鬼滅の刃 〜星空を舞う蝶〜   作:ありす(旧名:紅茶・ルミエール)

20 / 37
今回が、分水嶺となりますね。

一話で収めたかったんで…、いつもより長めです。


上弦の弍

その日の鬼殺隊本部からの指令は、三姉妹にとって、これまでの任務とは明らかに異なるものだった。鬼の出没件数が異常に増えている地域があり、そこを三手に分かれて徹底的に掃討せよ、という内容だった。

 

「これまでの鬼の数といい、今回の不気味な指令といい、何かがおかしいわ。皆、決して無理はしないで。もし異常を感じたら、すぐに合流すること」

 

カナエが、真剣な表情で二人を見つめた。彼女の瞳には、鬼殺隊士としての厳しさと、姉妹を案じる優しさが同居していた。

 

「分かってるよ!一緒に頑張ろうね!」

 

あげはが、日輪刀を握りしめ、力強く頷いた。彼女の全身からは、これまでの訓練で培った自信が溢れ出ている。

 

「姉さんこそ無理はしないでね。何かあれば、すぐに鴉を飛ばして」

 

しのぶは、カナエの身を案じ、念を押した。三姉妹は、それぞれの担当区域へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

カナエが担当したのは、深い森に囲まれた、人里から最も離れた場所だった。森の中は、鬼の気配が濃厚で、ただならぬ雰囲気に満ちている。カナエは、日輪刀を構え、慎重に足を進めた。

 

その時だった。

 

「おや、こんなところで一人? 美しいお嬢さんだ。こんな夜中に一人で歩くなんて、危険だよ」

 

背後から、柔らかく、しかしどこか不気味な声が聞こえた。カナエは、咄嗟に振り返る。そこに立っていたのは、虹色の瞳を持つ、美しい顔立ちの男だった。

 

「……あなたは、鬼ですね」

 

カナエは、刀を構え、一歩後ずさった。男の放つ気配は、これまで対峙してきた鬼とは、まるで次元が違っていた。

 

「ああ、そうだよ。僕は、上弦の弐。童磨だよ」

 

男は、にこやかに微笑んだ。しかしその笑顔は、人の感情が一切感じられない、空虚なものだった。

 

カナエは、その空虚な笑顔に、全身の毛が逆立つような悪寒を感じた。

 

「上弦……!?」

 

カナエの心臓が、大きく跳ねる。上弦の鬼。それは、鬼殺隊士にとって、まさしく悪夢のような存在だった。

 

「君は上背もあって、美味しそうだなぁ。ねぇ、僕が食べてあげるよ。一緒に永遠の時を過ごすんだ。」

 

童磨は、そう言いながら、両手に扇子を構えた。その扇子は、鋭い刃を隠し持っている。

 

カナエは、童磨の言葉に動揺することなく、冷静に構え直した。

 

「『花の呼吸』 弐ノ型・御影梅!」

 

カナエは、流れるような剣技で、童磨へと斬りかかる。その刃は、童磨の頸を正確に狙っていた。

 

しかし、童磨は、その攻撃を難なく避けた。彼の動きは、優雅で、そして恐ろしいほどに速かった。

 

「お、速いね。でも、無駄だよ」

 

童磨は、扇子を軽やかに振る。その扇子から、冷たい風が吹き出し、氷の結晶がカナエへと襲いかかる。

 

「っ……!」

 

カナエは、咄嗟に攻撃を避け、後ろへと飛んだ。扇によって散布される冷気。それだけでなく、扇は正確に、それでいて素早く、カナエの死角を狙うように繰り出される。童磨の攻撃は、予測不能で、そして致命的なものばかりだった。

 

「『花の呼吸』 陸ノ型・渦桃!」

 

カナエは、高速で回転しながら刀を振るい、渦巻く桃色の斬撃で、童磨の冷気を払う。しかし、童磨は、次々に冷気を生成し、カナエを追い詰めていく。

 

「いいね、いいね! もっと僕を楽しませてよ!」

 

童磨は、無邪気な子供のように、楽しそうに笑う。その笑顔は、カナエの心を、さらに冷え込ませた。

 

カナエは、必死に抵抗する。しかし、上弦の弐である童磨の力は、あまりにも強大だった。童磨の氷の血鬼術が、カナエの肺を少しずつ凍りつかせていく。肺が痛い、呼吸が乱れ、体が重くなる。

 

(駄目……このままでは……!)

 

カナエは、自身の限界を感じ始めていた。その時だった。

 

「姉さん!!」

 

背後から、聞き慣れた声が響いた。カナエは、驚いて振り返る。そこにいたのは、しのぶとあげはだった。

 

「しのぶ! あげは! なぜここに!?」

 

カナエが声を震わせる。童磨の放つ悪寒は、彼女たちにも伝わっていた。

 

「姉さんがおかしいって、言ったでしょう!? 無理しないでって!」

 

しのぶが、憤りにも似た表情で叫んだ。あげはは、無言で日輪刀を構え、童磨へと視線を向けていた。

 

「あら、三人? 一気に増えたね! しかも全員女の子だ!今日はツイてるなぁ!」

 

童磨は、三姉妹を見て、楽しそうに笑う。

 

「ふざけるな、この鬼め!」

 

あげはは、怒りに満ちた声で叫んだ。カナエにまで迫る童磨の空虚な笑顔が、彼女の怒りの導火線に火をつけた。

 

「『星の呼吸』 捌ノ型・星華燎原!」

 

あげはは、童磨へと向かって、渾身の斬撃を繰り出した。その斬撃は、一度では止まらない。最初の斬撃が火種となり、まるで全てを焼き尽くす炎へと成るが如き、怒涛の連続斬り。童磨は少し押され気味になる。

 

「へえ、すごいね! でも……」

 

それでも童磨は、扇子でその攻撃を正確に受け流す。そして、あげはの攻撃を無力化すると、冷たい氷の蔓を生成し、あげはへと襲い掛からせる。

 

「『血鬼術』蔓蓮華」

 

「っ……!」

 

あげはは、咄嗟にそれを日輪刀で受け止めるが、その衝撃で腕が痺れた。童磨の力は、あげはの想像を遥かに超えていた。

 

「まだまだ行くよ!『血鬼術』冬ざれ氷柱」

 

「あげは! 上!」

 

しのぶの声が響く。あげはは、咄嗟に後ろへと飛ぶ。童磨の攻撃は、あげはのいた場所を正確に捉え、そこには鋭い氷柱が刺さっていた。

 

「『虫の呼吸』 蝶ノ舞・戯れ!」

 

しのぶは、童磨へと向かって、高速で突きを繰り出す。その刃には、鬼を殺すための猛毒が仕込まれている。

 

「突き? 面白いね! でも、突きじゃ鬼は殺せないよ」

 

童磨は、しのぶの攻撃を避けながら、嘲笑を浮かべる。しのぶの突きは、童磨の体を捉えきれない。

 

「『花の呼吸』 肆ノ型・紅花衣!」

 

カナエは、童磨の注意がしのぶに向いている隙を突き、背後から斬りかかる。その刃が、童磨の頸を狙うが、童磨は、これもまた難なく避けた。

 

三姉妹の連携は完璧だった。しかし、上弦の弐である童磨の力は、その連携を遥かに上回っていた。

 

「そろそろ飽きてきたな。早く、君たちを食べてあげたいな」

 

童磨は、そう言うと、両手に扇を構え、その扇子から、氷の微細な花弁を生成した。

「『血鬼術』散り蓮華」

その蓮は、三姉妹へと襲いかかる。

 

「きゃあああっ!」

 

「しまっ……!」

 

三姉妹は、その攻撃を避けきれず、氷の嵐に閉じ込められてしまう。

 

「ああ、可哀想に。でも、心配しないで。すぐに楽にしてあげるからね」

 

童磨は、ゆっくりと三姉妹へと近づいていく。その虹色の瞳には、一切の慈悲が見られない。

 

その時だった。

 

「『星の呼吸』 伍ノ型・星落!」

 

あげはが、閉じ込められた氷の蓮を、力ずくで破壊した。彼女は、まるで夜空を舞う星のように、高速で童磨へと斬りかかる。

 

「おや? まだ抵抗するのかい?」

 

童磨は、あげはの攻撃を、再び扇で受け止める。

 

「ふざけるな……! 姉さんたちを、お前なんかに、絶対に渡さない!」

 

あげはの言葉に、童磨は、僅かに興味を持ったようだった。

 

「へえ、君は、本当に美味しそうだね。その強い感情も、僕の栄養になってくれるかな?」

 

童磨は、そう言うと、あげはへと向かって、さらに強力な氷の血鬼術を繰り出した。

 

「『血鬼術』 枯園垂り」

 

童磨は、鋭い氷を生成し、地面を走らせる。あげははその攻撃を、辛うじて受け止めた。

 

「くそっ!」

 

あげはは、童磨の隙のない攻撃に、苦戦を強いられる。

 

「あげは! 私たちが援護します!」

 

カナエが、氷の蓮から脱出すると、しのぶと共に、あげはの援護に回る。

 

「『花の呼吸』 伍ノ型・徒の芍薬!」

 

カナエは、童磨の分身へと向かって、流れるような連続攻撃を仕掛ける。

 

「『虫の呼吸』 蜂牙ノ舞・真靡き!」

 

しのぶは、童磨の本体へと向かって、高速で突きを繰り出す。

 

三姉妹は、再び連携を組んで、童磨へと立ち向かった。童磨は、三人の攻撃を、優雅にかわしながらも、次第に苛立ちの表情を浮かべ始めた。

 

「しつこいなあ。大人しく食べられればいいのに。そろそろ、本当に殺しちゃうよ?」

 

童磨は、そう言うと、周囲にさらに強力な冷気を放ち、三姉妹の動きを鈍らせる。

 

(駄目だ……このままでは、ジリ貧だ……!)

 

あげはは、焦りを感じていた。童磨の力は、あまりにも圧倒的だった。しかし、彼女は、決して諦めない。

 

「夜明けまで……! 夜明けまで、絶対に、姉さんたちを、守り抜く!」

 

あげはは、そう心の中で叫ぶと、再び童磨へと斬りかかった。

 

三姉妹の必死の抵抗は、夜明けまで続いた。夜明けの光が、東の空を赤く染め始める。

 

「おや、もう朝か。可哀想に。もう少し遊びたかったのに」

 

童磨は、残念そうな表情を浮かべた。彼の体は、日の光を浴びると、急速に再生能力が落ちていく。

 

「でも、いいんだ。君たちも、特に、その知らない呼吸を使っていた君は、本当に美味しそうだったから。次こそは、絶対に食べてあげるからね」

 

童磨は、そう言い残すと、姿を消した。

 

静寂が、森を包み込んだ。残されたのは、三姉妹と、童磨が残した冷気だけだった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

三姉妹は、その場にへたり込んだ。全身の傷と、疲労が、彼女たちを襲う。

 

「よかった……みんな、無事だ……」

 

カナエが、安堵の表情を浮かべた。彼女の頬には、涙が伝っていた。

 

「姉さん……」

 

しのぶが、カナエの体を支えた。あげはもまた、全身の痛みに耐えながら、立ち上がろうとしていた。

 

「あげは……ありがとう。あなたのおかげで、私たちは、助かったわ」

 

カナエの言葉に、あげはは、何も言わなかった。ただ、姉の無事を喜び、安堵の息を漏らすだけだった。

 

この戦いは、三姉妹にとって、忘れられないものとなった。上弦の鬼の圧倒的な力、そして、鬼の恐ろしさを、改めて肌で感じた。しかし、同時に、三人で力を合わせれば、どんな強大な鬼にも立ち向かえるという、確かな手応えも得た。

 

そして、あげはは、童磨に目をつけられた。その事実は、彼女の心に、新たな決意を宿した。

 

(絶対に……次に会う時までに、もっともっと強くなって、姉さんたちを守り抜く……!)

 

東の空は、さらに明るくなり、日の光が、傷ついた三姉妹を優しく照らしていた。

 

 




はい、童磨が出てきましたね。今作では、カナエは生存して、柱として活躍します。

3姉妹がこれから先、原作の時間軸でどのように活躍するか。書くのが楽しみです…!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。