鬼滅の刃 〜星空を舞う蝶〜   作:ありす(旧名:紅茶・ルミエール)

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遊郭(3)

吉原遊郭、京極屋。

 

胡蝶あげはは、宇髄天元と善逸の強引な策略により、善逸の「おまけ」という形で、この店に潜入することになった。

 

 

 

潜入して数日が経つが、店の中は、華やかさと喧騒に包まれており、一見しただけでは鬼の気配は感じられない。

 

京極屋での二人の仕事は、主に座敷での芸事と、花魁たちの身の回りの世話だった。

 

あげはは、持ち前の器用さと、宇髄から最低限教わった三味線の弾き方を必死に練習し、その容姿の美しさも相まって、すぐに座敷の客の視線を集めるようになった。

 

一方の善逸は、女装の不細工さにも関わらず、その絶対音感と天性の才能により、三味線では抜きん出た実力を発揮していた。

 

 

 

座敷の隅で、二人は並んで三味線を弾いている。

 

「あの娘、最近入った子? 三味線うまいわね」

 

客たちの囁きが聞こえる。その視線は、ほとんどが善逸の見事な演奏技術に向けられていた。

 

「そうね、すごい迫力。でも、不細工よねぇ、よく入れたわね、このお店に……」

 

だが、善逸の容姿に対する容赦ない評価も、同時に聞こえてくる。

 

(っ……見返してやる…! あの男……! アタイ、絶対この京極屋の花魁になる!!)

 

善逸は、心の中で怒りと決意を燃やしながら、三味線の弦を激しく弾いた。その音色は、彼の怒りと悔しさが乗り移ったかのように、荒々しく、しかし圧倒的な迫力を持っていた。

 

(善逸くん……三味線は上手だけど、凄い迫力だね「

 

あげはは、隣で一生懸命、基本的な音階を弾きながら、善逸を若干引いた目で見つめていた。善逸の顔は、女装の化粧の下で、悔しさと怒りで歪んでいる。彼の集中力は、凄まじいものがあった。

 

あげは自身も、善逸の隣で弾き続けていると、その容姿の美しさと、必死に努力する姿が、客の視線を集めた。善逸の圧倒的な技術と、あげはの必死な努力と美貌。この二人の組み合わせは、京極屋の中でも、一種異様な注目を集めていた。

 

 

 

夜が深まり、座敷の仕事が一段落ついた後。あげはと善逸は、廊下の隅で、人目を忍んで任務の状況について話し合っていた。

 

「ねえ、あげは様。おかしいですよ、この店」

 

善逸は、周りの目線を気にしながら、小声で言った。

 

「何か気になることでもあったの?変な気配を感じたとか?」

 

「いや、それが逆なんだ。鬼の音が、全然しない。まるで、ここに鬼なんていないみたいに、静かなんだ。それに、周りの人達の顔も、なんだか暗い気がする」

 

善逸の絶対音感は、鬼の存在を感じ取る上で、他の隊士にはない鋭い武器となる。その彼が、「音がしない」と訴えるのは、逆により強力な鬼が、その気配を完全に隠していることを意味していた。

 

 

「嫌な予感だね。気配がしないってことは、私たちに気づかれないように、どこかに隠れているってことだ。善逸くん、気を引き締めよう」

 

あげはは、冷静に周囲の気配を探った。彼女の直感も、この店が何かがおかしいと訴えていた。

 

 

その時だった。善逸の耳が、微かな音を捉えた。

 

「ん?……女の子の、泣き声だ」

 

善逸は、立ち上がり、その音がする方へと駆け出した。あげはも、無言で彼に続いた。

 

二人が辿り着いたのは、普段は使われていない、薄暗い部屋の前だった。中から、すすり泣く声が聞こえる。

 

部屋の中では、一人の年若い女中が、散らかった部屋の片付けを命じられ、その重圧に耐えかねて泣いていた。

 

「泣かないで。どうしたの?」

 

炭治郎から学んだ優しさで、善逸が女中を慰めようと声をかける。あげはも、優しくその女中の肩に手を置いた。

 

「大丈夫だよ。私たちも手伝うから、一緒に片付けよう」

 

その瞬間、二人の背後から、何の音も、気配もなく、冷たい声が響いた。

 

 

 

「アンタたち、人の部屋で何してんの?」

 

その声は、遊女の華やかさとは裏腹に、背筋が凍るような冷たさを持っていた。

 

善逸とあげはは、全身の毛が逆立つほどの強い危機感を覚え、同時に振り向いた。

 

そこに立っていたのは、京極屋の最高位の花魁、蕨姫花魁だった。彼女は、あまりにも美しく、そしてその美しさの裏に、底知れない、恐ろしい威圧感を秘めていた。

 

善逸は、全く音がしなかったことに戦慄した。この距離にいるのに、足音も、呼吸音も、心臓の鼓動すらも、何も聞こえない。それは、人間ではない、鬼であることを示していた。

 

あげはもまた、持ち前の鋭い直感が、この女性が鬼であること、そして、その鬼が上弦の鬼である可能性が高いことを、即座に悟った。

 

「オイ、耳が聞こえないのかい」

 

蕨姫花魁は、苛立ちを隠さずに、冷たい声で再度尋ねた。

 

その時、外で待機していた別の女中たちが、慌てて弁明した。

 

「わ、蕨姫花魁様! この子たちは、昨日か一昨日から入ったばかりで、何も知らなくて…」

 

「は? だったら何なの?」

 

蕨姫花魁の返答は、容赦なかった。その一言は、女中たちを怯えさせた。

 

蕨姫花魁は、泣いている女中の耳を掴み、力任せに引っ張った。

 

「五月蝿い!泣く暇があるなら、早くこの部屋を片付けな!」

 

 

女中が悲鳴を上げる。

 

その光景に、善逸の中に宿る正義感が、彼を突き動かした。

 

「や、やめてください!」

 

善逸は、思わず蕨姫花魁に向かって声を上げ、一歩踏み出した。

 

蕨姫花魁は、その動きに気づき、冷たい視線を善逸に向けた。

 

「アンタ…、隣にいる娘は、顔は綺麗だけど……アンタは不細工だね」

 

そう言い放つと、蕨姫花魁は、目にも留まらぬ速さで、その細い腕を振り上げた。

 

ドッ!

 

善逸は、何の予備動作もなく、ただ、凄まじい衝撃を受け、壁の向こうへと一撃で吹き飛ばされた。

 

「善逸くん!」

 

あげはが、悲鳴に近い声を上げた。

 

善逸は、体幹を鍛えていたため、無意識のうちに上手く受け身を取ることができた。しかし、その衝撃は凄まじく、彼はそのまま意識を失った。

 

蕨姫花魁は、意識を失った善逸を見て、ふんと鼻を鳴らした。

 

「さっさと片付けな!」

 

「は、はい!」

この光景を見せられた少女達は、急いで片付けを開始した。蕨姫花魁は、一連の出来事が不快だったのか、どこかへ行ってしまった。

 

(さっき吹き飛ばした不細工、受け身をとりやがった…。鬼殺の隊士か、それも大して強くない。柱ではない)

 

彼女は、善逸が鬼殺隊士であること、そしてその実力も、一瞬で見抜いていた。

 

 

 

そして、隣で駆け寄るあげはの事も思い出した。

 

(そこの綺麗な娘も、大したことないだろう。まあ、いいや)

 

蕨姫花魁は、あげはの事を大して、気にする事は無かった。

 

 

 

あげはは、蕨姫花魁の恐ろしいほどの威圧感と、その一撃の威力に、全身の震えを抑えられなかった。

 

(今のが……上弦の鬼。間違い、ない……!)

 

 




このシーンの善逸、男前でカッコいいですよね…!
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