鬼滅の刃 〜星空を舞う蝶〜   作:ありす(旧名:紅茶・ルミエール)

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遂に、十二鬼月と戦います。


豊穣への贄(1)

漁港での任務を終えて以降、胡蝶三姉妹は鬼殺隊士として目覚ましい活躍を見せていた。彼女たちの連携は日を追うごとに洗練され、個々の技量も飛躍的に向上していく。カナエの優美にして強力な「花の呼吸」、しのぶの神速にして精緻な「蟲の呼吸」、そしてあげはの予測不能な「星の呼吸」。三者三様の呼吸法が織りなす剣技は、どんな鬼をも確実に追い詰めた。

 

その活躍は、瞬く間に鬼殺隊内部に知れ渡り、彼女たちの階級は破竹の勢いで上昇していった。癸、壬、辛、庚、己、戊、丁、丙、乙……と、鬼を討伐するごとに階級を示す文字が刻まれ、その度に彼女たちの胸には、新たな使命感が宿る。そして、幾多の死線を潜り抜け、血と汗と涙を流す中で、三人はついに最高位である「甲」まで昇り詰めた。

 

彼女たちの名は、鬼殺隊を統べるお館様、**産屋敷耀哉(うぶやしき かがや)**の耳にも届いていた。彼は、まだ幼い娘たち――白髪と黒髪の、どこか神秘的な雰囲気を纏う二人――の報告を聞くたび、静かに、しかし深く頷いていた。

 

「胡蝶の娘たちか……。素晴らしい働きだね。きっと、行冥も喜んでいることだろう」

 

耀哉は、遠い目をしながら、慈しむような声で呟いた。その声には、深い安堵と、未来への希望が込められているようだった。

 

その頃、すでに「柱」の一角を担っていた悲鳴嶼行冥は、胡蝶三姉妹の活躍の報告を受けるたび、その巨大な体躯を震わせ、静かに涙を流していた。

 

「南無阿弥陀仏……。三人とも、健やかに育ち、強き鬼殺隊士となったか……。あの子たちが、無事で、そしてこの世のために尽くしてくれている。これ以上の喜びがあろうか……」

 

悲鳴嶼は、過去に救えなかった子供たちへの贖罪の念を抱きながらも、今を生き、鬼と戦う胡蝶三姉妹の成長を心から喜んでいた。彼らの存在は、悲鳴嶼にとって、わずかながらも心の光となっていた。

 

 

 

そんなある日、鬼殺隊本部から緊急の指令が下された。

 

「カーーーーッ!胡蝶カナエ!胡蝶しのぶ!胡蝶あげは!十二鬼月ノ討伐ヲ命ズル!カーーーーッ!北東ノ山奥!豊穣ノ農村ニ潜ム十二鬼月ノ討伐!多クノ鬼殺隊士ガ命ヲ落トシタ強敵!心シテ向カエ!カーーーーッ!」

 

あげはの肩に止まっていた鈴蘭が、これまでにないほど緊迫した声で告げた。十二鬼月。それは、鬼舞辻無惨直属の配下であり、その圧倒的な力で数多くの鬼殺隊士を葬り去ってきた、鬼殺隊にとって最も危険な存在だ。中でも、「下弦の参」という響きは、三人の心に重くのしかかった。

 

「十二鬼月……ついに来たわね」

 

カナエの表情は引き締まり、その瞳には強い光が宿っていた。しのぶは、静かに日輪刀の柄を握りしめる。彼女の指先が、わずかに白くなっている。

 

「十二鬼月だろうと、鬼は鬼。必ず頸を斬るわ。どんな手を使おうと、絶対に……!」

 

あげはもまた、全身に緊張が走るのを感じた。しかし、恐怖よりも、今度こそ強大な鬼を倒せるという高揚感の方が大きかった。彼女の心臓が、激しく高鳴る。

 

三人はすぐに身支度を整え、鈴蘭が示す北東の山奥へと足を踏み入れた。数日の道のりを経て、彼女たちは目的の農村に辿り着いた。

 

農村は、奇妙なほど豊かだった。季節外れの豊作を迎えたかのように、畑には青々と作物が実り、果樹にはたわわな実がなっていた。村人の顔には、不自然なほどの笑みが浮かんでいる。その笑みはどこか虚ろで、瞳の奥には深い影が宿っていた。まるで、何かに囚われているかのような、生気のない表情だった。

 

「おかしいわね……こんなに豊かなのに、村人たちの顔には、活気がない」

 

カナエが眉をひそめて呟いた。その違和感は、村に足を踏み入れた瞬間から感じ取っていたものだ。

 

「ええ、まるで作り物の笑顔のようね。まるで、何かに支配されているみたいな……」

 

しのぶが鼻をすすり、警戒を強める。彼女の鋭い嗅覚が、村全体に蔓延する異様な匂いを捉えていた。

 

村の奥へと進むにつれて、違和感は確信へと変わっていった。豊穣の陰に隠された、おぞましい真実。村人たちは、鬼の居場所を尋ねる三人に、妙な視線を向ける。その瞳には、恐怖と諦めが入り混じっていた。そして、ある村人が、震える声で告げた。

 

「お、おやしき……様……」

 

村の最も奥、ひときわ巨大で、不気味なほどに華美な屋敷。そこから、十二鬼月の邪悪な気配が濃厚に漂っていた。その気配は、これまで対峙してきたどの鬼よりも、深く、底知れないものだった。

 

三人は、屋敷の門を潜る。そこは、まるで温室のようだった。様々な植物が所狭しと生い茂り、異様なまでに生気が満ちている。しかし、その植物たちは、どこか不気味な形に変質していた。うねるツタ、鋭い棘、肥大化した花弁。生命の力が、歪んだ形で発現しているようだった。

 

「よくぞ来たな、鬼殺隊」

 

その時、屋敷の奥から、ゆらりと女性の影が現れた。彼女は、優雅な着物を身に纏い、顔立ちは整っているが、その瞳は冷酷で、底知れぬ悪意を宿していた。頭からは、まるで穀物の穂のような飾りが生えている。その姿は、美しくも、同時にぞっとするほど不気味だった。

 

「私が、十二鬼月・下弦の参、穀女(こくめ)。この村の豊穣の主だ。私に逆らう愚か者どもめ」

 

穀女は、扇子で口元を隠し、嘲るように微笑んだ。その声は、甘美ながらも、毒を含んでいるようだった。

 

「あんたが、この村から生贄を捧げさせて、この豊穣を操っているのね! 許さないわ! 人の命を弄ぶなど……!」

 

しのぶが激しい怒りを露わにする。彼女の瞳には、鬼への憎悪が燃え上がっていた。その憎しみは、決して消えることのない炎のようだった。

 

「ふふふ……許さない、だと? 愚かな人間どもめ。私に生贄を捧げれば、これほど豊かな村になるのだ。何が不満だ? 飢えに苦しむこともなく、毎日満腹でいられる。これ以上の幸福があろうか。お前たちは、飢えを知らぬからそんな綺麗事が言えるのだ」

 

穀女は、歪んだ価値観を押し付けた。その言葉には、鬼としての傲慢さが滲み出ていた。

 

「そんなものが、幸福なわけないでしょ! 人間は、生きてるだけで幸せなのよ! あんたが、その命を奪って何になるのよ! どれだけの悲しみが生まれているか、分からないの!?」

 

カナエが、珍しく声を荒げた。彼女の優しさの裏にある、鬼への強い怒りが爆発寸前だった。その声は、屋敷中に響き渡る。

 

「犠牲を伴う豊穣など、まやかしよ! こんな歪んだ世界、私たちが終わらせてやる! あんな虚ろな笑顔で、何が幸せだっていうのよ!」

 

あげはもまた、胸に込み上げる憤りを抑えきれずに叫んだ。商店街で見た、あの純粋な笑顔を思い出す。この鬼は、その笑顔を奪い、偽りの幸福を押し付けている。

 

「生意気な小娘どもめ……ならば、その身をもって、私の血鬼術を味わうがいい! お前たちの命も、この豊穣の糧としてくれよう!」

 

穀女が手を翳すと、屋敷中の植物が、まるで生きているかのようにうねり出した。太いツタが蛇のように地面を這い、鋭い棘を持つ葉が、獲物を狙うように広がる。そして、肥大化した花弁からは、強烈な毒の胞子が吹き出した。屋敷全体が、生きた牢獄へと変貌する。

 

「植物を操る血鬼術……!しかも、毒まで!」

 

しのぶが即座に毒の匂いを嗅ぎ取り、警戒する。毒の胞子は、皮膚に触れるだけでも爛れさせ、吸い込めば呼吸器を蝕むだろう。この量では、防ぎきれない。

 

「『花の呼吸』伍ノ型・徒の芍薬!」

 

カナエが、無数のツタと棘を、優雅な舞のように捌いていく。桃色の剣筋が空間に美しい軌跡を描き、植物の猛攻を防ぎ切る。しかし、次から次へと再生する植物に、突破口が見えない。まるで、無限に湧き出すかのような攻撃だった。

 

「『蟲の呼吸』蜂牙ノ舞・真靡き!」

 

しのぶが、まるで蜂が舞うかのように、高速でツタの隙間をすり抜け、穀女へと肉薄する。しかし、穀女の周囲には、巨大な植物の壁が幾重にも形成されており、しのぶの刀は届かない。壁は毒の胞子を撒き散らし、しのぶの視界を遮る。

 

「くっ……! 視界が……!」

 

しのぶは、毒の胞子を吸い込まないよう、息を止めて刀を振るう。しかし、物理的な障壁に加え、毒の攻撃は、しのぶの体力を容赦なく削っていく。呼吸を続けるだけでも、肺に焼けるような痛みが走る。

 

あげはは、二人の苦戦を見ながら、思考を巡らせる。この血鬼術は、広範囲に及ぶ上、再生能力も高い。迂闊に近づけば、身動きが取れなくなるだろう。このままでは、ジリ貧だ。

 




はい、オリジナル十二鬼月・下弦の参「穀女(こくめ)」の登場です(名前が安直でごめんなさい…)。
植物を操り、血鬼術で豊穣をもたらす代わりに生贄を求める…。恐ろしい鬼ですね。
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