GX次元の環境を破壊します。チェーンはありますか? 作:青いカンテラ
【前回までのあらすじ】
ン熱血指導!
◆◇◆◇
カードの精霊、という存在がいる。それは文字通り、デュエルモンスターズのカードに宿る精霊であり、特別な出自のあるカードはもちろん、人に大切にされているカードにも精霊が宿ることがあるらしい。
この世界ではカード1枚の価値と言うものが、オレの前世の世界よりも高い。他人からすれば弱いカードでも、その人にとっては大切なマイフェイバリットカードだったりするのだ。なので、デュエルをする人間の傍には結構な頻度でカードの精霊がいる。カードの精霊がいるということは、それだけカードを大切にしている、ということでもある。
ただまあ、そのカードの精霊を見れるかどうかはまた別だ。精霊そのものは結構いるようだが、その精霊の存在を認識できる人間というのは案外少ない。オレの場合は転生特典なのか、あるいはこの体に元から備わっている素質なのか、カードの精霊を見ることができる。オレの持っているカードたちにも精霊はいるし、そして何より・・・。
「・・・そのおかげで、オマエを見つけられたんだよな・・・」
『なによ?』
「いや、こっちの話だ・・・っと、これで完成っと」
料理をしていたオレの手元を覗き込んでいたユウカにそう返して、仕上げにかかる。片栗粉をまぶしてフライパンで焼いていた木綿豆腐に、醤油、みりん、コチュジャンetcといった調味料の合わせダレを掛けて、さらに少し煮詰めれば・・・。
今日の夕飯、豆腐ステーキの甘辛ダレの出来上がりである。一人暮らしの節約飯は色々と本が出ていたり、ネットを探せばレシピがそこら辺に転がっていたりするものだ。前世でも世話になったな・・・としみじみと思う。・・・そういえばしじみの味噌汁のストックが残っていたな。使ってしまうか。
『あんたって結構料理できるわよね・・・』
「ん? そりゃあな。両親が仕事で忙しくて、一人で留守番することが多ければ、自然と上達するものだろ」
『それにしては妙に手慣れてる気がするんだけど』
まあ、前世でも自分の飯は自分で作ってたからな。
冷凍していたご飯と、小分けにしていたしじみの味噌汁とをレンジでチンして容器に移せば、先に作った豆腐ステーキの甘辛ダレと合わせて一食分の出来上がりだ。大量に作って小分けにしておくと、こうして手間をかけずに品数を確保できるから便利である。・・・こういうところが妙に手慣れてると言われるんだろうな。
『はあ・・・。誰かが食べているところを見てるだけなんて・・・』
「精霊・・・いや、霊体か? のオマエはモノを食えないしな」
『お腹が減ることはないけど、あんたの料理見てるとお腹が鳴る気がするのよね。あー、ポテチとかアイスとか食べたーい!』
「ごねると余計に腹が減るぞ」
『あんたそれ分かってて言ってるでしょ』
「何のことだか」
創作だと何かを食べることができる存在もいたりするが、ユウカの場合は半透明でふわふわ浮いてるだけの幽霊少女なので、ものを食べることはできない。その代わり腹が減ることもないらしいが、そこはやはり人が何かを食べていると自分も食べたくなるというのは人の性というものだろう。
「それじゃあ、頂きます」
手と手を合わせて何とやら。豆腐ステーキを箸で切り分けて一口。・・・うん、我ながらいい出来だ。豆腐が淡白な味だから、タレはもうちょっと濃くてもよかったかな。
『うぅ~。元の体に戻れたらアタシも食べたい・・・絶対食べてやるんだから・・・』
・・・しじみの味噌汁が沁みるな。
◆◇◆◇
「―――なるほど。新たな召喚法、シンクロ召喚とエクシーズ召喚ですか」
「はい。わたしはその2つの新しい召喚法のテスターとして、ここに来ました。そしてこのデュエルアカデミアでシンクロ召喚とエクシーズ召喚を先行実施することにもなっています」
「ふむ・・・」
デュエルアカデミア、校長室。そこはある種異様な雰囲気に包まれていた。教師陣が勢揃いし、新入生であるオレの話に注目している。テスター、新たな召喚法、それの先行実施、これらの話を聞いて、教師たちはひそひそと言葉を交わしている。オレの目の前にいるのは、このデュエルアカデミアの校長である、鮫島校長だ。入学式では優しそうな笑顔で長話をしていたが、今は真剣な表情で話を聞いていた。
・・・シンクロ、エクシーズ先行実施のことは既にKCあたりから話は通っているかと思っていたんだが・・・この分だと、何も聞かされていないっぽいな。報・連・相はどうした。
ちなみに入学式は既に終わっている。先に入学式に出て、その後に校長室へと来たのである。一応オレのことは知らされていたようだが、それ以外のことはオレに聞け、とでも言われているんだろうか。
「・・・これら2つの新しい召喚法は、正式に発表されれば今のデュエル環境に大きな影響を与えるでしょう。なのでまずは、このデュエルアカデミアでテストを行い、その影響のほどをテストするというのが目的です。先の実技試験で披露したのも、このテストの一環でした」
「というこトーハ、ワタクシはテストの実験台だったというなノーネ・・・?」
有り体に言えばそういうことになる。実技試験の場とは言え、相手はデュエルアカデミアの実技最高責任者だ。シンクロ召喚とエクシーズ召喚をちらっとお披露目するのにこれほどの相手はいまい。・・・まあ、実際には一方的に蹂躙するみたいな形にはなってしまったが・・・。
「ふむ・・・。しかし、せっかくの新召喚法と言えどもカードが無ければ試したくとも試せないでしょう。そのあたりはどうするのですかな?」
「早ければ再来月にはデュエルアカデミアの特別パックに第一弾のシンクロ召喚に必要なモンスターと、エクシーズ召喚で召喚できるエクシーズモンスターが収録される予定です。・・・それとは別に、わたし個人の裁量でシンクロ、エクシーズのカードを託すに値する力量を持つと判断した生徒にはカードを渡しても良い、と権限は与えられています」
個人裁量、早い話がオマエ以外のテスターもオマエが増やしていいぞってことだ。シンクロ召喚に必要なモンスター、チューナーとシンクロモンスター、それにエクシーズ召喚のエクシーズモンスターは、近々デュエルアカデミア専売のパックに収録される。しかしそれでも生徒に行き渡る数は限られてくるし、引き当てたとしても使うデッキとの相性だってある。
パック販売だけでは、新しい召喚法がデュエルアカデミアに広がるかは不確実だ。それじゃあ、ということでオレが見込んだ相手にもカードを渡してやれ、という話になったのだ。結局こっちに丸投げかい! と文句の一つも言いたくなるが、それくらいのことはこなして見せろ! と言われそうだな・・・。
「そうですか。ところで、カードを渡す生徒に目星は付けているのですかな?」
「いえ、それはこれから見つけようかと」
「それなラーバ! 我がオベリスクブルーの生徒が適任! なノーネ! 何せ彼らはこのデュエルアカデミアのエリート! 新しい召喚法もすぐに使いこなせるようになりまスーノ!」
ここぞとばかりにオベリスクブルーを推して来るクロノス先生。自らが寮長を務めているというのもあるんだろうが・・・。とはいえ、オレとしてもどこかに偏らせるというのは避けたいんだよな。
「・・・お言葉はありがたいのですが、各寮に使い手がいる程度には広めろ、と言われていますので・・・。まずはオシリスレッドから候補者を探してみようかと思います」
「オシリスレッドォ・・・? ベラララ! オシリスレッドなンーテ、探すだけ無駄なのでスーネ。なぜナーラ、あそこはドロップアウトの集まるところ、なのですかラネ。ベラララララ!」
◆◇◆◇
『ほんと、イヤミな感じよね! オシリスレッドはドロップアウトの集まりー、だなんて! あれでも教師なのかしら!』
「まあ、自分の受け持ってる生徒は贔屓したくなるものだからな。それにクロノス先生は後々いい先生になるから」
『えー? それ本気で言ってるの? あのイヤミな笑い方聞いたら、とてもいい先生になるなんて信じられないんだけど!』
校長室からの道中、ユウカはつい先ほどのクロノス先生の物言いに、銀髪のツインテールをやや逆立てくらいのテンションで怒っていた。
今はまだ信じられないかもしれないが、クロノス先生ほど最初の印象と変わって来る人もそういない。この頃はまだエリート意識からオシリスレッドをドロップアウト扱いして毛嫌いしてるけど。あの人が改心(?)するのはまだまだ先のことだ。
「今はヘイト役というか、嫌味な感じなのは確かだけどな。・・・いい先生になるのは本当だ」
『ふーん・・・?』
この反応は信じてないなコイツ。
「―――!」
「―――」
「―――!」
どこからか言い争う声が聞こえてきた。この方向は・・・デュエルフィールドか。このまま寮に行こうかと思っていたが、気になったのでデュエルフィールドの方へと足を向ける。野次馬根性が無いと言えばウソになるが、何か騒ぎが起きているならとりあえず確認だけはしておきたい、となるのも人の情というものだろう。
「オシリスレッドの落ちこぼれ風情が!」
「ドロップアウト組のクセに身の程知らずな!」
デュエルフィールドに着くと、そこにいたのはオシリスレッドの制服を着た少年2人とオベリスクブルーの制服を着た少年3人。あ・・・これあれか。初遭遇的なアレ。
「タイミングがいいのか悪いのか・・・」
「む? なんだお前は・・・」
「はっ、万丈目さん! こいつ、実技試験でシンクロとかエクシーズとかっての使ってたやつですよ!」
「なに・・・?」
オベリスクブルー3人組の内1人が声を上げる。万丈目、と呼ばれた黒髪のツンツンヘアーがオレの方を見る。・・・青い方の万丈目か。この頃は傲慢上等と言った感じで、オシリスレッドの十代のことも見下していたな。コイツも後々印象が変わるけど。
「ふん、貴様が実技試験でシンクロだかエクシーズだかの未知のカードでクロノス教諭を倒した女か・・・。丁度いい、貴様俺様と「ああ! お前あの時にクロノス先生とデュエルしてたのか! なあなあ、俺とデュエルしようぜ! あのシンクロ? とかっていうのと戦ってみたいんだ!」・・・っ! おい貴様! 俺様の言葉を遮るとはいい度胸だ! まずは貴様から片付けてやる!」
「お、なんだやる気になったのか? いいぜ、デュエルだ!」
「貴様も実技試験ではクロノス教諭を倒していたな。だがそんなものはまぐれでしか無い!」
おお、一触即発。バチバチと火花が散っているのが見えるほどに互いに睨み合うオシリスレッドとオベリスクブルーの2人。今まさにデュエルが始まろうかとしたところで・・・。
「あなたたち! ここでなにをしているの!」
後ろからの鋭い声が、空気を切り裂く。そちらに向くと、長身でスタイルのいい金髪の女子生徒が腕を組んで立っていた。
「て、天上院くん・・・」
「誰だ?」
「おま、知らないのか!? この方は天上院明日香さん、オベリスクブルーの女王とも呼ばれる実力者だぞ!」
「その実力は万丈目さんにも引けを取らないほどだ! これだからドロップアウトのオシリスレッドは!」
実力は引けを取らない、ねえ・・・。まあ一応万丈目は中等部をトップで卒業して高等部に上がっているという話だし、実力があるのは確かなんだろうが・・・。
「お前ら、余計なことは言わなくていい。・・・やあ、天上院くん。この新入りたちがあまりにも世間知らずなものでね。学園の厳しさを教えてあげようかと思っていたんだよ」
「・・・そろそろ寮の歓迎会が始まる時間よ。参加しなくていいのかしら」
「っ、お前ら引き上げるぞ」
取り巻き2人を引き連れて去って行く万丈目。その背中を見送って、見えなくなると女子生徒・・・天上院明日香は顔をこちらに向けた。
「まったく・・・。あなたたちも、彼らの挑発には乗らないことね。ロクでもない連中なんだから・・・」
ロクでもない、のあたりに実感がこもっている。この頃はエリート思想を鼻にかけていろいろと問題行動起こしてた時期だろうし、毛嫌いされているのもむべなるかなと言ったところか。逆に向こうからの矢印はある、というのが物凄い一方通行である。
「あなたたち、オシリスレッドの寮もそろそろ歓迎会が始まるはずよ。・・・あら? あなたは、女の子・・・よね? その制服の色、オシリスレッド・・・よね?」
「え、オシリスレッドの女子っすか!? 女子生徒はみんなオベリスクブルーになるんじゃ?」
「え、そうなのか?」
「本来はそうなんですけど、これも色々と事情がありまして」
主にオーナーの思い付きと言うか何というか。
「それに、制服もなんだか違うわね」
「・・・それも、色々と事情がありまして」
張り付けた営業スマイルで押し通す。ちなみに袖無しミニスカな制服は袖有りロングスカートに改造してある。何せそのままだとユウカのやつが『絶対着ないでよね!』とうるさいのだ。
オレとしてもさすがに風が吹くどころか歩いただけで色々見えそうな短さのミニスカはごめん被るので、ここに来る前にチクチクと針仕事をしておいた。ちなみに学校側には(事後)承諾済み。服飾担当に「ダメ、ですか・・・?」と上目遣いしたら一発で陥落した。やはりツラ、世の中はツラの良さが強みになる。
「って、こんなことしてる場合じゃない! 翔! 歓迎会に遅れちまう! と、そっちの、えーと」
「小南遊歌です」
「俺は遊城十代! あとお前も、名前なんて言うんだ?」
「私は天上院明日香よ」
「おう! それじゃあまたな! 行くぞ、翔! 遊歌!」
「あ、待ってよアニキー!」
タッタッタッタッ、と走っていく十代とそれを追いかける翔。オレもその少し後ろをついていく。いやー、デュエルフィールドから寮まで走ってもそんなに息切れしないし疲労もそんなに無いしで、若いっていいね・・・。
◆◇◆◇
小南遊歌は激怒した。必ずオシリスレッドの食事情を改善せねばと決意した。
・・・いくら寮事に扱いの差があるとはいえ、歓迎会に出されるのがメザシ数本にたくあん数切れ、豆腐の味噌汁と白飯というのはいかがなものか。この献立が悪いというわけではないし、味も良かった。だがそれはそれ、これはこれはだ。
新入生歓迎会という、期待もテンションもぶちあがるところに出される食事がこれではいい思い出も何もないだろう。しかも普段の食事もどっこいくらいだと言うし・・・今日はもう遅いし寮長の大徳寺先生に直談判するのは明日に持ち越しにするが。
「オシリスレッド、思った以上に扱いが雑だな・・・。まさか歓迎会なのに出されるのがメザシ定食とは思わなかった・・・」
『レッドはレッドゾーン、ギリギリの崖っぷち、なんて意味らしいけど、こんな扱いなら頑張ろうって気力も湧かないわよね』
「食事、食事は力なんだ・・・今日も明日も生きるための活力・・・。それを疎かにしてはいけないんだよ・・・特に彼らは健全な育ち盛りの少年たちだ、もっといいもの食わせないと・・・」
『あんたキャラ変わってない?』
ふよふよ浮いているユウカの冷静なツッコミ。・・・オシリスレッドの食事情があんまりにもあんまりだったから、つい我を忘れてしまった。オシリスレッドの待遇そのものの改善は無理でも、せめて食事くらいは少しでも良くしたい。他のレッド生のためというのもあるが、何よりオレが耐えられそうにない。
「・・・? PDAに着信?」
さてどうやって食事情を良くしたものかと考えていると、机の上に無造作に置いていたPDA・・・デュエルアカデミアで使える端末機器だ・・・にメールの着信を知らせる電子音が鳴った。誰にもアドレスは教えて無いはずだが・・・さて中身は・・・。
<やあ、ドロップアウトども。午前0時デュエルフィールドで待っている。互いのベストカードを賭けたアンティルールでデュエルだ。勇気があるなら来るんだな>
差出人は昼間、デュエルフィールドで出会ったあの万丈目だった。アンティルールは校則で禁止されてるはずだが、それをわざわざ指定してくるということは、あの天上院が言っていたようにロクでもないことばかりしているようだ。
『なにこれ、昼間に会ったあのツンツン頭じゃない。しかもアンティルールでデュエルしろって、負けたらカード取られちゃうってことじゃない!』
「まあ、そうだな。しかもアンティルールは校則で禁止されている。バレなきゃ違反じゃないって感じか」
『バレなきゃって、こそこそするくらいなら堂々としなさいよね!』
いやだから校則違反になるんだよ堂々としたら。ちょっとポンの入っているユウカは置いといて、この深夜の呼び出しはどうするか・・・。正直に言えばこれを証拠として学校にチクるのがベターなんだろうな。こちらとしてはわざわざ応じてやるメリットも無いわけだし。
さてどうしたものかと思案していると、ドアがコンコンとノックされた。こんな時間に誰だろうかとドアに向かって行って開ければ、そこにいたのは遊城十代だった。
「よっ、遊歌! お前のところにも来たか?」
「来たかって・・・もしかして、遊城くんのところにも?」
「おう! って、俺のことは十代でいいぜ! それで、行くよな! デュエル!」
ぐっ、と握り拳を作る十代。あの深夜のお誘いにノる気満々である。一応就寝時間(寮事に夜10時と決まっている)以降の出歩きも校則違反なんだが・・・そういうの気にしなさそうだな、十代だし。
「万丈目とデュエルできるんだぜ! どんなデュエルになるかワクワクしないか!?」
『なに? この人デュエルバカなの?』
ユウカが辛辣なことを言う。デュエルの優先度が高いヤツなのは間違ってはいないけどな。
「お前のところにもメールが来たなら、一緒に行こうぜ!」
赤信号、みんなで渡れば云々。断るとは思っていないようなキラキラした目を向けられると、行かないとは言い出し辛い、な・・・。
「はあ・・・無視したら後が面倒そうだし、わたしも行くよ」
「そうこなくっちゃ! それじゃあ、0時前に集合な!」
そう言うと十代は自分の部屋に戻って行った。カンカンカン・・・と外の階段を上がっていく音がしたから、どうやら部屋は2階らしい。
上ということは、3人か4人部屋なのだろう。ちなみにオレの部屋は寮長室の隣にある一人部屋である。元は物置として使っていた部屋を、女子がレッド寮に入るということで急遽使えるようにしたらしい。
『あんたも案外押しに弱いわよね』
言わないでくれ気にしてるから。
「逃げずによく来たな」
「へへ、デュエルと聞いたら来ない理由は無いぜ」
深夜0時。デュエルフィールドには万丈目とその取り巻き2人が待ち構えていた。相手が3人ならこっちも3人と言うことで、オレと十代、そして翔もついてきていた。ユウカもいるが、オレ以外には見えていないし、実体も無いのでカウントからは外しておく。
「クロノス教諭を倒したのがまぐれか実力か、見せてもらうぜ」
「ああ。俺も知りたかったんだ。デュエルアカデミアのエリートってやつらがどれくらい強いのかをさ」
「ふん・・・行くぞ!」
「どこからでも来やがれ!」
会話もそこそこに、十代と万丈目がデュエルを開始する。さて、オレも呼び出されたから来たはいいものの、万丈目がデュエルしている間はヒマだな・・・。
「おい、お前の相手は俺だ!」
「あん・・・?」
「万丈目さんの手を煩わせるまでも無い! お前はこの俺が倒してやる!」
「さあお前も構えろ!」とデュエルディスクを展開する、えーと・・・万丈目の取り巻きしてるメガネを掛けたヤツ。名前なんだっけ・・・? どっかで名前を見たような気がするような無いような・・・。
『あんたに挑もうなんて、とんだ命知らずね。オベリスクブルーだかなんだか知らないけど、あのツンツン頭のヨイショするくらいしかできないようなやつ、瞬殺よ瞬殺』
「まー、そう上手くいけばいいがな。勝負は水物って言うし、何より手札事故はいつだって隣り合わせだし・・・」
「なにをぶつぶつ言ってやがる! さっさとデュエルディスクを構えろ! それとも負けてカードを取られるのが怖いのかチビ!」
はぁー?
「いいでしょう、相手してあげます・・・ふふふ・・・」
『うわぁ、悪い顔・・・』
腰に提げてあるデッキホルダーから、1つのデッキを取り出してデュエルディスクにセットする。ただこれは、シンクロもエクシーズも入っていないデッキだ。こんなヤツ相手に使うまでも無い。
「「デュエル!」」
【取巻太陽】
LP4000
【小南遊歌】
LP4000
「俺の先攻だ! ドロー!」
あ、先攻取られた。
「行くぞ! 『アックス・ドラゴニュート』を召喚、攻撃表示!」
【アックス・ドラゴニュート】
【星4/ATK2000】
相手の場に現れたのは、大きな斧を持った黒い竜人である。攻撃力2000、と星4のモンスターとしては破格のステータスを持っているが、攻撃すると守備表示になるデメリット効果を備えている。いわゆるデメリットアタッカーというカードだ。
「カードを2枚伏せる! ターンエンドだ!」
【取巻 太陽】
LP4000
手札3
モンスター1(『アックス・ドラゴニュート』)
魔法罠2
デメリットアタッカーのアックス・ドラゴニュートが入っているということは、あの伏せのどちらかはスキドレ、か・・・? だとしたら、発動されるタイミングによっては苦しくなるが・・・。ま、使われたらその時はその時だ。
「わたしのターン、ドロー。手札から魔法カード『時を裂く
「毎ターン2枚ドローに召喚も2回出来るだと!?」
「さらに『豊穣のアルテミス』を召喚」
【豊穣のアルテミス】
【星4/DEF1700】
オレの場に現れたのは、頭に機械の翼が生え、紺色のマントを着た一本足の白いモンスター。今回のモルガナイト入り【エンジェルパーミッション】のエンジンであり、コイツをいかに早く場に出して長く維持できるかが、このデッキの動きを左右する。
「ふん! 守備モンスターでダメージを抑えようとしても無駄だぜ! 永続罠『最終突撃命令』! すべてのモンスターは攻撃表示になる!」
【豊穣のアルテミス】
【DEF1700→ATK1600】
なるほど、そっちだったか。確かに攻撃したら守備表示になってしまうアックス・ドラゴニュートと、守備表示を封じる最終突撃命令の相性はいい。さらに相手の壁モンスターも無力化できると考えれば、より攻撃的に攻めるならアリなのかもしれない。
「カードを3枚伏せて・・・ターンエンド」
【小南 遊歌】
LP4000
手札1
モンスター1(『豊穣のアルテミス』)
魔法罠3
「ふん、打つ手なしか!? 俺のターン! ドロー!」
「罠カード『強烈なはたき落とし』。相手の手札にカードが加わった時、そのカード1枚を墓地へ送る」
「なっ!?」
今しがた引いたカードがバチィン! と弾かれて墓地に送られる。ソリッドヴィジョンの演出上なのは分かっているが、持っているカードを叩き落とされる、というのは痛そうでもある。さて、落ちたのは・・・『強欲な壺』か。いいカードをぶち抜いたな。
「『強烈なはたき落とし』はカウンター罠カード。カウンター罠が発動したことで、アルテミスの効果が発動。デッキからカードを1枚ドローする」
「なら手札を増やされる前に倒してやる! 『サファイアドラゴン』を召喚!」
「では、その召喚に対してカウンター罠『キックバック』を発動。そのサファイアドラゴンを手札に戻します。カウンター罠が発動したので、1枚ドロー」
「なんだと!?」
全身がサファイアで出来ているというドラゴンが、一瞬だけ姿を現して即座に手札へと逆戻りしていった。あまりにも一瞬過ぎて、酷い手振れ写真のような残像になっていたが。
「なら直接バトルで倒すまでだ! アックス・ドラゴニュート! その雑魚モンスターを粉砕しろ!」
「では攻撃宣言時に『攻撃の無力化』を発動します。相手モンスター1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了。カウンター罠が発動したのでアルテミスの効果で1枚ドロー」
「ぐぬぬ・・・ターン、エンド・・・!」
アルテミスを親の仇のごとく睨みつけながら、絞り出すようにターンの終了を宣言する。そんなに睨んだところでモンスターは破壊されないぞ、何て口にしたら火に油だろうから黙っておく。
【取巻 太陽】
LP4000
手札3(『サファイアドラゴン』)
モンスター1(『アックス・ドラゴニュート』)
魔法罠2(『最終突撃命令』)
「わたしのターン。モルガナイトの効果により2枚ドロー」
これで前のターンにドローした分と合わせて手札は6枚。これだけ引ければ、このデッキのもう1枚のキーカードも引き込めている。
「フィールド魔法『天空の聖域』を発動。このカードがある限り、天使族モンスターの戦闘で発生する戦闘ダメージを、そのコントローラーは受けない」
フィールド魔法ゾーンにカードをセットすると、周囲の景色が一変する。深夜の観客席に誰もいないデュエルフィールドから、空の上に浮かぶ、神や天使の住まうとされる聖域へと。今回はその効果ではなく、このカードがフィールドに存在することが重要だ。
「『天空の使者ゼラディアス』を召喚」
【天空の使者ゼラディアス】
【星4/ATK2100】
頭に赤いツノを持ち、緑のマスクで顔を隠した半裸の翼人が聖域を守護するためにどこからか飛んでくる。その手には鋭い槍を持ち、聖域を脅かす敵対者であるアックス・ドラゴニュートを威嚇する。
「攻撃力2100!? なら、罠カード『奈落の落とし穴』だ! 攻撃力1500以上のモンスターが場に出た時、そのモンスターを破壊して除外する!」
だが、睨み合っていたのも一瞬のことで、足元に突如として出現した黒い穴の中へとゼラディアスは落ちていった。・・・その翼は飾りか・・・? まあいい、コイツは囮だしな。本命は次だ・・・。
「さらに『
【天空聖者メルティウス】
【星4/ATK1600】
再び聖域から、1体のモンスターが舞い降りてくる。体の中心に浮かぶ光輪に赤いリボンのようなものを巻き付け、白い翼を持ったそのモンスターは、回復を司る天使だ。それだけじゃない、このモンスターは『天空の聖域』があることでその真価が発揮される。
「新しいモンスターを出して来たか。だが、俺のアックス・ドラゴニュートの敵じゃあないぜ!」
「・・・カードを3枚伏せてターンエンド」
侮るような言葉は無視してターンを終了する。
【小南 遊歌】
手札0
モンスター2(『豊穣のアルテミス』『天空聖者メルティウス』)
魔法罠3
「俺のターン、ドロー!」
「『強烈なはたき落とし』を発動します。そのドローしたカードを墓地へ送ってください」
「またそのカードかよ、くそっ」
再び引いたカードが強く弾かれて墓地へ送られる。・・・落ちたカードは『密林の黒竜王』か。
「カウンター罠が発動したので、アルテミスとメルティウスの効果が発動。カードを1枚ドローし、ライフを1000回復」
【小南 遊歌】
LP4000→5000
「そして・・・フィールドに『天空の聖域』がある場合、メルティウスのさらなる効果が発動。相手の場のカード1枚を破壊する。アックス・ドラゴニュートを破壊」
「なにっ!?」
メルティウスが両手を合わせ三角を形作ると、そこから閃光のビームが発射されアックス・ドラゴニュートを貫いて破壊する。その手の形、どっかで見たことしかないな・・・。
「俺は『サファイアドラゴン』を召喚!」
『グルァァァ!』
【サファイアドラゴン】
【星4/ATK1900】
一度『キックバック』で吹っ飛ばされた、全身がサファイアで出来ているドラゴンが姿を現した。今度こそやってやる、とばかりに気合いの入った雄叫びを上げている。・・・まあ、すぐに退場してもらうんだが。
「いけ、サファイアドラゴン! メルティウスを攻撃!」
「では『攻撃の無力化』を発動します。サファイアドラゴンの攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了します」
「ま、またカウンター罠が発動した・・・ってことは・・・」
「はい。アルテミスとメルティウスの効果が発動します。1枚ドローして、ライフを1000回復。そしてサファイアドラゴンを破壊」
メルティウスがサファイアドラゴンに指先を向ける。その指先に光が収束し、ピチュゥン! という独特な効果音と共に放たれると、ドラゴンの首と胴体が切り離されて次の瞬間には爆発した。
【小南 遊歌】
LP5000→6000
「ウ、ウソだろ・・・俺のドラゴン軍団が、こんな簡単に・・・」
「まだ何か、することはありますか?」
「か、カードを1枚伏せて・・・ターンエンド・・・」
【取巻 太陽】
LP4000
手札1
モンスター0
魔法罠2(『最終突撃命令』)
さっきまでの威勢はどこへやら。すっかりと意気消沈した様子でターンを回してくる。
「わたしのターン、ドロー。『
【天空賢者ミネルヴァ】
【星4/ATK1700】
青いリボンが巻き付いた光輪に、賢者らしく杖と魔導書を携えたモンスターが舞い降りてくる。聖域の知恵を司るこのモンスターも、メルティウスと同じく『天空の聖域』が存在することで真価を発揮する。
「バトル。アルテミス、メルティウス、ミネルヴァの3体でダイレクトアタック」
「こ、『攻撃の無力化』を発動!」
総攻撃は防がれたが、カウンター罠が発動したことで、アルテミス、メルティウス、ミネルヴァの全モンスターが反応。まず1枚ドローし、ライフ回復と破壊、そして最後にミネルヴァの攻撃力が500アップし、場に『天空の聖域』があることで、発動したカウンター罠以外のカウンター罠1枚を自分の墓地から回収できる。
「わたしが手札に戻すのは『強烈なはたき落とし』のカードです」
「そ、そんな・・・」
【小南 遊歌】
LP6000→7000
【天空賢者ミネルヴァ】
【ATK1700→2200】
墓地から回収したカードを確認のために見せると、絶望した表情になる。
「カードを1枚セット・・・。ターン終了します」
【小南 遊歌】
LP7000
手札4
モンスター3(『豊穣のアルテミス』『天空聖者メルティウス』『天空賢者ミネルヴァ』)
魔法罠2(『強烈なはたき落とし』)
「お、俺のターン・・・」
「どうしました? 早くカードを引いてください」
「うぅ・・・」
デッキの上に指を置いたまま、動かない。見た目にも震えているのがわかる。カードを引きたくないのだろう。何故なら、引いてしまえばその瞬間にカウンター罠が起動するのが分かっているからだ。
「どうしました? 早くカードを引かないと、続行不能として負けてしまいますよ? いいんですか? わたしみたいな小さな子に、完封されて、何もできずに負けるなんて。オベリスクブルーのプライド、傷ついちゃいますねー?」
「ぐ、うぅぅ・・・」
「さぁさぁ、カードを引いてくださーい? 引け、引け、引け。カードを、引ーけ」
「う、うぅ・・・うぁぁぁぁ!」
「引け」
叫び声を上げながら、カードをドロー。すかさず伏せカードを起動する。
「カウンター罠『強烈なはたき落とし』。さあ、手札を墓地へ送ってください?」
にっこりと告げる。相手からすれば、さながら死刑宣告のように思えただろう。引いたカードが三度弾き飛ばされ、墓地へと送られる。これであとは最初から持っていた手札が残り1枚だけ。場にカードは無い。
【小南 遊歌】
LP7000→8000
【天空賢者ミネルヴァ】
【ATK2200→2700】
「お、俺は・・・す、『スピア・ドラゴン』を召喚・・・」
【スピア・ドラゴン】
【星4/DEF0】
その名の通りに槍のように鋭い頭部の青いドラゴンが、防御姿勢を取って現れる。ふむ、心折れたって感じか。ま、ダメ押ししておくか。
「2000のライフコストを払って『神の警告』を発動。スピア・ドラゴンの召喚を無効化にして破壊。カウンター罠が発動したので、アルテミス、メルティウス、ミネルヴァの効果が発動」
【小南 遊歌】
LP8000→6000→7000
【天空賢者ミネルヴァ】
【ATK2700→3200】
『うわぁ、えっぐぅ・・・』
ユウカがドン引きしている。・・・さすがにやりすぎたかもしれない。相手は完全に戦意を喪失状態。場も手札も何もカードが無いので、そのままターンが回って来る。
「わたしのターン・・・」
「ガードマンが来るわ! アンティルールは校則で禁止されているし、時間外に施設を使っているし、見つかったら退学もあり得るわよ!」
あとは総攻撃で終わり、というところでいつの間にかデュエルを見ていたらしい天上院が叫ぶ。そして決着間際というのは十代と万丈目の方も同じだったらしく、万丈目は「俺様の勝ちは預けておく」と言い取り巻きを連れて去って行った。
その後、オレたちもガードマンに見つかる前にデュエルフィールドから去り、校舎の外に出ていた。・・・万丈目とのデュエルがうやむやにったことに不満わ持った十代が「俺はここを動かない!」などと駄々をこねる場面もあったが、翔と天上院の3人で何とかここまで引っ張って来た・・・。
「ちぇー、余計なことを」
「どう? オベリスクブルーの洗礼を感想は。あと少しでデュエルに負けて、大事なカードを取られてたかもよ?」
「いや、あのデュエルは俺の勝ちだぜ」
十代がそう言って見せたカードは、魔法カード『ミラクル・フュージョン』だった。場か墓地の素材を除外することで、『E・HERO』融合モンスターを呼び出せる『E・HERO』専用の融合魔法カードである。
「こいつでサンダージャイアントを融合召喚してれば、万丈目のモンスターを破壊してそのままダイレクトアタックできてたぜ」
「わたしの方は引きもよかったけど、大して苦戦しなかったかな」
「そう・・・でしょうね・・・」
『大した苦戦もなにも、パーフェクトゲーム決めてたじゃないの』
カウンター罠フルコースによるパーミ地獄を見てたらしい。天上院の表情が少し引きつっている。
「・・・まあ、あの様子だとわからせ完了はしたってところかな」
「わからせ?」
「こっちの話」
それからしばらくの間、あの時にデュエルした万丈目の取り巻き・・・名前は取巻太陽と言うらしいと、PDAの対戦ログを見返して知った・・・はオレを見るたびに「ひぃっ」と小さな声を上げて逃げるようになった。これを機に、軽々しくチビとか言わないようにしてくれるといいのだが。
【→To Be continued...】
ユウカ『今日の最強カード! それは『豊穣のアルテミス』ね!」
遊歌「【エンジェルパーミッション】におけるキーカード、デッキのエンジンともなるカードだな。ステータスは星4下級モンスターとしては平凡だが、コイツはカウンター罠が発動するたびに1ドローが発生する効果を持っている。この効果でカウンター罠や補助カードなどを補充しつつ、相手の動きを妨害していくわけだ」
ユウカ『効果はターン1が無いし、重複もするのよね・・・。3体も並んでたらカウンター罠を1回発動するだけで手札が3枚も増えちゃうなんて絶望的ね』
遊歌「ただコイツは盤面に鑑賞できるわけじゃないから、天空の聖域を入れて天空聖者メルティクスで除去を飛ばしたり、光属性最強の戦闘補助カード『オネスト』で守ってやる必要がある。あとは天空賢者ミネルヴァも並べてやると、墓地のカウンター罠を回収してさらに回転率が良くなるぞ」
ユウカ『でも今回は引きがよかったから揃ったけど、その3体をそう都合よく並べるのって難しそうよね』
遊歌「『同胞の絆』というカードがあってな。それを使えばアルテミス、メルティウス、ミネルヴァのどれかがいれば簡単に揃えられるんだよ」
ユウカ『同胞の絆で3体が並んで伏せカードもたくさんあったら、相手が絶望してしまうわね・・・』