鬼滅の刃 〜星空を舞う蝶〜   作:ありす(旧名:紅茶・ルミエール)

2 / 37
初投稿です。 楽しんでくれたら幸いです。


後追いの蝶

胡蝶しのぶとカナエが悲鳴嶼行冥の元から離れ、それぞれの育手の元へ発ってから、数日が経った頃のこと。

 

「……着きました」

 

深々と頭を下げた隠が、そっと声をかけた。その隣に立つのは、藤色の羽織を肩にかけた小柄な少女。名を胡蝶あげはという。見た目はまだ幼さが残る顔立ちだが、その双眸には、鬼殺隊に入るという固い決意の光が宿っていた。

 

「悲鳴嶼様。こちらが、胡蝶姉妹のご親戚にあたります、胡蝶あげは様でございます」

 

深々と頭を下げた隠の言葉に、巨躯を誇る悲鳴嶼行冥がゆっくりと顔を上げた。その顔には、盲目ゆえの白い眼が静かにあげはを向けている。厳粛な雰囲気に、思わずごくりと唾を飲み込むあげは。

 

「胡蝶あげは……。カナエと、しのぶの親戚か」

 

悲鳴嶼の声は、まるで地底から響くような重々しさだった。

 

「はいっ! あ、あの、ご迷惑をおかけするのは重々承知なのですが、私も鬼殺隊に入りたくて……! お二人と同じように、鬼を倒せるようになりたくて、それで、鍛えていただきたくて参りました!」

 

緊張で早口になるあげはは、勢い余って頭を下げた。カナエとしのぶがこの危険な道を選んだ以上、自分も傍に立ちたいという思いが、あげはをここまで突き動かしたのだ。悲鳴嶼の元で、鬼殺隊の猛者たちが日々厳しい鍛錬を積んでいるという噂は、伊達ではない。しかし、あげはがここで何よりも見たかったのは、鬼殺隊最強と謳われる岩柱の「呼吸」だった。

 

悲鳴嶼は何も言わない。ただ、静かにあげはの言葉を受け止めているようだった。その沈黙が、あげはの胸に重くのしかかる。

 

「……鬼殺の道は、非常に厳しい。命を落とす可能性もある」

 

ようやく発せられた悲鳴嶼の言葉は、あげはの覚悟を試すかのようだった。

 

「はい! 分かっております! でも、それでも、私は……!」

 

悲鳴嶼は、あげはの震える声にも動じず、ただ静かに、彼女の覚悟を測っていた。やがて、彼はゆっくりと頷いた。

 

「勝手に居着くがいい。だが、私は特別なことは教えない」

 

それは突き放すような言葉だったが、あげはには悲鳴嶼の底知れない深みを感じさせた。彼の言葉の裏に、何か特別な意味が隠されているのではないか。彼女の勘が、そう告げていた。

 

「はいっ! ありがとうございます、悲鳴嶼様!」

 

それからのあげはの日々は、まさに「勝手に居着く」という言葉通りのものだった。悲鳴嶼の訓練は、想像を絶するものだった。あげはの身長の何倍もあるような巨大な岩を、悲鳴嶼は押して動かしているのだ。その光景は、山そのものが息をしているかのような迫力に満ちていた。

 

あげはは毎日、誰よりも早く起き、誰よりも遅くまで、悲鳴嶼の動きを観察し続けた。

 

「ふうぅぅぅうう……」

 

悲鳴嶼が訓練中に発する、深く、長く、そして重々しい呼吸の音。それはまるで、山そのものが息をしているかのような響きだった。彼の身体から発せられる熱気、踏みしめる地面の振動、そして一挙手一投足に宿る圧倒的な「重み」と「不動」の感覚。あげははそれを、五感を研ぎ澄ませて吸収していく。

「すごい……」

 

独り言のように呟くあげはの瞳は、好奇心と探求心で輝いていた。彼女は、悲鳴嶼の呼吸の際の身体の動き、発せられる音、その一つ一つを、まるで写真に焼き付けるかのように脳裏に刻み込んでいった。

 

ある日、悲鳴嶼の訓練を見ている時、彼の呼吸は、常に安定し、乱れることがないことに改めて気づいた。その一呼吸ごとに、彼の肉体が、さらに巨大な力を生み出しているように見えた。

 

「……これって、こういうこと?」

 

あげはは、悲鳴嶼の動きから感じ取った「何か」を確かめるように、そっと地面に足を置いた。そして、見よう見まねで、彼が呼吸する時に感じた「あの感覚」を再現しようと試みる。

 

深く息を吸い込み、肺の底まで空気を満たす。そして、ゆっくりと、しかし力強く、その空気を吐き出す。すると、体の中の力が、足の裏から地面へと吸い込まれていくような、不思議な感覚に襲われた。まるで、自分が一本の巨大な岩になったかのような、強固な繋がりを感じる。

 

その瞬間、あげはの体から、微かだが、これまでとは異なる “何か” が発せられたのを、悲鳴嶼は感じ取っていた。彼は、瞑目したまま、何も言わなかったが、その口元には、微かな笑みが浮かんでいたのかもしれない。

 

数日後。

 

あげはは、悲鳴嶼が重い岩を押している訓練場に、そっと近づいて行った。彼女の小さな体には不釣り合いなほどの、巨大な岩。それでも、あげはは、先日の感覚を呼び起こすように、その岩に手を当てた。

 

「ふうぅぅぅうう……!」

 

先日の、悲鳴嶼から感じ取った呼吸法を、完璧ではないまでも、彼女なりに再現する。地面に吸い付くように足を踏みしめ、呼吸に合わせて、微動だにしない岩に力を加える。

 

キュッ……と、靴底が地面を擦る音がした。

 

その瞬間、巨大な岩が、僅かではあるが、一ミリほど動いたのだ。

 

「えっ……!」

 

あげはは目を見開いた。彼女自身も、ここまでできるとは思っていなかったのだろう。

 

その様子を、悲鳴嶼は静かに感じ取っていた。

 

「……驚いたな」

 

悲鳴嶼がぽつりと呟いた。普通なら、長い年月をかけてようやく習得できるかどうかの呼吸法の片鱗を、あげははたった数日で、それも「見るだけ」で掴み取ってしまったのだ。

 

「まさか、見るだけで、岩を動かせるようになるとは…。……凄いな」

 

悲鳴嶼はそう問いかけたが、あげはには届いていなかった。彼女はただ、自分が成し遂げた小さな奇跡に、目を輝かせていた。悲鳴嶼は、そんなあげはの頭に手を置き、ポンポン、と撫でた。そのときのあげはは、とても嬉しそうな顔をしていた。

 

しかし、あげははそれから数日後、自分の体に違和感を覚えた。

 

(……なんか、違う。この呼吸、私の体には合わない、気がする……)

 

体は確かに力を発揮した。だが、悲鳴嶼の呼吸が持つ、屈強な肉体を前提とした重厚さが、華奢なあげはの身体には負担になる感覚があったのだ。これは直感的なものだったが、彼女の鋭い勘が、この呼吸が自分にとっての「最適解」ではないことを告げていた。

 

(もっと、私の体でもできるような呼吸をしないと…)

 




はい、オリジナル主人公の「胡蝶あげは」ちゃんの登場です。
しのぶとカナエの親戚ということにしているので、苗字は「胡蝶」にしました。
年齢はカナエの一個下で、芯が強くしっかり者の女の子です。
イメージはこちら↓↓↓
https://img.syosetu.org/img/user/v2/7497/925/222822.jpg
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。