頸を斬っても死なないのならズタズタにするべし。   作:雨漏り

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絶望の始まり(3)

 

 

 

藤襲山には沢山の藤の花が山をぐるっと一周するように咲いていた。まだ山の中に入っていないのに、藤の花の匂いがする。

鱗滝さんと錆兎に死なないよって自信満々に言ったけどそんな保証何処にもない口だけならなんとでも言える。階段を上る足が少しだけ震えている気がする…………怖いんだ。

鬼に会ったのはもう三年前になる。子供達の顔は覚えていないけれど瞳孔が縦長で猫のような目をしていた鬼のことははっきりと覚えていた。でも……あの頃の私と今の私は全く違うじゃないか。怖くない……怖くない。足の速さも筋力も頭の動かし方も昔とじゃ何もかも違う。

だから怖くない。大丈夫 、生きて帰るんだ。

足の震えが止まった気がする。

真菰は力強く地面を踏んで堂々と歩き出した。

 

最終選別を受ける人は真菰の他に十五人程いる。真菰は少し早く来すぎたかもしれないと思っていたがそんな事はなかった。

全員の目は鋭く、多くは無いけれど殺気立っている。鬼を憎んでいるかただ真剣なだけかもしれない。鬼の怖さを知らず舐め腐っている人もいる。

真菰の他に女の人は多少なりともいるがやっぱり男の人の方が多いのだ。女より力があり身長も高く鬼の首を斬るには男の方が有利だ。女でも力があれば身長が高ければどうってことないだろう…………真菰はこの中で一番背が低い。

周りから見れば幼子が間違って迷い込んできたと間違われ迷子施設(センター)送りになるだろう。十五人中十三人が間違える程真菰は小さく幼く見えるのだ。

 

少年が中心に立っていて全員その子に目を向けた。

「今宵は鬼殺隊最終選抜にお集まりくださってありがとうございます」

女のような男のような性別が分からない子だった。凛とした声で、真菰とそう年は変わらないはずなのに大人っぽく綺麗な子。

皆に聞こえるようにはっきりと最終選別についての説明を始めた。

 

鬼殺の剣士達が生け捕りにした鬼を閉じ込めてある。

山の麓から中腹までフジの花が咲いている。

だがここから先は咲いていない……この中で七日間生き抜くことが最終選別合格の条件。

「では行ってらっしゃいませ」

その言葉を合図に、みんな走り出す。

藤の花を抜ければ普通の森が広がっていた。真菰は、とりあえず数日間は隠れられる場所を探そうと森を駆け抜ける。……鬼を倒さず生き抜くつもりは無いが初日に鬼を無闇に倒すよりかは体力を温存しておく方が得策だろう。人間は食事を摂らなければ四,五日で死んでしまう、木の実でも落ちてくれればいいのだが……そんな運のいいことはなかった。

 

走っていると何度か悲鳴が山に響いた。まだ数時間しか経っていないのにもう何人も食われた。悲鳴を聞く度に真菰の眉間に皺が刻まれる。

森の奥へ進んでいく度に、人間の骨が地面に転がっていて、その横には着物のような布が破られて散らばっている。土と血が混ざった匂いがする……腐った匂いがする……真菰は吐きそうで仕方なかった。

あぁ、どうか穏やかにお眠りください。

真菰はそれを見る度心の中でそう唱えるのだった。

 

さっきよりもやけに殺気が多くなっている。道を引き返すか? もしかすればこの先には強い鬼がいるかもしれない。 真菰がしまったと思った時には遅く、背後から所々に血が着いた鬼らしい尖った爪が真菰を襲おうとしていた。

━━水の呼吸 壱ノ型 水面斬り

「ちっ痛ってぇな。せっかく若い女の肉が食えると思ったのによ……でも活きのいい女は悪くないッ!!」

「そう……貴方何人食べたの?」

鬼は単調に尖った爪を振り下ろすだけ。真菰は刀で受けず避け、鬼に切り傷を与えていく。

地面を蹴り上げ鬼より高く飛んだ。

「はぁ? 言うわけないだろう? くそっ、 なんで当たらねぇんだよ……ッ!!」

━━水の呼吸 伍ノ型 干天の慈雨

「嘘だ……いや 、 」

伍ノ型は基本的に鬼が自ら頸を差し出した時使用される。斬られた者には苦痛を与えず、鬼に情けをかける唯一の技……

『真菰はすばっしこいから技の発動が早いんじゃないか?俺が干天の慈雨をやっても遅いだろうな……まだ全集中の呼吸が出来ない奴が言うことじゃないが』

比較的他の技より発動も攻撃速度も遅い、鬼が暴れていれば頸を斬るのも難しい。

『すばしっこいって……そうかな? 錆兎も頑張れば出来ると思うな』

真菰は頸を斬った鬼が灰になって消えかけているのを確認しまた走り出す。真菰は怪我をせず着物も破られず無傷で戦闘を終えることが出来た。

 

「たすけてくれぇぇぇ!!誰か、誰かぁ!!!このままじゃ出血死しちまう」

鬼に殺されていないだけまだマシなのかもしれない。真菰はそう思いながら叫びのする方へ向かった。血の匂いが濃くなっていく、でも鬼の独特な殺気はしない。鬼は人間の血におびき寄せられるはずだが……もしかしてこれは罠?

 

「あ!ちっこいの!! おねがいだ助けてくれ……血が、血が止まらない」

目の前には肩腕を失った人間がいる。

「うん。わかった……そこから動かないでね」

鬼の気配はしない、上手くさっきを隠しているのか鬼は居ないのかどっちだろうか。

真菰が隻腕になった男に近づいていく、その時男は少しだけ口角をぴくりとあげた。あぁ、これは罠だったのか……鬼と取引したのか。

『真菰は目がいい。儂が一回教えただけでも見様見真似にやろうとする。正確では無いが、その観察眼を伸ばせば、敵が次何をするか分かるだろう』

真菰の上から、足を大きく振り上げた鬼が降ってくる。鬼は足を振り下ろして真菰の頭を潰そうとする……だが、地面が大きな音を立ててヒビが入るだけ。真菰は隻腕になった男の胸倉を掴んで素早く避けた、もし避け無かったら男も一緒に死んでいただろう。

「俺を逃がしてくれるんじゃなかったのか!? あれじゃあ俺まで死んでた! ど言うつもりだ!!」

「くくっ、鬼と取引するなんて馬鹿な男だねぇ。そう簡単にはい分かりましたって頷くと思うかい?目の前に肉の塊がいるのに涎を垂らさずにいられるかっての。それにしても嬢ちゃん足が早いねぇ、見えなかったよ」

「ありがとう。ねぇ、ひとつ聞いてもいい?貴方は何人食べたの?」

真菰はさっき殺した鬼と全く同じ質問を目の前にいる鬼に問うた。

「あれぇ? 嬢ちゃん知らないの? ここには人間を二、三人食った鬼しかいないんだよ。もしかして間違えて入ってきちゃったのかな?」

「おいチビ!! さっさとこいつを殺してくれ…!悪い鬼だ、俺の腕もこいつにやられた。」

 

この鬼はきっと蹴りが得意な鬼だろう。上から降ってきた時も、今も私を攻撃したくて足がうずうずしている。鬼が攻撃してくる前に私が攻撃する。

真菰は地面蹴り正面から鬼に向かって刀を降った。でも、止められてしまった。足癖が悪い鬼だ……足の指で器用に刀を止めるなど。

「まさか真正面から来ると思わなかった。馬鹿だねぇ! 馬鹿だねぇ!!」

しまった刀が動かない、足の指だけなのにこんなに力が強いとは……攻撃が来る反対の足で頭を蹴ろうとしている。なら、これよりも早く鬼に向かって……

━━水の呼吸 漆ノ型 雫波紋突き

真菰の方が攻撃は早く、鬼と一緒に後ろへ倒れる。漆ノ型は頸を斬るのには向いていない、だが攻撃速度は早く即座に放つことが出来るのだ。鬼の力が弱まり刀を離した、今なら頸を切ることが出来る。

━━弐ノ型 水車

「欲張り過ぎると、ろくな事にならないよ」

「ぐぁ!! くッやられたこんな小娘に!! やめろ止まれ止まっ…………」

鬼はもがいていたが灰化は止まらず風に乗って消滅した。

 

真菰は隻腕になった男の方を見て歩み寄る。早く止血しないと出血死するだろう、腕だけでなく所々にも傷があるのだから。真菰は自分が着ている袖のない上着を少し破き腕を止血する。

「貴方は下山した方がいい。この体じゃ刀は振れない……ここで死ぬより、普通の人として生きていく方がいいよ」

「あぁ……ありがとう 、そうするよ。

俺は子守三郎時。君、名前は? さっきはチビとか言ってすまない」

「私は真菰。気にしてないから大丈夫」

「……ちょっと気にしてるよな、ごめん」

「ううん、気にしてない。気にしてないよ」

「…頑張れよ」

子守は真菰に深く頭を下げ山の麓へと走っていった。もうすぐ夜明けだから時間帯としてはちょうど良かったのかもしれない……もしまだ夜が続いていたら子守は鬼に食われて死亡していただろう。

 

日が当たるところで少し仮眠を取ろう……真菰は疲労した体を動かす。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

━━「……もし私が居なくなっても探しに来ちゃダメだよ。また会えるから……その時まで待ってて」

 

━━「これはお守り、中に藤の花が入ってるんだ。悪い者がいても大丈夫このお守りが守ってくれるから。ほら……こうやって首に下げていれば無くすこともないよ」

 

━━「花冠の編み方を教えて欲しい? ……じゃあ私の膝に座ったら教えてあげる!」

 

 

━━━姉さん、もういっちゃうの? また会えるっていったよね……それっていつなの……?

 

真菰は姉の裾を掴みながら言った。裾を掴む手は強く絶対に離したくないという意思が感じられる。そんな真菰をあやす様に頭を撫でる。

真菰が我儘を言うのはあまり少ない、それに感情を強く表に出すこともあまり無かった。

仕方ないのだ、必ず別れはやってくる。きっと明日になれば姉のことを忘れているだろう……前あったことと同じだ。真菰に記憶はなくとも姉にはある。

目の前で真菰の体温がどんどん冷たくなっていって、二度と目を覚ますことがなかったこと……姉”‬だけ‪”‬は覚えていた。

 

この世界はあまりにも残酷で、厳し過ぎる。

 

 

 

 

「真菰、その藤の花のお守りの中身は変えなくていいのか?」

 

「……うん」

 

 

鱗滝によると…『真菰はお守りを手に持って鱗滝が始めて見る顔で幸せそうに笑っていた』

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

真菰は手の中にあるお守りを見ながら思う。

いつ、何処で手に入れたか分からない物をずっと持っている……どうしてこんなに大切に保管してあるのだろうか。

お守りには長い紐が着いており首からかけられるようになっている。孤児院にいた時は肌身はなずずっと付けていた記憶がある。鱗滝さんに教えてもらったことだが、このお守りは真菰の命を守ったのだと言った。お守りが役割を果たしている。

『あの時孤児院で襲われなかったのは‪”‬運が良かった‪”‬からではない。そのお守りが守ってくれたんだ……だがもう少しで藤の花の効果が無くなっていただろうな。』

真菰はずっと運が良かったから鬼が襲ってこなかったのだと思っていた。だが違ったのだ。

この小さなお守りが真菰を守ってくれた……

藤襲山に持ってきたのは真菰が死んでもこのお守りとは一緒がいいと思ったから。肌身離したくない、何故かは分からないが離さず持っていろと本能が言っているのだ。

 

もうすぐ日が暮れる。夜は鬼の時間……また今夜も生き抜くために戦わなければならない。

真菰は少し重たい足を持ち上げ立つ、また場所を移動し隠れられる場所を探そうと森を駆け抜けるのだった。

 

 

日が暮れてまだ数分しか経っていなかった。それなのに悲鳴がいくつも森響いたのだ……それも、真菰から遠くは無い場所で。真菰は足を止めた。その瞬間真菰の前から一人の男がこちらの方へ向かって走ってきている。それも叫びながら……

「なんでっ! なんでっ! この山には人間を二、三人食った鬼しかいないはずだろ!?」

それと同時に巨大な何かが男を追うように向かってきている。

近づいてくる度に血の匂いと腐った匂いがどんどん濃くなっていく。この鬼はもう何十人もの人間を食っているのだと匂いが教えてくれる。

手を沢山持つ鬼は一つの手に人間を掴んでいていくつかの手には血がついている。さっき悲鳴はきっとこいつのせいだ、こいつが殺した。

━━怖い、手が、足が、震えが止まらない…

動いてお願いまだ生きてる人がいるじゃないか目の前で殺されるのはもう見たくないでしょ、なら動いて、動けよ!!!!

━━水の呼吸 壱の型 水面斬り

鬼が男を捕まえようとする手を斬った。でもまだ鬼の手はこちらに伸びてくる手を斬るだけではダメなのだ、早く頸を斬らなければ鬼の攻撃は止まないだろう。

真菰に向かって手が伸びてくる……しかし、伸びた手がぴくりと止まった。そして抑揚のある声でこう言った。

「また来たな俺の可愛い狐が」

真菰を見ながら言ったのだ、真菰が着けている狐の面を見て可愛い狐だと言ったのだ。

「小娘、今は明治何年だ」

「……明治三十八年だよ」

「アアアアア!!! 鱗滝め! 鱗滝め!! 許さん!許さん!」

鬼は突然発狂し始め鱗滝の名を何度も呼ぶ。まるで癇癪を起こしている子供のようで真菰は気が狂いそうだった。何故鱗滝の名前を知っているのかそう考えた時には口から言葉が出ていた。

「鱗滝さんを知っているの……??」

「知っているさァ!! 俺を捕まえたのは鱗滝だからなァ忘れもしない三十八年前、アイツがまだ鬼狩りをしていた頃だ。江戸時代……慶応の頃だった」

江戸時代? なんでこんな長生きな鬼がここにいるの、ここには人間を二、三人喰った鬼しかいないはず……!

「アァ、十…十一で……お前で十二だ」

鬼は急に数を数え始め真菰を指さす。

「何言ってるの……!?」

「俺が喰った鱗滝の弟子の数だよ。アイツの弟子はみんな殺してやるって決めてるんだ」

真菰の顳顬が軋んでいく……怒りが止まらなく刀を持つ手が力んで震えている。

鱗滝さんが最終選別に行く前に私を引き止めるように力強く抱きしめてくれた。私はただ鱗滝さんが私に死んでほしくないから抱きしめているのかと思ったが、違ったのだ。

もう死んで欲しくないから力強く抱きしめてくれた。

「目印なんだよその狐の面がな。鱗滝が彫った面の木面を俺は覚えてる。アイツがつけてた天狗の面と同じ掘り方。厄除の面と言ったか? それをつけているせいでみんな喰われた」

何言ってるんだ、コイツは……!

「みんな俺の腹の中だ。鱗滝が殺したようなもんだ……」

違う、違う!!!!!

「うぁぁぁぁああああ!!!!!」

真菰は感情のままに刃を振るった。しかし鬼に傷をつけることも出来ず四肢を捕まれ動きが封じられてしまった。

━━落ち着いて……全集中の呼吸をするの。そうしたら大丈夫だから……お願い

うるさいうるさいうるさい!!!

真菰の頭に誰かの声が響く。抑えの効いた声で真菰を宥めるが真菰は聞いてもいなかった。怒りで血が煮えくり返り感情を抑えられない。

四肢が動かない。引っ張る力が強すぎて抜けせない。目の前の鬼は気持ち悪く笑っていて、さっき助けた人はもう居なくなっていた。

四肢がぶちぶちと悲鳴を上げているのをお構い無しに鬼はどんどん引っ張る力をあげていく。

「っ……あああああああ!!!」

 

 

 

 

ぶちり 、ぶちり 、ぶちっ

 

 

 

四肢が無くなった真菰は受け身も取れず高いところから落ちていった

 

 

 

痛い……

 

 

いたい…………

 

 

もう刀を握れない 走れない……生きて 帰ることが出来ない…………

 

 

 

 

もう 、 おしまいだ

 

 

 

 

 

ぐちゃっ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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