あなたの隣の怪異譚エモクロア   作:皇我リキ

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第五話:駄馬と化物

 ソレは、無駄に良い声で喋った。

 

 

「──我はユニコーン、汚れなき聖獣。汝、我を呼んだか」

 ──ユニコーン。

 

 額から一本の角を生やした馬のような、伝説上の生き物。未確認生物──つまりは、ツチノコと同じUMA。

 伝説では純潔を好む聖獣とも言われている。

 

 

「しゃ、喋った……」

 しかし、喋るのは聞いてない。しかも、無駄に良い声で。

 

 これには先程まではしゃいでいた月日も唖然として固まった。なにせ、無駄に声が良いのだ。

 

 

「さっき(けが)れてるって、ユニコーンが言ってたけど……未鳩の事? やっぱしたんだ、セッ◯ス」

「おいマセガキ」

「ふん、汚れなき少年よ……我が言っているのはこの汚れた少女の事であるぞ」

 ユニコーンはヒラケンにそう言いながら、前足を月日に向ける。

 

 その言動に、ヒラケンも、ミヒロも、流石のレジ子も目を丸くして月日に視線を向けて固まった。

 

 

「──だ、だ……誰が汚れた少女だこの駄馬ぁ!!」

「──オフゥッ!!」

 月日のストレートアッパーがユニコーンの顎を穿つ。ユニコーンは血反吐を吐きながら倒れた。

 

 

「ユニコーンさんが……! 大丈夫〜?」

「……な、なぜ今……我は殴られたのだ」

 倒れたユニコーンにレジ子が駆け寄る。ユニコーンは目を丸くして、涙を流していた。

 

「月日姉ちゃん……」

「月日……お前……」

「馬が喋る訳なくない?」

 ケロッとした顔でそう言う月日。ヒラケンもミヒロも、彼女の真顔が怖くてそれ以上は追求する気にはなれない。

 

 

「つっきー、ユニコーンさん殴ったら『めっ』だよ」

「レジ子……それはユニコーンじゃない。変なコスプレした駄馬なの。ユニコーンはね、喋らないの」

「そうなんだ……! でも、お馬さんも殴ったらダメだよ」

「レジ子、優しいんだね……」

「我は本物のユニコーンであるが? 汚れた少女よ、嘘は良くない」

「黙れこの駄馬ぁ!!」

 月日はユニコーンの頬を引っ叩く。ユニコーンは泣いた。

 

 

「ユニコーンさん、なんでつっきーの事汚れてるって言うの……?」

「汚れなき少女よ、それはな……我には汚れが見えるのだ。つまり、その者がエッチな事をしたかどうか分か──グハァッ!!」

 今度はミヒロがユニコーンを蹴る。ユニコーンは泣いた。

 

 

「ユニコーンさん……!」

「月日、コイツは馬刺しにしよう」

「賛成」

「物騒であるぞ!?」

「あれ? でも……変じゃね?」

 ヒラケンは、ユニコーンと未鳩が「彼氏を連れてくる」と言って向かった小屋を見比べながら口を開く。

 

 

「ユニコーンはセッ◯スした人が分かるなら、未鳩も汚れた判定になるんじゃないの?」

「汚れた判定とか言うな。……でも、確かに……未鳩はごにょごにょしたって言ってたのに、私が汚れたとか言われるの嫌なんだけど」

「未鳩とは先程小屋に向かった眼鏡の少女の事か? ふん……彼女は汚れていない。汚れた少女は汝だけ──痛い!」

 ユニコーンは泣いた。月日はユニコーンを踏んだり蹴ったりする。

 

 

「つっきーがえっちな事してても、私は気にしないから……! ユニコーンさんを虐めないで……!」

「してない! そしてレジ子が気にしなくても私が気にするの! 離して! この駄馬を馬刺しにする!」

「レジ子……えっちな事とか言うな」

「ミヒロ兄ちゃん顔赤く──痛」

「と、とりあえず落ち着こう」

 月日は一旦深呼吸をして、頭の中で状況を整理した。

 

 ユニコーンのせいで大変な目に遭っているが──話題を逸さなければならない──話題を元に戻さなければならない。

 

 

「本題は未鳩の彼氏に会いにきたら、こんな廃牧場に連れてこられて。何故かユニコーンが居て、未鳩は彼氏とごにょごにょした事があるって嘘ついてるかもって事。ユニコーンのいう事を信じる信じないはともかく、こんな廃牧場に彼氏がいるなんておかしい」

「そして月日は──」

「ミヒロ」

「──ごめんなさい」

「で、未鳩は?」

 気になって、未鳩が向かった小屋に視線を移す月日。

 

 ユニコーンのせいで完全に忘れていたが、未鳩は馬なんて居ない筈の廃牧場で馬の名前を呼び、ボロボロの小屋に彼氏を呼びに行ったのである。

 

 

「──は?」

 小屋に視線を向ければ、そこには彼氏(??)()を繋いで、ニコニコしながら月日達の元にやってくる未鳩の姿があった。

 

 

 しかし、その彼氏(・・)とやらは、やはりというべきか。

 

 まるで、ヘドロのような物に人間の目とか耳とか腕とか足がいくつもくっ付いたような、どこからどう見てもクリーチャーの類いのような存在だったのである。

 

 しかも未鳩は、ソレと満面の笑みで会話をしながら歩いてきた。

 沢山ある手の内の一つと、ちゃんと恋人繋ぎをしている。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「……確かに薄くて軽そうだね。物理的に」

「……レジ子、月日、ヒラケン、逃げるぞ。アイツはもうダメだ」

「……コレ、俺今から死ぬの?」

 これまで遭ってきた怪異は、友好的な存在ばかりだった。

 

 

 ユニコーンはともかく、未鳩と手を繋いでるソレは、何処からどう見ても完全に悪霊のソレである。

 

 

「皆、紹介するわね。あたしの彼氏、音無(おとなし)(とおる)君」

「どウモ、ハジめマシテ。おとナシとオルでス」

 沢山ある色々な口から声を出す未鳩の彼氏(ばけもの)

 

「どう? 可愛い顔してるでしょ」

「そんナにホメラれルと、テれチゃうなァ」

「未鳩目を覚まして! ソレは流石にキモ可愛いの域を超えてる!」

「いやコイツはもうダメだ! 早く逃げるぞ!」

 ミヒロは苦笑いをしながら、レジ子と月日の手を取って逃げようと振り向いた。

 

 しかし、レジ子の手を取ろうとした手は空気を掴む。

 

 

「レジ子!?」

「みーちゃん……! みーちゃんの彼氏さん、なんかちょっと変だよ……! 病院連れて行った方が良いかも……!」

「変なのはお前! 頭の病院に連れて行ってやろうか! どう見ても悪霊の類だろアレは!!」

「うぇ!? み、みーちゃん呪われてる!?」

「そう! だから逃げるぞ!」

 もう一度レジ子の手を掴もうとするミヒロ。しかし、その手は再び空を切った。

 

 

「みーちゃんの事、助けなきゃ……!」

「レジ子……?」

 レジ子は真剣な表情で振り向いて、未鳩と未鳩の彼氏(ばけもの)に視線を向ける。

 

 腕とか足とか、目とか耳や口が不規則に配置されたその化物は、沢山ある瞳をレジ子に向けた。

 その恐ろしい姿に、レジ子は表情を引き攣らせる。けれど、手を強く握って「みーちゃん!」と、声を張り上げた。

 

 

「レジ子……。ミヒロ!」

「……ったく、マジか。おい駄馬!」

「我はユニコーンぞ? 聖獣ぞ?」

「うるせぇ。なんか聖なるなんとかならあの化物なんとかしろ!!」

 黙って静観していたユニコーンを捕まえて、ミヒロはそのお尻を叩く。

 

「良かろう。汚れは我の敵。故に、汚れそのものである悪霊の討伐をするのは我が真理なり」

 言いながら、ユニコーンは音無享と名乗った化け物に向かって角を向け突進した。

 

 

「──グハッ」

 しかし、空間がが歪むような衝撃を受けて、ユニコーンは弾き飛ばされて倒れる。

 

「弱……」

「ダメじゃん……」

「おいこの駄馬……」

「どウしたノ? いッしょにアソぼウヨ」

「みーちゃんを……返して!!」

 ユニコーンには目もくれずに、レジ子は未鳩の元に走った。

 

 

「お、おい……佳!」

 ミヒロの静止も聞かず、レジ子は未鳩と手を繋いでいる化物のを引き剥がそうと未鳩の身体を引っ張る。

 

 

「──あァ、キみがあソんでクレルんダね?」

 ──その手が、レジ子の掴んだ。

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