あなたの隣の怪異譚エモクロア   作:皇我リキ

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第十八話:ツチノコなんて居ない

 どうやら全員同じ部屋で寝ていたらしい。

 

 

 枕投げで気絶していた、という表現の方が正しいかもしれない。

 

 

「ぅぉ、ここは……死後の世界か?」

「ツチノコ村だ。起きろ、朝食が冷める」

 そんなミヒロの声で、一は目を覚ます。炊き立てのご飯の香りがして、身体を起こした。

 

 

「あれ? 姫とヒラケンは?」

 部屋を見渡すと、ミヒロがおにぎりを握っていて、レジ子が爆睡している。

 

「おつかい。おにぎりの具材をな」

 一瞬、姫がいなくて焦ったが、ミヒロの言葉を聞いて安心した。

 

 

「偉いなぁ」

「で、昨日はどうだったんだ。下の階の人達」

 狙ってこの状況を作ったのかは知らないが、姫達がいないこの時に話を振ってくるミヒロ。

 

 一は言いにくそうにして頭を掻いてから、ゆっくりと口を開く。

 

 

「大当たりだったっていうか。多分、ガチの人達だな。幽霊とかその辺りの」

「なんだそれ」

「なんつーかその、良くあるテレビで出てくる人達とは違う雰囲気っていうの? 凄いこう、真剣に神様を調べてた感じ」

「良く分からんけど、姫の敵になるかもしれないって事だな」

「ま、そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。味方なら心強いし、敵なら困っちまうって感じ」

「敵、か」

 ミヒロも自分達が今普通の状況じゃない事は分かっていた。

 

 そもそもツチノコを見付けてしまった時点で普通じゃないのは置いておいて、姫という少女は明らかに常軌を逸した存在である。

 それでも、友達だから守りたい。それにはどうしたものか。

 

 

「敵なら、潰す」

「そんな物騒な。でも、味方に出来ればきっと心強いと思うからよ。時間があったら、また話しをするつもり」

「……まぁ、その辺は任せる」

 そう言って、ミヒロは最後にレジ子を起こした。姫とヒラケンが帰って来て、おにぎりを皆で食べる。

 

 

「今日こそツチノコ捕まえるぞー!」

「おー!」

 今日も楽しいツチノコ探しが始まろうとしていた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 どうやらツチノコの好物はお酒とお米らしい。

 

 

 それこそ眉唾物な気がしなくもないが、試してみる価値はあると思って罠にしてみる。

 五人は土の子公園にやって来ていた。

 

 

 

「じゃじゃーん。炊く前のお米〜」

 レジ子がネッシーカバンから取り出したのは、東黒川村特産ツチノコシヒカリ。

 

 それを適当な葉っぱをお皿にして、木陰の近くに起き、五人は遊具の裏に隠れる。

 

 

「ツチノコ食べてくれるかな?」

「姫がツチノコだったらアレ食べる?」

「うーん、炊いてあるお米の方が好きかも」

 ヒラケンの質問に素で答える姫。そんな事を話している間に、茶色い影が葉っぱのお皿へと飛んできた。

 

 

「何か来た……!」

「アレは……!」

「スズメだ!」

「食われたー!」

「まぁ、そらそう」

 ジト目で眺めるミヒロ。悲しむ四人。

 

 ツチノコの為の罠は、スズメに美味しく頂かれてしまった。

 

 

 

「炊いてあれば行けるんじゃね?」

「そうはならんだろ」

「じゃじゃーん。私のお昼ご飯〜」

 レジ子がネッシーカバンから取り出したのは、ツチノコシヒカリで今朝作ったおにぎり。

 

 それを半分食べてから、包んでいたアルミホイルをお皿にして、木陰の近くに起き、五人は再び遊具の裏に隠れる。

 

 

「そういえば最初の日、こうしてたら知らない間におにぎり無くなってたんだよね。あれ、ツチノコだったのかな?」

「かもな」

「ならよ、今回も来てくれるんじゃね?」

 レジ子達がそう話していると、黒い影がおにぎりの元にやって来た。

 

 

「何か来た……!」

「アレは……!」

「カラスだ!」

「食われたー!」

「まぁ、そらそう」

 ジト目で眺めるミヒロ。同じような光景をついさっき見た気がする。

 

 

 

「私のお昼ご飯……」

「俺の一個やるから泣くな」

「そろそろ昼にするかー!」

 普通に木陰を探したり、お米の罠を試してみたりと、五人は朝早くから東黒川自然公園でツチノコ探しを満喫していた。

 

 時刻は昼過ぎ。残念ながら、二日前と違って収穫は一切ない。

 

 

「川とかまた行ってみる?」

「またツチノコ泳いでるかもね!」

「川泳いで捕まえる」

 そんな風に話すヒラケンと姫を眺めながら、一は昨日の寺浦との会話を思い出す。

 

 

 ──ツチノコも土の子も、人間がいると思えばいるって事だ──

 

「……なら、見付かっても良いじゃんかよぉ」

「どうした口尖らせて。アヒルか?」

「一君、アヒルさんみたーい」

「二人して同じ感想を……! どうだ、プリティなアヒルだろ!」

「可愛くない」

「レジ子ぉ!?」

 どうしても、悪い方へと思考が進むから、ツチノコも見付からないし──

 

 

 

 

 

 ──こんな事になったのかもしれない。

 

「日が沈んできたな……」

 昼食の後、楽しくツチノコを探して、気が付けば夕方前。

 

 そろそろ帰りの支度をしないといけない。そんな時間だ。

 一が一目で良いからとにかくもう一度ツチノコを──そうして必死に辺りを見渡していると、村の方角から人の声が聞こえてくる。

 

 

「──そういえば一週間くらい前にもさ、ツチノコを見付けたなんて言う女の子が突然現れたんだよ」

 その声はミヒロにも聞こえていた。

 

「アレは……」

 聞き覚えがある。二日目に川の詰め所で働いていた村人の声だ。

 

 

「ツチノコなんている訳ないのにな。だからよ、言ってやったんだ。そんなの探しても時間の無駄だって──ぁ」

 男の一人と目が合う。

 

 一たちはそれぞれ色々な感情を受けて、固まっていた。

 

 

「──ぁ、この子この子! 一週間前にツチノコ探してたの! おとといの兄ちゃん達と一緒に探してたのか。どうだー? ツチノコは見付かったか? ま、いる訳ないけどな」

 姫を指差して、ミヒロと見比べながら村人は姫を嘲笑うかのように口元を歪めた。

 

 姫の表情が目に見えて暗くなるのが一には分かった。

 

 

「ちょ──」

「死ね」

 突然、姫を笑った男が宙に舞う。ミヒロの拳が、男の身体を吹っ飛ばしていた。

 

「ミー君……!」

「ちょ、ミヒロ……!」

「ガキの夢壊して楽しいか。何笑ってんだ、あぁ!?」

 殴り飛ばした男の胸倉を掴み上げて声を上げるミヒロ。

 

 男は一瞬何が起こったのか分からなくて数回瞬きをするが、事を理解すると目を見開いてミヒロを蹴り飛ばす。

 

 

「テメェ、何すんだクソガキ!!」

「あ? ガキはどっちだ。相手が小さくて手が出されないと分かってないと偉そうに出来ない、身体がデカいだけのガキが。小学生からやり直せよ」

「舐めてんじゃねーぞ!! こっちはテメェらみたくバカみたいにツチノコだのなんだので山を汚されるから掃除しなきゃなんないのによ!!」

「ちょいちょいちょいちょいちょーーーい!!」

 お互いに殴り掛かろうとする二人の間に入って、一が両手を上げた。二人は一瞬冷静になって、止まる。

 

 

「いやー、ウチのバカがすみません! ガキなんですよ、はい。ここは一つ、大人の対応で許してくれませんかねぇ……! アレだったら、俺が後で殴っておくんで!」

「おい一……」

「はぁ……。まぁ、俺は大人(・・)だからな」

 男は拳を押さえて、ミヒロを睨み付けた。ミヒロは拳をそのまま強く握る。

 

 

「でもー、大人なら……小さな女の子の夢を壊したり、しませんよねー?」

「……っ。ケッ、なんだよ別に。良いだろ。ツチノコなんて、いる訳──」

「しませんよねー!」

「……はいはい」

 男は一をあしらって、もう一人を連れて五人の脇を通りながら「見付かると良いなー、ツ・チ・ノ・コ」と声を漏らした。

 

 

「行こうぜ、川掃除。日が暮れちまう」

「お、おう」

 二人が視界から消えると同時に、山に小雨が降り始める。

 

 

「姫ちゃん……」

「……っぅ」

 レジ子に手を握られていた姫は、その場にしゃがみ込んでしまった。

 

 それは雨なのか、涙なのか。

 濡れた顔を下に向けて、姫は小さな声を漏らす。

 

 

「ツチノコ……いるもん」

「うん。私達は、知ってるよ」

「そうだ。だから、明日も探すぞ。ほら、指切り。な、姫」

 ミヒロが、今にも何処かへ行ってしまいそうな、そんな彼女の手を取った。

 

 いつもの約束をしよう。指切りをして、明日もツチノコを探すんだ。

 

 

 そう思って、彼女の小さな手を持ち上げる。

 

 

「──は?」

 ──ミヒロが掴もうとしたその手が、土になって、崩れ落ちた。

 

 

 

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