鬼滅の刃 〜星空を舞う蝶〜   作:ありす(旧名:紅茶・ルミエール)

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視点が変わりますが、前回の話の続きのなります


栗花落カナヲ

少女が蝶屋敷に連れてこられてから、数日が過ぎた。カナヲは、温かく清潔な屋敷の中で、優しい三人の女性と、少し前から働き始めたという神崎アオイという少女に囲まれ、生活を送っていた。しかし、カナヲは、未だ言葉を発することなく、自分の意思で行動することもなかった。

 

食事の時、カナヲは出された料理をただじっと見つめている。

 

「カナヲちゃん、食べないの? 美味しいよ」

 

カナエが優しく声をかけるが、カナヲは何も反応しない。

 

「食べないなら、下げてもいいですか?」

 

しのぶが、少し困惑した表情で尋ねる。すると、カナエが慌ててしのぶを制した。

 

「駄目よ、しのぶ。この子は、まだ、どうしたらいいのか分からないだけなの」

 

カナエは、カナヲの頭を優しく撫でた。

 

「あのね、カナヲちゃん。食べたい時は、食べたいと教えてくれるだけでいいのよ。それが難しいなら、頷くだけでもいいからね」

 

カナエの言葉に、カナヲは、ようやく小さく頷いた。その小さな動きに、カナエは嬉しそうに微笑んだ。

 

そんなカナヲの様子に、しのぶは、まだ戸惑いを隠せないでいた。

 

「姉さん、いくらなんでも、このままではいけないと思います。自分の意思で行動できなければ、いずれ自立することもできません」

 

しのぶの言葉は、カナヲのためを思ってのものだった。だが、カナエは、それを否定するように、静かに首を振った。

 

「焦る必要はないわ、しのぶ。この子が、自分の中に閉じ込めた心を、ゆっくりと開いてくれるのを待てばいいの。それに…」

 

そう言って、カナエは懐から小さな銅貨を取り出した。

 

「この銅貨を使いなさい」

 

カナエは、カナヲの手にそっと銅貨を乗せた。

 

「あなたが、何か迷った時、どうすればいいか分からなくなった時、この銅貨を投げなさい。表が出たら、そうする。裏が出たら、しない。そうやって、少しずつ、自分の行動を決めていく練習をすればいいのよ」

 

カナエの言葉に、しのぶは驚きを隠せない。あげはも、その光景を静かに見守っていた。カナヲは、カナエの言葉の意味を理解できたのか、小さく頷き、その銅貨を握りしめた。

 

「さあ、まずはこの子の名前を決めましょうか」

 

カナエの提案に、皆が頷いた。まだ、名前のないカナヲに、新しい名前を。それは、彼女の新しい人生の始まりを象徴するものだった。

 

皆は、一つの部屋に集まった。部屋の中央には、何枚もの紙が広げられていた。そこには、苗字と名前の候補が書かれている。

 

苗字には「久世」、「元宮」、「胡蝶」、「神崎」、「栗花落」等。

名前には「カナヲ」、「スズメ」、「ハコベ」、「カマス」、「とびこ」等。

 

「さあ、この中から、自分の名前を決めてね」

 

カナエが、カナヲに優しく促した。カナヲは、無言で紙を見つめる。

 

「ねぇ、カナヲちゃん。私の名前、アオイっていうんだけどね、もしよかったら、神崎っていう苗字にしてくれないかな? 私、姉妹が欲しかったんだ」

 

アオイが、頬を赤らめながら、カナヲに懇願した。アオイの言葉に、カナエは優しく微笑み、しのぶは呆れたように肩をすくめる。あげはは、アオイの健気な姿を、微笑ましそうに見守っていた。

 

カナヲは、アオイの言葉に、僅かに反応したようだった。しかし、彼女は、アオイが示した「神崎」の紙ではなく、別の紙に手を伸ばした。

 

それは、「栗花落」と書かれた紙だった。

 

「あら、栗花落? 珍しい苗字ね」

 

カナエが、驚きと喜びの入り混じった声で言った。カナヲは、小さく頷いた。彼女が、自分の意思で何かを選んだ。その事実に、皆が喜んだ。

 

続いて、名前を決める番だ。カナヲは、再び紙の束を見つめる。

 

そして、彼女が最初に手を伸ばした紙に書かれていたのは、「カマス」という、いささか突飛な名前だった。

 

「えっ……カマス!?」

 

アオイが、驚きのあまり、思わず叫んだ。その瞬間、アオイは、カルタの如き早業で、「カマス」の紙を隠し、その代わりに「カナヲ」の紙を、彼女の前に差し出した。

 

「えっと、こっちの「カナヲ」っていうのはどうかな? カナエさんの「カナ」と、胡蝶の「コ」を合わせたような、とっても素敵な名前だと思うんだけど!」

 

アオイの必死な様子に、皆が笑いをこぼした。カナヲは、アオイの言葉を理解できたのか、不思議そうに首を傾げた。

 

「カマス、だめ?」

 

カナヲが、か細い声で尋ねた。それは、彼女が蝶屋敷に来てから、初めて発した言葉だった。

 

「え、ううん、だめじゃないんだけど……! でも、カナヲちゃんには、カナヲっていう名前の方が似合うと思うの!」

 

アオイが、顔を真っ赤にして答える。

 

カナヲは、しばらく考えた後、小さく頷いた。

 

「カナヲ……」

 

彼女は、自分の新しい名前を、か細い声で呟いた。その言葉に、皆が安堵の表情を浮かべた。

 

「これで、あなたは、栗花落カナヲよ」

 

カナエが、カナヲの頭を優しく撫でた。

 

名前が決まってからも、カナヲは、言葉を発することは少なかった。しかし、彼女の生活は、少しずつ変化していった。

 

カナエは、カナヲに、様々なことを教えてくれた。花の名前、空の色、風の匂い。カナエは、カナヲの心に、美しいものを植え付けていくように、優しく語りかけた。

 

しのぶは、カナヲの訓練を見てくれた。言葉がなくとも、刀の扱いや、呼吸の基本を、厳しくも優しく教えてくれた。しのぶは、カナヲが、いつか鬼殺隊士として自立できるよう、心を砕いていた。

 

あげはは、カナヲと一緒に、蝶屋敷の庭で遊んでくれた。花を摘んだり、蝶を追いかけたり。あげはは、カナヲに、ただ楽しむことを教えてくれた。

 

そして、アオイは、カナヲの一番の遊び相手だった。二人は、歳の近いこともあり、すぐに仲良くなった。アオイは、カナヲに、たくさんの言葉を教えてくれた。

 

カナヲの心は、ゆっくりと、しかし確実に、開いていった。彼女の瞳には、かつての虚ろな光はなく、代わりに、温かい光が宿っていた。

 

まだ、言葉は少ない。まだ、コインに頼ることが多い。しかし、彼女の心の中には、確かに、新しい世界が広がっていた。栗花落カナヲという、彼女の人生は、今、まさに始まったばかりだった。

 




はい、原作通りの名前の決め方を描写してみました。
しれっと追加させているアオイですが、宇髄さんとの共闘の後くらいに、入ってきたという感じです。
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