遊戯王ARC-V -依代の決闘者-   作:白狼天狗

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その6

次の日の商店街。

そこには一光とかなみと3人で連れ立って歩く千影達の姿があった。

 

「どんなカードが入荷しているか楽しみね? 千影」

「中古市場は流れるものだからね」

「今更デッキ内容を変えるつもりは無いが、目ぼしいのがあればいいが」

 

舞網チャンピオンシップ3日目。

今日は一光とかなみの試合がある。

 

本来なら1回戦は1人1試合のトーナメント方式なのだが、参加者が主催者の権限で1人増えた為、1日目と2日目の2回も千影は試合を組まれたのだ。

 

そんな3人が向かっているのは、商店街にあるカードショップ『○屋』。

慧斗達が通う学校周辺には幾つものカードショップがあるが、常連としていつも決まって行くのは『○屋』であった。

 

「いらっしゃい。一光くん、千影くん、かなみちゃん」

「どうもです」

「おはようございます、咲夜さん」

「おはようございます」

 

『○屋』に入って、1人で店を切り盛りする女性店長の月見里 咲夜に挨拶する3人。ちなみに“月見里”と書いて“やまなし”と読む。

挨拶を済ませた3人は店内を見て回る。

自分のデッキに合うカードが売りに出されてないか見逃さないように。

 

パックを買って当てる、等はかなり難しい芸当である。

現在、この世界に存在するカードの種類は約2万3千種。完全な上下互換等を差し引いても精々1000種減る程度である。

発売されているパックは3種類。

初級者向けのビギナーズエディション。

中級車向けのインターミディエントエディション。

上級者向けのエキスパートエディション。

全てVol.1~14まで出ており、一パック十枚入り500円で販売されている。

各ボリュームには約500種類のカードがランダムで封入されており、箱で購入しても必ずレアリティの高いカードが入っている訳でも無いので、パック買いはクジ引き感覚がとても強い。

 

ピンポイントで欲しいカードを当て様とする等、砂浜で落とした指輪を探す事と一緒と言って良い。

構築済みデッキも販売されているがどういった物かは、先ほどのパックの説明から察して頂けるようなお粗末な物。辛うじてデッキとして呼べる四十枚の紙束だ。まあ、有用なカードが無い訳では無いが。

 

ちなみに価格は一つ4000円。属性や種族をテーマにした物が取り揃えられている。

 

「咲夜さん、エキスパートエディションVol.14を4パック下さい」

「2000円丁度ね、欲しいのが当たると良いわね」

「私も千影と同じのください!」

「分かったわ」

 

一通り見て終わった千影とかなみは試しにと、こうしてパック買いをしている。

会計を済ませ、早速と開封を始める二人。

 

「うう・・・・・・皆、私のデッキに入れられそうなカードはなかったわ」

 

かなみの成果は芳しく無かった様子。

 

「《陽月の騎士 シルミール》か。効果は無いが良いエクシーズモンスターだ。当たりだな」

 

千影の方には運が向いていた様子。

 

「あら! エクシーズモンスター! 当たりじゃない、千影!」

「うん。俺のデッキとは相性は無くは無いから、一応採用かな?」

 

と、そこにとてとてと走りこんで来る小学生低学年と思われる少年が来店し、カウンターでグっと右手を伸ばして開いてみせる。

 

「ビギナーズエディションぼりゅーむわん、ひとっつちょうだい!」

 

少年の手の平には十円、五十円、百円と沢山の小銭が乗っていた。

お小遣いをこつこつ溜めてやっとの思いで買いに来たのだろう。

 

「ぴったり500円ね。はい、どうぞ」

 

少年からお金を受け取った咲夜はパックを手渡した。

 

「やった!」

 

喜んでパックを受け取った少年はいそいそと開封し、中身を1枚1枚確認しいく。

 

「うわぁあい!!!」

 

と、少年が体全体で喜びを表現する様に一枚のカードを上に掲げた。

 

「《ブラック・マジシャン》だぁ!!!」

 

その声に店内が色めき立つ。

 

「嘘ぉ!?」

「すげぇ!!」

「な、なんだってー!?」

 

《ブラック・マジシャン》

闇属性。レベル7。魔法使い族。ATK/2500 DEF/2100。通常モンスター。

 

最高値に近いレアリティのカードであるが、以上がこのカードのステータスである。

もっと低いレアリティで強力な効果やステータスを持つ魔法使い族モンスターは多くいる。

そう考えると周囲の反応は過剰としか言えないが、それには訳がある。

 

《ブラック・マジシャン》と聞けば、デュエリスとなら誰もが1人の人間を思い起こす。

初代デュエルキングにしてI2(インダストリアル・イリュージョン)社が制定した殿堂入りデュエリスト第1号。

レジェンド・オブ・デュエリスト、武藤 遊戯。

彼のデッキのエースモンスターが《ブラック・マジシャン》なのだ。

 

武藤 遊戯のデッキは【ハイランダー】と呼ばれるデッキ内に同じ名前のカードを二枚以上入れない構築で、対策されづらく柔軟性に富んで臨機応変に戦える。

その代わり、決まった組み合わせのカードでのコンボを組み込むとパーツが揃わない状態で戦わなければならないためコンボの成功率が総じて低い。

よって、卓越したデュエルタクティクスとキーカードを引き込む強運が無いと運用が難しいデッキなのだ。更に言えば、彼のデッキには上級モンスターが多く採用されているためリリース要因が確保できず召喚できない状況が多々生まれる確率が有る。

 

凡人が同じデッキを使ったとしたらまともに運用できず、大敗する事が必定。

故にこのデッキは武藤 遊戯が扱ってこそ無敗を誇るデッキと成る。

 

武藤 遊戯のデッキのエース《ブラック・マジシャン》の価値は凄まじい。

何回かのイラスト変更が行われ、数もそれなりに出回っているのに関わらず一枚の最低相場は500万円。武藤 遊戯の使っている最初期の物だと1000万円は手堅いという高騰っぷり。

 

カード1枚にここまで来ると恐ろしいを通り越して狂っているのかもしれない。

 

「君、少し良いかな?」

 

ふと、《ブラック・マジシャン》を当てた少年に声をかける青年。

逆立った金髪に耳にはピアス。レザーの上着にジーンズというファッション。

 

「ちょっと、お兄さんとお話しようよ」

「え? ふぇえええ!?」

 

青年は有無を言わさず少年の腕を引っ張って店外へ出て行ってしまった。

 

「まずい!」

 

千影は直感で察した。

商店街という人気の多い場所に店を構える『○屋』でああいう輩は早々事を起こさないのだが、あの青年は目先の欲に眩んだ表情をしていた。

 

「行くよ、兄さん、かなみ!」

「ああ、追うぞ! 咲夜さん、後は任せて!」

「お願いね!」

 

一光とかなみも少年の危機に気づいた様で、一光は咲夜に一言残して2人を追いかけた。

 

 

 

◇   ◆   ◇

 

 

 

2人の影を追いかけ、辿り着いた路地裏ではすでに事が起こっていた。

 

「返してよう! ぼくの《ブラック・マジシャン》!」

「お前ェみたいなガキには勿体ないカードだかんな! 俺が有効活用してやるってんだ、あり難く思えよォ!」

 

青年は少年からカードを奪って、少年を蹴り飛ばしていた。

少年は目に涙を浮かべ必死になって取り戻そうとしているが、体格差が有りすぎてそれが叶う事は絶望的だ。

 

「おい、デュエルしろよ・・・・・・!!」

 

静かに響く千影の声には強い怒気が含まれていた。

 

「ンだぁ? お前」

「デュエルだ。俺が勝ったら、そのカードは返して貰う。俺が負けたら今の俺の手持ちのカード全て渡す。」

 

そう言って、千影はデュエルディスクに収められているデッキとデッキケースからエクシーズモンスターを提示する。

それはジュニアユースで猛威を振るった【ヌメロン】カード。

 

青年はジュニアユースでのそれらの活躍を見ていた。彼自身ユース部門に参加していたからだ。

 

「それとも何か? アンタの持ってているそれは飾りか?」

 

千影が青年のズボンの専用ポケットに入れられているデュエルディスクを指差し、挑発する。

 

「──ハン、良いぜ。調子こいてるガキはブチのめしてやる!!」

 

千影と青年の二人のボルテージが上がって行く時、かなみがストップをかけた。

 

「千影、ここは私にやらせてくれないかしら。私のカードも一緒に賭けるから」

「いや、ここは俺が行く。行かせてくれ」

 

かなみの言葉に一光が続く。

しかし2人の溜飲がスッと下がる。

人間、自分より怒っている人物を前にすると不思議と冷静になるものだ。

 

「良い。俺にやらせてくれ」

 

千影は笑っていた。とても底冷えする、とてもステキにワラッていた。

 

「さ、さっさと構えろ!」

 

青年も千影の笑顔に恐怖を感じたのか少し腰が引けている。それを隠すように叫んだ。

 

「さあ、デュエルを始めよう」

「へッ、この俺を轟 連太様と知らねェ様だな? 瞬殺してやるぜ」

 

千影は殺気を隠さない。義理と人情を重んじる優しいものと強かな激情を併せ持つ性格のためかこういった輩には容赦は一切しない。

 

──デュエルディスク、セット。

──デュエルディスク、展開。

──デッキ、オートシャッフルOK。

──デュエリストターゲット、Lock On。

 

「「デュエル!!」」

 

Chikage LP4000

VS

Renda LP4000

 

「私のターン」

 

先攻は千影。

 

「私は永続魔法《ヌメロン・ネットワーク》を発動」

「来た! 千影のキーカード!」

「いきなりか」

 

千影のデッキのキーカード。《ヌメロン・ネットワーク》が初手で発動される。

 

「厄介なのが来やがったか」

「《ヌメロン・ネットワーク》の効果発動。デッキの【ヌメロン】と名のつくカード1枚を選択し、その効果を発動する。私が選択するのは《ヌメロン・ランプ》。その効果はデッキから【ヌメロン】と名のつくモンスターを1体自分フィールド上に特殊召喚できる。現れよ《ヌメロン・ピラー》」

 

千影の宣言に従ってデッキから現れるヒトガタの柱《ヌメロン・ピラー》。

そして、選択された《ヌメロン・ランプ》は墓地に送られた。

発動条件が“自分フィールド上に【ヌメロン】と名のつくカード以外が存在しない場合”と厳しいがデッキからカードを発動きるのは脅威でしかない。

もっともその発動条件もデッキのほぼ全てのカードが【ヌメロン】なのでプレイングにさえ気を使えば問題なく発動できる。

 

《ヌメロン・ピラー》

☆10

DEF/0

 

「さらに手札から《ヌメロン・ルーフ》を特殊召喚」

 

続いて千影のフィールドに現れたのは黒系色の石で作られた屋根の姿をモンスター。

その姿はこれまでの【ヌメロン】モンスターの様に石造りの西洋の神殿の様な意匠だ。

 

《ヌメロン・ルーフ》

☆1

DEF/0

 

「《ヌメロン・ルーフ》は自分フィールド上に【ヌメロン】と名のつくモンスターが存在する場合、手札から特殊召喚する事ができる」

「それで終りか? なら、ザコが2匹並んだだけじゃねェか」

「《ヌメロン・ルーフ》の第2の効果。自分フィールド上の【ヌメロン】と名のつくモンスター1体を指定し、指定したモンスターと同じレベルになる」

「何だとォ!?」

「私が指定するのは《ヌメロン・ピラー》。よって《ヌメロン・ルーフ》のレベルは10となる」

 

《ヌメロン・ルーフ》

☆1→☆10

 

「これで千影のフィールドにはレベル10のモンスターが2体揃った」

「来るってのか? まだ見た事のない【ヌメロン】モンスターが・・・・・・」

 

千影と連太のデュエルを観戦している一光とかなみが戸惑う。

 

「私はレベル10《ヌメロン・ピラー》とレベル10となった《ヌメロン・ルーフ》でオーバーレイ。2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築」

「ランク10だとォ!?」

 

地面に渦巻く宇宙。エクシーズエフェクトに飛び込む黒い光の球となった2体のモンスター。

 

「叡智に触れし偉大なる賢者よ」

 

浮上するはヌメロンの知識の一端を読み解きし者。

 

「慈悲を持って彼の者に滅びを与えよ!」

 

僧侶を思わせる黄昏色のローブの様な全身鎧に身を包んだ人型モンスター。

 

「エクシーズ召喚!」

 

手に持つ杖からは勿論、全身から放たれる強者の風格。

 

「来たれ、ランク10!《ロード・オブ・ヌメロン-ラーマヤーナ》!」

 

《ロード・オブ・ヌメロン-ラーマヤーナ》

★10

OLU:2

ATK/3000

 

「な、なんだこのモンスター!?」

 

現れたモンスターにうろたえる連太。

謎の力を秘めた攻撃力3000のモンスターが1ターン目でいきなり飛び出してくれば驚きもしよう。

 

「私はこれでターンエンド」

「くッ・・・・・・、オレのターン! ドロー!」

 

ターンは千影から連太に移る。

こわばる表情でドローした連太であったが引いたカードを見て余裕の笑みを浮かべた。

 

「ハッハーッ!! 引いたぜ? 俺のデッキの要をな!」

「ほう。それは見物だな?」

 

連太の余裕の嘲笑に慄然とした態度を崩さない千影。

 

「俺の手札は完璧だ! これじゃあオレの勝ちは確実だァ!!」

 

そう宣言し、連太はモンスターを召喚する。

 

「オレは《ガトリング・オーガ》を召喚!」

「《ガトリング・オーガ》・・・・・・だと・・・・・・!?」

 

腹部にガトリングが内蔵され機械化された左腕の間にガトリングのマガジンが挟み込む様に取り付けられた姿をした青い肌の鬼型モンスター。

その姿を見た千影は表情を曇らせた。

 

《ガトリング・オーガ》

☆3

ATK/800

 

仰々しい姿とうって変わって貧弱なステータス。しかし、千影はそのモンスターの恐ろしさを知っている。

 

「ハハァン? その様子だと《ガトリング・オーガ》の効果を知ってるようだな?」

「ああ。自分の魔法・罠ゾーンにセットしたカードを1枚墓地に送って発動し、相手に800ポイントのダメージを与えるバーン効果」

「おう、おう、博識だねェ? なら教えてやろう、俺の手札は5枚全て魔法と罠カードだ」

 

優々と自身の手の内を明かす連太。

しかし、その内容に一光とかなみは恐怖する。

 

「なんですって!?」

「5枚全てって事は・・・・・・」

「そう、そのとーり! 俺の勝ちは確定だって事よ。オレは全てのカードをセット!」

 

連太のフィールドにセットされる5枚のカード。

 

「さあ、行こうか? 敗北へのカウントダウンを! 《ガトリング・オーガ》の効果発動! ファーストファイア!」

 

連太のセットカードが1枚墓地に送られ、《ガトリング・オーガ》が生身の右手でハンドルを回すと腹部のガトリングが火を噴く。

放たれた弾丸の多くが千影に命中しそのライフポイントを削った。

 

Chikage LP4000→LP3200

 

「続いて行くぜ! セカンドファイア!」

 

先ほどと同じように連太のセットカードを弾丸に変え発射する《ガトリング・オーガ》。

 

Chikage LP3200→LP2400

 

「貴様に《ラーマヤーナ》のモンスター効果を教えてやる。1ターンに1度、このカードのオーバーレイ・ユニットを消費して相手モンスター1体を指定して発動。指定したモンスターを破壊してその攻撃力分のダメージを相手に与える」

「何だ、お前のモンスターもバーン効果持ちかよ? だが、それはお前のターンの時にしか発動しねェ! 次のターンが来るとでも思っているのか、クソガキがァ!! サードファイア!」

 

三度《ガトリング・オーガ》の効果で打ち抜かれる千影。

 

Chikage LP2400→LP1600

 

「オラオラ行くぜ! フォースファイア!」

 

《ガトリング・オーガ》の効果により、ついに千影のライフポイントがデットゾーンに突入した。

 

Chikage LP1600→LP800

 

「さあ、最後だァ!《ガトリング・オーガ》の効果発動! フィフスファイア!」

「おい、千影!」

「千影っ!」

 

連太の勝利を確信した叫びに思わず一光とかなみは千影の名を呼ぶ。

《ガトリング・オーガ》のガトリングが火を噴こうとした時、千影が動いた。

 

「この瞬間、《ラーマヤーナ》の第2の効果を発動!《ヌメロン・ネットワーク》によってオバーレイ・ユニットを消費せず発動する!」

「第2の効果ァ?」

「《ラーマヤーナ》の第2の効果。それは相手の発動したモンスター効果を無効にして破壊する。スキルブレイク!」

「何だとォ!?」

 

《ラーマヤーナ》が主の命に従い、杖より光線を放つとそれを受けた《ガトリング・オーガ》は粉々に破壊された。

 

「能力を無効化する効果だとォ!? なんで今まで発動しなかった!?」

 

連太の叫びに一光が気づく。

 

「そうか、そういう事か!」

「どう言う事?」

 

かなみが一光に問う。

 

「あいつのフィールドを見れば分かるだろ?」

「え? あ!!」

 

2人が見た連太のフィールドには何も無かった。そう何も。

 

「手札0、フィールド0。この状況で他に何かする事はあるか?」

 

千影は静かに連太になげかけた。

 

「お前はオレの手札を使い切らせるために!?」

「さあ、ターンエンドを宣言しろ」

「く、クソ・・・・・! ターンエンドだ!」

「ならば、貴様のエンドフェイズ時に《ヌメロン・ネットワーク》の効果を発動」

「な、何をする気だ!?」

「貴様に“カオス”を見せてやろう・・・・・・!!」

 

千影のその一言で一気に周りの雰囲気が重苦しくなる。

 

「デッキに存在する【ヌメロン】と名のつくカードを選択しその効果を発動する。選択するのは《RUM ヌメロン・フォース》!」

「ランクアップマジック!?」

 

ランクアップマジック。

誰もが聞き覚えの無い魔法カード。しかし、千影を除くこの場の3人は最近目の当たりにしたことがある。

 

「ランクアップマジックって確か・・・・・・」

「LDSの黒咲って奴が使ってたエクシーズモンスターを進化させる魔法カード!」

「なんでそんな物をお前がァ!!」

「さあ、懺悔の用意は良いか?」

 

連太の言葉に返す千影の言葉は死刑宣告と同義であった。

 

「《RUM ヌメロン・フォース》は自分フィールド上のエクシーズモンスターをランクが1つ高い【CX】に進化させる魔法カード。私は、《ロード・オブ・ヌメロン-ラーマヤーナ》1体でオーバーレイ・ネットワークを再構築!」

 

《ラーマヤーナ》の天上に渦巻くエクシーズエフェクトに黒い光球となって飛び込み、強い衝撃を現実に及ぼす。

 

「きゃあ!」

「なんだこの力は!?」

 

この場に居る人間は戦慄する。

リアルソリッドビジョン・システムでもないのに現実に影響を及ぼすこの状況。

千影が操るモンスターが起こしている事に不安と恐怖が一光とかなみの心に渦巻いた。

そんな2人の様子を見えていないのか千影は淡々とデュエルを続ける。

 

「現れろ!カオスエクシーズ!」

 

エクシーズエフェクトから降下してくる影。

 

「偉大なる賢者は混沌を識りて真理を識る」

 

その姿は黄昏色ではなく黒と紫へと変色していた。

 

「理にそぐわぬ者に必定の破滅を与えよ!」

 

ローブの様な鎧や杖も鋭く攻撃的なフォルムへ変化していた。

 

「ランクアップ・カオス・エクシーズチェンジ!」

 

そして何よりもモンスターそのものの雰囲気が禍々しく変質している。

隔絶し俗物より一線を引くこのモンスターの名を千影は呼ぶ。

 

「ランク11!《ロード・オブ・カオス・ヌメロン-マハバーラタ》!」

 

《CX ロード・オブ・カオス・ヌメロン-マハバーラタ》

★11

ORU:3

ATK/4000

 

「か、カオスエクシーズ!?」

「この風・・・・・・!? 現実に!?」

 

《マハバーラタ》の召喚の衝撃で当たりに強い風が吹き服をたなびかせる。

驚く一同だが、連太だけはある事を理解せざる得ない状況だった。

 

「攻撃力・・・・・・、4000だとォッ!?」

 

連太の手札とフィールドには何も無く、墓地から発動するカードも無い。

その状況で攻撃力4000のモンスターの登場である。

 

「《ヌメロン・フォース》の追加効果により、このカードで特殊召喚したモンスター以外のカードの効果を無効化するが貴様のエンドフェイズだ。意味は無い。そして選択された《ヌメロン・フォース》は墓地へ」

「ランクアップ意外にそんな効果が・・・・・・」

「これがエクシーズモンスターの進化した姿・・・・・・」

 

現れたカオスエクシーズ。その姿に息を呑む一光とかなみ。

ソレから放たれる威圧感はその場に居るだけで寒気を感じる程だというのに敵意として向けられている連太の心境は嫌でも理解できるだろう。

 

「さ、サレンダーだ! サレンダーする!」

 

本能で連太は感じた。

“アレ”の攻撃を受けてはいけないと。

しかし、現実は非常であった。

 

「断る」

 

千影はデュエルディスクに表示されたサレンダー表示に拒否で応えた。

 

「何で!?」

「私のターン、ドロー」

 

連太の訴えなど耳を貸す事も無く自身のターンを進める千影。

 

───貴様は我の糧になって貰う。

 

「バトルフェイズ」

 

それは連太にとって死刑宣告に等しかった。

 

「やめろォ!」

「《マハバーラタ》で相手プレイヤーにダイレクトアタック」

 

主の命により混沌の賢者が動く。

 

「やめてくれェ!!」

 

杖に集まる強大なエネルギーからは本当に命を消し去るのではないかと錯覚するほどの力を感じさせていた。

 

「スペル・オブ・カオス・ヌメロン」

 

そして、それは解き放たれた。

 

「うわあああああああああッ!!」

 

視界を真っ白に染め上げる極光が連太を飲み込んだ。

 

Renda LP4000→LP0

 

Chikage WIN

 

 

 

◇   ◆   ◇

 

 

 

「《ブラック・マジシャン》、確かに返して貰うぞ」

 

千影の声に連太は答えない。

《マハバーラタ》の攻撃による衝撃で壁に強かに打ち付けられ気絶したからだ。

拾い上げた《ブラック・マジシャン》をずっとデュエルを見守っていた少年に返す。

 

「はい、どうぞ」

 

優しく微笑みかける千影。

最初は戸惑った少年だが、穏やかな千影の雰囲気を感じ取り満面の笑顔で応え、《ブラック・マジシャン》を受け取る。

 

「取り返してくれて、ありがとう、お兄ちゃん!」

「当然のことをしたまで。第一、デュエリストもどきを野放しにしている方がデュエリストとして恥だ。ここら辺のそういう輩は駆逐したはずだったのに、まだいたとは」

 

千影の言う通り、ここら一帯にはそこそこの数の不良デュエリトは存在していた。

それを一光千影兄弟とかなみが自分の持ってるレアカードを餌にアンティールールでデュエルし悉く討ち倒してきた。

それにより、『○屋』を基点とする周囲の不良デュエリストは退治され、治安が良かったのだ。

今回の事を起こした青年、連太は何処からか流れて来たのだろう。

 

「咲夜さんにお願いして、この子の親御さんに迎えに来てもらおう」

「うん、安全第一だね!」

 

その後、一光の要請を受けた咲夜は少年の通う学校から親御さんの連絡先を聞いて連絡。無事迎えに来て貰う事になった。

幼い少年一人で家路に向かわせるのは無防備すぎる為だ。道中でさっきの様な輩にまた絡まれないとも限らない。

 

「ねえ、君。《ブラック・マジシャン》を使いたいかい?」

「うん!」

 

千影の質問に元気良く答える少年。

 

「じゃあ、《ブラック・マジシャン》は両親に預かって貰おうね?」

「えっ!? なんで!?」

 

千影は少年に警告する。

 

「もし、また同じ様な状況になった時、君は自分でそのカードを取り戻せるかな?」

「そ、それは・・・・・・」

「だからね、《ブラック・マジシャン》を守れるだけのデュエリストに成れたと思ったら親から返して貰えば良いんだ」

「できるかな? ぼくに・・・・・・」

「できるよ。どんな時でも諦めない限り、デュエリストは強くなれる。君もデュエリストだろう?」

「うん! ぼく、強くなる!」

「ああ、それで良い」

 

そんな千影と少年の会話を見守る一光とかなみ。

 

「相変わらず面倒見良いよな、あいつ」

「そうね、お人好しですもの。だけど・・・・・・」

「さっきのデュエルの時か?」

「ええ」

 

2人の表情は曇っていた。

何故なら、あの時デュエルしていたのは千影だったが、なんとなくではあるが千影では無いと感じていたからだ。

 

「さっきの千影、まるで千影じゃないみたい」

「そうだな。雰囲気が別の人間だったような気がする」

「あの【ヌメロン】デッキを使い始めたからかな?」

「だろうな」

 

そんな2人に千影が声をかける。

 

「2人してどうした、暗い顔をして? 後の事は咲夜さんに任せてあるから俺達は会場に急ごう。そろそろ向かわないと時間的にまずいんじゃないか?」

 

その姿は変わらない、いつも見る千影の姿。

 

「ああ、そうだな。急ごう」

「ちょ、ちょっと、待ってよー!」

 

杞憂かと邪念を振り切り一緒に駆け出す3人。

だが、事態は刻一刻と進んで行く。

 

一光とかなみの背中を見守る千影の瞳が一瞬だけ変わる。

 

・・・・・・左目は赤に、右目は青に。

 

 

 

To be Next───




●今日の最強カード●
《ロード・オブ・ヌメロン-ラーマヤーナ》
ランク10 闇属性
魔法使い族 エクシーズ 効果
レベル10モンスター×2
①:1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。
相手フィールド上のモンスター1体を破壊し、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。この効果を使用したターンはこのカードは攻撃宣言できない。
②:相手がモンスター効果を発動した場合、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。その効果を無効にして破壊する。
ATK/3000 DEF/300

「ヌメロン」の名を持つ頂上に近き賢者。それがこのモンスターである。
ステータスはランク10では妥当な物だが、その効果は脅威の一言。このカードと《ヌメロン・ネットワーク》が場に揃った場合、相手のモンスター効果をほぼ封殺するという恐ろしい状況になる。
またランクアップする事もでき、《CX ロード・オブ・カオス・ヌメロン-マハバーラタ》にカオス・エクシーズチェンジした場合、その効果も強化される事は予想できよう。できる事なら早急に《ハンマーシュート》等で処理するべきモンスターだ。
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