頸を斬っても死なないのならズタズタにするべし。   作:雨漏り

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絶望の始まり(2)

 

 

 

山の中で修行をしているとよく酸欠になった。空気が薄く歩いているだけでも息が荒れる程だ。

鱗滝さんが作った罠を山を下りながら避けていく。罠には殺意が込められていて一歩でも間違えたら死んでしまうかもしれない。木の丸太が腹に当たり食べたものが上がってくる、威力の高い石が顔に当たって痣が出来る。殺傷力が最も上がって小刀が飛んできたり、落とし穴にも小刀が仕込まれていた。でも、段々と慣れてきて避けれるようになった。

 

刀を持って走った時はいつもと違う感覚で罠に沢山かかってしまった。

刀は重くて邪魔で私の小さな手で持つと滑って落っことしてしまったこともある。その時は鱗滝さんに注意されただけだったが、次刀を落としたり傷が付いたら骨を折るぞと言われた。あと、刀を折っても骨を折るからなとも言われた。

 

沢山素振りをして、沢山鱗滝さんに投げられて、お腹を叩かれて、色々と沢山のことをした。

私がここに来る前より筋肉が付いて体ががっしりとした気がする。回復力も上がったし、強くなったのだと実感した。

 

「もう教えることは無い」

「…え?」

真菰が狭霧山に来て二年後のことだった。突然鱗滝が言った。後は真菰次第、鱗滝が教えたことを上手く昇華できるかどうか……話をしながら真菰を大きな岩の前に連れていった。

「この岩を斬れたら最終選別に行くのを許可する。」

真菰は一瞬思考が止まった。岩って斬るものだっけ? 岩って刀で斬れるの? 折れるよね……。

真菰よりも大きな岩を刀で斬れ。鱗滝は真菰を置いてすぐ去っていった。その後、鱗滝は真菰に何も教えなかった。

 

真菰は二年間続けたことを思い出して一人で修行した。

刀を持って山下り、素振り、鱗滝が居ないことでちょっとだけ出来ることが減ってしまったが真菰が出来ることをやり続けた。

真菰は分かっていたのだろう。まだ、鱗滝が教えたことをやるには早すぎる。鱗滝は出来ると思っているだろうが真菰が完璧にやるにはまだ足りない。

真菰は焦ることなく、修行を続けた。

 

 

「私は真菰、今日からよろしくね。」

「錆兎。よろしく」

宍色の髪をした少年が弟弟子になった。

私が修行をしていたら木の影からこっそりとこちらを見ていた。こんな所に人が来るのは珍しい、それに私よりも年上だろうけど少年だから鱗滝さんの弟子になった子かも、と私は推理をし、少年に近づいた。

名は錆兎、私と同じで孤児だったのを鱗滝さんに拾ってもらったみたい。

私は錆兎より年下だけど立場としては姉弟子になる。

「真菰姉さんって呼んでもいいんだよ?」

「……真菰でいい」

「私はなんて呼ぼっかな…錆兎さん?」

「錆兎」

「錆兎君?」

「錆兎」

「錆」

「錆兎」

「……錆兎」

 

この話を聞いていた鱗滝はにっこりだった。

もう仲良くなったのか……(にっこり!)

 

 

 

もう三年……三年経ったのだ。

目の前には私の身長を超える大きな岩がある。豆だらけの手で持っている刀で岩を斬る。刀を折らずに岩を斬る。

出来る。今日でこの岩を真っ二つに斬ってみせる。

 

全集中の呼吸を使って、刀を振り下ろした。

全集中の呼吸は体中の血の巡りと心臓の鼓動を早くする。

そうしたら人間のまま鬼のように強くなれる。身長が小さくても握力が弱くても全集中の呼吸を使えばそれを補うよに強くなれる。

 

振り下ろした刀は岩を斬っていた。綺麗に真っ二つ、自分で切ったくせに見惚れるほどだった。

錆兎は真っ二つになった岩を見て吃驚していて、鱗滝さんは私を抱きしめていた。抱きしめる力は強いけど優しかった。

 

「最終選別、必ず生きて戻れ。」

真菰は鱗滝を抱きしめた。

死ぬつもりなんてない、必ず戻ってもう一度鱗滝さんを抱きしめてやる、これよりももっともっと力強く。

鱗滝は真菰に厄除の面を作り渡した。悪いことから守ってくれるように……

 

「錆兎どうかな、似合う?」

「あぁ。…真菰。死ぬなよ、絶対生きて帰ってこい」

「もちろん。錆兎は地獄の修行で死なないようにね… 」

花の柄が書いてある狐の面を付けて真菰は笑った。

 

「鱗滝さん! 錆兎! 行ってきます! 」

真菰は二人に手を振って走った。この先真菰に何が起こるのかも、真菰は何も知らない。鱗滝も錆兎も、本当に真菰が帰ってくるのか分からない。ただ、祈ることしかできないのだ。

幼くてふわふわしていて可愛らしくて、そんな子供が自ら絶望へと進んでいく。待っているのは地獄なのに、この残酷な世界を止められないのか。

 

 

 

 

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錆兎にとって真菰はただの姉弟子という存在に過ぎなかった。錆兎よりも小さいくせに女なのに、その小さな手で刀を振るう真菰を敬っていた。

真菰に手を繋がれた時、手ちっさ! と吃驚して確かめるように何度も触ってしまったり、真菰が座るとさらに小さくなって、どこに重い刀を振れる筋肉があるんだと疑った。

真菰は肉体だけでなく、中身も幼かった。人間に対しての警戒心がなく、指を使って数を数えていたり、すぐに忘れたり、人にくっつくのが好きだったり。姉弟子なんだけど妹みたいだなと思った。

妹がいたらこんな感じか……

 

 

真菰はよく修行で疲れきった体で、花が咲いている場所に向かいそこで座り込んで何かを作る。

最初は何をしているのかよく分からなかったが、帰る時に頭に花の冠が乗せてあったので、あぁ成程花を編んで冠を作っていたのかと納得した。どんな花でも綺麗に編んで冠を作る。ずっと見ていたものだから真菰に手招きされ、一緒に花の冠を作ることになった。

男がこんなことしてていいのか? 修行した方が……と思ったがチラッと見た真菰がいつもより嬉しそうだったので錆兎は考えることを辞めて一緒に花を編んだ。これが思ったより難しくて、花は原型を留めていなかった。

 

「真菰は花が好きなのか? 修行が終わったらいつもここにいるだろう?」

「うーん、好きでも嫌いでもどっちでもないかな……」

「そうなのか、ならどうしてここに来るんだ?」

「…なんだかここに居ると懐かしくなって、気づいたら花の冠を手に持ってるんだ。」

「気づいたらか。もしかして、集中しすぎて覚えていないのかもな」

そんな雑談をしながらずっと花を編む。

 

 

ちょっとしか一緒にいないのに。ずっと一緒にいた訳でもないのに。

 

錆兎は、幼くて妹のような真菰に絆されていったのだ。

 

 

 

 

 





錆兎って生きてた頃真菰のことを知っていたんだろうか……死んでから知ったのかな。
義勇は回想で真菰が出てきていなかったからすれ違ったのかもしれないなぁ…でもキメ学では仲がいいんだよなぁ……うーん

次の話でガチの絶望が始まりそうです。え?まだ始まってなかったの????



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