あなたの隣の怪異譚エモクロア   作:皇我リキ

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第四章『台風コロッケ』
第一話:スーパーコロッケ


【台風11号パブーク】上陸秒読み実況スレッド

111:こちら横浜 :2001/08/21(火) 13:10 ID:V2iqkNlA

念のため、コロッケを16個買ってきました。

 

もう3個食べてしまいました。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 千堂(はじめ)やミヒロ達が通っている大学は、バカの学部とそうではない学部に分かれている。

 

 

 

「──で、あるからして。インターネットの歴史というものはだ……あー、もう時間のようだ。続きは次回にしようか。台風が来るらしいからねぇ、明日は……学校が開かないかもしれないが」

 一とミヒロ、そしてレジ子はバカの学部。

 月日とヒラタイ、そして未鳩はそうではない学部に所属していた。

 

 

「バイトぉ? 夜から台風来るって話なのに?」

 夏休みも終わり、そのバカではない学部のとある教室で、民俗学の授業の後に、月日は二人の友人に呆れた顔を見せる。

 

「でも、スーパーは閉まらないし」

「あたしも今月厳しいし」

 ヒラタイと未鳩は、授業で使い終わったペンやノートを鞄にしまいながらそう返事をした。

 

 この二人は、大学の近所にあるスーパーマーケットでアルバイトをしている。

 そしてどちらも金欠らしい。

 

 

「今の日本は危機意識が低過ぎる。台風は災害という事をきちんとふまえて、学校も何もかも休みにするだぜ! あ、ゲーセンとラウンドテンは別な!」

「それ誰の真似」

「一」

「言いそ〜」

「まぁ、でも、確かに今回の台風は凄いらしいよね」

 ヒラタイは二人の漫才を見ながら、スマホでお天気情報を調べながらそう口にした。

 

 

 大型の台風11号マッシュポテトフライ襲来。

 そう大きく書かれた見出しのニュースを見て、ヒラタイは首を傾げる。

 

 

「台風の名前ってさ、誰が決めてるんだろうね」

「えー、なんか確か、そういう国際機関があるみたいな話聞いたことあるけどー」

「何よそれ。偶にある結構ふざけた名前とかも誰かが決めてるって事?」

「今回のポテトフライだしね。マッシュの」

「それはもうコロッケよね」

 和やかな会話をしながらも、ヒラタイはスーパーでのバイトが終わった後、外がどうなっているのか不安で苦笑いが溢れた。

 

 

 その後、心配する月日と別れて。

 二人は共に働いているバイト先へと辿り着く。

 

 まだ天気は良いが、嵐の前の静けさという奴か。

 そんな事を考えながらも着替えて、いざ戦場(接客)へ。

 

 

 接客とは過酷なものだ。

 時には冷静に、特には迅速に。

 

 思いもよらない方向から攻撃が飛んでくるような、そんな戦場である。

 

 しかし、台風が迫っているという事もあってか今日はそこまで忙しいという事は無かった。

 商品を出しながら雑談するくらいには、余裕がある。

 

 

「結局さ、未鳩さん」

「なによヒラタイ」

「彼氏さんとは……どうなったの? 健一に聞いてもなんかよく分からない事ばっか言ってて。ユニコーンとか、汚れとか、なんとか」

「……忘れて、全部」

 自分が言ってしまった事を思い出して、未鳩は少し顔を赤くした。

 

 経験なんてのはない。

 しかし、あの化け物は一体なんだったのだろう。未鳩は深く溜め息を吐いた。

 

 

「未鳩さん……」

 もしかしたら、彼氏さんと何かあったのかもしれない。ヒラタイはそんな事を思って、真面目に未鳩の事を想い口を閉じる。

 

 

「そういえば、なんかコロッケ多いわね」

 品出しをしながら、未鳩は段ボールの中身やお惣菜コーナーを見比べてそんな言葉を漏らした。

 

 お惣菜コーナーには普段の三倍はあるのではないかという程にコロッケが積み上げられている。

 特に今日はコロッケの特売だとか、何かしらのイベントがあるなんてのは聞いていない。ただ、コロッケが沢山あるのだ。

 

 

「本当だ。作り過ぎじゃないかな? あんなに作ったら、売れ残っちゃうよ」

 食料ロスなんて社会的問題を語る程に意識が高い訳ではないが、お店のアルバイトとして採算という言葉に関心がない訳ではない。

 

 

 だから、二人して「あのコロッケどうするんだよ」なんて思っていたのも束の間。

 

 

 大量の客が、コロッケに集まってくる。

 別に特売で安くなってる訳でもない、いつでもお惣菜コーナーにあって、毎日数個は売れ残っている、本当になんでもないコロッケだ。

 それに、人が群がっている。なんならダンボールから出した冷凍コロッケにも、人が集まってくる。

 

 

「な、なによコレ」

「どうなってるんだろ」

『レジ応援お願いしまーす』

 スーパー内にそんなアナウンスが流れて、太地と未鳩はお仕事モードに切り替えて早歩きでレジに向かった。

 

 

 レジに来る人は、何故か皆コロッケを買っている。それも大量に。

 

 

 世間で突然コロッケが大流行りした。

 そんな冗談のような光景が、レジを回す二人の前に広がったのである。

 

 

「おぅ、未鳩〜! 誕生日パーティ行けなくてごめんなー!」

「あ、はじめん。別に良いの良いの。そんなこ──コロッケ……?」

 レジに並んでいた千堂一に気が付いて、未鳩は返事をするが──彼が買い物カゴに入れていた大量のコロッケを見て絶句した。

 

 

「ん? おう! コロッケだぜ! やっぱ台風と言ったらコロッケだよな!」

「え、何言ってんのあんた……。馬鹿なの? いや、馬鹿なのは知ってたけど。馬鹿なの? あ、合計で二千一円になります」

「未鳩も念の為にコロッケ買っておけよな!」

 一は二千一円を丁度出してから、レシートも受け取らずに去っていく。

 

 次のお客さんの買い物カゴにも、大量のコロッケが入っていた。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

「コロッケ需要が……! 世界にコロッケ革命が起きている……!」

 一方で太地のレジにも、大量のコロッケを持った客が沢山並んでいる。

 

「太地君のレジにレジ子が来たよ〜。お会計(・・・)お願いします」

 そんな彼のレジにレジ子が来た。

 

「いらっしゃい。最悪の持ちネタをこんな所で使わないで欲しい。そういえばレジ──コロッケ」

 レジ子の買い物カゴの中には、三十個以上のコロッケが敷き詰められている。

 

 

「今日台風だから。ね、ミー君」

「まぁ、台風だしな」

「え、台風だから何」

 いつもレジ子の暴飲暴食を止めている筈のミヒロが、黙って彼女が30個以上のコロッケを買う所を見ていた。

 

 それだけでも頭を抱えたくなるのに、台風だからとかいう意味の分からない発言をし始める始末。

 

 

「あ、合計で二千一円になります。ありがとうございましたー」

 この世界の常識が改変されたとでもいうのだろうか。ヒラタイは一旦心を落ち着かせて、仕事モードに移る。

 

 

「「どうなってんの!」」

 レジ応援を終えて、未鳩とヒラタイは顔を見合わせて同じ言葉を漏らした。

 

 世界的なコロッケブームでも突然起きたのだろうか。

 気になるのは、一達の「台風といえばコロッケ」みたいな言い草の言葉である。

 

 

「店長!」

 未鳩は堪らず、スーパーの店長を見つけ出して問い詰めた。

 

 

「台風だからコロッケって何!? なんであんなにコロッケ作って、しかも売れてるの!?」

「え? 台風だからだよ」

「店長ぉぉおおお!!」

「こ、この世界はおかしくなっちゃったのか……?」

 ヒラタイは恐怖を感じ始めて膝が震える。バイト中でなければ、スマホでコロッケについて調べたい所だが──今、自分は働いているのだ。

 

 

「ほら、今日台風だから。コロッケ沢山買いにくるだろうし、頑張ってね」

「意味分かんないわよ!!」

 未鳩の怒号がお惣菜コーナー付近に広がる。

 

 

 そんなスーパーで、お客さん達は再びコロッケを沢山手にしていた。

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