怒り。しかし、玄鉄は、そんな悲鳴嶼の隙を逃さなかった。

「終わりだ、岩柱ァ!」

玄鉄の巨大なナイフが、悲鳴嶼の懐へと深く突き刺さろうとした。悲鳴嶼は、瞬時に鉄球と斧を使い、その攻撃を弾き飛ばしたが、その衝撃で体勢が僅かに崩れる。

その時、しのぶが、血を吐きながらも、ゆっくりと立ち上がった。その瞳には、かつてないほどの怒りが宿っていた。

「許さない……っ! 私の姉妹を……! 私たちの場所を……!」

しのぶの細身の体から、信じられないほどの殺気が噴き出した。それは、普段の彼女からは想像もできないほどの、純粋な怒りだった。




はい、まさかの大苦戦ということですね。
「下弦なのに強すぎない?」と思った方も多いと思いますが、昔の下弦は質が良かったという解釈です。
異論は認める。

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