寺浦は不敵に笑いながら口を開く。
「なら、良い方法がある。より多くの人間が、ツチノコを信じる気持ちになる……良い方法がな」
「寺浦君」
宇田川がそんな彼を制止しようとするが、彼女はハッとした表情でそれ以上を口にするのをやめた。
寺浦はともかく、一達が真剣な表情で自分達を見ていたからである。
この子供達は本気で神である土の子──あの女の子を助けようとしているのだ。
「昨日も言ったが……これ以上怪異に近付いたら、戻れなくなるかもしれないぞ。良いんだな?」
「俺達は化け物に近付くわけじゃない」
「友達に会いたいだけです」
「姫ちゃんとまた、ツチノコを探す」
「なんなら面白そうだし」
四人の目に迷いはない。
「まぁ、そもそもツチノコに逸脱させられてそうだから今更か。……よし、それじゃやろうぜ。土の子を救う……ツチノコ大作戦をな!!」
寺浦は一達に拳を向ける。
その場にいる六人全員が、拳を一つに向け合わせた。
☆ ☆ ☆
東黒川村の診療所で二人の男が目を覚ます。と、いうよりは目を覚まさせられた。
「起きろクズ」
「な、お前……!? え、ここは……。俺達、増水した川に流されて」
ミヒロが胸倉を掴んで目を覚まさせたのは、昨日姫をバカにした後で川に向かって、川の増水に巻き込まれたところを姫に助けてもらった村人の男である。
もう一人の男も、レジ子が頬をペチペチと叩いて叩き起こした。
「俺達……生きてるのか。お、お前達が?」
「助ける訳ないだろ。目の前で流されようが見殺しにする」
「クズはどっちだ……。な、なら俺達は──」
「姫ちゃんだよ」
男の前に、ツチノコを抱いたままレジ子が立ってそう言う。
「姫ちゃん──って、それ……え!? ツチノコ!?」
男はツチノコを見て、病院内で大声を上げた。ミヒロが顎を掴んで黙らせる。
「病院ではお静かに」
「怪我人を攻撃する奴があるかよ……!」
男は「説明をしてくれ」と掴まれた顎で話しにくそうに両手を上げた。
「お前がバカにしたあの女の子が神様で、お前達を助けた。そしてツチノコはいる。分かったか?」
「分かったかって……。でも、なんだか不思議な感覚だったのは覚えてるし、誰かが助けてくれたのは、そうなんだよな」
男は考え込むように俯いて、目を瞑る。
レジ子が起こしたもう一人も「確かに……」と呟いた。
「あの子が……」
「神様云々は別に信じても信じなくても良い。あ、いや、やっぱり信じろ。……とりあえず、あの子がお前達を助けた。そしてツチノコはいる」
ミヒロがそう言うと、レジ子が無言でツチノコを男に向けて近付けてくる。
目の前から未知の生物が近付いてくる恐怖を感じた。
「……ツチノコは、マジで今目の前にいる」
「……お前ら、何が目的なんだ?」
「姫を助ける」
「姫ちゃんと、また会いたいだけ」
そう言いながら、ミヒロとレジ子は病室を出ようとする。
「良いか? ツチノコはいる。分かったな」
「ちょっと待ってくれ……!」
「あ?」
部屋を出ようとするミヒロを、男が呼び止めた。
もう一度口を塞いでやろうかと睨み付けると、男はこう口を開く。
「その……あの女の子に、謝っておいてくれないか。バカにして、ごめんって」
「自分で言え。……殴って悪かった」
ミヒロはそう言って、レジ子と一緒に病室を出た。
同時に、病室の外からは医者と看護師の「ツチノコ!? 捕まえろー!!」という悲鳴にも似た声が聞こえる。
「……ツチノコって、本当にいるんだな」
そんな声が、病室に溢れた。
「次はどうするんだっけ?」
「一達もやってるんだろうが、とりあえず実験は成功だって連絡するか」
ミヒロは診療所を出て、一にメッセージを送る。
実験。
寺浦はツチノコという存在について、ある程度の理解が必要だと語っていた。
「ツチノコを信じさせるという点において、俺達がまずツチノコを知らなきゃならん。ツチノコが本当にお前達だけに捕まえられるのを許しているのか、村人達の目にツチノコがどう映るのか。それが分からなきゃ、作戦の立てようもない」
寺浦曰く、ツチノコがミヒロ達が見ている幻覚だという可能性もある。
さらに寺浦達がツチノコを捕まえられないのは偶然で、村人が捕まえてしまう可能性もあるらしい。
そこで村人達のツチノコへの反応と、村人達がツチノコを捕まえる事が出来るかを調べる必要があった。
「捕まらなかったね、ツチノコ」
病室を出た後、医者の前でツチノコを離したが医者はどうしてもツチノコを捕まえる事が出来なかったのである。
その後、ツチノコは建物の外ですんなり回収出来た。
どうやらあの神社にいた四人以外には捕まえる事が出来ないらしい。
「本当に入っちゃいけない場所だったな……」
「やっちゃったねぇ」
「今は都合が良い訳だが」
そう話していると、一からメッセージが帰ってくる。
「カレー屋さん、凄くビックリしてたけど笑顔でツチノコ追いかけてたって」
「一度神社に行った人でも捕まえられない……か。となると、ヒラケンか」
ヒラケンが祠に近付いていく姿を思い出すミヒロ。苦笑いする事しか出来ないが、とりあえず今は都合が良かったと思っておく事にした。
「実験成功だね〜」
「なら、後はあのおっさんの作戦次第だ」
寺浦曰く、より多くの人々がツチノコの存在を信じる良い方法があるらしい。
実験は成功したので、後はその寺浦の作戦を実行するだけである。
「……また、姫ちゃんに会えると思う?」
「……俺は忘れてない。だから、会える」
一度は諦めて、掴めなかった手だ。
姫は怒っているかもしれない。でも、一晩寝ても彼女の事を忘れなかったから。
「俺はまだ、姫に会いたいと思ってる」
「そうだね。……それじゃ、会いに行こ〜」
レジ子はミヒロの手を引っ張って、集合場所へと向かう。
姫とまた会う為に。
「よし、話はまとまったな。作戦の概要はこうだ」
寺浦と宇田川の元に、一達四人は再び集まった。
どうやら寺浦は何かの準備をしていたらしい。宿の一階で、彼は一達四人にチラシを一枚ずつ配る。
「ツチノコ祭りのチラシ……?」
「右下を見てみな」
寺浦に言われた通りにチラシの右下に視線を向けると、そこには『一発芸大会開催』という一文が書かれていた。
どうやらツチノコ祭りで毎年恒例のイベントらしい。
「まぁ、それなりに人は集まるか」
「それだけじゃない。テレビ局に働きかけて、夕方のニュース特番で少しの間だが生放送でこの一発芸大会を映させる事にした。一発芸大会の壇上にお前らが立つタイミングでな」
「どんな権力使ったんすか」
寺浦は一体何者なのだろうかと、一は苦笑いを溢す。
「更に人気
「河童侍……!」
河童侍という言葉にレジ子は目を輝かせた。ミヒロは「確かレジ子が言ってた……なんか、人気の、変な奴」と首を傾げる。
「河童侍だよ……! ミー君! 河童侍! 河童侍が来るの!」
「そ、そうか……良かったな?」
レジ子の反応を見るに、有名な人物らしい。
「テレビと動画配信サイトの生放送。そこにツチノコが映り込めば、人々は再びツチノコを信じる──信じてしまうって訳だ。その力が、この村に集まる」
「そうすれば、土の子は復活するかもしれない。私達が出来る協力は、したつもりよ。詳しい事はあまり聞かないでくれると助かるわ」
根回しに関しては何かネタがあるようだが、一達にとってそんな事はどうでも良かった。
姫とまた会えるのなら、例え世界が少し変になろうと構わない。そんな気概である。
「ま、後はお前ら次第だ。名付けて、つちのこリバイバル大作戦だ」
「名前、ダサ」
意気揚々と作戦名を口にした寺浦は、ミヒロの一言で石のように固まってしまった。
何はともあれ、作戦スタートである。