遠い空の下、ホグワーツへ   作:理由もなく歩く人

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9. 緑の帳の下で

 

石造りの螺旋階段を降りきった先、スリザリンの女子寮は湖底の静かな空気に包まれていた。

窓の向こうには、暗緑色の水の揺らめきが絶えず映り、ゆったりと漂う巨大な影が時おり横切る。

 

案内役の上級生が重い扉を開けると、部屋には四つのベッドと、それぞれの傍らに置かれた小ぶりの机、そして寮特有の深い緑色のカーテンが目に入った。

 

「ここが一年生の部屋。自分の荷物はベッドの横に置かれてるから、整理は各自でね」

 

そう言い残し、上級生は軽く手を振って出て行った。

 

先に到着していたのは、金髪を緩くまとめた少女。

ベッドの上で荷物を広げており、入ってきたシェアトを見ると、わずかに首を傾げて微笑んだ。

 

「あなたが……アメリカから来たっていう、スペイシャルさん?」

「マルフォイに教えただけなのに広まるのが早いね」

「普通、アメリカからホグワーツには来ないからよ。私、ダフネ・グリーングラス。よろしくね」

 

ダフネが自己紹介すると、シェアトは淡々と「よろしく」と短く答え、手元のトランクを整えた。

その反応にダフネは肩をすくめる。

 

「つれないわねぇ。ま、これから7年間過ごすのだし、仲良くしましょ」

「ここがわたしの部屋ね!わたしはセリーナ・モントクレアだよ!よろしく!」

 

ダフネが喋り終わった瞬間にハイテンションな声をあげて、茶髪のふわふわした髪の少女が入ってくる。

その後ろには艶やかな黒髪をひとつに束ねた少女がいる。

 

「ミラベル・パーク。よろしく」

「ダフネ・グリーングラスよ。よろしくね」

「……シェアト・スペイシャル」

 

ハイテンションな声を上げるセリーナを無視してミラベルに対して微笑みながらダフネが、面倒くさそうにシェアトが自己紹介をする。

 

「これから長い間、同じ部屋で過ごすのかぁ。…仲良くできるといいね」

 

ミラベルはそう言いつつも、その声色には「お互い様ね」という響きが混じる。

 

「じゃあ、みんな揃ったし、ちゃんとした自己紹介でもする?」

「そうだね!そうしよう!」

 

ダフネの提案にセリーナが賛成する。

そして提案したダフネから始まる。

 

「改めて私はダフネ・グリーングラス。家系は知っているでしょう?聖28一族のグリーングラス家よ」

「じゃあわたしも!セリーナ・モントクレアだよ!元々はフランスの家系。趣味はお菓子作り!」

「「……。」」

 

2人の自己紹介が終わるとシェアトとミラベルは向き合い、お互いに譲る様な視線を向ける。

そんな2人にダフネが急かす様な目で見るとシェアトが口を開く前に、ミラベルが喋り出す。

 

「ミラベル・パーク。一応純血。うるさいのは嫌い」

「えぇ!?そんなぁ、仲良くしようよぉ〜」

 

ミラベルの自己紹介にセリーナがショックを受けた表情になる。

そんな中ダフネがパーク、と聞いて思い出した様に言う。

 

「ああ、パーク家ね。そういえば、たまにパーティで見るわね」

「そうね。私も何回かパーティに行ったことがある」

 

そんな会話を聞き流しながらシェアトが自己紹介を始める。

 

「シェアト・スペイシャルです。アメリカからきました。………これくらいかな」

「本当にアメリカから来たのね。しかもあの、五大家でしょ。アメリカは大丈夫なの?」

「ダンブルドアに入学させられた」

「ダンブルドアねぇ……」

 

ダフネが考え込む様に言う。

彼女を含めた聖28一族はダンブルドアを良く思っていない家も多い。

ミラベルも同情の目でシェアトを見る。

 

「けど由緒正しい純血だからスリザリンは歓迎するし、明日にはシェアトの事が広まってるよ」

「面倒くさくなりそうだなぁ……」

「大丈夫だよ!わたしたちがいるから!」

 

セリーナが励ます様に言う。

それを聞いたシェアトは少しだけ、賑やかになりそうだな、と思った。

 

 

 

 

 

夜、ランプが消されると、部屋は静かな闇に包まれた。

カーテン越しに、シーツが擦れる音と、抑えた声が交差する。

 

「ねぇ、シェアトって、杖なし魔法が得意なんだって」

 

ダフネが囁く。

 

「見た目は落ち着いてるけど、なんだか…距離感が違うわ」

 

ミラベルが返す。

 

「アメリカの魔法、興味があるね」

 

セリーナの声も小さく、どこか探るようだ。

 

カーテンの内側で、シェアトは目を閉じたまま耳だけ澄ます。

声を挟むつもりはない。

ただ、明日から大変そうだなぁ、と思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、寮全体が目覚めるより早く、シェアトはすでに身支度を終えていた。

深緑のタイをきっちり結び、寮章のついたローブの襟を整える。

ベッドのカーテンを開けると、セリーナが寝ぼけ眼で呟く。

 

「………早いね。みんな起きたばっかりだよ……」

「時差のせいだよ」

 

とだけ答えて、シェアトは部屋を出る。

ダフネとミラベルは顔を洗いながら短く会釈し、彼女の足取りを目で追っていた。

 

 

 

 

 

 

大広間では天井の魔法が薄く朝焼け色に染まり、スリザリンテーブルの上に銀の皿やカップが並んでいた。

シェアトは席につくと温かい紅茶を注ぎ、バターを塗ったトーストをかじる。

セリーナが隣に座り、楽しげに声をかける。

 

「今日から授業だね!」

「……そうだね」

「何が一番楽しみ?」

「特にないかな」

 

即答だった。

セリーナが面食らい、ダフネが口元を押さえて笑う。

 

「じゃあ一番嫌いなのは?」

「魔法薬学」

 

それを聞いたミラベルが意味深に「じゃあスネイプ教授とは…」と続けようとしたが、シェアトのわずかな目線で言葉を切った。

テーブルの空気が、ほんの少しだけ引き締まる。

 

 

 

 

 

 

 

「よりにもよって初授業が魔法薬学かぁ…」

 

嫌そうにシェアトは呟く。

 

やがて、午前の授業の鐘が鳴った。

 

最初の授業はグリフィンドールとの合同・魔法薬学。

地下の教室に入ると、ひんやりとした空気が漂っていた。

壁一面の棚には瓶詰めの材料が並び、奇妙な薬草や動物の一部が液体の中に沈んでいる。

グリフィンドール生たちが入ってくると、自然に寮ごとの塊ができ、教室の空気は緊張に包まれた。

 

音もなく扉が開き、黒いローブを翻してセブルス・スネイプが現れる。

出席を取っていると、皮肉っぽい声が教室に響いた。

 

「あぁ、左様。ハリー・ポッター。我らが新しい──スターだね」

 

その言葉に一部のスリザリン生がハリーを冷やかす。

出席を取り終えるろスネイプは話し出す。

 

「このクラスでは、魔法薬調剤の微妙な科学と、厳密な芸術を学ぶ」

 

冷たい声が教室に響く。

 

「このクラスでは杖を振り回すような馬鹿げた事はやらん。そこで、これでも魔法と思う諸君が多いかもしれん。フツフツと沸く大釜、ユラユラと立ち昇る湯気、人の血管の中を這い巡る液体の繊細な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力。……諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。我輩が教えるのは、名声を瓶詰めにし、栄光を醸造し、死にさえ蓋をする方法である……但し、我輩がこれまでに教えて来たウスノロ達より諸君がまだマシであればの話だが」

 

スネイプは魔法薬学について演説する。

全員が静かにその演説を聞くが、ただ1人シェアトは頬杖をつきながら睡魔と格闘している。

 

「ポッター!」 

 

唐突にハリーの名が呼ばれる。

急に呼ばれたハリーは驚きながらスネイプに顔を向ける。

 

「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になる?」

 

ハリーが隣に座るロンと顔を合わせ、栗色の髪の少女が手を挙げる。

やがてハリーが口を開く。

 

「……わかりません」

「チッチッチッ……有名なだけではどうにもならんらしい」

 

栗色の髪の少女が手を挙げているのを無視し、スネイプは新たな質問をする。

 

「ではポッター、もう一つ訊こう。ベゾアール石を見つけ──「ゴンッ!」!?」

 

部屋に何かが落ちた音が響き、音のした方向に全員が向く。

 

「い、痛っ……」

 

シェアトが額を押さえ、机に突っ伏している。

 

「ちょっ!大丈夫!?って言うか、なんで初回授業で寝るの!?」

 

隣に座るダフネが驚いた声を上げながらもシェアトの背中をさする。

その光景を見たスネイプが顔に青筋を立てながら言う。

 

「……我輩の授業で寝るとは良いご身分だな、スペイシャル。だが初回だから多めに見てやろう……ではスペイシャル、聞こう。ベゾアール石を見つけて来いと言われたら、何処を探す?」

「……ベゾアール石ってなんですか?」

 

質問を質問で返され、スネイプは面食らった表情になる。

スネイプはハッとし、怒鳴りたい気持ちを抑えながら言う。

 

「……そんなのも知らないのか。よく覚えておけ、ベゾアール石は山羊の胃袋の中にある。アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると『生ける屍の水薬』になる…… 諸君、何故今のを全部ノートに書きとらない?」

 

一斉に羽ペンと羊皮紙を取り出す音が聞こえる。

シェアトは少し赤くなった額をさする。

 

少し経つとスネイプが、

 

「では、これから2人1組になって『おできを治す薬』を調合してもらう」

「シェアト、一緒にやりましょ」

 

ダフネがシェアトとペアを組む。

 

「え……調合の仕方わからないけど……」

「大丈夫、私が教えるから。じゃあシェアトは蛇の牙を砕いといて、私は角ナメクジを茹でるから」

 

ダフネはシェアトの前に蛇の牙を置き、大鍋を用意する。

 

「《レダクト 粉々》……出来たよ」

「本当にあなた杖なし魔法使えるのね……。今度教えてよ」

「……いいよ」

 

そんな会話をしながら着々と進めていると突如爆発音が響き、緑色の煙で視界が見えなくなる。

 

「けほっ……何この煙!何が起こったの!?」

 

隣のダフネがパニックになるが、シェアトは落ち着いて呪文を唱える。

 

「今どうにかするから、《ヴェンタス 風よ》」

 

風が煙を教室から押し出す。

煙が晴れた教室はパニックになった生徒達によって物が散乱していた。

その中におできまみれのグリフィンドール生がいた。

 

「馬鹿者!」

 

スネイプが魔法で周りの液体を消しながらその生徒のところへ向かう。

 

「大方、大鍋を火から降ろさないうちに、山嵐の針を入れたな? 」

 

スネイプがその生徒に問うが泣くばかりで答えない。

 

「医務室へ連れて行きなさい」

 

おできまみれの生徒が連れて行かれる。

そしてスネイプはハリーに向くと、

 

「ポッター、なぜ針を入れてはいけないと言わなかった? 他のやつが間違えば自分の方がよく見えると考えたな? グリフィンドールに一点減点」

 

ハリーが減点されるのを聞きながらシェアトはダフネに聞く。

 

「大丈夫?グリーングラス。怪我は?」

「大丈夫よ。ありがとう」

 

シェアトはダフネの無事を確認すると作業に戻る。

やがて完成したものを全員が提出して授業は終わった。

 

 

 

 

 

 

「はぁ……。散々な授業だった……」

「流石に初回授業で寝るやつはいないぞ?」

 

シェアトはドラコと話しながら寮に戻っていた。

 

「そういえばなんであんなにポッターに対するスネイプ先生のあたりが強いの?」

「どうやらスネイプ先生とポッターの父親は同級生で仲が悪かったらしい」

「それってポッターに罪無くない?」

「そうかもしれないが気にすることないだろ」

 

そんな会話をしていると寮に着く。

談話室で少し会話を続けた後にドラコと別れ、女子寮の階段を下りる。

部屋の前に着き、ドアに手をかけると何やら中が騒がしい。

 

「嫌な予感がする……」

 

そう言いながらも恐る恐るドアを開ける。

 

「それでね、シェアトが杖を使わないで緑の煙を風で外に押し出したの!」

「すごーい!シェアトが戻ってきたら全部教えてもらおう!……あ、シェアト!」

「やばっ!」

 

シェアトに気づいたセリーナが突っ込んでくるので咄嗟にドアを閉める。

ドンッとセリーナがドアに衝突する音がするとシェアトは急いでドアに呪文をかける。

 

「《コロポータス 閉まれ》!」

 

ガチャガチャとドアを開けようとする音が聞こえる。

どうするか考えたシェアトは結論を出す。

 

「……とりあえず寮の外に出れば撒けるかな?」

 

シェアトは談話室に向かって走る。

 

 

 

 

階段を駆ける足音が静かに消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





読んでくださりがとうございます。

スリザリン生の時間割がわからないので初授業は魔法薬学にしました。
何か授業のことなどでの皆様の知っていることがあれば教えてくださるとありがたいです。

部屋のメンバーは1章が終わり次第、紹介します。

◇登場設定解説

・魔法薬学

担当教授 セブルス・スネイプ
シェアトが一番嫌いな教科。
原作ならハリーは2回減点されるが、シェアトが寝落ちした事によって1回になる。
シェアトが寝落ちした時スネイプは減点しようと思ったが、ダンブルドアが「彼女の機嫌を損ねない様に」と言ったので減点なし。要するにえこひいき。


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