鬼滅の刃 〜星空を舞う蝶〜 作:ありす(旧名:紅茶・ルミエール)
約一年半にも及ぶ、岩嶋玄斎の元での厳しい修行を終えた胡蝶あげはは、新たな決意を胸に、藤襲山へと向かっていた。
「あげはよ、本当に頑張ったのう。ワシに教えられることはもう何もない」
出発の際、玄斎はそう言って、優しくあげはの頭を撫でた。その目には、教え子の成長を見守る、温かい光が宿っていた。
「玄斎様、本当にありがとうございました! 私、玄斎様が教えてくれたこと、絶対に忘れません!」
あげはは深々と頭を下げた。玄斎はただにこやかに頷くと、小さく呟いた。
「お主なら、きっと、己の道を見つけるじゃろう。そして、大切なものを、その手で守るのじゃ」
その言葉を胸に、あげはは最終選別の地、藤襲山へと足を踏み入れた。
季節は春。山には藤の花が咲き乱れ、夜にもかかわらず、その妖しい光があたりを照らしていた。しかし、この美しい光景が、鬼を閉じ込めるための檻であることを、あげははよく理解していた。
「……ここから、七日間。生き残れば、鬼殺隊士の証が与えられる」
選別の始まりを告げる産屋敷の子供たちの声が、静かな山に響き渡る。あげはは深く息を吸い込んだ。体中の血液が沸騰するように熱くなるのを感じる。これが、玄斎から教わった『星の呼吸』。普段は静かに、しかし有事には流星の如く爆発的な力を生み出す、彼女だけの呼吸だ。
山に入ってすぐ、低級な鬼が襲いかかってきた。「グヘヘ……、うまそうな奴が来たなぁ……」陰惨な笑みを浮かべる鬼に、あげはは落ち着いて日輪刀を抜いた。それは玄斎から借りた、彼女の体格には少しだけ幅の広い刀だ。
「『星の呼吸』壱ノ型・流星!」
地面を強く踏み締める。全身の力が足の裏に集中し、次の瞬間、あげはの体は地面を弾丸のように蹴り出し、流星の如き速度で鬼の懐へ飛び込んだ。逆袈裟に振り抜かれた刀が、鬼の首を正確に斬り飛ばす。
ドシュッ、と不気味な音がして、鬼の頸が宙を舞った。それは、玄斎の教えと、あげは自身の研ぎ澄まされた勘が融合した、初めての実戦だった。
(よし……いける!)
手応えを感じながら、あげははさらに山の奥へと進んでいく。次々と現れる鬼たちを、流星の如き速さで捌いていく。疲労は蓄積していくが、精神は研ぎ澄まされ、その度に『星の呼吸』が体に馴染んでいくのを感じていた。
選別が始まって三日目の夜。あげはは、深い森の中で、複数の鬼に囲まれている二つの人影を見つけた。そのシルエットに見覚えがあり、あげはの心臓が大きく跳ねた。
「カナエお姉ちゃん! しのぶ!」
あげはは思わず叫びながら、その場へ駆け出した。
「あげは!?」
先に気づいたのは、胡蝶カナエだった。彼女の藤色の瞳が、驚きに見開かれる。その隣で、胡蝶しのぶもまた、信じられないものを見るかのようにあげはを見つめた。二人の顔には、数日間の選別の疲労がにじみ出ていたが、その眼差しには確かな光が宿っていた。
「なんで……あげはがここに!?」
しのぶが驚きに声を上げる。その声には、驚きと、ほんの少しの安堵が混じっていた。
「私も、鬼殺隊に入るって決めたから! 二人について行きたかったんだもん!」
あげははそう言いながら、躊躇なく二人の間に割って入った。鬼は四体。どれも異形な姿をした、そこそこの強さを持つ鬼だ。
「あげは、危ない!」
カナエが叫ぶ。その声には、妹を案じる気持ちが強く込められていた。しかし、あげはは既に刀を構えていた。
「大丈夫! 私、もう弱いあげはじゃないよ!」
そう言い放つと、あげはは迷いなく一体の鬼へと飛び込んだ。
「星の呼吸! 壱ノ型・流星!」
あげはの体が瞬く間に鬼の懐に潜り込み、鋭い逆袈裟が鬼の頸を正確に捉えた。しかし、鬼もただではやられない。最後の足掻きで、鋭い爪が彼女の腕を狙う。
その瞬間、ひらり、と一陣の風が舞った。
「『花の呼吸』 肆ノ型・紅花衣!」
飛び込んできたカナエの刀が、あげはの腕を狙った鬼の爪を弾き飛ばし、そのまま流れるような一撃を鬼の胴に叩き込む。その優雅な動きは、まるで天女が舞うかのように美しかった。
「助かった、カナエお姉ちゃん!」
「無茶しないで!」
カナエは心配そうな声を上げながらも、すぐに別の鬼へと向かう。あげはの援護を受け、彼女の動きはより洗練されていた。
もう一体の鬼には、しのぶが対応していた。
「『蟲の呼吸』蝶ノ舞・戯れ」
しのぶが、蝶のように舞い、鬼の視界から一瞬で消える。そして、鬼の背後に回り込んだ時には、鬼の体に幾つもの突きが撃ち込まれていた。毒が鬼の身体に浸透し、その動きを鈍らせていく。
「くそっ……! なんだ、この毒は……!」
鬼が苦悶の声を上げ、その体は崩れていった。
しかし、まだ戦いは終わっていなかった。しのぶの後ろから、もう一体の鬼が飛びかかってきたのだ
あげはは、それを見逃さずに飛び込んだ。
「『星の呼吸』 参ノ型・天降!」
あげはは、鬼の頭上へと一気に跳躍する。重力すらも味方につけたかのような落下突きが、隕石のごとき勢いで鬼の頭部に迫る。鬼は必死に腕を上げて防御しようとするが、あげはの一撃はそれを易々と貫き、深々と突き刺さった。
ドゴォッ!
という鈍い音と共に、鬼の身体が地面に叩きつけられる。瞬く間に、三体の鬼の動きが止まった。
残る一体の鬼は、カナエとしのぶが協力して仕留めた。カナエの優雅な斬撃と、しのぶの精密な毒が、完璧な連携を見せていた。
夜の森に、再び静寂が訪れた。
三人は、息を整えながら互いを見つめ合った。あげはの目には、涙がにじんでいた。
「カナエお姉ちゃん……しのぶ……!」
「あげは……本当に大きくなったね」
カナエはあげはを抱きしめ、優しく頭を撫でた。しのぶもまた、複雑な表情を浮かべながらも、そっとあげはの背中に手を回した。
「馬鹿ね……心配したんだから……!」
口ではそう言いながらも、しのぶの目にも、安堵の光が浮かんでいた。
残りの選別期間も、三人は協力し合いながら生き抜いた。あげははカナエとしのぶの援護を受け、自身の『星の呼吸』をさらに磨いていく。カナエとしのぶもまた、あげはの想像を超える成長と、時に見せる天賦の才に目を見張った。
七日間の選別が終わり、藤襲山を出た時、三人の顔には、深い疲労と、それ以上に確かな達成感が満ちていた。合格者は、数十人いた候補者のうち、わずか五人。胡蝶あげは、胡蝶カナエ、胡蝶しのぶ、もその中に含まれていた。
「これで、私たち、鬼殺隊士だね……!」
しのぶが感慨深げに呟く。カナエは、朝日の昇る空を見上げ、静かに微笑んだ。
「うん。でも、これからが本当の始まりだね」
あげはは、二人の手をそっと握った。彼女の髪飾りにある、星屑のような光が、月の光を受けてかすかに瞬いた。それは、三人が共にいることの誓いの輝き。
「うん! 私たち三人で、鬼からたくさんの人を守ろうね!」
あげはのまっすぐな言葉に、カナエとしのぶは強く頷いた。
「ええ、もちろんよ」カナエの優しい声が響く。
「……当然でしょ」しのぶの、いつものぶっきらぼうながらも、どこか嬉しそうな声が続いた。
まだ少し暗い空には、無数の星々が輝いていた。
まるで、これから鬼殺隊として共に戦っていく三人の未来を、祝福しているかのように。
はい、独自解釈盛り盛りの最終選別でした。
ここで、3人が再開するんですね。最後の方に、蝶の写真髪飾りに関する描写があると思いますが、これは3人に共通する髪飾りが、3人の繋がりを表しているって感じです。(原作でもカナヲに関する描写であったような……)
間違ってたら、ごめんなさい