信念とは“灯火”である。
どちらも人生の選択を左右するが・・・・・・
才能で選択した者は苦難から立ち上がれない。
なぜならば、己の責任と弱さを才能のせいして
現実を見れないからだ。
そして、信念で選択した者はいかなる苦境も乗
り越えられる。
なぜならば、自分の弱さを認め、心の強さを鍛
え上げ、どんな道も歩き出し、現実を生きるこ
とができるのが信念だからだ。
そう、人生の選択は自分の心で決めることこそ
価値があるのだ。
【陽春 夕暮れ】
[梁山泊 母屋]
梁山泊の試合はそうちゃんの勝ちで終わった。
まさか、美羽さんが敗れるとは思わなかった。
試合が終わった後も僕は信じられなった・・・。
けど、美羽さんは岬越寺先生の接骨院で治療中
・・・・・・現実だ。
「・・・美羽さん」
岬越寺先生の診察によると美羽さんは比較的に
軽傷だということだ。
背中の打撲以外擦り傷程度なので2、3日安静
すれば完治するそうだ。
「・・・・・・・・・そうちゃんはものすごく手加減したん
だな」
戦闘経験が浅い僕でも理解できる。
あれは勝ちは勝ちでも・・・完全なる戦術と完璧
なる戦略による勝利だ。
「ちょっとや少しの差じゃない。とてつもない実
力をみせつけられた」
あの試合を見たら、誰だって鳥肌が立つ。
そう、しぐれさんが言っていた極限まで己を鍛
え抜いた・・・鍛錬の結晶だと。
岬越寺先生が語っていた真の使い手とは・・・己を
制する者。二人の言葉が当てはめる身体にガッチ
リ叩き込んだ技による戦術。
猛獣の感性と人間離れした身体能力を持つ美羽
さんを即座に分析し、それを逆手に取った戦略。
まさにお釈迦様の手のひらの上だった。
そう考えると僕は体育座りで自分の人生を振り
返った。
「そうちゃんがあんなに強くなっている・・・
なら、龍斗もおそらく・・・だが、僕・・・僕は」
僕だけ止まっていると実感し、焦りがこみ上げ
身体が熱くなっていき、心に閉まっていた本音を
呟いた。
「僕は弱い。あの日から弱いままか」
再会したら、勝負をすると約束をした日からず
っと身体を鍛えた。
毎日朝夜ランニング10kmとそうちゃんがく
れた練習ノートに書かれた筋トレメニュー。
さらに精神統一の方法なども勉強しとけと言わ
れて様々な心理や哲学の本を読破した。
「そう、筋肉は嘘をつかないけど、才能に関して
は・・・残酷だった」
けど、梁山泊のみんなにも言われたが、“武”の
才能がないと・・・いや、“武”の運がないというか。
「自分でもわけがわからない」
僕が自分自身をこう感じるのか・・・・・・。
それは小学生の頃からいろんな道場やジムに入
門しては数カ月ごとで辞めるハメになったからだ
「ほとんど自業自得だけど、なんでか入門した後
必ず事件事故に巻き込まれたもんな〜」
最初は入門したのは家から遠かったが、住んで
いた地域では有名な空手の道場だった。
クラスメイトたちからイジメられて見返す為に
約半年ぐらい通ったが・・・・・・問題を起こして道場
の師範から“二度とうちの敷居を跨ぐな”と罵倒さ
れて辞めた。
「師範には悪いことしたな。でも不思議がってた
な〜。なんで上手くならないんだって・・・」
それでもめげずに近所の柔道教室へと入ったが
こちらは前と同じ理由で教室の先生から“辞めて
くれ”と言われて約3カ月で辞めた。
「最後に受け身だけは上手いなと褒められただけ
だもんな〜」
その後、テコンドーやジンクードー、ボクシン
グ、カポエラなどの様々なジムも通ったが・・・。
「結果はみんな同じで終わった〜」
だから、中学に上がる前で武道をあきらめた。
しかし、身体に染み付いた習慣は恐ろしい。
身体を動かさないと貧乏揺すりのようにイライ
ラしたから筋トレは続けた。
気づけば、僕の身体はアスリートを超えていた
「まぁ、その筋トレのおかげでイジメには耐えら
れたけど・・・・・・これって情けないか?」
結局、中学の時は趣味が読書と筋トレで家と学
校を往復する日々を過ごし、ときどき、悪友やク
ラスメイトたちにイジメられたな・・・・・・。
「けど、また武道をやろうと思ったのは美羽さん
の強さにあこがれたからだ」
高校で転校してきた美羽さんが損得を関係なく
弱い人を助ける姿を見て・・・忘れかけていた武道
への情熱がよみがえった。
「そう、ただ強くなりたかっただけなのに・・・・・・
どうして学校中から指名手配なの?」
そう、空手部に入部したのが運の尽きかな〜。
おかげで今や学校中の不良さんたちに命を狙わ
れる身だよ。事態がどんどん悪化してる。
「やっぱ、梁山泊に入門したのが原因かな?」
「アホか!お前が無鉄砲にケンカを売りまくった
のが原因だろうが!」
「うわっ!!」
いきなり、ぶつぶつと独り言を呟いていた僕の
後ろで仁王立ちしたそうちゃんにツッコまれた!
「そうちゃん!?」
憐れな目で僕を見るそうちゃんは僕が毎度他人
の古傷に塩を塗るような質問を悪意なく口走るか
ら友人や知人、他人に関係なく嫌われて、それに
よって距離を置かれたり、イジメられたりと現状
悪化へ繋げてきんだと。
「つまり、自業自得だ!!」
「うぅ!!?って、ちょっと待って〜!なんで?
なんで、そのこと知ってるの!?」
「おばさんがうちの母さんに相談させたんだよ」
「えっ?相談!?」
「あぁ。もしかして、お前はもし呪われているな
らば、お寺や神社、教会に出向いてお祓いした
方がいいとも助言してたぞ!」
「・・・・・・おばさん、ひどいよ〜」
「うるせー、学校も同じで自業自得だろ!!」
だいたい、不良どもに追われているのも無駄な
闘いに巻き込まれているのも僕がバカ正直に真正
面からぶつかったからだと叫んだ。
その結果、事態が峠を転がり落ちるように悪化
してるんだと口を酸っぱくして説教させた。
「まったく、自業自得の見本だよ!!」
「う、うるさい!!」
「お前はもう強くなるしかない!そう、達人の谷
を転げ落ちるのみだ!」
「待ってくれ、それは私のセリフだよ」
僕たちが騒いでいる最中、後ろから岬越寺先生
が声をかけられた。
「あっ、岬越寺先生」
「・・・先生、風林寺の治療はもういいんですか?」
「あぁ、もう終えた。今の美羽は一人した方がい
いと思うので私は君に聴きたいことがあるから
こちらに来た」
「オレに聴きたいこと?」
岬越寺先生は神妙な表情でオレに優しい目線を
向け、こう質問した。
「君を梁山泊に入門することはもう誰も反論しな
いが・・・君は本当にそれでいいのかね?」
「・・・・・・・・・」
僕は先生の言葉の意図がわからず、質問した。
「あ、あの〜、それはどういう意味ですか、岬越
寺先生?」
「兼一くん、彼の実力を観ただろ?」
「・・・・・・・・・・・・」
「はっきり言うが、彼はもう弟子クラスではなく
準達人に位置づく“妙手”だ」
「そうちゃんが準達人・・・・・・」
先生にそう言われても、僕は驚かなかった。
先生の言う通りで弟子の域ではないのは誰でも
理解できる。
そう、そうちゃんは美羽さんよりも強いと。
僕がそう思っていると先生はそうちゃんの方に
目線を向けて尋ねた。
「おそらく、君はもうすぐマスタークラスへと
“昇華”する」
「・・・・・・・・・全てお見通しですね」
「つまり、私たちがいなくても君はすぐに“達人”
へ到達するならば、この梁山泊の修行は意味が
ないと私は思う」
そうちゃんは先生の言葉に頷き、少し沈黙して
こう答えた。
「岬越寺先生、オレはあくまで兼一が心配でここ
に入門するだけです」
「うむ」
「なので、兼一に関する指導方法には一切口出し
をしません」
「うむ」
「つまり、先生たちの理念に従います」
「・・・・・・そうか、ありがとう」
そうちゃんは先生との話し合いを終えたら、帰
ると言い、正門に向かった。
「それじゃ、正式な入門の手続きは後日。今日は
この後、用事があるんです」
「うむ、それではまた後日」
「そうちゃん、明日学校で!」
「おぉ、風林寺をなぐさめろよ。彼氏なんだから」
オレがそう言うと颯爽と正門に歩き出し、兼一
はもじもじとキモい動きをしながら、“か、彼氏
だなんて〜”と恥ずかしがっていたが・・・・・・
あいつの後ろにはオレの時よりも強烈な怒気を纏
っていた長老が両手の指をボキボキと鳴らしなが
ら、仁王立ちをしていた。
「ちょっといいかのぅ、ケンちゃんや・・・・・・・・・」
「ち、長老〜〜〜〜!!?」
憤怒の長老を見た兼一は梁山泊中に響き渡る悲
鳴をあげた。
それを聞いたオレはため息しながら、呟いた。
「・・・・・・あいつ、ホントに不憫なヤツだな〜」
とりあえず、重要な用事は終わった。
次は本日の仕事だ。
思ったより長引いたから急ぐか。
「・・・・・・やっぱ、尾行するか」
オレが梁山泊を出る前からか?
この感じだと・・・・・・香坂さんか。
オレをさらに見極める為ですか?
まぁ、梁山泊で武器派はアナタだけですもんね
オレの腹芸では納得がいかないんですか?
けど、オレも自分の全てを見せるのは先にさせ
てもらいますよ。
「仕方ない、“アレ”をやるか」
オレは気が付かないフリをしながら、歩き続け
目の前の十字路を左に曲がった。
「・・・・・・・・・・・・ど、どういう・・・・・・ことだ?」
ヤツの正体をつかもうと尾行をしていたボクは
あいつが十字路を曲がり、ボクも曲がったら・・・
あいつは姿を消していた。
「・・・・・・このボクを・・・・・・出し抜いた」
冷や汗が額から流れた。
美羽の時と同じでヤツの存在が感じないのだ。
「ヤツは・・・・・・妖怪か?」
ーto be continuedー
次回 達人