祭りの会場で、一が流しそうめん大会のチラシを見付けて興奮しながら戻ってきた。
「あっちの会場でやってるってよ! 行こうぜ!」
「え!? タダで食えるの!! 行こう行こう!!」
ヒラタイは一から受け取ったチラシを見て目を輝かせる。どうやら貧乏性らしい。
「流しそうめん大会って、なんの大会なの〜?」
「殴り合いで流しそうめんを取り合うんじゃないのか? 知らんけど」
「命懸けのサバイバルだ……!」
「そんな訳ないでしょ。……行くのは良いけど、ちょっと混みそうじゃない?」
「あー、そうか。やめとく?」
月日の意見を聞いて、ヒラタイは一とレジ子達を見比べながらそう言った。
催し物というのは人混みが付き物である。また誰かが行方不明になるのは避けたい。
「いや、俺がレジ子とコレを見てるから行ってこい。自我出せ自我」
「ミヒロ……!」
ミヒロがそう言うと、ヒラタイは目を輝かせて一と目を合わせた。とてつもなく流しそうめんが食べたかったらしい。
「コレとか言うなー。……あ! それなら私も、流しそうめん大会行っちゃおうかなぁ。ほらほら、行こうよ二人共」
半目でミヒロを見ながら、月日は何かを思い出したかのように突然ヒラタイと一の手を引っ張る。
どうも何か含みのある笑みを見せる彼女を見て、ミヒロとレジ子は首を傾げた。
「君達、ちょっと良いかな」
そんな話をしていると、背後から
一番驚いたのはヒラタイ本人だ。
その声は確かに彼にそっくりの声だったのだから。
「ワォ、本当にそっくり」
「え? なんの話? よく分からないけど……弟を探してるんだ。小学低学年くらいの、UMAHunterっていうゲームの帽子をよく被ってる男の子なんだけど」
声の主、大学生くらいに見える青年は身振り手振りで少年の身長を表現しながら困った様子で声を掛けてくる。
どうやら人探しをしているようだ。
身の覚えがあり過ぎて、五人は少し固まる。
「あ、その子ならさっき見掛けましたよー。お兄さんの事探してました。名前は聞きそびれちゃったんですけどね」
少し固まってから、ヒラタイが青年にそう語り掛けた。そんなヒラタイの声を聞いて、青年も少し驚いた顔を見せる。
「あ、なんかその多分弟さんに、俺の声がお兄さんに似てるってんで声掛けられたんですよー。本当に似てますね」
「いやー、ビックリした。あ、すみません。弟の名前は
「あー、それは良いんですけど──」
「ありがとうございます。それでは、失礼しました!」
ヒラタイに声が似ている青年は、引き留めようとするヒラタイの言葉を遮って人混みの中に紛れ込んでしまった。
「行っちゃったよ。連絡先とか教えて貰えれば協力しやすいのに」
「そこまでする義理はないだろ」
「えー、困ってそうだったし」
根が優しいヒラタイのお人好し加減にミヒロは目を細める。いつか詐欺師にでも引っかかりそうだ。
「ねーねーミー君」
そんな中で、普段他人に興味を示さないレジ子が人混みを避けて去っていく青年を視線で追いかけながらミヒロに声を掛ける。
「どうした?」
「……んー、やっぱ何でもない」
ただ、彼女は首を傾げて開きかけた口を閉じた。ミヒロはそんなレジ子を見てから彼女の手を取る。
「とりあえず、コイツらがそうめん食ってる間にこっちもなんか食うか」
「うん」
「それじゃ、私達行ってくるね〜」
そんな二人を尻目に、月日は一とヒラタイの背中を押すようにして流しそうめんの会場に急いだ。
そんなにそうめんが食いたいのか、とミヒロは呆れる。
「あ、ミー君ミー君たこ焼きとイカ焼きと焼きそばある〜」
「一個にしなさい」
そう言いつつ、結局根負けして二つ買うのであった。
「そうめんそうめん〜」
口笛を吹きながら、月日は上機嫌に歩く。
「月日ってそんなにそうめん好きだっけか?」
「いや別に? 普通。あそこから離れたかっただけ」
「急に態度が冷たくなるじゃん。そうめんが泣くぞ」
「てか二人はどうなの? そうめん。態々流して食べる?」
「流れてるってだけでなんか特別感あるだろ!」
「分かる〜」
一の発言に「うんうん」と頷くヒラタイ。月日は半目で二人を見比べて「なんだそれ」と呆れた声を漏らした。
「流しそうめん大会の麺つゆ配ってまーす」
少し歩くと会場にたどり着き、三人は麺つゆと割り箸を会場で受け取って流れてくるそうめんを待つ。
「あ、さっきの偽お兄ちゃんだ」
そうしていると、先程の青年曰く
「誰が偽物じゃい」
「陽太君だっけ? さっきお兄さん見掛けたよ」
麺つゆと割り箸を片手に、ヒラタイを偽物呼ばわりする少年に月日が声を掛ける。
「本当!?」
少年──陽太は、月日の言葉を聞いて目を輝かせた。
「うん、陽太君の事探してた。お兄ちゃん来たからって伝えて欲しいって言われたよ」
「やったー! 本当にお兄ちゃん来てくれたんだ! 何処にいるのかなぁ!」
陽太は大喜びで辺りを見渡す。この辺りには居ないようだが、代わりに大人が二人近付いてきた。
「お父さん! お母さん! やっぱりお兄ちゃん来てるって!」
その大人に、陽太は満面の笑みで語りかける。どうやら彼の両親らしい。
「……え?」
「……陽太」
ただ、陽太の両親は彼の言葉を聞いて何やら腑に落ちない顔を見せた。
そんな様子を見て、一と月日は首を傾げる。
「あ、お兄さん。こっちこっち!」
ふと、ヒラタイが声を上げた。
彼の視線を追うと、陽太を探していたお兄さんが視界に映る。
ただ、その輪郭が少しボヤけて見えて、違和感が膨らんだ。
「陽太!」
青年が、少年を呼ぶ。
「偽お兄ちゃん──誰を呼んでるの?」
振り向いた少年の前に、青年は居た。けれど、少年はそんな言葉を漏らす。
「え、何言ってるの……? そこに、お兄さん……」
「ちょ、ちょ、ちょーっと待った!」
一が、何かを察してヒラタイの口を閉じた。
「え!? 何!?」
「そんな事あるかよぉ……」
一は頭を抱える。思い出したのは、東黒川村で会った男性の言葉だ。
──あんまり怪異に深入りし過ぎると、癖が付いてまた変な事に巻き込まれるぞ──
「これの事かぁ……?」
「陽太、俺の事……見えないのか? なぁ、陽太。母さん、父さん」
青年は、陽太の目の前でそんな言葉を漏らす。しかし、陽太も両親も、彼の声が聞こえている素振りを見せなかった。
「どういう事? ん、雨」
ヒラタイが唖然としていると、手のひらに雨粒が落ちて来る。
雨はゆっくりと強くなってきて、祭りの会場に「流しそうめん大会は一時中止いたします」というアナウンスが流れ始めた。
「あら、通り雨かしら。これじゃ……花火も見れないわね」
「陽太、おいで。帰ろう」
「嫌だ! お兄ちゃんと花火を見るって約束したんだ!」
陽太は、両親の手を振り切って人混みの中に走っていってしまう。
「陽太!」
両親は陽太を追いかけるが、青年は自分の両手を見て固まっていた。
「これどういう事?」
「一、なんか分かるの?」
「うーん……とりあえずよ、お兄さん連れて雨宿りしようぜ」
そう言って一は月日達を連れて歩く。
連れて行かれながら、ヒラタイは陽太が走っていってしまった方角に視線を向けていた。