謎の男、紫貝 螺旋の襲撃のあったその日の夕方。
土野宅、千影の私室にその部屋の主である千影とその兄一光、そして幼馴染のかなみが円を描くように座っていた。
千影は自分の学習机の椅子に、一光は絨毯の上であぐらをかいて。
かなみは千影のベットに腰掛けている。
「どういう事か、説明してくれる?」
そう切り出したのはかなみであった。
◇ ◇ ◇
「かなり突拍子も無い話になるけど?」
俺の問いに何でもない様に兄さんが答える。
「“あんなモノ”を見た後だ。ある程度常識はずれでも信じられるよ」
“あんなモノ”とは神のカードたる《ヌメロニアス》の事か。
「【神】って名前の付くカードは幾つもあるけど、本当の“神のカード”なんてもの間近で見れば、ね」
と、かなみ。
んじゃ、説明といきますか。
「大前提の知識として確認したいんだけど、平行世界って知ってる?」
「平行世界?」
「えーと、確か、いろんな基点から分離してこことは違う道筋を辿った似てるけど違う世界ってやつだっけ?」
かなみは首を傾げる一方、兄さんは正解を言ってくれる。
「その通りだよ、兄さん。もしもの世界、可能性世界とも言うけどね」
「その話に“融合次元”って話が出てくるって訳か」
さすが兄さん、鋭い。
「そ。この世界とは別に3つの異世界が存在する。それがいわゆる融合次元、シンクロ次元、エクシーズ次元だ。」
「もしかしてそれぞれの召喚方法に特化した世界って事?」
俺の言葉にかなみがそう言った。
かなみはアホの子ではありません。実は飲み込みが早い子なんです。
「そうだよ。それぞれの次元はその名の通り、その召喚方法に特化した世界。
で、それぞれの世界は平和に暮らしていたんだけど、転機が起きた」
「その転機って?」
そこで思い出されるのがあの時の試合。
「黒咲と紫雲院のデュエルは覚えてる?」
「ああ、あれはすごかった」
「でも、ハンティングだの戦争だの訳分かんない事も言ってたよね?」
俺はあの会話で大体の事情は察した。
「あの話から推測するに、融合次元がエクシーズ次元に攻め込んだんだ」
「だから黒咲って人、すごい融合アレルギーだったんだ」
かなみ、その感想はどうかと思うぞ?
いくら素良が融合召喚するたびに顔を歪めていたからって・・・・・・。
ん? いや、あながち間違いでもないか。
「融合次元がエクシーズ次元に攻め込む理由は?」
「分からない。単純に世界征服なんて事は無いと思うけど」
確信に迫る疑問をぶつけて来る兄さんだが、さすがに俺もそこまではわからない。
「多分、エクシーズ次元になんらかのお宝みたいなものがあったんだろう。例えば、コレみたいにね」
そう言って俺が取り出したのは《CX 夢幻虚神ヌメロニアス》のカード。
「“神のカード”・・・・・・」
「恐らく各次元にそういった超常的な存在があるんだろう。それを奪う為に融合次元が事を起こしたって事もありえる」
「なるほど。だからさっきの男はエクシーズ使いだと思って千影を狙ったんだ」
呟き、自分の中で情報を整理していく兄さん。
一方、かなみは螺旋が俺に襲ってきた理由に納得がいった様子。
「その戦いはシンクロ次元にも飛び火しているんだろう。もしかするとその内シンクロ次元の人も見かけるかもね」
「だが、どうして俺達のいる世界で戦ってたんだ?」
と、兄さんの当然の疑問。
「まあ、あらかた滅ぼされたんじゃないかな? エクシーズ次元が」
「なッ!?」
あっけらかんと答える話の内用に驚く兄さん。
そりゃ、世界1つ滅んでますって言われて驚かない人間はいないよね。
「で、黒咲って人は逃げ延びた生き残り。融合次元の人間は残党狩りでこっちに来てるのかもしれないね」
「もしかするとこの世界も標的に?」
「なるかもしれないね。この世界も標準から分岐し始めているから」
「標準?」
かなみの疑問に俺は答えていく。
「仮にこの世界を標準世界、スタンダード次元としよう。だけど、この世界にしかないエクストラデッキからの召喚方法が出来始めている」
「・・・・・・っは! そうか! ペンデュラム召喚か!」
頭の回転が速いね、兄さんは。
「もしかするとこの先この世界はペンデュラム次元になるのかもしれない。そうなると、この世界にも特異点ができる。よって・・・・・・」
「この世界にも融合次元が求める何かが出来るかもしれないって事か」
「正解」
そうだ。この先ペンデュラム召喚が流行していけば、それに順ずる何かが現れるのは必定。
スタンダード次元で言えば、三幻神。そしてそれに連なる様に生まれた三邪神に三幻魔。
融合次元は謎だが、エクシーズ次元・・・・・・と言うよりZEXALの世界だとナンバーズがそれに該当する。
と言うか、召喚方法的にはエクシーズの方が汎用性が高いんだからそう簡単に滅ぼされたりしないと思うんだが、やはりエクシーズ次元にはナンバーズは存在しなかったり、エクシーズ召喚自体が未発達だったりしたかな?
エクシーズ召喚のテストベットになった心園市ででかい事件が起きたらしいって噂は聞いたけど、詳しい事情は分からない。
シンクロ次元には三極神がいるだろう。ってかこの世界にも存在する。
過去のデータでWRGPの映像が残ってたから見てる。
そして語り継がれる噂。この世の命運を掛けた一戦、不動 遊星があのデュエルに勝っていなければ今の俺達はいないだろう。
不動博士にご助力願いたいものです。
ってか十代って今五十代? ちなみにAIBOは60代です。
「ペンデュラム召喚の先駆者、榊 遊矢のデュエルも進化している。ペンデュラム融合にペンデュラムエクシーズ。もしかすると彼のエースカード《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》が進化し続ければ・・・・・・」
「融合次元の欲しているモノになりえる、と。厄介な話だ」
遊矢に対し辛らつなコメントの兄さん。
仕方ないよ、だって彼、主人公ですもの。
「さすがに世界がピンチだからデュエルをやめろ、なんて彼に言えないしね」
「それは、そうだが・・・・・・」
「っていうか、こんな話を信じてくれるのかな?」
少し、渋る兄さん。そして正論を言うかなみ。
と、ここで少し沈黙が続くがかなみがそれを切り裂く。
「もしかして、千影の【ヌメロン】デッキってエクシーズ次元から流れついた物だったりする?」
おろ? すごい質問しますね、かなみさん。
「・・・・・・正直分からない。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
「どういう事? 今までの事は大分自信ありげに話していたのに」
「今までの話は、ちょっと前にエクシーズ次元の人達がLDSと話して居るのを倉庫街でたまたま聞いていたのと、あの試合の会話からの推測なんだけどね。“コレ”ばっかりはエクシーズ次元の人間に聞いてみないと分からないかな?」
倉庫街の話はその場に居なかったけど観ていたから大体の予測が立てられるけど、この先は全くの未知。どうなるか分からない。
更にこの【ヌメロン】デッキはエクシーズ次元とは直接関係がない確立が高い。
何故ならこのカード群は“神のカード”ではなく神が作ったカード群だからだ。
「あの時、言っただろ? “俺でいられてるよ”って」
「おい、ちょっと待て!?」
俺の言葉に声を荒げる兄さん。
「この【ヌメロン】デッキには何かある。何者かの意思の様なものが俺を突き動かしているんだ」
「じゃあ、私達が感じていた違和感は嘘じゃなかったんだね」
ああ、やっぱりバレてたんだ。
「・・・・・・その事に関しては心配掛けた。ごめん」
とりあえず、謝る。
「じゃあ、そんな危ないデッキは今後使用禁止だね」
「かなみの意見はもっともだな」
とかなみと兄さん。
だけど・・・・・・。
「ごめん、それは出来ない」
「なんでっ!? 千影の体が乗っ取られるかもしれない危険なモノなんでしょう?」
悲鳴にも似たかなみの追求に俺は答える。
「今後、この次元間の戦いは激化する。俺自身危険対象に設定された以上巻きこまれるのは決まってる。なら、今は少しでも勝率の高いデッキを使うしかない。じゃないと自分の身すら守れない」
「「・・・・・・」」
俺の言葉にただ返す事さえできない2人。
心配かけたくないけど、こういう世界じゃ日常茶飯事なんだよな。
「確かに、俺の中で何かが芽吹きだしている」
そう、あの時感じたモノ。それは俺の体なのに俺じゃない感じがした事だ。
まるで着ぐるみの中にでも入っていた様な違和感。
そしてわずかに聞こえた声。
───満ちている・・・・・・。
厳格な男性の声。
間違いなくあの世界の神、ド■・サウ■■ド。
まだ記憶にノイズがあるがあの声は忘れていない。
1対2という変則デュエルだったにも関わらず、あの遊馬とナッシュを圧倒し続けた存在。
結局はカイトの援護で3人の絆パワーの前に敗れてしまったが、それの残照がこの【ヌメロン】デッキなのだろうか?
「もしかすると融合次元は4つの次元を統一するつもりなのか?」
そこで思い浮かぶ、ヤツの目的。それは“ヌメロン・コード”の取得。
過去・現在・未来のあらゆる事象が書き込まれているという全知全能の存在。
それを手にした者は世界を自分の好きな様に書き換える事ができる。
それこそ、4つの次元を束ねて新しい世界を創り、そこに君臨する事もできる。
と言ってもヌメロン・コードはZEXAL世界でのお話。
ここはARC-Vの世界だから関係無いと言い切りたいが、材料が無い。
「成る程、各次元を統率するキーを手にして全ての次元の主に、寸法か」
「まるで神さまって感じよね。良くある話ね、悪巧みの果てに神さまになろうって流れ。テンプレってやつ?」
兄さんが話を纏めてくれて、かなみが首謀者の狙いを予想する。
当たらなくも遠からじって感じだろうか。
ってか、この先どういう風に物語が進むのか全くわからない。
超常的な力を得る為に各次元を荒らし回っているのか、それとも別の目的があるのか・・・・・・。
「まあ、大体分かった。俺達も協力するからとにかく自分を強く持て。分かったな? 千影」
「ああ」
兄さんに図太い釘を刺されてしまった。
「そのデッキに住み着いてる何かに乗っ取られても私が助けてあげるからね!」
「それは心強いな」
精一杯に強がって見せてくれるかなみの優しさに少し心が軽くなる。
「コレばっかりは俺を信じて貰うしかない。あの時は不意に気が遠くなってその隙にヤられそうになったけど、今度は大丈夫。兄さんやかなみが信じてくれているんだ、大丈夫に決まってる!」
よし、心を強く持てた。こんどはあんなヘマはしない。
そう決意した俺は次の行動を2人に知らせる。
「んじゃ、今できそうな事は・・・・・・」
「事は?」
「この世界の分岐点を作った張本人。榊 遊矢に接触する事」
どうなるか分からないけど、いよいよ物語の中心地へ。
さあ、お楽しみはこれからだ! ってね。
◇ ◆ ◇
『続いて、デュエルニュースです』
ここは遊勝塾。そこの一室に遊勝塾メンバー達が集まり、テレビで報道されている舞網チャンピオンシップのニュースを見ていた。
『連日、連戦が繰り広げられている舞網チャンピオンシップ・ジュニアユースクラスでは今日で2回戦全ての試合が終了し、ベスト16が出揃いました』
緊張の面持ちでテレビ画面に食い入る遊勝塾メンバー。
『それではその顔ぶれを紹介しましょう!』
そして発表されるベスト16。
1人目、遊勝塾所属、柊 柚子。
2人目、遊勝塾所属、榊 遊矢。
ここまでの発表で、遊勝塾の塾長である柊 修造が遊矢と柚子がお互いを鼓舞する様子を見て熱血だ! 青春だ! と暑苦しく叫んでは娘の柚子にハリセンでツッコまれるコントが繰り広げられている。
3・4・5人目はカール、アシュリー、ブラムのナイト・オブ・デュエルズ。
6人目、霧隠料理スクール所属、茂古田 未知夫。
7人目、権現坂道場所属、権現坂 昇。
『優勝候補の1人に挙げられているのがLDS所属、黒咲 隼選手です』
8人目、LDS所属、黒咲 隼。
ニュースキャスターは黒咲の実力を素良とのデュエルを例に挙げて紹介した。
遊矢は特に鮮明に思い出す。
あの苛烈を極めた攻防。舞台となった《未来都市ハートランド》を焼け野原に変えた本当の意味での“戦い”というモノを。
『2回戦も一方的な勝利した黒咲選手。3回戦ではどんなデュエル見せてくれるのでしょうか?』
素良戦での隼のデュエルを不服に思う遊勝塾に所属する子供達、山城 タツヤ、原田 フトシ、鮎川 アユが不満の声を上げる。
「素良・・・・・・」
事情を知る遊矢はただ呟くだけだった。
9・10人目は梁山泊塾所属竹田 真と梅杉 剣。
更に続く強豪、日影、月影、オルガと紹介されていく。
『3回戦までに勝ち上がって来た強豪の中、無所属ながらその実力を見せ付けたダークホースの3人を紹介しましょう!』
ニュースキャスターの言葉に再び一同が画面を見る。
『まず1人目は清純な小悪魔、高坂 かなみ選手です。物腰柔らかな彼女ですが、どんなモンスターも巧妙に落とし穴に落としモンスターをことごとく破壊し勝利を手にしてきた、まさしく蟲惑魔を従える子悪魔ですね!』
『続いて2人目。デーモンの王の異名がぴったりの土野 一光選手。強力なデーモン達を従え、巧みに相手を討ち取る姿は正にキング・オブ・デーモン! 3回戦でもその猛威を振るう事は確実です!』
『そして3人目は一光選手の弟にして今大会の優勝最有力候補、土野 千影選手です。人は彼を叡智の神官と呼んでいる様です』
ニュースキャスターの言葉にここにいる皆が沈黙した。
『特別シード枠を含むLDS選手2人に勝利し、梁山泊塾の期待のホープすら打倒せしめた千影選手。彼の操るモンスター達は他を圧倒していましたね! どれもこれも素晴らしいデュエルでしたが、特に印象深いのは上利亜 進駆郎選手との戦いで見せた《夢幻虚王ヌメロニア》でしょうね。ランク11で攻撃力5000という超弩級のモンスターのエクシーズ召喚は会場を大いに盛り上げました。3回戦ではどんな戦いを見せてくれるのでしょうか?』
「土野、千影・・・・・・」
遊矢が思わず呟く。
「確かにあれにはちょーシビれたぜー!」
「うん、ランク11のモンスターなんて始めてみたよ」
「攻撃力5000とかすっごいよねー!」
フトシ、タツヤ、アユが千影の最初のデュエルの感想を言う。
「遊矢、もしかするとこの大会で最大の壁になるのは黒咲ってヤツとコイツになりそうだ。気張って行け! 熱血だぁあ!!」
修造が遊矢に活を入れ、熱い応援する。
しかし、遊矢の顔色は優れない。それを見た柚子は声をかける。
「どうしたの、遊矢?」
「千影ってやつ。アイツのすごいデュエルを見ていて思ったんだ。アイツは“戦い”を知っている」
「戦いって・・・・・・黒咲の言ってた?」
「ああ、それに雰囲気もそれとなく似て居たんだ、ユートに・・・・・・」
「・・・・・・そう言われれば。性格とか全然似てないけど、纏っている雰囲気は似てる気がする」
それぞれ千影のデュエルから感じるものを言い合う遊矢と柚子。
「3回戦で千影や黒咲と戦うかもしれない。あの2人に勝てるイメージが湧かない。だけど、負ける気なんて、ない。俺は、俺のエンタメデュエルで戦うんだ」
「・・・・・・遊矢」
そこで意を決したように、柚子にだけ聞こえる様に遊矢は話す。
「柚子。3回戦であの2人から詳しい話を聞こうと思うんだ。きっと融合次元とかエクシーズ次元、シンクロ次元の事を知ってる」
「でも、それって・・・・・・!」
「ああ、危険かもしれない。だけどこのままじゃいけないんだ」
遊矢は首に掛けているペンダントの結晶を握り締めて言う。
「このままだと取り返しの付かない事になる気がするんだ。だから俺は、どうにかしたいんだ。ユートが言ってた望み、デュエルで皆を笑顔にする為に」
「ユートがそんな事を・・・・・・」
「俺自身の望みでもあるんだ。揺れちゃダメなんだ。真っ直ぐ前を見ないと」
「そうだね、頑張ろう! 遊矢!」
「ああ! お楽しみはこれからだ!」
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●今日の最強カード●
《RUM-ヌメロン・フォース》
自分フィールド上のエクシーズモンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターと同じ種族でランクが1つ高い「CX」と名のついたモンスター1体を、選択した自分のモンスターの上に重ねてX召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。その後、この効果で特殊召喚したモンスター以外のフィールド上に表側表示で存在するカードの効果を全て無効にする。
今回の話に出てきたカードでは無いが千影の持つ【ヌメロン】デッキで切り札を呼び出すのに必要な強力な魔法カードであり、スタンダード次元には存在しない、魔法カードによるランクアップの概念を持つ。
今後の物語にどの様に関わるかは神のみぞ知る。