都会の祭りは田舎の祭りと比べると狭い。
「レジ子が消えた……」
「私が手を離したせいで……」
「ま、まずい……。本当にまずい」
狭いというよりは、人口密度が高くて人が歩くスペースが少ないのだ。
そんな祭りの会場で食べ歩きをしていると、レジ子が人波に流されてしまったのである。
広さだけで言えば、都会の祭りの会場の方が広い。
故に、むしろ、迷子になった友人を探すのは一苦労だった。
「やばいやばいやばい。アイツバカだから放っておいたら取って食われるか車に跳ねられるぞ……!」
「いや、言い過ぎじゃね? ここ祭りの会場だぜ?」
「馬鹿野郎!! レジ子だぞ!!」
「馬鹿にし過ぎじゃね!?」
「レジ子だよ? そういや、ヒラタイが去年交通事故があったって言ってなかったっけ!? まずいまずいまずい!」
「月日まで!? 落ち着けよ、去年の事故は関係ないだろ!?」
普段落ち着いているレジ子の幼馴染二人が珍しく取り乱している。
確かに普段からボーッとしているが、もう少しで成人する大学生の扱いではない気がした。
「れ、レジ子見付けてきたー!」
ふと、大地の声が聞こえて三人は振り向く。
人の流れの隅っこで、レジ子がその流れに流されないように彼は自分のふくよかな身体を盾にしていた。
「太地……!」
「ヒラタイ様……!」
「お、ナイス」
五人はなんとか合流する。レジ子の幼馴染二人は、ヒラタイを褒め称えていた。
「太地君ありがとー。なんか、祭りの人達にギューって押されてて痛くなかった? 大丈夫?」
「あー、平気平気。自慢じゃないけど肉厚があるから」
本当に自慢じゃなさそうに自分のお腹を叩く太地。しかし、今回はそのワガママボディに助けられたのである。
「食べ物の屋台が並んでる所は人多いし、ゲームの屋台が並んでる方行こうぜー。食べ物とかは俺達が買ってくるからよ!」
一の提案で、一行は射的や金魚掬いの屋台が並んでいるエリアに向かった。
道中で焼きそばやたこ焼きを買いながら歩く。
レジ子の手を握って歩くミヒロの目には、その隣で人混みから自分達を守るように壁になっているヒラタイが映っていた。
「あ、見て見て。輪投げやってるよ。カップラーメン輪投げだって」
向かった先で、月日が輪投げの屋台を見付ける。
どうやら色々なカップラーメンを輪投げでゲット出来る催しらしい。この辺りでは見かけないご当地カップ麺なんかも置いてあり、物珍しさを感じた。
「へぇ、面白そう。やってみようぜ!」
「今週の飯ゲットだ!」
一と太地が盛り上がって屋台に走っていく。月日は「買った方が安いのにねぇ」と少し遠くからそれを眺めていた。
「ミヒロは行かないの?」
「家にカップ麺置くとコイツが夜な夜な食うから」
とか言いながら、冷ややかな顔で、輪投げに向かおうとしていたレジ子の肩を片手で押さえているミヒロ。
屋台の方からは、一のはしゃぎ声とヒラタイの悲鳴が聞こえてくる。どうやら、ヒラタイは晩飯を取り損ねたらしい。
「ミー君ミー君……! 金魚さん……!」
更に少し歩くと、今度はレジ子が声を上げた。
これまた祭りの定番、金魚掬いを見付けたらしい。
「あー、確かに家の水槽も寂しくなってきたし。取るか」
「いっぱい取ってね……!」
ミヒロは肩を回しながら、気合を入れて金魚掬いの屋台に歩いていく。そんな彼の背中を追い越して、ヒラタイが屋台の前に立った。
「太地……?」
「金魚掬いなら任せな。俺、
彼は自信満々な顔でそう言う。
そこまで言うのならと、ミヒロはヒラタイに道を譲った。
「よし、なら任せたぞ太地」
「任せろ! 全員の腹を金魚の唐揚げで満たしてみせるぜ!!」
「食うつもりなのか?」
「おじさん! 一回お願いします!」
一のツッコミをスルーして、ヒラタイは気合を入れてポイを水面に向かわせる。
「うおー! 金魚、ゲットだぜ!!」
ポイは大きな金魚の真下に潜り込み──勢い良く持ち上げられた。
「ヒラタイ……」
「太地……」
ミヒロと一は、
「冷静に考えなくてもさ、釣りと金魚掬いは違うよね。よし、次は私がやっちゃおうかなぁ」
月日の言葉がヒラタイの心臓に杭を刺した。
その後、他の四人も金魚掬いを体験。
月日が三匹、レジ子が一匹、一が二匹、ミヒロが四匹。合計十匹の金魚を手に入れる。
「金魚さんが増えた〜。大家族だね〜。名前付けなきゃ。お名前募集」
「
「アレキサンダー」
「金魚」
「俺、取れてないから命名権無いよね……。てか、食わないんだね」
「食べないよ、普通。十匹いるんだし、ヒラタイも名前付けてあげたら?」
「食べないんだ。……んー、名前なぁ」
金魚の入った袋を持って歩く一行。
「お兄ちゃん!」
そうして歩いているヒラタイに向けて、見知らぬ小さな男の子が体当たりしながら声を掛けて来た。
「グフッ。……お、お兄ちゃん?」
「なんだ? ヒラケンじゃないぞ」
「お兄ちゃん──じゃ、ない?」
声の主に視線を向けると、UMAのゲームの帽子を被った小学生低学年程度の男の子が少し不服そうな顔でヒラタイを見上げている。
「お兄ちゃん……一年ですげー太った?」
「数年前からコレだよ!! 人違いでしょ?」
若干顔を引き攣らせながら、ヒラタイは自分のわがままボディを叩いた。どうやら、ヒラタイにとって身に覚えのない少年らしい。
「僕、迷子かな。お兄ちゃんと来たの?」
「ううん。お母さん達と来たの。で、お兄ちゃんと待ち合わせしてるんだ! 合うの一年振りなの! それでね! 一緒に花火見るんだ!」
「それで、このお兄さんをお兄ちゃんと間違えちゃったんだ。服装とかが似てたのかな?」
月日がしゃがんで、少年に声を掛ける。彼は月日の質問に、首を横に振って答えた。
「声が似てたんだ。だから、お兄ちゃんだと思って」
「なるほど、優しい声なんだね」
月日がそう言うと、ヒラタイはその後ろで顔を赤くする。しかしその直ぐ後に少年が放った「うん、凄い似てて。でもお兄ちゃん、こんなに太ってない」という言葉で彼は崩れ落ちた。
「お姉ちゃん達、お兄ちゃん見付けたら教えてね! 僕また探しに行くから!」
少年はそう言うと、手を振ってから走って直ぐに人混みに紛れ込んでしまう。小さな子供のバイタリティは恐ろしい。
「名前も言わないで行っちゃった」
「俺の声に似てるって情報しか得られなかったが……」
「別に俺達が必死に探さなくても合流出来るだろ。親も居るらしいし。ただ──」
ミヒロは月日が話している間に近くの屋台で買って来たフランクフルトを齧りながら、視線を上げた。
「──天気がなぁ」
どんよりとした雨雲が、月明かりを隠している。
雨が降っている訳ではないが、いつ降り始めても不思議ではない天気だった。
花火の打ち上げがあるらしいが、雨が振って強くなるとそれがどうなるかは分からない。
「花火、見れるかなぁ?」
レジ子がそう呟くと、一滴だけの雨が彼女の鼻先を濡らす。
そのまま降り始めるという事はなかったが、流れていく雨雲がどうしても気になった。