横髪を三つ編みで纏めて。
普段とは違う装いで、華やかな浴衣に身を包んで歩く。
夜の街、商店街、お祭り。
山にある村の祭りと違って星はあまり綺麗には見えないが、人の作り出す光というのもまた風情と言うべきか。
「二人とも浴衣可愛い〜」
「おしゃれさんなレジ子だぜミヒロ、可愛いな」
「あ? 別にいつもと変わらんだろ」
なんて言いながら、ミヒロはスマホでレジ子の浴衣姿を写真に撮りまくっていた。
「あぁ……いつも可愛いだろって事ね」
返事はないが、一はちょっと呆れている。
「着付け頑張ったので褒めてくれて良いよ」
「ヨクヤッタ」
「こらー、嫌そうな顔するな〜」
「とりあえず行こうぜー。もう暗くなっちまってるし」
学校からレジ子達の家に寄って、月日とレジ子が浴衣を着ている間に空は暗くなっていた。
「暗いから皆気を付けてねー。なんかさっきネットニュース見てたら、去年お祭り会場の近くで大学生が車に轢かれる交通事故もあったらしいし……」
「それは危ないね。レジ子、手繋ぐよ〜」
「はーい」
「子供か……?」
日が沈むのが早くなってくると、夏も終盤だというのを感じさせる。
「あ、こちらシュワシュワの返礼品のジュースになります」
「あ、俺もです」
「ご苦労。一つはレジ子にあげてね」
「良いの? わーい、ありがと〜」
祭りの会場に辿り着いて、月日に騙された二人はまずジュースを買った。お祭りの屋台特有の、なんか高いジュースである。
「つっきーたこ焼きあるよ……! たこ焼き……!」
「こらー、走らないの。ちゃんと手を繋いで歩くよー」
「まるで母」
ヒラタイのツッコミはともかく、レジ子の手を引くその姿から面倒見の良さは充分に伺えた。
もしくは、レジ子が面倒の掛かる存在過ぎるかのどちらかである。
「おーい、射的にとんでもない景品があるぜ!!」
先頭を歩くのは、やはり千堂一だった。そんな彼が、祭りの会場で面白そうな物を見付けて他の四人を呼び付ける。
「お祭りTシャツだってよ!」
「なんだコレ……!」
一に呼ばれて向かった先でヒラタイが見たのは、水色の生地に赤い文字で『祭』とデカデカと描かれた所謂ダサTシャツだった。
「お客さんお客さん! 見てコレ見てコレ、お祭りシャツ!! 雰囲気出るでしょ!!
射的屋の主人は、集まってくるヒラタイ達を見て声を上げる。
「お祭りの雰囲気出る……!」
「騙されるなレジ子。どう見てもコレはダサい」
ツチノコTシャツの方が遥かにマシだ。というか、ツチノコTシャツもこんな感じで客寄せをされた気がするのは気のせいだろうか。
「皆、アレ取ろうぜ!」
「女子だけ雰囲気出てて狡いと思ってたんだよなー!」
しかし一はこの手の変なのに弱いのである。どうやら太地もノリノリなようだ。
「要らん……」
と、思ったが──射的はやりたい。当たったら一に押し付ければ良いだけである。
「やるか」
「よし来た!」
「私達はパスね〜」
「頑張れ皆〜」
そんな訳で、男子三人は射的に挑戦する事になった。
店主にお金を払い、三人は射的の銃を手に取る。
「どうもミヒロって銃とか物騒な物似合うよね〜。海外ドラマに出てそう。ヒラタイは……なんか猟師然としている」
「ミー君頑張れ〜」
女子二人の応援を尻目に、三人は銃を構えた。
両手でしっかりと狙いを定める一と太地の横で、ミヒロは片手をポケットに突っ込んだままでもブレない体幹で銃を構えている。まるでヒットマン。
「この一番大きな瓶を倒したら、お祭りTシャツゲットだよ! 一人三発! 頑張ってー!」
射的の屋台には、お菓子や小さな玩具の他に、景品が書かれた瓶がいくつか並んでいた。
その瓶を倒すと、特別な景品が貰えるらしい。三人の狙いであるTシャツが貰えるのは、並んでいる中で一番大きな瓶である。
「うおー! 当たれぇ!」
一番初めに引き金を引いたのは太地だった。
放たれたコルクの弾丸は、瓶の隣に置いてある駄菓子を掠める。
「おー、太地君惜しい」
「アレは瓶を狙ってるから全然惜しくもなんともないよ」
「クソぉぉおおお!!!」
更に連続で放たれるコルク。しかし、残りの弾丸は二発とも屋台の壁を叩くだけだった。
「俺は……弱い!!」
「ヒラタイ、後は俺に任せとけ!!」
続いて引き金を引く一。コルクの弾が瓶に命中する。
「おぉ、一凄い!」
「へへん! ……ん?」
しかし、瓶は少し擦れるだけで倒れる事はなかった。
「イカサマ!?」
「いや、普通に重いだけだねー。でも、そう簡単には倒れなさそう」
月日の言う通り、目標の瓶は人の顔程もある大きめの瓶だ。コルクの弾が一発当たった所で、揺れたりズレる事はあってもそう簡単に倒れる物じゃない。
「くそー、コレはもう何回かお金払って地道に何回も当てて行くしかない奴かー?」
言いながら、一はもう一度構える。
難しい挑戦程燃えるという物だ。それに、ツチノコを探すよりは簡単に思える。
「いや、一。ここで落とすぞ」
しかし、そんな一の隣でミヒロが静かにそう口にした。
瓶を真っ直ぐに見るその顔は、獲物を睨む狼のようである。
「で、出来るのか……? そんな事」
「一発当てろ。後は俺がやる」
「なんか良く分からねーけど! だったら任せるぜ!」
一はそう言って、狙いを定めて引き金を引いた。発射されたコルクは見事に瓶の中央に当たり、瓶が少し揺れる。
「良くやった」
続いてミヒロが、揺れている瓶に銃口を向けて引き金を引いた。
コルクの弾丸は、瓶の上部に当たり、目標は更に大きく揺れる。
そして、彼は銃を捻り、瞬きの刹那でコルクを再装填。大きく揺れる瓶に向けて再び引き金を引いた。
「何!? 瓶の揺れを強くする正確な射撃だと!!」
屋台の店主の作画が変わる。まるでバトル漫画の解説役のような顔で、店主は声を上げた。
そして、店主が驚いている内にリロードされた最後のコルクの弾丸が、大きく傾いた瓶の先端を的確に打ち抜く。
「よし」
瓶は落下した。
「ミー君凄〜い!」
「いや手慣れすぎでしょ。プロか」
「す、すげぇ……」
「よっしゃぁ! ナイスミヒロ!」
「ふん」
得意げなミヒロとハイタッチをする一。作画の戻った店主は、大きな鐘を鳴らして「やりますねぇ! おめでとうございますー!」とミヒロ達を祝福する。
「はい、お兄さん! 景品のお祭りTシャツね!」
「いらねぇ……。一か太地にやる」
水色の生地に赤い文字で『祭』と描かれたクソダサいTシャツを手渡されるミヒロ。
射的は楽しんだが、コレを着て外を出歩ける程に祭りを楽しめる程のテンションにはなれなかった。
「ジャンケンな! ヒラタイ!」
「えー、でも俺は一発も当てられなかったし。一に譲るよ」
「マジ!? よっしゃー! 俺、早速着替えてくるぜ!」
「要らないなら要らないって言えば良いだろ」
「いや、俺こういうバカみたいなの好きだけど。何もしてないしさ」
「……優しいのかなんなのか」
物が物だけに真意は不明だが、平良太地という男は基本的に誰にでも優しい男である。
一が本気で欲しがっているのを見て、彼は自分が欲しくても譲ってしまう性格なのだ。
「欲しかったならジャンケンくらいしても良かったんじゃないか? 自我を出せ、自我を」
「えー、そうかな。ミヒロなら、欲しい物の取り合いになったらどうする?」
「殴って奪う」
「出し過ぎでしょ、自我。手出てんじゃん」
「着てきたぜ!! 似合う!?」
「似合う似合う。だっせぇ」
「どっちだよ!!」
「そのまんまの意味だろうが」
夏祭りに友人と笑い合う。
ツチノコを見付けたりしてしまったが、それが彼等の普段通りの日常だった。