友人に彼氏が出来た。
そんな話を聞き付けて、上梨月日は調査隊として名乗りを上げた。
レジ子に劣らず変な子の彼女だが、彼女はどちらかと言えばミーハーである。
年頃の女子であり、恋バナとかそういうのが大好きなのだ。
「ちなみに私の好みは筋肉モリモリマッチョの人ね」
「いやどうでも良い」
芦屋未鳩の誕生日パーティーの翌日。
バスに揺られる月日とミヒロ、レジ子、ヒラケンに未鳩。
ヒラケンはよく分からないが、乗馬に釣られてやって来たらしい。
ミヒロはまったく興味がなかったが、レジ子を人質に取られたので仕方がなく着いて来ている。
「……何で俺が」
「うら若き女の子三人とチビ助だけで知らん男に会いに行かせるなんて、それでも男かね?」
「レジ子を置いてけば良いだろ」
「私と未鳩はどうなっても良いのかー」
「お前は大丈夫だろうし……もう一人は知らん」
ミヒロにとって、未鳩は友達の友達だ。そこまで面倒を見てやる程、暇でもない。
ただ、あのレジ子が
「でもさー、薄くて軽い……だよ?」
「は? なんだそれ」
「昨日未鳩が彼氏の事紹介する時に使った言葉」
「だから?」
「あんまり良い印象じゃないでしょ。軽くて薄い、とか」
「一みたいな奴なんだろ」
「一の事そういう風に思ってたの???」
「薄くはないけど軽いだろ、ノリが」
「薄くはないんだぁ、ふふーん。ミヒロ可愛い〜」
ヒソヒソ話でミヒロに語り掛ける月日。ミヒロは面倒くさそうに舌打ちで返すが、人間の紹介で「軽くて薄い」は確かによく分からなかった。
「新型のゲーム機か……?」
隣の席でレジ子とヒラケンがスマホゲームをしているのを眺めながら、そんな言葉が漏れる。
恋愛ゲームの攻略キャラクターを恋人だと言い張る芦屋未鳩の絵面が思い浮かんで、首を横に振った。流石にそんな訳がない。
「ミーちゃん寝てるねー」
ふと振り向いたレジ子が、後ろの席で寝ている未鳩を見ながらそう言う。
「彼氏に会うの楽しみで寝れなかったかー。きゃーっ」
「お前うるさい」
友達の友達の彼氏なんて、どうでも良い。
「次はー、音無ー、音無ー」
そんな会話をしていると、未鳩が降りると言っていた駅が近付いてきた。
レジ子が彼女を起こして、一行はバスを降りる。
「山……」
「こんな所に牧場なんてあったかな」
都心から離れた山の麓。聞き慣れない地名のバス停に降りたミヒロ達は、何もなさげな山の風景に唖然とした。
「スマホ圏外だ〜」
「ゲーム出来ないじゃん」
レジ子とヒラケンがそう言って、ミヒロと月日もスマホを確認する。二人が言っている通り、スマホは電波が届いて居なかった。
「本当だ……。地図アプリ見れないじゃん」
今更ながら、目的地付近に何があるかスマホで調べようとしていた月日はため息を吐いてスマホをカバンに戻す。
本当にこんな場所に牧場なんてあっただろうか。月日は難しい顔で辺りを見渡した。周りには本当に何もない。
「未鳩の彼氏、ゲームしないの」
「いつまで呼び捨てなのよアンタ。……ゲームはするわよ。えーと、確か、してた筈」
ヒラケンの質問に歯切れ悪く答える未鳩。そんな彼女の様子に、レジ子は首を傾げる。
「さて、愛しの彼氏に会いに行くわよ〜」
鼻歌を歌いながら、未鳩はあまり整備されて居なさそうな山道を進んだ。
「レジ子レジ子ー、なーんか変じゃない? あの子」
「彼氏さん? きっと、サバイバル
「それは素敵過ぎるなー」
「
「あんな事そうそうある訳ないでしょ」
お気軽にそう返事をする月日の顔を見ながら、ミヒロは「もう二回あったんだよな……」と溜息を吐く。
神様の岩永姫も、UMAのツチノコも、生き霊の蓮也も、恐ろしい存在ではなかった。
けれど、怪異というのは友好的な存在ばかりじゃないかもしれない。
姫は友達だったからともかく、基本的に
「コイツの彼氏、ねぇ……」
そう考えると、今自分が向かっている先が怖くなってきた。
もはや道なのか分からない場所を登っていく。しばらくすると道が開けて、ミヒロの嫌な予感がそこで爆発した。
「着いたわよ。ここが、彼氏のやってる牧場! 音無牧場!」
「へ……?」
「お〜」
「何もなくね?」
「はぁ……」
見渡す限りの──放置された牧場。その場所を一言で表すなら、それしかない。
腐って壊れた柵、馬一匹居ない雑草だらけの平地、そして今にも崩れそうな倉庫と小屋。
紛れもなく幽霊牧場。要するに、とうの昔に閉鎖された牧場跡地のような場所。
四人が未鳩に連れてこられたのは、そんな場所である。
「よし、帰ろう」
「突然なんでよ! ほら、馬も居るわよ!」
「馬ぁ!? お前の目はどうなってんだ!?」
未鳩の発言にミヒロは表情を引き攣らせた。馬どころか人っ子一人も居そうにない、廃牧場である。
「どこからどう見ても馬じゃない。あ、ほら、ジェシファー久しぶりね」
しかし、未鳩には何かが見えているのか、壊れた柵に向かって歩き──そこに何かが居るかのように口を開いた。
「ヤバい。帰ろう。マジで帰ろう。アイツはもうダメだ、置いていくしかない」
「帰ろうは賛成かも……。未鳩、お家帰ろ、ね!」
「ちょ……突然どうしたのよあんたら」
呆れたような顔で、ミヒロ達を見る未鳩。
「なぁ、レジ子姉ちゃん……アレって」
「あ、アレは……!」
そんな未鳩の背後に、ヒラケンとレジ子がとんでもない物を見付けて口を開く。
「「ユニコーンじゃない!?」」
「はぁ?」
二人の言葉に、ミヒロは頭を抱えたくなりながらも、二人が声を上げながら指を刺した方角を見た。
未鳩の背後数十メートル先。
純白の毛に、青い鬣、そして一本の角が生えた馬。
ツチノコと同じUMA、ユニコーンがそこに立っている。
「マジで帰ろう!」
この場所はおかしい。ミヒロの危機感知センサーが警告音を爆音で鳴らし始めた。
「ユニコーン? 何言ってんのあんた達。あ、そうだ! 彼氏呼んでくるわね!」
「あ、ちょ、未鳩!」
未鳩はレジ子達の視線の先を一瞥してから、呆れたように笑って、小屋の方に小走りで走っていく。
月日はそんな彼女を止めようとしたが、ユニコーンから目が離せなくて、追いかける事は出来なかった。
だってユニコーンである。純白の一角獣。白馬の王子様を夢見た事のある少女なら、それはある意味憧れの頂点だ。
「なんかユニコーンこっち来てね?」
「え、本当!?」
「ユニコーンさ〜ん。こっちこっち〜」
「おいバカレジ子。呼ぶな呼ぶな。本当に来ちゃうだろうが」
ユニコーンの衝撃が強過ぎて、完全に未鳩の事が頭から離れた四人。
純白の一角獣はゆっくりと歩み寄ってくる。
「きゃ、きゃー! ユニコーンだぁ!」
「もう帰りたい」
苦笑いが溢れるミヒロの前まで歩いてきたユニコーンは、口を開き──
「──ふむ、汚れておるな。この山に一人汚れた少女がおる。ヒヒン」
──馬が喋った。