あなたの隣の怪異譚エモクロア   作:皇我リキ

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第三章『自称経験者と処女厨ユニコーン』
第一話:レジ子と友達


 ボクは何者でもない。

 

 何処にでもいるけど、何処にも居ない。

 薄くて軽い、誰もが知っていて、誰も知らない。

 

 

 それじゃ、トモダチになろうよ。ボクとさ。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 岡井佳は友達が少ない。

 

 

「ミー君……! お友達の……バースデーパーティを、やろうと思います! お家で。良いですか?」

「ほぅ。誰の誕生日だっけ?」

 まずはこの男、東雲ミヒロ。

 

 岡井佳──レジ子の家は、東京の住宅街にある二階建ての一軒家だ。

 とある企業の代表を務める父親の一人娘で、要するにお嬢様。

 

 

「えーとね、みーちゃん」

「あー……よく一とか月日と絡んでる奴な」

 母親は居ないようだが、この東雲ミヒロというレジ子の幼馴染が一緒に暮らしている。

 

 

 レジ子のもう一人の幼馴染──上梨月日は、明るく元気でちょっと不思議な天然少女。面倒見も良く、ミヒロの次にレジ子の世話を焼いている友達だ。

 

 一緒にツチノコを探しに行った千堂(はじめ)は、高校の頃からの友人である。

 

 それとヒラケン、ヒラタイはレジ子の友達──というか従兄弟だ。ミヒロ達からすれば友達だが。それと姫は……友達として数えて良いのだろうか。

 

 

 故に、ミヒロから見たレジ子の友達と言ってしまうと一か月日しか居ないと思っていたのだが──どうやら違ったらしい。

 

 

「なんだっけ、芦屋(あしや)……未鳩(みく)?」

「うん。えーとね、同じ高校だった……えーと、お友達」

「レジ子に一と月日以外の友達が居たなんてな……」

 感心したように言いながら、ミヒロは手を添えていたフライパンをひっくり返す。卵の絡まった焼き飯が、一回転空を舞った。

 

 芦屋未鳩という一や月日の友人がいる。

 あの二人はレジ子やミヒロと違って友達も多いから不思議な事ではないのだが、重度の人見知りのレジ子が他人の事を友達と呼ぶのは珍しかった。

 

 

 

「……良いかな?」

「準備するのは構わんが……(おき)さんにも聞いとかないとな」

「ハッ」

 レジ子──岡井佳の父親、岡井沖。

 

 岡井グループと呼ばれる世界的大企業の代表を務める、要するにすごくお金を持っている人である。

 ミヒロにとっても彼は父親のような人物であり、家で何かをするなら家主の許可を取ろうとするのは必然だった。

 

 

「ぱ、パパには私が……! 話すよ!」

「お、偉いぞ。で、いつだ? そのみーちゃんって奴の誕生日」

「明日」

「馬鹿野郎」

 ミヒロの垂直チョップが、レジ子の頭に落ちてくる。

 

 夕食を食べ終わった二人は、急いで明日の買い出しに向かうのであった。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 千堂一は意外と忙しい。

 

 

「ごめーん、ミヒロ。どうしてもバイトのシフト開けられなくてよぉ。代わりに俺からの誕プレ渡しといてくれ!」

 どうやら計画された誕生日パーティに参加出来ないらしい彼は、それでもちゃっかりと用意しておいた誕生日プレゼントをレジ子の家に置きに来る。

 

 

「律儀だなお前」

「友達の誕生日だし、当たり前じゃね? バイト前に家に寄って渡すつもりだったけど、パーティやるならそこに持ってくだろ!」

「……はぁ」

 だからコイツは友達が多いのか、と内心思いながらミヒロは走って帰る一を見送った。

 

「来たよー」

「ミヒロ兄ちゃんおす」

 一を見送った後、ヒラケンとヒラタイがやってくる。ヒラケンは関係ない筈だが、どうやらヒラタイが誕生日パーティに行くと言ったら着いて行きたいと言われたらしい。

 

 

「肉あんの?」

「こら健一」

「あるぞ。ケーキもある」

「よっしゃー」

「なんかごめん」

「まぁ、偶には良いだろ」

 珍しくレジ子が一や月日以外の友人(・・)を家に呼んだのである。偶にの贅沢をしてもバチは当たらない。

 

「レジ子や未鳩さん達は?」

「レジ子と月日がソレを迎えに行ってる。……で、芦屋未鳩ってどんな奴だっけ」

「高校一緒って言ってなかった!? あのほら、俺のバイト先に居るちょっと小柄な、眼鏡の」

「いや、容姿はどうでも良い。適当に飯作ったけど何が好きだったか知らん」

「ミヒロ……そういう所だよ」

 ヒラタイは部屋に上がりながらそんな会話をするミヒロを見て苦笑いを溢し、つまみ食いをしようとするヒラケンにチョップを入れるのであった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 芦屋未鳩という名の彼女は背が低い。

 レジ子よりも小さく、見た目だけなら小中学生に間違わられてもおかしくはないだろう。

 

 

 短い茶髪の裏に、赤いインナーカラー。

 中学生が背伸びしてする大人びたような格好に、トレンドの赤いメガネが特徴的な女の子。それが、芦屋未鳩という少女だ。

 

 

「お、来た来た。未鳩〜、こっちこっち」

 そんな彼女を見付けて、レジ子の手を握る反対の手を振る月日。

 

「お迎えありがと。しかしまだ暑いわねぇ……」

 小さな手をうちわにしてパタパタと振りながら、未鳩は月日達の元に歩いてくる。

 

 

「別に、家の場所知ってるから一人でも向かったのに」

「誘拐でもされたら困るし」

「真顔で言ってるけど何? あたしの事チビだって言いたいの!?」

「可愛いって言ってるんだよ」

「むぐぐぐぐ」

 月日の揶揄いに頬を膨らませる未鳩。まるでイタズラされた小さな子供のような顔に、月日はニヤニヤと笑みを見せた。

 

「佳ちゃん、パーティ会場に家を貸してくれてありがとね」

「え、えーと……! お誕生日おめでとうございます……!」

「ふふ、ありがと。誕生日プレゼントも期待しちゃおうかなぁ、なんて」

「あわわわ」

「レジ子を虐めないで」

 イタズラな笑みを見せる未鳩を前に、月日はレジ子を庇うように抱きついて口を尖らせる。

 

 未鳩は「プレッシャー掛けるつもりじゃなかったわよ。ごめんね、佳ちゃん」と両手を合わせた。

 

 

 芦屋未鳩は高校生の頃、一と仲が良かった女の子である。

 一がどんな人物とも仲が良かったというのもあるが、一からの繋がりで必然的にレジ子やミヒロと話す事もかなり多かった。

 

 今回の誕生日パーティはそんな未鳩が、大学で月日に「あたしの誕生日パーティどっかでやりたいんだけど」なんて誘いをした事から始まる。

 偶々近くに居たレジ子が「なら……私の家、とか?」と恐縮気味に手を挙げたのが数日前の事。

 

 

「佳ちゃんの家久し振りかも〜。今日はお父さん居るの?」

「あ、えーと……居る。じゃなくて、夜ちょっとしたら帰ってくるって。ご飯はね、先に食べてて良いよって」

「未鳩〜」

「そんな目で見ないでよ。別に、沖さんから何かしてもらおうなんて思ってないわよ!」

「ほんとうか〜?」

 月日のジト目が未鳩に突き刺さる。

 

 世界的大企業の代表の家に招かれるのだ、何か期待しない方が難しいという話でもあった。

 

 

「えーと、ちゃんとね。誕生日プレゼント探して来たから!」

「ふふ、ありがとう佳ちゃん」

 背丈は小さいが、レジ子よりも大人びた態度で微笑む未鳩。レジ子も心なしか、少し楽しそうではある。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「……まぁ、レジ子が笑顔なら良いか」

 なんだか含みのありそうな未鳩の言動に口を尖らせながらも、幼馴染の笑顔に満足する月日なのであった。




今回はどっちかというと、ギャグ寄り。
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