鬼滅の刃 〜星空を舞う蝶〜   作:ありす(旧名:紅茶・ルミエール)

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巡回と不穏な気配

その夜、星柱・胡蝶あげはは、いつものように管轄区域の巡回に出ていた。空は濃い藍色に染まり、星の輝きが地上の闇をわずかに照らしている。

 

あげはが巡回していたのは、活気に満ちた街の一角だった。夜遅くまで灯りがともり、人々の話し声や笑い声が絶えない。鬼が出現するような不気味な気配は、どこにも感じられない、平穏な夜だった。

 

(今日も平和そうだね。派手に何事もなくてよかった)

 

あげはは、そう思いながら、建物の屋根を軽やかに飛び移っていた。しかし、その時だった。

 

皮膚を粟立たせるような、ねっとりとした、底知れない嫌な気配が、ふいに彼女の全身を包み込んだ。それは、童磨の放つ冷たい悪寒とは違う、もっと根源的な、存在そのものが罪悪であるかのような、おぞましい気配だった。

 

「っ……!嫌な感じの気配!」

 

あげはは、即座に足を止め、その気配がする方向へと、全神経を集中させた。

 

その気配の元へ、急いで向かう途中、別の方向から、力強い、しかし確かな踏み込みの音が聞こえた。

 

「うむ、この気配!強い鬼がいる可能性が高い!」

 

声の主は、炎柱・煉獄杏寿郎だった。彼の燃えるような瞳は、あげはと同じく、その気配のする方向をまっすぐに見据えていた。

 

「煉獄さん! この気配、ただ事じゃないよ! まるで、世界の底から湧き出てきたみたい…!」

 

あげはが、焦りを滲ませた声で尋ねる。

 

「そうだ! 経験則が、最悪の予感を告げている! 警戒を怠るな!」

 

二人の柱は、瞬時に合流し、その気配の中心へと急いだ。

 

 

 

 

 

二人がたどり着いたのは、活気溢れる街の中心だった。少なくとも、鬼が現れるような場所では無い雰囲気だが、2人の感覚は、ここに気配の根源がいることを示していた。

 

そこの道の端で、数人の大柄で柄の悪い男たちが、一人の細身で色白の男を取り囲んでいた。細身の男は、上品な装いをしていたが、その表情は冷たく、一切の感情が読み取れない。

 

「おい、てめぇ! 人にぶつかっておいて、謝罪の一つもなしかよ!」

 

「すみません。少し下を向いて歩いていたもので」

 

「この服のクリーニング代、派手に高くつくぞ! 誠意を見せろや!」

 

大柄な男たちは、細身の男を恐喝していた。細身の男は、ただ静かに、その男たちを見つめている。

 

その細身の男から、あのおぞましい気配が放たれていた。

 

「あれだ…! あの男が、気配の元だ!」

 

あげはが、日輪刀の柄を握りしめる。

 

しかし、二人が動くより早く、事態は急変した。

 

恐喝していた大柄な男たちが、突然、苦悶の声を上げ始めた。

 

「がああああああああ! 身体が、熱い! 痛い!」

 

地面に倒れ、苦悶の表情を浮かべる男達の体は、見る見るうちに醜く歪み、血管が浮き上がり、鬼へと変貌していった。

 

「なっ……! 鬼化した!」

 

あげはは、その光景に驚愕した。鬼にされる瞬間を、目の前で見たのは初めてだった。まるで、誰かの意図的な力によって、人間が鬼へと変えられたかのようだった。

 

鬼へと変貌した男たちは、そのまま周囲の人々へと襲いかかろうとした。突然の出来事に、周りの人々はぱにっくになって逃げ惑っている。このままでは鬼の被害が増えてしまう。

 

「させるか!」

 

煉獄が、轟音と共に動いた。

 

「『炎の呼吸』 壱ノ型・不知火!」

 

煉獄の刀が、炎の軌跡を描きながら、鬼化した男たちへと斬りかかる。その一撃は、大地を揺るがすほどの破壊力を持っていた。

 

「『星の呼吸』 壱ノ型・流星!」

 

あげはも、煉獄に遅れを取るまいと、一気に踏み込んで斬撃を繰り出した。

 

 

二人の柱の圧倒的な力の前で、鬼になったばかりの男たちは、為す術もなく、瞬時に頸を斬られ、塵となって消滅した。対処が早かったおかげで、怪我人は、鬼化した男達以外いなかった。

 

 

 

戦闘は、一瞬で終わった。

 

しかし、あげはと煉獄の視線は、まだ現場に残っていた。彼らの視線が向かう先は、鬼化した男たちを取り囲んでいた細身で色白の男だった。

 

男は、自分の目の前で人間が鬼になり、そして柱によって斬り殺されるという、常軌を逸した光景を目の当たりにしたにもかかわらず、一切の動揺を見せていなかった。

 

「…煉獄さん。あいつ、あの男、あまりにもおかしいよ」

 

あげはが、声を潜めて言った。

 

「うむ。常人ならば、悲鳴を上げ、逃げ惑うはずだ。だが、あの男からは、一切の恐怖や驚愕の感情が感じられない」

 

煉獄もまた、その男の異常性に気づいていた。

 

その男は、静かに、そしてゆっくりと、彼らに背を向けた。そして、一切振り返ることなく、人混みの中へと消えていった。

 

「待て!」

 

煉獄があわてて追いかけようとするが、人混みの中に消えた男の姿を捉えることはできない。そして、あのおぞましい気配も、霧散するように消えていった。

 

「くっ……逃がしたか!」

 

煉獄は、悔しそうに拳を握りしめた。

 

あげはは、消え去った男が立っていた場所を、ただ見つめていた。

 

「煉獄さん。あの男が、あの男が、鬼の元凶なのでは…」

 

あげはの言葉は、確信に近かった。あの、底知れない、存在そのものが罪悪であるかのような気配。そして、彼の目の前で起きた、人間から鬼への急激な変貌。

 

「うむ。あの男は、我々の知る、いかなる鬼とも異なる。あれは、極めて危険な存在だ」

 

煉獄の表情は、いつになく厳しいものだった。

 

「今回の件、直ちにお館様にご報告しなければならない。あの男の情報を、一刻も早く、鬼殺隊全体で共有する必要がある」

 

二人の柱は、その夜、人類の敵の元凶である鬼舞辻無惨の、人間界に紛れた姿を、知らず知らずのうちに目撃してしまった。

 

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