あなたの隣の怪異譚エモクロア   作:皇我リキ

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第三話:誕生日パーティと色恋話

 ケーキの蝋燭が十九本。

 一回では消し切れず、未鳩は二回目でギリギリ蝋燭の日を全て消し切った。

 

 

「誕生日おめでと〜う!」

 ヒラタイが盛大な拍手を鳴らす。

 

「ケーキ食お」

「切ってもらうまで待ちなさい」

 その横で、早速ヒラケンがケーキに手を伸ばそうとした。その手をヒラタイが引っ叩く。

 

 

「いやー、ついにあたしも二十歳手前よ。来年になったらお酒飲める歳かぁ」

「未鳩、お酒飲んだら面倒臭くなりそうだよねぇ」

「なんか言った?」

「なーんにも」

 目を逸らす月日を半目で睨む未鳩。

 

「え、未鳩ってにいちゃん達と同い年だったの……」

「なんだと思われてたのよ!」

「け、健一こらー! ごめんね未鳩さん!」

「はよケーキ食お」

「こらー!」

「えぇ……」

 ヒラケンのあまりの態度に未鳩の眼鏡がズレて滑り落ちた。

 

 未鳩は太地と同じ大学の学部で、同じバイト先で働いている。

 しかし、ヒラケンとの面識はあまりないようだ。

 

 

「沖さん、レジ子、月日、ヒラタイ、ヒラケン、本日の主役……だから六等分で良いか」

「ミー君の分は……?」

「まぁ、七等分だと面倒だし」

「じゃ、半分ずつ食べよ〜」

「お前……本当にレジ子か!?」

「ミー君が意地悪する……」

「あー……はいはい。一口だけくれ」

 その横で、レジ子が蝋燭を片付けて、ミヒロがケーキをカットした。

 

 

「人の誕生日に何見せつけてくれてんの」

「気にしない気にしない。皺が増えるぞ〜。いちご〜」

 レジ子とミヒロを見て力が抜けた顔を見せる未鳩。高校の頃に出会った時からこうだったが、別にカップルでもなんでもないと言われて唖然とした記憶が蘇る。

 

 

「カー、あたしの誕生日だってのに。なんか(はじめん)は居ないし。あたしの誕生日だって覚えてなかったっての?」

「一からのプレゼントなら預かってるぞ」

 ケーキを切り終わってから、ミヒロは一から預かっていた誕生日プレゼントを未鳩に放り投げた。

 

「投げるな──ぁ、これあたしが欲しかったコスメ」

「一だなぁ……」

 未鳩の反応に、月日は苦笑いを溢す。千堂一とはそういう男だ。

 

 

 ちなみにヒラタイと月日とレジ子は既に未鳩にプレゼントを渡している。

 ヒラケンから貰えるとは思っていないが、未鳩は「それじゃ、後はあんたからだけね」とでも言いたげな顔でミヒロに視線を向けた。

 

 

「……なんだ? ケーキについてたチョコの部分レジ子にやったのが不満なのか?」

「いや違うわ──え!? なんで!? 普通そこって誕生日の人が食べるんじゃないの!?」

「……ご、ごめんなさい。食べちゃった」

「佳ちゃん……。……じゃ、なくて!! プレゼントは!? あたしに!!」

「あ? なんで?」

「友達よね!?」

 素っ頓狂な顔で固まるミヒロに、未鳩は悲鳴にも似た声を上げる。そんな彼女を見てミヒロは微妙そうな顔で月日と目を合わせた。

 

 月日はため息混じりに苦笑いを溢す。

 

 

「ただいまー。あ、始まってるんだね。お邪魔します」

 少しすると、家にレジ子の父親──岡井沖が帰ってきた。

 

 白髪の混じった髪に苦労をしていそうなくたびれた、優しい顔。

 レジ子に顔は似ていないが、のんびりしていそうな表情は親子だと感じさせる。

 

 

「お帰りなさい、沖さん。ケーキあるんで。どうぞ」

「ケーキ、良いのかい? ありがとうミヒロ君。着替えてくるから、後で貰うね」

「あたしとの扱いの差は何」

 こころなしか顔が明るくなったミヒロに不満を漏らしながら、未鳩は一度目を瞑って深呼吸をした。

 

 

 ──それじゃ、トモダチになろうよ。ボクとさ──

 

 何かが、彼女の中に入り込む。

 

 

 

「──まぁ、別に。はじめんが此処に来てないとか、ミヒロがプレゼントくれないなんてどうでも良いのよ。……あたし、彼氏出来たし」

 唐突にそんな告白をする未鳩の言葉に、ヒラタイと月日はガタッと音を立てて立ち上がった。

 

 レジ子とミヒロとヒラケンはケーキを食べている。

 

 

「未鳩!? 何それ何それ! 初耳だけど! いつから!?」

「未鳩さん!? 彼氏さん居るのに誕生日に合わなくて良いの!?」

 月日は目をキラキラさせて未鳩に詰め寄り、ヒラタイはオロオロし始めた。

 

 

「ふふん、まぁ……最近?」

「えー! きゃー! 聞いた聞いた? ミヒロ! 未鳩に彼氏だってー!」

「はぁ……」

 騒ぎ立てる月日の言葉に、あまりにも興味なさげに返事をするミヒロ。

 

 一を含め、普段ミヒロと交友がある友人達から色恋関係の話を聞く事は全くない。

 彼はあまりそういう事が分からないタイプの人間なのだろう。

 

「これだからミヒロは」

「あん?」

 月日はミヒロの反応につまらなそうな顔をする。

 

 ただ、月日やヒラタイならともかく──ミヒロにとって芦屋未鳩は友達の友達という関係だという認識だった。

 だから、余計に興味のない事の興味のない事なのである。

 

 

「えー、ねー、どんな人なのー?」

「まぁ……なんていうかそうねー。優しくてー、顔は可愛い系で」

「へー! へー!」

「後は……薄くて軽い、みたいな?」

「へー! へぇ〜……。へ……。……ん?」

 少し顔を赤くしてから答える未鳩の言葉に、月日の表情は固まった。

 

 

 どんな人間なのかという質問の答えが、薄くて軽い、なんてのはあまり良い印象には感じない。

 

 

「なんなら? もう? 大人の階段も登っちゃったんだけど」

「へぇ〜……ってぇぇえええ!?」

 月日の悲鳴が家の壁を揺らす。

 

「セッ◯スしたの?」

「健一ぃぃいいい!!」

「そうよ!」

「未鳩さぁぁあああん!!」

 そしてヒラケンのド直球な質問に、満面の笑みで返す未鳩。ヒラタイは泡を吹いて倒れた。

 

 

「……おい、子供が居る部屋で何の話してんだ。他所でやれ」

 ミヒロはレジ子の耳を塞ぎながら、舌打ちをして不機嫌そうな言葉を漏らす。

 

 

 そんな騒がしいリビングに、着替えを終えた沖が部屋から戻ってきた。

 

「なんだか盛り上がってるね。良いことでもあったのかい?」

「ガキが騒いでるだけです」

「楽しいなら良いんじゃないかな」

 聖人のような笑顔でそう語る沖。ミヒロもこの人には勝てないのか、少し表情を和らげる。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「……何も聞こえない」

 が、レジ子の耳はシャットダウンされたままだ。

 

 

「──で、明日は彼氏の居る牧場に行く予定なんだけど。どうせなら着いてくる? 会わせてあげるわよ」

「牧場!? え、絶対行く! ね、レジ子レジ子! ミヒロも! 絶対行くよね!」

「何の話だ」

「何も聞こえない……」

 ミヒロと沖が話している間に、どうも話が進んでいたようである。

 

 どうやら未鳩に出来た彼氏と明日会う約束をしているらしく、月日がそれに着いて行くという下世話な話らしい。

 

 

「彼、牧場を経営してるらしくてー、乗馬もやらせてくれるのよねぇ」

「乗馬! うわ、もうコレは行くしかないよ!」

「お前のテンションが高い事だけは分かった」

「レジ子も行こうね〜」

「何処に〜?」

「お馬さんに会いに行くの!」

「楽しそう。行く〜」

「おいレジ子を騙すな」

「嘘は言ってないもーん」

 トントン拍子に話は進んだ。

 

 

 どうやら明日の昼過ぎ、バス停から山の方に向かう予定になっているらしい。

 

 結局ミヒロも根負けして着いて行く事に。

 

 

 メンバーは未鳩、月日、レジ子、ミヒロ、ヒラケン。

 ヒラタイはバイトがあって、欠席である。

 

 

 翌日は休日である。沖さんには「楽しんでおいで」と言われ。

 

 

 

 一行は、芦屋未鳩に出来た彼氏に会う為にとある牧場へと向かうのであった。

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