あなたの隣の怪異譚エモクロア   作:皇我リキ

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第二話:売り切れコロッケ

 コロッケがバカ売れしている。

 

 

 結局、未鳩とヒラタイはバイト中にコロッケの補充とコロッケのレジ通しばかりしていた。

 台風だというのに普段より人足が多くすら感じる。

 

 そして、コロッケは完売した。

 お惣菜屋のコロッケも、冷凍食品のコロッケも、なんなら何故かじゃがいもすらも。全て売り切れたのである。

 

 

 今やこのスーパーではコロッケを買う事も作る事も出来ない。まるで世界からコロッケが消えたかのようだ。

 

 

「むしろ俺もコロッケ食べたくなってきたよ」

「あたしも」

 バイトの時間が終わって、時刻は二十時頃。

 

 二人は帰宅の準備をしてからそんな言葉を漏らす。

 

 

「ていうかさ、コロッケを食べなきゃ行けない気がして来た」

「そうねー。帰りにコンビニでもよってコロッケ探す? 台風だけど」

「うん。探そう」

「おっけー。親に帰るのちょっと遅れるって連絡しとく」

 二人は軽いノリでそんな事を話しながら、お店の店長達に挨拶を済ませた。

 

 

 

 思えば、この時から何かおかしかったのかもしれない。後に二人は、そう語る。

 

 

 

 台風が直撃していた。

 

「風ヤバ!!」

「雨ヤバ!!」

 スーパーの外に出れば、そこには絵に描いたような嵐の光景が広がっている。

 

 横殴りの雨が視界を遮り、暴風によってツチノコに見える何かが眼前を通り抜けていった。

 ガタガタと揺れるお店の看板。倒れた店長のバイク。転がっていく壊れた傘。

 

 ヒラタイは傘を刺すのをやめて、二人は雨に濡れて曇ったメガネで、スーパーのチラシが凄い勢いで飛んでいく空を見る。

 

 

「よし、コロッケを探そう」

「そうね。まずはコロッケよ」

 二人はどうかしていた。

 

 帰り道とは逆方向に、コロッケを求めて歩き出す。

 強風が二人の進路を塞ぐように吹き荒れ、それでも二人はコロッケの為に前進した。

 

 

 ※台風の暴風域で外に出るのは大変危険ですので真似してはいけません

 

 

「うおー! コロッケぇ!!」

「ヒラタイ! あそこにコンビニがあるわ!」

 二人はしばらく歩くとコンビニを見つける。強風で残念になった髪の毛を押さえながらも、二人はやっとの思いでコンビニに辿り着いた。

 

 

「コロッケ下さい!!」

「売り切れっすね」

 店員の無慈悲な言葉に、二人は膝をつく。

 

「そんな!!」

「あたし達はコロッケが食べたいだけなのに!!」

「そこに無ければ無いっすね。あ、ハッシュドポテトならありますよ」

「それはコロッケじゃない!!」

「あたし達が食べたいのはコロッケなの!!」

「そっすかー」

 二人はコンビニを出た。冷静に考えると、コンビニにはあまりコロッケは売っていない。

 

 で、あれば使うべきはスーパーマーケットやお惣菜屋さんだろう。

 二人は目を見合わせて、特に打ち合わせをする事もなく近くのスーパーに向かった。

 

 

 自分達の働いている場所はもう閉まっている。

 そもそもコロッケは売り切れだった。

 

 よって、台風の中二人は別のスーパーがある場所まで、強風を跳ね除けながら進む。コロッケを求めて。

 

 

 ※台風の暴風域で外に出るのは大変危険ですので真似してはいけません

 

 

「着いた!!」

「コロッケ完売でーす」

「なんでぇぇえええ!!!」

 たどり着いたその先で、お惣菜コーナーのおばさんの言葉が、二人を絶望させる。

 

 崩れ落ちる二人に、お惣菜コーナーのおばさんが手を伸ばした。

 

 

「まだ諦めるには早いよ」

「お、おばさん……!」

「あんたら、コロッケを求めているね? 私には分かるよ」

「どうしてそれを!?」

「台風だからさ。台風の時は、コロッケを念の為に用意しとかないとね」

 何を言っているのか分からない。インフルエンザにかかった時に見る夢のように、言葉の意味が無い。

 

 

 けれど、どこか納得している自分がいて、恐ろしくも感じる。

 

 

「諦めずに探し続けな。確かに、このスーパーにはもうコロッケもジャガイモも仏もない。けれど、何処かにコロッケはある筈だ! この世界からコロッケが全て消えるなんて事なない! 探しな!」

「おばさん……」

「あたし達、間違ってたわ。たった二件、コンビニとスーパーを見ただけでコロッケを諦めるなんて! 行くわよヒラタイ! コロッケを求めて!」

 熱血漫画みたいな作画になって、未鳩はヒラタイと共にスーパーを出た。今思えば、この時はもう本当にどうかしていたのだろう。

 

 

 風が、吹き溢れていた。

 

 

 

「うぉぉおおお!! コロッケぇぇえええ!!」

「あたし達もコロッケを食べるのよぉぉおおお!! 最悪ジャガイモでも良い!! 作ってでもコロッケを食べるの!!」

 強風により暴れる髪の毛。

 

 二人は飛んでくるチラシや何かの板を避けながら、コロッケを求めて歩く。

 

 

 しかし、ご近所のお惣菜屋さんにも、辺りにあるどのコンビニにも、コロッケは売っていなかった。

 

 絶望感に包み込まれながら、それでも衣に包まれて油で揚げられたじゃがいもが食べたくて仕方がない。

 都内のコンビニを転々とし、バイトが終わってからコロッケを探し続けて半日程が経過しただろうか。

 

 台風はとても進行が遅く、朝になっても東ノ都を覆い尽くしている。

 そのせいで時間感覚も狂い、コロッケへの情熱だけで、二人は歩き続けた。

 

 

 

 ※台風の暴風域で外に出るのは大変危険ですので真似してはいけません

 

 

 

 チラシを避け、転がってくる何かの看板を避け、転がってくる農作業姿のお爺さんを──ヒラタイはキャッチする。

 

 

「なぜお爺さんが!?」

「今転がって来たわよね? だ、大丈夫? 生きてる? なんで台風の中で農作業姿のお爺さんが転がってくる訳?」

 一瞬正気に戻って、台風の中で外に出てるのは危ないという当たり前の感情が戻ってきた。しかし、コロッケには勝てない。まだコロッケを食べていない。

 

 

「おぉ、受け止めてくれてありがとう。ワシはな、じゃがいもおじさんじゃ」

「「じゃがいもおじさん???」」

「台風で畑が心配になって様子を見に外に出たんじゃ」

「「台風で畑が心配になって様子を見に外に出た???」」」

 このおじさんは何を言っているのだろう。そんなフラグみたいな危険な真似、して良い訳がない。

 

 

 が、二人はこの台風の中でコロッケを探す為に歩いているので、おじさんに何か言うことは出来なかった。

 

 

「……お主ら、見たところコロッケを探しておるな?」

「何故分かるんですか!?」

「エスパーなの!? エスパーお爺さんなの!?」

「ワシはじゃがいもおじさん。じゃがいもに関する大抵の事は分かるのじゃ」

「コロッケを探してる人まで大抵の事の範囲内なの凄いな……!」

「まってヒラタイ、そこじゃないわよ。大切なのはそう、この人はじゃがいも……つまり、コロッケに関する事なら大抵の事は分かるって事」

「え? つまり?」

「コロッケの在処が分かるって事よ!!」

 未鳩の迫真の言葉に、ヒラタイは脳裏に雷が走る感覚を覚える。

 

 

 これで、コロッケが手に入る。

 体感時間は狂っているが、朝になるまで探し続けたコロッケ。その在処が分かるかもしれない。

 

 

「ワシを助けてくれたお礼に、コロッケがある場所を教えよう」

「「じゃがいもおじさん!!」」

 二人は歓喜のあまり、涙を流した。

 

 

 やっと……そう、やっとコロッケが食べられる。

 

 

 

「行くが良い、若者よ。そこにコロッケがある」

 じゃがいもおじさんは二人にコロッケの在処を伝えると、畑の様子を見に歩いていくのだった。

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