鬼滅の刃 〜星空を舞う蝶〜 作:ありす(旧名:紅茶・ルミエール)
その日、私は、縁側で、一人、蝶と戯れていた。
蝶屋敷の庭には、色とりどりの花が咲いていて、そこには美しい蝶たちがいる。
そんな場所へ、1人の男の人が現れた。最近この屋敷に入ってきたらしい。名前は竈門炭治郎。
確か、最終選別の時に見かけたことがある気がする。
炭治郎くんは、私に声をかけてきたが、私は特に何も答えることはしなかった。
…あの質問がされるまでは。
「あの…カナヲは、いつも、どうしてコインで物事を決めているの?」
炭治郎くんは、まっすぐな瞳で私に尋ねた。
「どうでもいいの。全部どうでもいいから、自分で決められないの」
私が、か細い声で答えると、炭治郎くんは、少しだけ悲しそうな表情を浮かべた。
「そうなんだ…。でも、自分で物事を決めるって、とても大切なことだと思う」
炭治郎くんは、そう言って、私に優しく語りかけた。
「…でも、どうやって…」
「カナヲ、そのコインを貸してくれる?」
炭治郎くんは、少し考えた後、私の手のひらに乗っていたコインを、そっと借りた。
炭治郎くんは、「投げるの難しいな…」と言いながら何度もコイントスの練習をしていた。
「このコインが表だったら、カナヲは心のままに生きる!」
そう言うと、炭治郎くんは、そのコインを空高く投げた。
コインは、きらきらと光を放ち、空中で弧を描きながら、ゆっくりと落ちてくる。
私の心臓が、大きく、そして速く、鳴り始めた。
(表…表…! 表が出ますように…!)
私は、生まれて初めて、自分で何かを願っていた。誰かに言われたからではない。コインに言われたからでもない。ただ、自分の心のままに、そう願っていた。
コインは、炭治郎くんの手の中に落ち、軽やかな音を立てた。
炭治郎くんが手を開けると、
表。
コインの表面には、はっきりと、表の文字が刻まれていた。
「よかった! 表が出た!」
炭治郎くんは、心から嬉しそうに、微笑んだ。その笑顔は、まるで、太陽のように、私を温かく照らしてくれた。
「…表、…」
私は、震える声で呟いた。その声は、嬉しさで震えていた。
「頑張れ!人は心が原動力だから!心はどこまでも強くなれる!!」
炭治郎くんは、そう言って、私にコインを返してくれた。
私は、そのコインを、固く握りしめた。もう、このコインを、物事を決めるために使うことはないだろう。このコインは、私に、新しい生き方を教えてくれた、大切な宝物になった。
その日から、私の世界は、色を変えた。
炭治郎くんと話すたびに、私の心は、弾むように跳ねる。彼が、訓練で少しでも苦戦していると、胸が締め付けられるように痛む。彼が笑うと、私も、自然と笑みがこぼれる。
私は、これまで、自分の意思で何かを決めることができなかった。何を食べるか、どう動くか、全てがコインの裏表で決まっていた。それで、何も不自由を感じなかった。それが当たり前だと思っていたから。
しかし、炭治郎くんと出会ってから、少しだけ、私の心に変化が生まれた。
訓練中、私はいつも、炭治郎くんの動きを見ていた。彼の剣は、伊之助くんや善逸くんのように、派手で速くはない。だけど、彼の剣は、他の誰よりも、優しく、そして温かかった。
(どうして、あんなに一生懸命なんだろう)
炭治郎くんは、何度失敗しても、決して諦めない。私や姉様たちの厳しい指導にも、弱音を吐かず、ただひたすらに、前へと進もうとしていた。
彼の瞳は、澄んだ水のようで、その中には、強さと、そして揺るぎない優しさが宿っていた。私は、彼の瞳を見るたびに、胸の奥が、温かくなるのを感じた。
訓練が終わった後も、私は、炭治郎くんのことを考えていた。
姉様たちと、今日の訓練について話す。
「カナヲ、今日の訓練はどうだった?」
カナエ姉さんが、優しく私に尋ねる。
「…竈門くんは、すごい人です」
私は、そう答えた。
「ええ、本当にすごい人ね。私も、あんなに強い心を持った人は、初めて見たわ」
カナエ姉さんは、微笑ましそうに私を見ていた。その視線が、私の胸の奥を、くすぐったくさせた。
(…私、どうしちゃったんだろう)
私は、初めて感じたこの感情に、戸惑いを隠せないでいた。それは、鬼殺隊士としての成長とは、全く違うものだった。
私の感情は、まるで、今まで閉じ込められていた花が、一斉に咲き始めるようだった。
これが、恋というものなのだろうか。
私は、まだ、それを言葉にすることはできないけれど、この温かい感情を、ずっと大切にしていきたいと思った。