鬼滅の刃 〜星空を舞う蝶〜 作:ありす(旧名:紅茶・ルミエール)
最終選別の七日間を生き抜いた四人の合格者は、夜明けの藤襲山で産屋敷の子供たち――白髪と黒髪の、どこか神秘的な雰囲気を纏う二人――に迎えられた。彼らの前に、均等に並べられた原石の山。
「これより、皆さんの日輪刀を打つための玉鋼を選んでいただきます。日輪刀は、鬼を滅する唯一の武器。より自身に合ったものを選ぶように」
そう告げられ、カナエ、しのぶ、あげはは顔を見合わせた。
「どれが良いと思う?」カナエが優しく尋ねる。
「私には、どれも同じに見えるんだけど……」しのぶは不満げに腕を組んだ。
あげはは、一つ一つの原石にそっと触れていく。ひんやりとした感触、表面のざらつき、その奥に宿る「気」。
玄斎の元で身につけた、わずかながらも研ぎ澄まされた感覚が、彼女の指先を導く。
(これは……違う)
(これも……ちょっと違うな)
いくつかの原石を触っていくうちに、あげはの指が、ある一つの原石の上で止まった。それは、他と比べて特別輝いているわけでもなく、むしろ地味な見た目の石だった。しかし、あげはの指先から、その石の奥深くに、まるで小さな星が瞬いているかのような微かな「気」を感じ取ったのだ。
「私、これにする!」
あげはが選んだ石に、カナエとしのぶも興味深げに目を向けた。
「へぇ、あげはが選んだのなら、きっと良いものね」カナエが微笑む。
しのぶは眉をひそめて、あげはが選んだ石をじっと見つめる。
「ふうん……私にはただの石にしか見えないんだけど」
そんなしのぶの言葉を他所に、あげはは選んだ石を抱きかかえるようにして、満足げな表情を浮かべていた。三人がそれぞれ石を選ぶと、隠達がそれを大切に布で包んでいった。
最終選別を終えたあげはは、まず岩嶋玄斎の元へ戻った。無事を報告し、鬼殺隊士としての第一歩を踏み出したことを伝えるためだ。
「玄斎様! ただいま戻りました!」
勢いよく引き戸を開け放つと、玄斎は縁側で穏やかに茶をすすっていた。あげはの姿を見ると、彼の表情に柔らかな笑みが浮かぶ。
「ほう、無事に戻ったか。合格おめでとう、あげは」
「はい! 玄斎様のおかげです! 私、頑張りました!」
あげはは満面の笑顔で報告した。玄斎は満足げに頷くと、日輪刀を打つ玉鋼を選んだことや、最終選別での出来事を詳しく聞いてくれた。あげはが『星の呼吸』を実戦で使ったこと、そしてカナエとしのぶと再会し、協力して鬼を討伐したことを話すと、玄斎は大きく頷いた。
「うむ。お主は間違いなく、鬼殺隊士の器じゃ。カナエ殿やしのぶ殿と再会できたのも、きっと何かの縁じゃろう。鬼殺隊は一人では戦えん。仲間との絆を大切にするのじゃぞ」
玄斎の言葉に、あげはは改めて決意を新たにした。
玄斎の元で数日を過ごし、心身の疲れを癒したあげはの元に、隊服を作る縫製係の隠が訪れた。
そこにいたのは、背が高く、猫背気味で、度の強い眼鏡をかけた青年――前田まさおだった。彼の顔には、どこか怯えたような表情が貼り付いており、あげはの姿を見るなり、びくりと肩を震わせた。
「あ、あなたが、胡蝶あげはさんですね……! お待ちしておりました!」
まさおは、過剰なまでに丁寧な態度であげはを迎えた。彼の視線は、あげはの細い身体をちらちらと窺っている。
「はい、胡蝶あげはです。隊服と日輪刀を受け取りに来ました」
あげはがまっすぐに見つめると、まさおは更に怯えたようにどもり始めた。
「は、はい! 隊服ですね! ええと、採寸をさせていただきますので、こちらへどうぞ!」
まさおは、恐る恐るあげはを採寸台に案内した。彼は、以前しのぶに胸元が露わになる隊服を渡し、激怒したしのぶによって目の前で隊服を燃やされた、という恐ろしい過去を持っていた。その記憶は、彼の心に深いトラウマを刻みつけていたのだ。
(胡蝶しのぶさんのご親戚……恐ろしい……! しのぶさんのように、もしこの子が不満を抱けば、またあの地獄が……! いや、待て。これはチャンスではないか? しのぶさんが怒ったのは、胸元が露わになったことだ。ならば……!)
まさおの頭の中で、必死の計算が繰り広げられた。彼は、しのぶの怒りを避けるために、そして自身の保身のために、あげはの隊服に「ある工夫」を凝らすことを決意した。
「ええと、では、失礼します……」
まさおは震える手であげはの採寸を始めた。胸元は、他の女性隊士と同じ、ごく普通の形に。しかし、スカート丈になると、まさおの顔つきは一変した。彼は、あげはの足元を何度も測り直し、ニヤリと不気味な笑みを浮かべた。
(よし……胸元は普通で問題ない。だが、スカート丈は極限まで短くする。これなら、しのぶさんにも文句は言われないはずだ……! いや、むしろ、動きやすいと喜ばれるかもしれない! 天才だ、僕は!)
まさおは、そう心の中で叫び、満足げに採寸を終えた。
数日後。
真新しい隊服を身につけたあげはは、目の前の姿見に映る自分を見た。羽織はいつもの藤色のものだが、隊服は驚くほど動きやすい。
(おおー! これなら、足捌きも自由にできるし、最高だ!)
あげはは、ミニスカートの隊服に大満足だった。彼女の「星の呼吸」は、その性質上、素早い踏み込みと身体の捌きが重要になる。極端に短いスカート丈は、まさにその動きを邪魔しない、最適なデザインだと感じたのだ。胸元も、至って普通。まさおの配慮(とトラウマ)の賜物である。
この時、まさおの策が、巡り巡ってあげはにとって最高の機能性を生み出したことを、彼は知る由もなかった。後に胡蝶姉妹と再会した際、この隊服の短さにしのぶが激怒し、またしてもまさおがボコボコにされる未来が待っていることも、もちろん彼は知らない。
隊服を受け取った後、今度はあげはの元に日輪刀を打った刀鍛冶が尋ねてきた。その男は、どこか知的な雰囲気を放つ刀鍛冶だった。
「胡蝶あげは殿ですね。私の名は鉄ノ内鉄之助(てつのうち てつのすけ)と申します。お預かりしていた玉鋼で、刀を打たせていただきました」
鉄之助は、深々と頭を下げた。彼は、刀身を布で包んだ日輪刀を、丁重にあげはの前に差し出す。
「これが……私の刀……!」
あげはは緊張しながら、その刀を受け取った。手に取ると、ずっしりとした重みが伝わってくる。鞘からゆっくりと刀身を引き抜く。その瞬間、刀身に微かな光が走り、みるみるうちに色を変えていく。
キィン……と、金属が響くような、澄んだ音がした。
刀身は、まるで満点の夜空を閉じ込めたかのような、深い藍色へと変化した。その中に、無数の星々が瞬くかのように、銀色の光の粒が散りばめられている。
「……っ!」
あげはは息を呑んだ。それは、彼女の『星の呼吸』を象徴する、まさに唯一無二の輝きを放っていた。
「なんと……こんなに美しい色に変化するとは……!」
鉄之助も、その美しさに驚嘆の声を上げた。日輪刀の色は、使い手の呼吸や才能によって様々だが、これほど夜空を思わせる色は珍しい。
あげはは、その美しい藍色の刀を、両手で大切に抱きしめた。
(私の刀……これなら、鬼をたくさん倒せる!)
彼女の胸には、鬼殺隊士としての誇りと、大切なしのぶとカナエを守るという強い決意が、改めて燃え上がっていた。
はい、「ゲスメガネ」こと縫製係の隠、前田まさおが出てきましたね。しのぶがまさおが縫製した隊服を燃やしたという話から、今回のような展開にさせていただきました。自分で言うのもなんですが…、流石に短すぎるスカートはアウトですかね?
ご意見お待ちしてます。