汗が滴り落ちた。
日常の中で、夏にかく汗というのは服がベタベタになったりして嫌な気持ちになったりする物である。
けれど、サウナで流す汗はどうしてこうも心地よいのか。ヒラタイは、整い、サッパリした頭の中でそんな事を考えていた。
「ミヒロ……お前、そろそろギブなんじゃない?」
「何がだ?」
一が苦しそうな顔でミヒロに質問をする。
三人はサウナに入っていた。
夕食のバーベキュー前にサウナに慣れた一は、これならミヒロをギャフンと言わせられると意気込んでいたがそろそろ限界らしい。
当のミヒロは平然とした顔で明日の朝食を考えている。
「野菜スープとサンドイッチか……」
「俺もうギブ!! 出るぜ!!」
急いでサウナから出ていく一。その横で、爽やかな顔のまま固まっているヒラタイが視界に入り、ミヒロは目を細めた。
「太地」
「何? ミヒロ」
「1+1は?」
「野菜スープ」
「出るかぁ……」
このまま放っておくと、危ない気がして、ヒラタイを引っ張り出す。脱衣所で、ヒラタイは暫く全裸で横になっていた。
☆ ☆ ☆
レジ子が勢いよく手を上げる。
「第一回……! ドベの人は罰ゲームとして語尾にカパ、をつけて河童にならないといけない……ゲーム大会!」
「どこからツッコミ入れたら良いんだ?」
「優勝賞品はドンキで買ってきた河童のパジャマ、カッパジャマです……!」
「いらねぇ……」
「あと、ハーゲンダッツ」
「「「やるぞぉ!!」」」
レジ子はリビングのテーブルにマンドラゴラ危機一発という玩具と、景品のカッパジャマを置いた。
所謂黒ひげ危機一発のようなゲームで、黒髭とは逆に畑のようなフィールドからマンドラゴラを一本ずつ引き抜いて行くホビーである。
当たり(ハズレ)のマンドラゴラを引いてしまうと、スピーカーからマンドラゴラの悲鳴が聞こえて他のマンドラゴラが全部飛ぶという玩具だ。片付けが無駄に大変である。
「ハーゲンダッツは俺の物だぜ!」
じゃんけんをして、マンドラゴラを引き抜く順番を決めてから、まずゲームの準備をする一行。
二十体のマンドラゴラを盤面に突き刺し、じゃんけんで一番初めにマンドラゴラを抜くことになった太地は「ふーん、どれどれ」とか言いながら自分が抜くマンドラゴラを選び始めた。
「ところでよ、このゲームドベは決まるけど優勝は決まらなく──」
一が、素朴な疑問を口にしようとしたその次の瞬間。
太地が一つ目のマンドラゴラを引き抜くと、一分ほど掛けて場面に突き刺したマンドラゴラ達がいっぱいに飛び上がり、太地に直撃し、盤面から「キェェェェ!」と悲鳴が上がる。
「痛っ」
「「「……」」」
全員、唖然とした。
「兄貴ダサ」
「酷っ」
「聞く前に一回目で終わっちまった……」
「ていうか、コレって一位が決まらないから意味無いわよね? UNOとかで良くない?」
「私はゲームの企画すら出来ないつまらないバカです。ごめんなさい……」
「あ、いや、別に佳ちゃんを責めたわけじゃなくてぇ……」
未鳩が正論でレジ子を叩き、レジ子は正座して落ち込む。
やれやれ、と。
月日がレジ子を宥めて、UNOの準備に移った。
「第『一』回……! ドベの人は罰ゲームとして語尾にカパ、をつけて河童にならないといけない……UNO大会!」
「お前、なかったことにしようとしているな?」
ミヒロのツッコミは冷や汗をかきながらスルーして、レジ子は冷蔵庫にしまってあるハーゲンダッツとテーブルの上のカッパジャマを掲げる。
仁義なきUNOバトルが始まった。
「まぁ、任せなよ。俺はサウナでかなり整ってるからね。天才的なUNO捌きを見せてあげよう」
「UNO捌きって何? あ、ヒラタイ殿〜、四枚ドローね〜」
「ちょ、つっきー。いや、まぁ、動じないけど? 手札が多いということは、出しやすいという事なんだよ。ほい!」
「ありがとな、太地。UNO」
「ハッ……ミー君が上がっちゃう! ここは、同じ色は持ってない筈なので同じ色リターンで……!」
「馬鹿め。ワイルドドロー4青で、あがり」
「ぬわ〜!?」
「アレ? ターン帰ってきてるから、引くの俺!? てか、アクションカードって上がれないんじゃないの!?」
「なんだそのローカルルール? そんなルール何処にも書いてないぞ」
「え、そうなの!?」
ミヒロは最後のカードを放り投げて、ハーゲンダッツを取り出し、カッパジャマを持ち上げて「なんだこれは……」と目を細める。
アイスを食べ始めるミヒロの横で、大量にカードをドローしたヒラタイは白目を剥いていたが、首を横に振って正気を取り戻した。
「このままだと罰ゲームを受ける!! まずい!!」
「そうだぜ、ここからは仁義なき罰ゲーム回避の戦い。ハーゲンダッツ食べたかったけどな……!」
「アイスうめー」
「ムカつくわねコイツ……」
「俺あがり」
ヒラケンが二位で抜けて、その後順番に月日、一、未鳩が抜け。
気が付けばレジ子とヒラタイの一騎打ち。
「ヤバい……この俺が!? この、整ってる俺が!?」
「ヒラタイはなんで整ってることにそこまでの自信を持ってるんだ?」
「ぬ〜ん」
「レジ子頑張れ〜」
戦況はヒラタイの手札が異様に多く、レジ子は残り数枚といったところである。
「嫌だー! 負けたくないー!」
「お、いけそうだぜヒラタイ!」
「……」
「勝ったな。私はお手洗い行って来るね〜」
「本当に負けたくない! うおー! 俺は勝つぞー!」
順当に進めばレジ子が勝ちそうな局面。
ただ、手札が多いということはヒラタイはカードが出しやすいということでもあった。
「よし! よしよしよし! UNOUNO! うのうのうのうの!!」
そして──
「──やった、負けなかった!」
──ヒラタイの逆転勝利。
「ぬわ〜」
「うそぉ? あの状態から負けたの?」
月日が席を外していた間に、大逆転が起きていて「フラグだったか〜」と頭を抱える月日。
「あんたら、いつまで遊んでんのよ。明日早いんだから、もう寝るわよ」
歯磨きをしていた未鳩がそう言って、レジ子は「はーい、ぁ……はーいカパ」と河童になる。
「あー、罰ゲームあったわね。佳ちゃん可愛い」
「ヒラタイ大人気なーい」
「えぇ!? 真剣勝負でしょぉ!?」
「でも太地君の勝ちだよカパ〜。私も歯磨きをするカパ〜」
ヘラヘラと笑いながら、カードの片付けを済ませて洗面台に向かうレジ子。
全員が寝る準備を進める中、アイスを食べていたミヒロはアイスとカッパジャマを持ってレジ子を追いかけた。
「レジ子、歯磨きする前に」
「ミーく──ん……!? おいちい」
ミヒロは、振り向いたレジ子の口にハーゲンダッツを乗せたスプーンを突っ込む。流石に驚いたレジ子だったが、口の中でとろけるアイスに表情も溶けていった。
「半分やる」
「良いの? やった〜」
半分とは言ったが、もう既に半分無くなっているので半分の半分という意味である。
ミヒロは自分の分を一口で食べて、カップごとスプーンをレジ子に渡した。
「お前、わざと負けただろ」
「ぁ……」
そうして唐突にそんな事を言われて、レジ子の手が止まる。
「なんでだ?」
「えーと、太地君が罰ゲーム……嫌そうだったから」
「あのなぁ……」
呆れた声で、ミヒロは頭を掻きながらそう言った。
「嫌なこと……したくない、から」
「罰ゲームってのはソレを楽しむもんだろ。本気で嫌だったら、もっとちゃんと……いや──難しいか」
言葉を途中で遮って、ミヒロはレジ子の頭をグリグリと撫で回しす。レジ子は「なんでぇ〜」と悲鳴を上げた。
「自分がされて本当に嫌な事じゃなきゃ、大抵の事はやっていい。間違えたらごめんなさいで良いだろ。……ゆっくりで良いから、やってみろ」
「……うん。ありがとう、ミー君。頑張るね……!」
「ん。あと、半分やるって言ったからこのパジャマも持っていけ。いらん」
「え!? そんな……!」
「馬鹿野郎め……」
レジ子にカッパジャマを押し付けて、ミヒロは歯磨きを済ませて去って行く。
この旅行が決まった時、レジ子はもっと皆と仲良くなりたいとミヒロや父親の沖、月日と話をしていた。
あまり友達といえる友達が居なかったレジ子が、一からの繋がりではあるがヒラタイとバンドを組んだり、未鳩の誕生日パーティをやったり。
彼女なりに、友達と向き合うというのを頑張っているのだろう。少しくらい、応援してやっても良いのかもしれない。
「……なんだ? 雪? いや、そんな訳ないだろ」
ふと、窓の外に白いフワフワが浮いているように見えてミヒロは二度見をした。
「……雨か」
ポツポツと、小ぶりな雨が降る。明日までには、晴れると良いな。そんな事を思うのだった。